はじめに:ユーザーが反応した物件と市場平均価格を比較すると

このたび、日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」が保有するさまざまなマーケットデータを用いて、独自の視点に基づく分析結果をリリースすることとした。今回は第1弾として、市場で流通する中古マンションのエリアごとの流通価格(LIFULL HOME’Sに掲載された物件のエリアごとの平均価格:ここでは便宜上、市場価格とする)と、実際にユーザーである消費者が検索し、問合せなどを行った平均価格(ここでは便宜上、反響価格とする)の乖離を調査、分析する。

その時々において、ユーザーが探しているエリアで流通する中古マンションの価格と、ユーザーが希望している物件の価格との間に、どの程度の乖離が発生しているのかを調べることによって、コロナ禍の影響の有無や季節要因などが市場価格と反響価格に何らかのバイアスを与えているのかを分析する試みである。このような視点の分析結果は内部資料としてのみ活用されており、これまでほとんど公表されていないデータとなる。

今回は、首都圏(1都3県)を対象に、首都圏、東京都、東京23区、都心6区(千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区・渋谷区)と、異なる地域フェーズでの分析を実施している。

本記事は中古マンション編として、コロナ禍でも価格の上昇が続く中古マンション市場をレポートする。賃貸物件市場については、以下記事を参照されたい。

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コロナ禍でも価格の上昇が続く中古マンション市場はどのように推移しているのか。LIFULL HOME’Sが保有するさまざまなマーケットデータを用いて、独自の視点に基づく分析結果をお伝えする。コロナ禍の影響の有無や季節要因などが市場賃料と反響賃料に何らかのバイアスを与えているのかを分析する

レポートに使用・分析しているデータについて

今回分析しているデータは、すべて株式会社LIFULLが運営する日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」に掲載された物件の価格を採用した。掲載されている物件数は膨大であるため、毎日掲載される物件(同一物件が重複する場合は代表物件のみ)の価格を平均し、さらにその数値を月間で平均して採用している。

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集計エリア:首都圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)の各エリア
集計対象 :中古マンション
集計条件 :専有面積30m2以上(専ら投資用として流通する物件を集計対象から除外するため)
特記事項 :流通価格5億円以上を除外(平均値を採用するにあたり、物件数が極端に減少する価格帯以上を除外した)
集計期間 :2019年10月~2021年6月まで(21ヶ月間の推移分析)
      集計期間に掲載された中古マンションの各物件数は非公表
分析所管 :LIFULL HOME’S総合研究所
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首都圏:コロナ禍でも市場価格・反響価格とも大きな下落示さず

首都圏中古マンション 市場価格と反響価格の推移と乖離率首都圏中古マンション 市場価格と反響価格の推移と乖離率

上記の図表は、LIFULL HOME’Sに中古マンションとして掲載された物件の首都圏における月ごとの平均価格(以下、市場価格)とユーザーが問合せを行った物件の平均価格(以下、反響価格)とその乖離率を示している。

分析対象とした期間中(2019年10月~2021年6月)、市場価格は3,300万円台から3,500万円台へと5%程度上昇している。この間は中古住宅市場にとって新型コロナウイルスの感染が拡大したネガティブな時期であり、市場に流通する物件数が急減しているにもかかわらず、少なくとも中古マンションの市場価格には何ら影響がなかったことがわかる。特に住宅流通市場で売り物件が減少したとされる1回目(2020年4月)の緊急事態宣言発出以降も市場価格は3,300万円台で安定的に推移しており、少なくとも価格面では大きな変化は見られない。むしろ物件数の減少によって需給バランスがタイトになったことにより、価格自体は徐々に押し上げられている。

一方の反響価格は、2,800万円台~3,100万円までの価格帯でおおむね推移しており、価格のボラティリティは決して大きくない。期間中の市場価格との平均乖離率は14.3%で、月ごとに比較すると11~13%程度の乖離率を示しているケースが多い。一般論としては、首都圏においては市場価格よりも1割程度低い価格が、ユーザーが求めている物件価格の平均値であるイメージが形成される。

さらに、市場価格に大きな変化が見られなかったのに対して、反響価格にはコロナの影響とみられる動きが散見される。すなわち、コロナ前の2019年には反響価格は2,800万円台~2,900万円台で安定推移しているが、緊急事態宣言発出時の2020年4月には一時的に2,738万円と2,700万円台に下落し、乖離率も市場価格3,351万円に対して18.3%と集計期間最大の乖離率を示している。これは一時期見られた都市圏からの避難行動がユーザーの反響に表れたものと考えられる。実際にこの時期は、首都圏郊外に位置する神奈川県箱根町、伊勢原市や千葉県木更津市、市原市、さらには静岡県伊東市、熱海市、茨城県土浦市など首都圏外にも物件検索が拡大・急増している(※1)。郊外エリアでの検索や問合せ数が増加すれば必然的に反響価格も下落するため、このような乖離率の拡大が発生したとみられる。2020年4月以前にも乖離率は1月の11.1%から14%台へと拡大しており、4月の18.3%がピークとなっていることも、コロナの感染拡大が進むに連れての検索行動の変化に伴うものと考えることができる。

当該の緊急事態宣言は5月下旬に解除され、新規感染者数も漸減したことから、上記郊外エリアでの問合せなどが相対的に減少し、反響価格も6月に2,961万円に再び上昇している。このことからも、コロナの影響が反響に明確に表れる結果となった。その後、2020年10月には感染が再拡大し第2波と言われる状況になった時点で、市場価格と反響価格との乖離率は18.2%まで拡大したことからも、コロナ感染の拡大の波が反響価格の変化にも大きな影響を与えていることが明らかになった。

なお、首都圏において中古マンションの需給バランスが逼迫したことから、2020年末以降、市場価格は3,400万円台後半から3,500万円へと上昇し始めた。これに伴って反響価格との乖離率が15%前後に拡大する傾向を示している。

今後も株価の安定推移を背景とした資産付け替え需要の発生などで投資・実需ともに拡大する中古マンションへの需要の押し上げが、コロナとは別の要因として乖離率の拡大の要因となる可能性がある。

※1 LIFULL HOME’S PRESS「コロナ禍の第一波・第二波の感染者増に伴い、物件検索が増加したエリアはどこか~LIFULL HOME'Sデータ分析」より

東京都:郊外化の意向とは別に根強い支持を受けて価格は堅調推移

東京都中古マンション 市場価格と反響価格の推移と乖離率東京都中古マンション 市場価格と反響価格の推移と乖離率

地域フェーズを一段階縮小して東京都での市場価格と反響価格との乖離率推移を見ると、首都圏での傾向とは若干異なる状況になる。

市場価格は4,200万円台半ばから上昇し続け、2021年に入ると4,400万円台後半での推移となって首都圏平均よりも大きい約5.5%の価格上昇を記録している。また、この間反響価格も概ね3,800万円台から4,200万円台へと市場価格に追随して上昇している。期間中の乖離率の平均は7.9%と首都圏平均の14.3%の半分程度であることからも、東京都内の問合せに表れる買いの意欲が旺盛であること、予算的にも市場価格相応に対応可能であることがうかがわれる。

また、首都圏で浮き彫りになった2020年4月の緊急事態宣言発出時における乖離率の拡大が、東京都では市場価格4,296万円に対して反響価格3,898万円で乖離率9.3%にとどまっており、当然のことながら、東京都内で物件を探しているユーザーには郊外化の意向は表れない。それでもこの間、東京都ではあきる野市の検索数がコロナ以前から31.6%、武蔵村山市でも22.2%上昇するなど、“都内での郊外化”の動きも確認されており、相応にコロナ対策としての物件検索が発生していたことがわかる。

さらに、2021年に入ると市場価格は4,400万円台に上昇し、市場での買い進みによる物件価格の高騰が示されている。これに対して反響価格も1月には4,335万円まで上昇した結果、乖離率は2.4%にまで縮小している。市場価格とほぼ同水準の価格帯に問合せが入るという状況は、それだけ需給バランスが(売主側にとって)良好と見ることができる。2021年の平均乖離率は5.4%とさらに縮小しており、需給がタイトになっている状況が反映されている。

ただし、市場価格は2021年に入って4,400万円台後半で足踏みしており、反響価格も4,200万円前後で安定推移していることから、いったん価格の踊り場の局面を迎えている可能性がある。今後新築マンション市場が順調に回復する前提で、価格の動きおよび反響価格の推移にはさらに傾向が変化する可能性が指摘される。

東京23区:2021年に入って乖離率が縮小傾向に

東京23区中古マンション 市場価格と反響価格の推移と乖離率東京23区中古マンション 市場価格と反響価格の推移と乖離率

同じく東京23区での市場価格と反響価格の推移を見ると、さらに乖離率が縮小する傾向にあることが明確になる。

東京23区の市場価格は2019年末の4,500万円台半ばから2021年には4,700万円台半ばまで上昇しており、上昇率は4.2%前後となっている。上昇率が首都圏および東京都と比較して緩やかに見えるのは市場価格の水準の高さによるものであり、都内の中古マンションはコロナ禍においても“高値安定”で推移している。一方の反響価格は4,200万円台から2021年には4,700万円台まで上昇し、直近で最も高額な2021年1月の4,774万円は2019年の反響価格から13.7%もの上昇が認められる。これは市場において中古マンションの流通件数が減少し始めていることが要因であり、特に交通条件や築年数などから優良と思われる物件に対しては、買い進みが発生している状況にある。

2021年に入ると乖離率は平均で1.4%にまで縮小し、1月には市場価格4,736万円に対して反響価格4,774万円とわずか38万円ではあるが、価格の逆転現象が発生し、乖離率も-0.8%を記録している。上記のとおり、特に2021年に入ってからは中古マンションに対する購入意欲が高まっており、明らかな物件価格の上昇も示されていることから、乖離率の縮小および逆転が今後も発生することが想定されるマッシブな市場構成となっている。

また、価格の乖離率は、2020年3月に市場価格4,590万円に対して反響価格4,149万円と9.6%まで拡大したものの、緊急事態宣言発出時の4月には7.9%に縮小しており、少なくとも都心エリアでのコロナの影響は明らかではない。ただし、第2波が発生したとされる同年10月にも市場価格4,688万円に対して反響価格4,238万円と同じく9.6%まで乖離率が拡大していることを考慮すると、相応にコロナの影響=買い控えの意向が表れていると見ることができる。ただし、2021年は乖離率が明らかに縮小しているが、この間もコロナの感染は第3波および第4波押し寄せて緊急事態宣言も継続していたので、コロナ禍とは関わりなく物件検索し、購入に向けての検討を開始しているユーザーが増えていることがうかがわれる。自粛疲れ、緊急事態宣言慣れなどと言われるようにコロナの感染状況に敏感に反応していた2020年の市況とは明らかに異なり、“withコロナ”の市場に変化したと言っていいだろう。

都心6区:資産の付け替え目的で実需と投資の分厚いニーズ発生

都心6区中古マンション 市場価格と反響価格の推移と乖離率都心6区中古マンション 市場価格と反響価格の推移と乖離率

東京都の都心6区は中古マンションがコロナの影響を最も受けた市場と見ることができる。
特に賃貸需要においては“ユーザーの郊外化”傾向が顕著に示される結果となり(※2)、購入においても都心および準近郊・郊外の“二極化”の傾向が示されたためである。

購入ユーザーは住宅を容易に買い替えることにはハードルが高いことを知っていて長期的な居住を前提に物件を検索し問い合わせる傾向が強く、利便性の良好な都心・近郊での購入希望が多い。しかしそれでもテレワークの導入・定着率が高まるに連れて郊外居住への意向も高まりを示したことが二極化の主な要因となっている。

都心6区での市場価格は当然のことながら最も高額な水準で推移しており、2019年には6,400万円台での推移が、2021年には7,000万円台に突入している。この間の価格上昇率は約9.2%と東京23区の上昇率(4.2%)の2倍強となった。一方の反響価格は2019年10月の5,259万円から2021年4月には直近で最も高い7,091万円を記録していて、この間の上昇率は34.8%(差額1,832万円)と驚異的な数値を示している。

これも、都心周辺で発生しているとされる中古マンションに対する購入意欲の高まりによるものと考えられる。乖離率は市場価格が平均で6,811万円と極めて高額であることから期間平均でも10.6%と東京23区よりも拡大するが、2021年に入ると平均で5.9%へと半減し、市場価格が高値で安定している状況にもかかわらず、反響価格はさらに上昇する傾向を示している。7,036万円と直近で市場価格が最も高かった2021年4月は、反響価格がそれを上回る7,091万円となって乖離率は-0.8%を記録している。この都心における急激な需要拡大は、これまで記したようにコロナ禍でも安定的に推移する株式市場で得た含み益を確定させ、資産を付け替える動きが顕著に発生しているためであり、売り物件が減少して需給バランスがタイトな中古マンション市場に、新たに投資目的のニーズが加わることによって過熱感が生まれたものと見ることができる。

一見してコロナ禍とは無関係な事象とも思えるが、コロナによって行き先を失った余剰資金が株式市場に流入したことで株価の上昇が発生し、そこから不動産市場に波及していると考えれば、間接的にではあるが、都心6区の中古マンション価格の上昇と需要増による買い進みの状況は、詰まるところコロナが生み出した市場と言うことができるのだろう。

一方、LIFULL HOME’Sの2021年「住みたい街ランキング」 で「本厚木」が1位になるなど、コロナ化で郊外化志向の強まりが見られた賃貸物件市場においては中古マンションと異なる結果となった。賃貸物件編は後日別記事にて配信予定だ。


※2 参考:LIFULL HOME’Sの2021年「住みたい街ランキング」  人気を問うアンケート調査ではなくユーザーからの問合せをエリアごとに集計した実際の反響数に基づいていることに留意されたい

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レポート全文はこちら
https://www.homes.co.jp/search/assets/doc/default/edit/souken/lh_market_report_20210712.pdf

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