不動産会社・福祉・不動産ポータル それぞれから見た精神障害者と高齢者の居住支援の現在と未来
2025年10月に住宅セーフティネット法が改正され、住宅確保要配慮者(以下、要配慮者)の課題に空き家の活用がこれまで以上に推進されている。
全国的に見ても、高齢者や外国籍、障害者の要配慮者の増加傾向が見受けられており、各自治体でも社会的弱者と住宅の課題への取り組みを強化する様子がうかがえる。
時代によって社会も変わるように、住まいの課題も変容を遂げている。 変わりゆく住宅課題を地域の力でいかに解決するか。
川崎市居住支援協議会では、居住支援の拡充を目指し、2025年11月20日に大家や支援者に向けた「民間賃貸住宅活用セミナー」が開催された。
セミナーでは、株式会社LIFULL(以下、LIFULL)より「LIFULL HOME’S FRIENDLY DOOR(以下、FRIENDLY DOOR)」事業部の龔氏、要配慮者の入居に尽力する不動産会社「株式会社アオバ住宅社(以下、アオバ住宅社)」代表齋藤氏、高齢者を中心に居住支援を行う「社会福祉法人悠々会(以下、悠々会)」理事長陶山氏をゲストに迎え、不動産ポータル・不動産会社・支援団体の三者の視点での高齢者や障害者等の居住支援の“今”を解説した。
要配慮者の住まいの悩みに寄り添う不動産ポータルFRIENDLY DOOR
当日の会場は、居住支援に関わるNPOや自治体担当者、川崎市内の不動産オーナーでにぎわっていた。
セミナーは2パートに分けられ、前半は登壇者の居住支援事業の紹介と各人が得意とする分野の特徴の共有、後半は3者によるパネルディスカッション、という構成で進められた。
前半最初に登壇したのは、株式会社LIFULLの龔氏だ。龔氏が事業責任者を務める「FRIENDLY DOOR」では、要配慮者(LIFULLでは住宅弱者と称する)を、外国籍・LGBTQ・生活保護利用者・障害者・高齢者・シングルマザー/ファザー・被災者・親に頼れない若者・フリーランスの9種にカテゴライズ。当事者や支援者と、各バックグラウンドに対して親身に対応する不動産会社とをつなぐほか、サポートデスクによる当事者の部屋探しをアドバイスするサービスを展開している。
住宅弱者が直面する難しさについて、不動産会社での来店拒否・入居物件の選択肢の少なさ・審査に通りにくい・差別に遭うといった課題のほか、当事者が自己開示をどこまでしてよいのか不安を抱えていることなどが、サービスを通じて明確になったと説明。
特に高齢者が入居できる物件が少ないと答える割合が最も高く、深刻な課題であると龔氏は語った。
日本国内での賃貸物件の問題に関しても、データを用いて共有。高齢化・少子化が進行する一方で、全国では空室が900万戸に上るという、人口減少と空室増加が逆行する事態が発生している現状を伝えた。
続いて、住宅弱者の契約動向とオーナー側の意識の変化、そして住宅弱者に物件を貸し出すメリットの解説へと講話は続く。
事業をスタートさせて以降の住宅弱者それぞれのカテゴリーの成約数の推移を見ると、障害者の領域は伸び悩みがある ものの、高齢者や外国籍は増加傾向にあるという。
住宅弱者を受け入れるメリットについて、龔氏は“長く住んでもらえる”点を挙げた。「家が見つかりづらいからこそ、場所を大切にする傾向がある。空室リスクを抑えることが長期にわたってできるため、賃貸オーナーにとっては大きなメリットといえる」と語る。
FRIENDLY DOORに寄せられる相談のなかでも、“借りている物件の建て替えで立ち退きせざるを得ず、次の住まいを急ぎ探さねばならないという 内容が少なくない。それほどまでに長く契約が続く状況は、不動産経営にとっては安定した収入となることに違いない。
全国的に空室数が年々増えているなかで 、いかに収益基盤が確かな経営をしていくか。大家側の立場としても、将来を見据えた長期的な視点での、住宅弱者の受け入れが必要である、と締めた。
「一生付き合える不動産屋」へ 仲介とソーシャルワークを融合したアオバ住宅社の居住支援モデル
アオバ住宅社は横浜市にある不動産会社だ。その代表である齋藤氏は、同市に所在する精神科外来「しろくま・メンタルクリニック」で精神保健福祉士としても勤務している。
セミナーを始めるにあたり、アオバ住宅社の社会的弱者に向けた取組みの歩みが紹介された。
齋藤氏の住宅支援の原点は、生活保護利用の高齢男性の部屋探しに半年をかけ、その経験から社会福祉士を目指したことだった。
「一生付き合える不動産屋でいたい」と居住支援のモットーとする齋藤氏。単に物件仲介で終わりではなく、地域で暮らし続けられる支援も行っている点がアオバ住宅社の特徴だ。
社の創立から現在に至るまでの取組みを具体的に3つ取り上げた。
1つめに、アオバ住宅社の事業展開として行う「清掃事業」を挙げた。これは、大家から共用部の清掃を受託し、仲介をした顧客や元顧客をスタッフとして雇用。給与を手渡しすることで見守りにもつなげるという取組みだ。
2つめに挙げたのは、交流会だ。入居者の見守りはアウトリーチ的に齋藤氏が担っていたが、訪問件数が増えたため、活動が困難になったという。そこで見守り活動の効率化のため、顧客に社まで来てもらう目的でお茶会などの開催で交流している。
3つめには、アオバ住宅社として社会資源ネットワークの構築を進めた点だ。行政・福祉機関などとの連携を強化し、入居者の“万が一”に迅速に動くためのパイプ作りに努めた。
こうした事業を進めるうえで、齋藤氏は、不動産会社と医療連携の重要性にも気づく。しかし、医療側に連携を試みるも、難色を示されて思うように進まない。そこに精神科医師より声がかかり、精神保健福祉士を取得したうえで、2024年に「しろくま・メンタルクリニック」にて患者が抱える住まいの問題に寄り添うようになった、と経緯を語った。
講話は続いて、アオバ住宅社の現状の取組みの2点の解説へと変わる。
現在注力していることのひとつに、同業者への指導を挙げる。居住支援に関心のある不動産会社からの相談やノウハウの提供を行い、不動産業界のボトムアップを図っている。
次に、サブリース事業への新規参入についてだ。国土交通省が実施する「みんなが安心して住まいを提供できる環境整備モデル事業(※)」に応募し、2025年に採択された。事業者として空室物件を借り上げ、要配慮者に向けた転貸事業を進めているという。
「短期的なメリット/デメリットではなく、長期的な暮らし全体を考えた支援が必要」と語った、齋藤氏。
オーナー、不動産会社、当事者と、関わる人すべてにとって意味のある支援を目指している。更新時などに、入居者情報や支援状況をオーナーに提示する仕組みも活用しているそうだ。
※みんなが安心して住まいを提供できる環境整備モデル事業……民間賃貸住宅等のサブリース等による、入居後の住宅確保要配慮者に対して、安否確認や見守り、福祉サービスへのつなぎを行う住宅(居住サポート住宅など)の提供を通じて、住宅の所有者が安心して住宅を提供できる環境を構築するとともに、住宅確保要配慮者の居住の安定を図るモデル的な取組みを行う居住支援法人等を支援する、国土交通省の事業。
高齢者の自己決定を尊重 悠々会が実践する安心の住まい探しとサブリース事業
悠々会は、川崎市麻生区と隣接する町田市鶴川地区を拠点に、高齢者福祉事業を20年以上行う社会福祉法人だ。
川崎市の居住支援法人にも登録しており、同市の居住支援協議会にも参画。グループホームや特別養護老人ホームの運営、民間住宅での居住支援を主軸に、高齢者のほか困難を抱える人の暮らしの支援を世代や分野を超えて行っている。
今回のセミナーのトピックである“高齢者の居住支援”のエキスパートとして、高齢者の住宅をめぐる動向に関して説明。陶山氏は「有料老人ホームなどの施設整備計画が減少し、既存のストック住宅の活用が急務」と指摘。居住支援の必要性に関して、入院・入所先の不足から、民間賃貸住宅でターミナルケアができるような体制構築が求められている、と解説した。
続いて、講話は悠々会の居住支援事業の紹介へと移る。
悠々会では、自己選択・自己決定を尊重した居住支援を行っているとのこと。基本的には、当事者からの相談をもとに、相談者と職員が一緒に不動産屋を回り、入居までの伴走支援を行う。
家主から断られてしまった物件には、悠々会が借り上げて転貸する「あんしん住宅」として提供。サブリース物件の提供は現在約130名に及んでおり、高齢者、精神障害者、その他さまざまな背景を持つ方が利用している。
悠々会では、大家の不安に対して、職員が日常的な支援を行うことを具体的に提示することで、受け入れを促進しているとのこと。セーフティネット住宅の説明も行い、「断らない住宅にしませんか?」と勧めることもあるそうだ。
そのほかの支援には、「もしものとき」に備えて自分が望む医療や介護について家族や医療・ケアチームと共有するための「人生会議」の作成、ハザードマップ上の居住者に対して災害時の安否確認・避難支援を行う「個別避難計画付き住宅」、月々4,000円のサブスクリプションで身元保証や死後事務を請け負う「身元保証と生活支援」、残置物処理の問題を解決するため、悠々会所有の家電をリースする事業等を実施している。
「居住支援は、大きなトラブルに巻き込まれる前、元気なうちにその人に合った住まいに暮らし、地域につなぐ“予防”である」と陶山氏は語る。高齢化に伴って昨今増加している社会保障費の抑制にもつながる、と強調していた。
自治体が取組む居住支援 川崎市の相談傾向と事例
前半の最後は、川崎市まちづくり局の荻野氏より、市の高齢化の現状と居住支援に関する説明がなされた。
川崎市は人口の約5人に1人が高齢者という状況にあり、高齢者のうち約5人に1人が一人暮らし。高齢者のうち約5人に1人が認知症と推定。高齢化率が21%超の超高齢社会への突入が迫っており、2040年には28%を超えて約3.5人に1人が高齢者となる見込みを、グラフをもって共有した。
川崎市が現在行っている具体的な支援には、「すまいの相談窓口」を開設し、相談をもとに住まい探しの支援を市内の不動産団体と協力して行っているとのこと。店舗に赴く際には同行支援もするそうだ。
また、福祉的支援が必要な場合は、先に福祉部門へつなぎ、生活が安定したのちに改めて住まい探しを再開するスキームもできている。
川崎市独自の居住支援制度にも触れる。高齢者・障害者・外国人・ひとり親・DV被害者・ホームレス自立支援施設からの退所者・児童福祉施設退所者・指定難病や特定疾患患者の8つの区分を対象に、協定を締結した家賃債務保証会社による家賃保証が受けられる。具体的には、滞納家賃7ヶ月分・原状回復費3ヶ月分を補填する制度だ。保証会社が回収できなかった額の半額を、市が補助することにより、家賃債務保証会社への負担を軽減してより審査が通りやすくなることが期待されている。
供給不足と多角化する相談 居住支援現場のパネルディスカッション
後半は、荻野氏をファシリテーターとした、登壇者のパネルディスカッションが行われた。
要配慮者の現状と課題、そして、安心して住み続けられる環境整備に向けた取組み・連携の重要性について議論された。
要配慮者の現状について、全国的な現状と課題を龔氏が解説。潜在的な要配慮者の数は推定で1000万〜2000万人程度存在すると試算。しかし、URや公営住宅といった“公的賃貸住宅”と“セーフティネット登録住宅”を合わせても、供給量は約400万戸程度しかなく、潜在的なニーズに対して圧倒的に不足していると考察を示した。
それを受けて、川崎市の現状と課題を荻野氏が説明。先に明示した単身高齢者世帯の増加が顕著であることに加え、障害者の状況にも触れる。
障害者の場合、手帳所持者のうち約5割が18歳以上65歳未満の年齢層とのこと。障害者手帳の交付は受けていないが一定の支援を要する方も相当数存在すると推定している。
住宅ストックに関しては、そもそも川崎市は持ち家率が半数以下で賃貸住宅の割合が高い特色があるとのこと。公的賃貸住宅や特別養護老人ホーム、障害者の入所施設は、今後大幅な増加は見込まれていないことから、一般賃貸での当事者とのマッチングの向上を課題のひとつと考えている、と荻野氏は背景を整理して示した。
次は相談件数の増加と傾向に話題が移る。
登壇した三者・川崎市ともに「相談が増加傾向にある」と一様に語った。
アオバ住宅社では、高齢の両親と未就労の中年の子・娘の相談が多く、8050問題に近い、と齋藤氏は見解を示す。
悠々会では、旧耐震住宅の建て替えに伴う一斉退去の相談が増加傾向にあるという。
龔氏はFRIENDLY DOORサポートデスクに寄せられる相談は特に精神障害者や生活保護利用者が多く、「あと20日で退去しなければならない」など差し迫った状況での相談が集中していると状況を語る。病院からの退院に向けた問い合わせも増加しており、いずれも切迫した状況がうかがえる。
次に、実際に行った支援での好事例について、齋藤氏と陶山氏に話題を投げかけられた。ともに精神障害当事者の支援で、齋藤氏は措置入院患者の退院支援を、陶山氏は入居支援を紹介した。
齋藤氏は、急性精神疾患による措置入院から回復し、退院後の暮らしを支援することとなった。だが、生活保護申請を伴う引越しの手続きが、不動産の所有がネックとなって難しかった事例を挙げた。この事例を通じて、医療と福祉と不動産会社の包括的な連携の重要性を訴えた。
陶山氏は、退院前から悠々会の職員、主治医、退院促進の窓口担当者などで集まり、状況を共有。デイケアや服薬管理を含む支援計画を明確化し、率直に大家に説明したことで、大家との賃貸借契約を結ぶことができたという。
「要配慮者の居住支援には、大家への理解が不可欠だ。退去のタイミングまで含めたイメージを共有することで、大家に安心感を与える」と、陶山氏は説明した。
質疑応答を経て、2時間に及ぶ会は盛会のまま終了した。
「住まいの確保」から「住み続けられる環境」へ 地域の想いが結ぶ協働の重要性
セミナーの中で、陶山氏は自身が民生委員児童委員として地域の不動産会社や不動産オーナーと接して得た知見を、こう語る。
「補助金などの金銭的インセンティブ以上に『地域を大切にしたい』という思いが強い」
居住支援には住まいの確保だけでなく、住み続けられる環境づくりが欠かせない。今回の登壇者の講話は、その環境づくりのためには行政・福祉・医療が一体となることの重要性を裏付ける内容だった。「地域に住みたい」と願う当事者、「地域を大切にしたい」と願う地元住民、「地域を発展させたい」と尽力する自治体職員、「当事者に最適な暮らしを」と協力する支援者。それぞれに共通する”地域を愛し、住み続けられる街にしたい”という想いは、その街ならではの魅力や都市の競争力にもつながるだろう。
地域の特性に合わせた、地元を愛する取組みに今後も注目したい。
■LIFULL HOME’S FRIENDLY DOOR
https://actionforall.homes.co.jp/friendlydoor
■アオバ住宅社
https://www.aoba-jutakusha.jp/
■社会福祉法人悠々会
https://www.yuyuen.com
■過去記事: 精神科通院医療×不動産会社「しろくま・メンタルクリニック」。精神障害の治療に住まいの視点を取り入れた現場をレポート
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01280/
■「障害者」の表記について
FRIENDLY DOORでは、障害者の方からのヒアリングを行う中で、「自身が持つ障害により社会参加の制限等を受けているので、『障がい者』とにごすのでなく、『障害者』と表記してほしい」という要望をいただきました。当事者の方々の思いに寄り添うとともに、当事者の方の社会参加を阻むさまざまな障害に真摯に向き合い、解決していくことを目指して、「障害者」という表記を使用しています。
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