このまま借り続けるか、思い切って買うか
家計の見直しを考えるとき、一番に考えたいのが「固定費」、なかでも「住居費」だろう。家賃10万円の住宅であれば、年間の支払額は合計120万円となり、決して少ない出費ではない。毎月の管理費や、普通借家契約であれば定期的に更新料もかかる。このまま賃貸に住み続けるのか、それとも思い切って購入するのか、悩んだことのある人は多いはずだ。
持ち家であれば、住居費として同じ金額を支払い続けても住宅ローンの返済に充てることができ、完済後には住宅が資産として手元に残る。さらに、将来にわたって住居費が安定するためライフプランを立てやすいというメリットもある。一方で、賃貸のほうが家計や生活の変化に合わせて柔軟に住み替えがしやすいと考えることもできる。利点はそれぞれにあるが、大抵の場合、家計の多くを占める住居費を無視することはできないことから、予算面で有利か不利かという点は大きな判断材料となるだろう。
しかし、「賃貸の方が安いのか、買った方が安いのか」という疑問の答えは、物件の仕様や築年数だけでなく、エリアや立地によっても大きく変わる。
今回LIFULL HOME’S PRESSでは、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」の独自データを基に、首都圏1都3県を対象に「賃貸 vs 中古マンション 借りるより買った方が安い駅」を調査。本稿では、それらをランキング形式で公表する。相対的に中古マンションを安く買える駅を見つけたり、賃貸か購入かを迷っているときの判断材料の一つになれば幸いである。
ランキングの概要
対象物件は、2021年4月~2022年3月の12ヶ月間に、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」に掲載された、築40年以内、駅徒歩15分以内、ファミリー向け(2DK以上)の間取りの賃貸物件(マンション・アパート)ならびに中古マンション。ランキングの対象とした駅は、1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)で12ヶ月間の掲載物件数が賃貸物件200件・中古マンション50件を超える680駅のうち、賃貸物件の家賃中央値20万円・中古マンションの価格中央値6,000万円を超えた99駅を除外した581駅。
賃貸物件の家賃と中古マンション価格の関係性から、各駅の理論物件価格(「賃貸物件の家賃がこれくらいであれば、中古マンションの価格はこれくらいが妥当である」という推計値)を算出し、実際の中古マンションの価格中央値が、理論価格よりも安い順にランキングした。
借りるより買った方が安い駅 1位は「千葉みなと」駅
実際の中古マンションの物件価格が、賃貸物件の家賃から推計した理論価格と比べて最も安いのは、「千葉みなと」駅(千葉市中央区)となった。賃貸物件の家賃中央値は12.8万円で、そこから推計した中古マンションの理論物件価格は4,132万円となるが、実際にLIFULL HOME’Sに掲載された中古マンションの価格中央値は1,999万円であった。その差は2,133万円で、同一物件ではないため一概にはいえないものの、相対的には最も借りるより買った方が安い街(駅)であると考えられる。
千葉みなと駅は、1987年に部分開業したJR京葉線の駅として開業。1995年には千葉都市モノレールも乗り入れた。それ以前のこのエリアの最寄り駅はJR千葉駅または京成千葉線の新千葉駅で、駅から徒歩15~20分以上かかる立地であったが、1990年には京葉線が全線開業によって東京駅まで40分弱で直通するようになるなどアクセス性が向上。以降、多くの賃貸物件・分譲マンションが建てられた。特に湾岸エリアは高層マンションが多く立地する比較的新しい街だ。
詳しい相場動向を見てみよう。
LIFULL HOME’Sが提供する住まいインデックスによると、千葉みなと駅の賃貸物件の家賃相場は3年前と比べて4.42%上昇しているのに対し、中古マンションの価格相場は9.61%下落していて、多くのエリアで中古マンション価格が上昇する首都圏において稀有な状況にある。ちなみに千葉県全体の中古マンション価格相場は同期間で16.7%上昇しているが、千葉みなと駅より約1km内陸にある本千葉駅が6.31%の上昇、1駅東京寄りの稲毛海岸駅は8.78%の上昇と、周辺一帯は千葉県全体のなかでも価格の上昇幅が抑えられているエリアといえそうだ(住まいインデックスのデータ参照日は2022年8月5日)。
2位「新江古田」駅、3位「東伏見」駅は、築古マンションが多い
2位には「新江古田」駅(東京都中野区)がランクイン。家賃中央値12.5万円から導かれる理論物件価格が4,058万円であるのに対し、実際の中古マンションの価格中央値は2,390万円で、その差額は1,668万円となった。
新江古田駅周辺は、もともと西武池袋線江古田駅から徒歩約10分の立地であったが、1997年に都営12号線(現在の都営大江戸線)が延伸して新江古田駅が開業。それに伴い賃貸物件が増えたエリアだ。このような経緯から、賃貸物件と比べると中古マンションの平均築年数は古く、その分、中古マンションの価格が抑えられたと思われる。
3位にランクインした「東伏見」駅(東京都西東京市)は、西武新宿駅と埼玉県川越市の本川越駅とを結ぶ西武新宿線の駅。新宿のほか、吉祥寺や三鷹へはバスでそれぞれ30分圏内だ。家賃中央値は9.2万円で、理論物件価格は3,098万円。対する実際の価格中央値は1,480万円で、その差額は1,618万円となった。
駅の南側には早稲田大学のスポーツ施設があるなど、学生街の一面も持つ街だが、ファミリー向けの物件は賃貸物件・中古マンションともに他エリアと比べて築浅物件が少ない。一般的に、築年の経過による賃料および価格の下落幅は、賃貸物件よりも中古マンションの方が大きくなるため、中古マンションの価格中央値が相対的に低くなったと考えられる。
価格が抑えられる築古の中古マンションが多い街は、フルリノベーション済みの物件を購入したり、自分たち好みにリノベーションを施したりするなどで、街の利便性を享受しながらも住居費を抑えて暮らすという選択肢を選びやすいエリアといえそうだ。
“谷根千”の「千駄木」駅や世田谷区の「成城学園前」駅も、借りるより買った方が安い
4位は東京メトロ千代田線の「千駄木」駅(東京都文京区、家賃中央値16.9万円、理論物件価格5,001万円、実際の価格中央値3,485万円、差額1,516万円)。山手線の内側でありながら、谷中銀座商店街など下町の雰囲気を感じられる街だ。
5位の東急大井町線「北千束」駅(東京都大田区、家賃中央値18.3万円、理論物件価格5,242万円、実際の価格中央値3,790万円、差額1,452万円)は、賃貸物件は築浅物件が多い一方で、中古マンションは築年数が経った物件が多く、中古マンションの割安感が目立つ。
6位にランクインした東武野田線(アーバンパークライン)「運河」駅は、2021年の人口増加数が全国1位となった流山市の北端に位置する。家賃中央値は8.4万円で、理論物件価格2,814万円に対し価格中央値は1,365万円と、差額は1,449万円となった。
住まいインデックスによると、運河駅の家賃相場は直近3年で9.18%上昇(千葉県全体は7.13%)、価格相場は26.87%上昇(千葉県全体は16.7%)と、飛ぶ鳥を落とす勢いで上昇しているが、中古マンションの価格水準はまだ割安であるということだろう。
ここから、7位「洗足」駅(東京都目黒区、家賃中央値18.1万円、理論物件価格5,216万円、実際の価格中央値3,790万円、差額1,426万円)、8位「成城学園前」駅(東京都世田谷区、家賃中央値19.5万円、理論物件価格5,449万円、実際の価格中央値4,030万円、差額1,419万円)、9位「江古田」駅(東京都練馬区、家賃中央値12.0万円、理論物件価格3,930万円、実際の価格中央値2,798万円、差額1,132万円)と、東京近郊の各駅が続く。
特筆すべきは日本有数の高級住宅街として知られる成城学園前だ。もともと成城学園前の中古マンション価格相場は東京都全体の価格相場より高い水準であったが、2015年に東京都全体の価格相場を下回り、現在では東京都全体より400万円以上低い価格相場となっている。大前提として賃料相場も価格相場も上昇基調にはあるが、賃貸物件の家賃上昇幅と比べると、中古マンションの価格上昇幅が小さいため、徐々に中古マンションの割安感が増しているといえそうだ。
ランキングの上位は、東京・千葉が目立つ結果に
11位以降については下表を参照いただきたいが、上位30位のうち過半数の16駅を東京都の駅が、次いで10駅を千葉県の駅が占めた一方、神奈川県は大口駅など3駅、埼玉県は七里駅のみにとどまった。
ランキング上位かつ気に入っている街であれば、購入を検討してみては?
賃貸に住み続けるか、購入するかを迷っている人は、「今払い続けている家賃を、もし住宅ローンの返済に充てると、どれくらいの家に住めるだろうか」と考えたことがあるだろう。例えばLIFULL HOME’Sの住宅ローンシミュレーターで、毎月返済可能な金額(※1)を8万円、返済期間を35年、返済金利を今後の上昇を想定して3%で計算すると、借入額は2,079万円となった。購入にかけられる自己資金(頭金)を200万円として、さらに購入時の諸費用(※2)を加味すると、購入可能額の目安は、新築物件で2,196万円、中古物件で2,092万円だという。
しかし、たとえ同じ予算でも、本ランキングの上位に挙がる駅であれば、予算的にも条件的にも自分の希望に合う物件が見つかりやすいかもしれない。もし、今回ランキングの上位のエリアに気に入って借りて住んでいるのであれば、購入を検討するのもひとつの選択肢だ。本ランキングが、その一助となれば幸いである。
※1:持ち家の場合には、賃貸にはない固定資産税・都市計画税などの納税義務があること、特に分譲マンションではローンの返済とは別に、また完済後も、管理費・修繕積立金の負担が必要である点に注意
※2:物件購入時には、物件費用のほかに諸費用(目安:新築物件の場合は購入価格の2~5%、中古物件の場合は5~10%程度)が必要となる。ここでは中古物件を想定し9%を諸費用として計算
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