人気投票ではない「住もうとしている」街のランキング
今年(2026年)の「みんなが探した!借りて住みたい街ランキング」を読み解く際、まず前提として認識しておくべきことがある。このランキングはアンケートによる意識調査ではなく、ユーザーによる実際の問合せ数をベースに集計された行動データであるという点だ。ユーザーがLIFULL HOME'S上で検索条件を設定し、物件情報を閲覧し、比較検討を経て、最終的に問合せというアクションを起こした結果が駅別に集計されている。すなわちここに並ぶ順位は「住みたい街」という理想像ではなく、「住める」「住もうとしている」現実的な意思決定の総和だ。
この違いは極めて重要だ。人気投票であればブランドイメージ、街の知名度が順位を左右する。しかし問合せランキングは、支払える賃料の上限、必要な面積、許容できる通勤時間や築年数、求める設備条件といった具体的な制約のなかで選ばれた結果がそのまま表出する。従ってこのランキングは、人気の強弱ではなく、市況環境と家計制約が交差した地点を示す“実需の地図”だといえる。
トップ5に入った駅とその理由を読み解く
このランキングは、人気ではなく条件設定の結果であるという視点を持って、順位の上下に潜む市況変化を読み解いていこう。
今年の上位駅群は、それぞれ異なる都市特性を持ちながらも、「都心アクセス」「賃料現実性」「生活完結性」という三要素をバランスよく備えた駅が上位を形成している。
1位の葛西は、その代表格だ。東京メトロ東西線による大手町・日本橋方面への直結アクセスが可能でありながら、23区内では比較的賃料水準が抑えられており、通勤効率と住居費のバランスが極めて取りやすい。さらにファミリー層にとっては教育施設、公園、商業施設がそろい、単身層にとっても生活インフラが充実している。供給量の厚さも反響を支える要因だ。同じ賃料上限、同じ面積条件で検索した際、ヒット件数が多い駅ほど問合せ母数は増えやすいからだ。葛西は人気というより、検索一致が起きやすい構造を持つ駅といえる。
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2位の八王子は昨年から3ランクアップ。今年のランキングを象徴する駅といえそうだ。中央線の特快停車駅でありながら、都心と比べて面積と賃料の均衡が取りやすいほか、大学、商業、行政機能が集積し、多摩エリアの中核都市として近隣で生活が完結する。私の感覚では、賃料上昇局面では「近いが狭い」より「少し遠いが広い」を選ぶ層が増える。さらにハイブリッド勤務の定着により、通勤距離の心理負担が緩和されたことも追い風となった。八王子のランクアップは、住宅費防衛と生活充足を両立したい層の受け皿となった結果だ。
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3位の大宮は、東京以北最大のターミナル駅として安定した需要を持つ。新幹線停車駅であるほか、東京や品川、新宿や池袋といった都内主要駅へのアクセスも良好だ。商業、行政、オフィス機能が集積し、生活面と就業面双方の選択肢が多い。単身者からファミリーまで需要層が広く、築浅から築古まで供給幅も厚い。条件一致が起きやすく、順位の変動が小さい安定型の上位駅だ。
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4位の本厚木は順位を落としながらも上位を維持している。小田急線の急行停車駅として新宿へのアクセス性を確保しつつ、県央エリアの雇用需要を抱える。生活利便性と賃料水準の均衡が評価され続けている結果だ。都心回帰圧力のなかでも崩れない底力がある。
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5位の三鷹は中央線人気を象徴する駅だ。隣接する吉祥寺の生活文化資本を享受しながら、賃料は一段抑えられる。新宿のほか、総武線・東西線への直通により東京の東側へもダイレクトアクセスが可能で、単身者・DINKS・ファミリーのいずれにも適合するバランス型需要を取り込む。
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これら上位駅はブランド力のみで選ばれているわけではない。通勤効率、生活利便性、住居費、街の成熟度、防災性といった複合的な要素の均衡によって評価されている。
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今年のランキングから見えてくる5つの特徴
ランキング全体を俯瞰すると、いくつかの明確な特徴が浮かび上がる。
第一に中央線沿線の面的台頭だ。三鷹に加え、高円寺、荻窪、中野、西荻窪といった駅が上位または上昇組に並び、人気が点ではなく面として広がっている。山手線の内側や城南エリアの賃料上昇により、「中央線でも現実的」という価格認識が広がったためだ。
中央線沿線は飲食、商店街、文化施設といった生活文化資本が厚い。可処分時間の満足度が高く、生活体験の質で評価されやすい。住宅選好は通勤効率だけでなく、生活の密度でも決まることが改めて示された。
第二に準都心・近郊中核駅の強さだ。大宮、川崎、北千住など、交通結節点かつ生活機能集積型の街が安定して上位に入る。単なるベッドタウンではなく、都市機能が自立していることが重要だ。
第三に“ずらし”戦略の定着だ。中心駅から数駅外すことで賃料を抑え、利便性を維持する行動が一般化した。今回ランクが急上昇した駅にはこの動きが色濃く反映されている。
第四に供給ストックの厚さが順位に影響している点だ。築古ストックが多く、リノベーション供給が成立するエリアほど検索一致が起きやすい。
ランキングに影響する4つのマクロ要因
ランキング構造を最も強く規定しているのは、言うまでもなく賃貸市況そのものの変化だ。今年の結果を表層的な人気変動として捉えると本質を見誤る。実際には、供給コスト、家計環境、働き方、ユーザー嗜好という複数のマクロ要因が同時に作用し、その圧力のなかで借り手がどのように住宅条件を再設定したかが順位として可視化されている。
第一に挙げるべきマクロ要因は供給コストの構造的上昇だ。近年の建築費高騰は一過性ではなく、労務費、資材費、輸送費、設備費といった複合要因が積み重なっている。特に職人不足に伴う人件費の上昇は長期的トレンドであり、短期での是正は見込みにくい。さらに建築資材についても、世界的な需給変動、為替、エネルギー価格の影響を受けやすく、供給側のコストは下がりにくい構造にある。
供給コストが上がれば、新築賃料は当然上昇する。ここで重要なのは、新築だけが上がるのではなく、周辺既存物件の賃料にも波及する点だ。新築が賃料相場の天井を引き上げることで、築浅ストック、さらには築古ストックの募集条件にも上昇圧力がかかる。結果として市場全体の賃料水準が押し上げられる。この局面では、借り手側が「待てば下がる」という判断を取りにくくなり、条件面の調整によって対応せざるを得ない。
第二に可処分所得環境の問題がある。物価上昇が続くなかで、住宅費に充てられる余力は相対的に縮小している。賃金上昇は一部業種・企業に偏在し、全体として均一に上昇してはいない。ユーザーは食費、光熱費、教育費、通信費といった固定費が増えるなかで、家賃だけを柔軟に引き上げる余裕は小さくなる。これにより、ユーザーの検索行動には明確な変化が表れる。すなわち賃料上限設定の硬直化だ。
従来は数千円から1万円程度の上振れを許容するケースも見られたが、現在は上限を超えると候補から外れる傾向が強まっている。検索上限の刻みが現実的になり、物件比較の段階で弾かれるケースが増える。すると同じ条件で検索した際、ヒット件数が多い駅、すなわち供給量が厚い駅に問合せが集中する。ランキング上位に供給ストックが厚いエリアが並びやすいのは、この検索構造と連動している。
第三に働き方の変化が通勤概念そのものを変えた点も大きい。コロナ禍を経て現在テレワークの実施は縮小しているものの、完全出社へ戻りきったわけではない。ハイブリッド勤務が定着したことで、通勤距離の心理的負担は「距離×出社頻度」で計算されるようになった。週5出社であれば遠距離通勤は敬遠されやすいが、週2〜3出社であれば許容範囲が広がる。結果として、都心至近だけでなく、中核都市や外縁駅が評価される。
この変化はランキングにも明確に表れており、「都心に通える範囲のなかで住宅費を最適化する」動きが強まっている。八王子や大宮といった中核都市の上位定着は、この文脈で理解すべき現象だ。
第四にユーザー嗜好の変化がある。賃料上限が硬直化する一方、広さ志向は依然として残っている。同棲、共働き、在宅勤務により、1LDKや2LDKで一定の面積を確保したい需要は底堅い。都心で面積を確保すれば賃料は急騰するため、面積と賃料の均衡点にある駅が選ばれやすくなる。
さらに許容する築年数の上昇も起きている。築浅志向はあるものの、内装改修、設備更新、無料インターネット、宅配ボックスといった生活実装性が担保されていれば、築20年前後でも候補に入る。これにより、リノベーション物件の供給が成立しやすいエリア、つまり築古ストックが厚いエリアが反響を得やすくなる。
生活完結性の評価も強まっている。共働き世帯の増加により可処分時間は減少し、駅前で生活が完結する街の価値が上がる。スーパー、医療、教育、飲食が徒歩圏でそろうかどうかは、住宅満足度に直結する要素だ。ランキング上位に、単なる交通利便性の高い駅ではなく周辺の生活利便性の高い駅が並ぶのはこのためだ。
そしてもう一つ重要なのが、前述した“ずらし”戦略の一般化だ。中心駅から数駅外すことで賃料を抑え、都心へのアクセス性を維持する行動は、賃料上昇局面ほど強まる。ランクが急上昇した駅の多くは、この“ずらし”の受け皿として機能している。人気が集中した駅の賃料が上昇し、検索条件から外れる物件が増えると、ユーザーは次の代替地を探す。需要は同心円状に外側へ波及する。この波及経路を示すのが急上昇ランキングでもある。
今後の見通しとして、供給コストが短期で下がる可能性は低く、募集賃料も急落しにくい。従ってランキング構造も急変しにくい。変化が起きるとすれば、上位駅の入れ替わりではなく、上位駅周辺への需要波及という形で表れる可能性が高い。
総括すれば、今年のランキングは人気の強弱を示すものではなく、市況圧力のなかで借り手がどの条件を固定し、どの条件を調整し、どこで均衡を取ったかを示す行動データだ。理想ではなく現実制約下での最適解が並んでいる。だからこそ、このランキングを読むことは、今後の賃料査定、商品企画、リーシング戦略を考えるうえで極めて実務的な意味を持つのだ。








