障がい者と雇用
2012年以降、障がい者の自立生活が推進されている。
自立した生活を営むためには、住まいがあることだけでなく、仕事に就くことが重要になる。仕事の場となる企業にも、障がい者を雇用する努力が求められている。
今回は、障がい者と社会の在り方と雇用について、「障害者差別解消法」と「障害者雇用促進法」の2つの法律を知り、理解を深めていこう。この2つの法律は、近年改正法が公布・施行され、特に企業の障がい者に向けた対策が求められている。
「障害者差別解消法」とは?
障がい者と社会をめぐる話にまず欠かせないのが、障がいを理由とする差別の解消の推進に関する法律である通称、障害者差別禁止法だろう。
これは、2006(平成18)年12月13日に採択された国連の「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として、2013(平成25)年6月に制定、2016(平成28)年4月1日から施行された法律だ。
この法律は、「すべての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進すること」を目的として定められている。
障がい者の自立や社会参加を促すには、障がい者に向けた支援だけでなく、国民全体に支援の必要性の認知を広めることが不可欠である。障がい者に対する差別をなくし、互いに手を取り合う社会を築くことがこの法律が目指すものだ。まさに、憲法が定める法の下の平等を体現する法律ではないだろうか。
具体的には、障がい者に対して合理的な配慮を行うことを軸に、それに伴う規則や罰則が定められている。
この「合理的配慮」とは、障がい者が社会の中で出合う物心両面の困り事を取り除くために、各所で調整や変更を行うことだ。国や独立行政法人、地方公共団体といった行政機関は、合理的配慮を行うことが義務化されていて、民間の事業者は努力義務とされている。
例として、住まい領域である不動産会社の場合を見てみよう。
合理的配慮を必要とする物件仲介のシーンでは、
・「障がい者向け物件は取り扱っていない」と門前払いするなど、障がい者を差別するような言動をしない。
・聴覚障がい者には筆談をしたり、視覚障がい者には手を取って内見をしたりするなど、障がい者の状態に応じた対応をする。
・障がい者の求めに応じて、バリアフリー物件等、障がい者が不便と感じている部分に対応している物件があるかどうかを確認する。
といったことが挙げられる。
障がい者の方はそれぞれ、障がいの種類や度合いが異なるため、この合理的配慮は一律に「こうすればいい」というものではない。その都度、どのように対応するかを探るのは難しいだろう。
そこで内閣府では実例を集めた「合理的配慮等具体例データ集 合理的配慮サーチ」を公開している。
障がいの種別や生活の場面から検索し、どんな対応をしているのかの集合知をヒントとして活用することができる。
改正法の施行で努力義務から「罰則付きの義務化」へ
時代に沿って法律は改正されていく。障害者差別解消法も2021(令和3)年5月に改正が成立し、翌月6月4日に公布された。
今回の改正でのポイントは、先述した合理的配慮の提供が民間の事業者にも義務化される点だろう。
これまでは努力義務だったが、事業に関する事物、制度、慣行、観念などに対して障がい者から配慮を求められた場合に、過重な負担がない範囲で、それらをクリアするための合理的な配慮を行わなければならない。
ここで言う障がい者は、従業員だけでなく、接客を要する事業の場合は顧客も当てはまる。
出入り口に段差がある場合はスロープを取り付ける、コミュニケーションボードを用意する、顧客のペースに合わせて意思疎通を図るなど、できる範囲での改善を図ることが求められるようになった。遵守しない場合、20万円以下の罰金が科される。
「障害者雇用促進法」とは
次に障がい者の就労について見ていこう。
障がい者の自立した生活、社会共生のためには、障がい者の働く場所が必要である。
障害者雇用促進法では、民間企業はルールに沿って障がい者を採用することが義務付けられている。
従業員を43.5人以上雇用している民間企業は、1人以上の障がい者を雇用しなければならない(障がい者雇用率を2.3%にしなければいけない。詳しい計算方法は、厚生労働省・障害者雇用率制度についてのpdfを参照)。
厚生労働省・障害者雇用率制度について
・障がい者雇用枠は、障がい者手帳を所有している人が対象。
・障がい者を5名以上雇用する企業は、障がい者生活相談員の選任をしなければならない。
・障がい者雇用状況報告をハローワークへ年1回提出する。
これらを守らない場合、納付金(従業員100人以上の企業が雇用不足の場合1人につき月5万円の徴収)や、30万円以下の罰金、行政指導が入るといった、厳しい刑罰が科される。
一方、障がい者雇用を進める後押しとして、さまざまな助成制度もある。
その一部を紹介しよう。
特定求職者雇用開発助成金/特定就職困難者コース
対象労働者をハローワーク等の紹介により、雇用保険一般被保険者として障がい者を継続して雇い入れる事業主に対して、賃金相当額の一部を助成するものだ。たとえば中小企業で短時間の労働契約の障がい者を雇い入れる場合、80万円が2年間にわたって支給される。
トライアル雇用助成金/障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース
障がい者を一定期間雇用することによって、適性や業務遂行の可能性を見極め、相互理解を促進することを目的としたものだ。
トライアル期間中、対象者1人当たり月額最大4万円、最長3ヶ月間受給できる。精神障がい者を初めて雇用する場合は、月額最大8万円を最長3ヶ月間。週20時間以下の短時間雇用の場合は、月額最大2万円を最長12ヶ月間受給できる。支給額は、就業予定日数に対する実働日数の割合で算出される。
キャリアアップ助成金/障害者正社員化コース
有期雇用労働者を正規雇用労働者または無期雇用労働者に転換することや、無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換することを目的とした助成だ。
障がいの度合いによって変化するが、中小企業の場合で45万円~120万円の助成金が1年間支給される。
人材開発支援助成金/障害者職業能力開発コース
障がい者の職業に必要な能力を開発、向上させるため、一定の教育訓練を継続的に実施するための施設の設置や運営にかかる費用を一部助成する制度だ。
障害者雇用納付金制度に基づく助成金
障害者雇用納付金制度とは、障がい者雇用率を達成している企業と未達成の企業の不平等を均一化するための制度だ。未達成の企業から徴収した納付金をもとにさまざまな助成を行っている。
具体的には、以下のようなものがある。
・100人以上を雇用する企業において、法定雇用率を超えて雇用している障がい者数に応じて1人につき月額2万7,000円を支給する障害者雇用調整金。
・障がいのある労働者の就労を支える職場介助者、手話通訳者などの配置や委嘱にかかる費用を助成する職場介助者の配置助成金。
・雇用した障がい者が職場での適応や定着などに課題がある場合、就労の安定を図るために「職場適応援助者(ジョブコーチ)」を派遣するための費用を助成する職場適応援助者助成金。
そのほか、障がい者雇用に係る税制上の優遇措置もある。
ただ、こうした助成の種類は多岐にわたるうえ、管轄が「厚生労働省」か「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」かによって申請方法も異なるため、複雑になっている。
そんなときは相談窓口を活用して適切な支援を受けたい。
障がい者雇用に関しては、最寄りの地域障害者職業センター、ハローワーク、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構にて、包括的な相談を受け付けている。
自社ではどんなことができるのか、どんな助成が受けられるのか、どんな雇用が向いているのか、そのためにはどんな準備が必要か。具体的な道筋が立てる参考なるだろう。
ダイバーシティが叫ばれて久しい今、多様性を理解し受け入れることで社会がより強くなるとも考えられている。
「障がい者」といっても、抱える障がいは多種多様で度合いもさまざまだ。そうした違いに理解を示し、どうすれば障壁がなくなるかを考えることは、誰かのための暮らしやすい社会ではなく、どんな人でも住みやすい社会の創造につながるのではないだろうか。
あくまでも法律は制度にすぎない。それを踏まえてどう考えて行動するかは、私たちの判断に委ねられている。
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2022年5月掲載当時のものです。障害者差別解消法の改正は令和6年(2024年)4月1日に施行されています。
公開日:
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