120年営んできた農家が住民に畑を開く

都市農家たちが畑の新たな使い道の模索を始めている。その一例が東京都西東京市で代々農業を営んできた新田農園だ。「農地を農家のものだけにせず、もっと地域の人にふれあい関わってほしい」という思いから、去る2025年10月25日にオープンファームイベント「FARM PARTY!」を開催した。

今回はその様子をお届けするとともに、これからの農地や畑のあり方について、これからの新田農園を担っていく若き夫婦、翔吾さんと綾子さんが今考えていることを聞いた。農地の維持や活用に悩んでいる方のヒントになれば幸いである。


西東京市の柳沢地区は市内の南部にあるエリアだ。当該エリアは、「田無」駅や吉祥寺・三鷹エリアにバスで出やすい、いわゆるベッドタウンである。120年以上にわたってこの地で農家を営んできた新田家は、住宅街の中に1ヘクタール以上の畑を持ち、代々農業を営んできた。

現在畑は新田さんの両親が中心になって営み、綾子さんと綾子さんの妹が引き継ぐためのサポートをしている。作付けしているのはほうれん草、キャベツ、ブロッコリー、トマト、きゅうり、じゃがいも、人参など旬のものからパクチーなどの香草まで年間50種類ほど。できるだけ低農薬での栽培にこだわってきた。

さまざまな農作物をつくる新田農園。夏の農産品が最盛期の頃の様子さまざまな農作物をつくる新田農園。夏の農産品が最盛期の頃の様子
地域活動を通じて知り合ったまちづくりの関係者たち。ここでどんなことができるのか?と思案している地域活動を通じて知り合ったまちづくりの関係者たち。ここでどんなことができるのか?と思案している

そんな由緒ある農園だが、住宅地に囲まれていながら、これまで地域の人とのかかわりは決して多くなかったという。

「地域の人もここに農園があることは知っていても、『敷地の中がどんな姿なのか分からない』と言う。農作業をしている人だけのある意味秘密のスペースのようになってしまっていたんですよね。その状況を変えたかった。近所にある農地を身近に体験し、何ができるのだろうと考える時間になればと思い今回にベントの開催に至りました」

2025年10月25日、訪れた人が“農のある気持ちのいい暮らし”のヒントを見つけることができるイベント「FARM PARTY!」が開催された。

イベントのテーマは「畑で遊ぶ・出会う・考える」。1ヘクタール以上の農地は誰でも足を運ぶことができるように開放。子どもから大人まで畑で遊びながら体験できるワークショップや、食のプログラムがそろった。さらにトークライブには「eatrip」という屋号で料理人として活動をする野村友里さんが登場した。

大人も子どもも楽しむことができる食がテーマのイベント

手作りワークショップにはたくさんの親子が参加した手作りワークショップにはたくさんの親子が参加した

イベントは主にワークショップと販売の2つがテーマ。そのうちワークショップでは子どもをターゲットにしたものと、大人も楽しめるものが開かれていた。たとえば子どもたちが店員になって、農園で採れたものを販売する「子ども八百屋」では、大人顔負けの子ども店長たちが一日八百屋店を営んでいた。

一方料理人と一緒に自分で作って食べる、食のワークショップでは、野菜に触れたり、みんなで料理を作って食卓を囲んだ。大人も子どもも一緒に、自分でつくる楽しさ、みんなで食を囲むおいしさを体験できる時間となった。

「STAMP DOODLE」が開いたスタンプでつくるサコッシュと服をリメイクするワークショップ「STAMP DOODLE」が開いたスタンプでつくるサコッシュと服をリメイクするワークショップ

服が循環する場づくりに取り組む「circle of closet」は子ども服の交換会を、「STAMP DOODLE」はサコッシュの販売をはじめ、着ない服を生まれ変わらせるスタンプリメイクのワークショップを実施。ただ食べる・買うだけでなく、おいしいもの・楽しいものが生まれるストーリーまで楽しむことで、新しい価値観や、面白い大人たちと出会うきっかけづくりをしかけた。

手作りワークショップにはたくさんの親子が参加したトークライブの様子

地元の作り手と共に食の豊かさを伝える販売

ワークショップやトークイベントと並行して地元のベーカリーや珈琲店による販売や、新田農園の野菜を使った弁当の販売、さらに新田農園の採れたて野菜の販売も実施。

農産品を子ども店長が販売農産品を子ども店長が販売

参加者は各イベントや出店者との交流のほか、冷え切った体を温めるために、庭先にあるロケットストーブで暖をとり、参加者同士での会話を楽しんでいた。

現地では「普段は見ることができない農園はどんな場所なのか」「どんな面白いことがあるのだろう」「おいしいものが気になる」とそれぞれが暮らしの中で気になることを知るために好奇心を持って訪れている様子がわかる声も聞こえた。近隣に暮らす老若男女がイベントのチラシを手にしてふらりと訪れていたようである。

身近に食や農に触れる機会があることで何かきっかけが掴めたのかもしれない。

農産品を子ども店長が販売農園の一角で、地域を面白くする会議をしている

農の風景を継承するために今を知ってもらう

新田夫妻。左が綾子さん、右が翔吾さん新田夫妻。左が綾子さん、右が翔吾さん

こうした畑との新しい出会いを持ってほしい、という取組みには背景があった。農業の担い手不足による、農地の継承に悩んでいたからだ。

新田家は両親から娘の綾子さんが農地と農業を継ぎ、夫の翔吾さんと営み始めた。以前は近隣の市場や生協などに農作物を卸していたが、現在は生産商品の種類や量を絞ったため、基本的に新田農園の入り口でのみしか販売していない。農園の入り口には無人販売ロッカーが存在するが、毎日ひっきりなしに売れていく。

「一部は近隣の保育園や飲食店に卸していることもあるが、他は基本的に農園で販売しています。販売量を絞ったものの、変わらず皆さん自転車で買いに来てくれる。認知されていることはありがたいですよね」

このように小さく足元で生産を続けている農家が都市部では多い。広大な農地を所有している一方で、生産量や生産物を縮小する傾向にある中、新田夫妻はやはり農業を持続すること、農地のある風景を持続していきたいという強い思いがあったそうだ。

「代々営んできた私たちにとって、この地はアイデンティティなんですよね。簡単に手放したくないし、農のある景色がなくなってほしくない。だけどどう持続していくのか。頭の中でまだアイデアが描けていない、という段階でもあります」

新田夫妻。左が綾子さん、右が翔吾さんイベント会場は畑のため、参加者が農のある風景を目の当たりに
新田夫妻。左が綾子さん、右が翔吾さんワークショップやコーヒー、アイスクリーム店のエリアは賑わっていた

既成概念にとらわれない。目指すのは、シェアをする畑と地域の公園のような畑

その構想の大きな軸として2つのことを考えている。一つは、地域の人たちと協働する農業の姿だ。従来の畑を少しずつコミュニティ運営型の畑にしていくことを検討している。もう一つは、農地を公園のように見立てることである。農を通じて、ゆるやかな人とのつながりが生まれる場所を目指し「この場所があるから、この地域に暮らしたい」と思えるような、豊かな畑の風景をつくっていく。

「ぶどう棚のある公園のような畑でもいいし、ハーブを生産しながら蒸留所を設けて畑をシェアする人たちで学ぶ会を開く。こんな姿があっても良いかもしれません」

都内で野菜の収穫体験ができるのは貴重なこと都内で野菜の収穫体験ができるのは貴重なこと

つまり「農業」という言葉や固定概念にとらわれない場の活用方法を模索していきたいと考えている。そのために柔軟なアイデアを持った人たちがこの場に興味を持って集まってほしいそうだ。

「農家一族だけではなく多くの人が関わるスタイルにした方が農地を身近に感じてもらえるし、地域における農地の価値も保てる。うまくいい形で農地や農のある風景が持続されていくことを願っています」

昨今近隣のエリアでは、都市農業に携わる地主たちが新たな土地の活用方法を模索している。近郊だと東久留米市にある秋田緑花農園の取組みが記憶に新しいところだ。

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こうした地域で新しい取組みをする人たちのことを知り、翔吾さんは興味を持っている。今後は農業だけではなく、まちづくりや不動産の活動にも関わり、自身も模索をしていくと話している。

現在新田農園は“農の風景”を残しながらも一部の土地にコーポラティブ方式の住宅群を建設する方向に踏み切り、全17世帯からなる「柳沢プロジェクト」を進めている。

くわしくはこちら:柳沢プロジェクト

このように数年かけて農園のあり方を模索していくのだろう。新田農園の今後が気になるところだ。

<取材協力先>
新田農園
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東京R不動産

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