「D&I」から「DE&I」へ意識改革するためのオンラインセミナー
SDGsの認知の高まりに伴い、多様性の尊重は社会の共通認識として広まってきた。一方、「“多様性が重要”という認識はあるけれど、自社のビジネスとの関わりがわからない」「自社で取り入れるにはどうしたら」「何から始めたら」といった戸惑いを抱えているビジネスパーソンも多いのではないだろうか。
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)とは、「多様性を取り入れ、多様な人材が互いに尊重し合い、力を発揮できる環境を実現する」という概念を指す。
国で「多様性を尊重し包摂的な社会づくりを目指す」という方針が掲げられ、民間でも企業や団体の特性に合わせてD&Iに取り組む様子が見えはじめた。
一方で、世界的にはD&Iに「エクイティ」という概念を加え、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)と呼ばれることが増えてきている。
DE&IのEである、Equityは「エクイティ/公平性」と訳されるが、日本国内ではまだその真意が周知されているとは言い難い状況だ。
不動産会社がDE&Iに取り組もうとするなら、どのような考えに基づいて行動を起こせばいいのだろうか。
LIFULLでは2023年に「不動産・住宅会社向け DE&I研修 入門セミナー」をオンラインで開催している。これはLIFULL HOME’S アカデミーとFRIENDLY DOORのコラボレーションとして、DE&Iを推進させたい経営者や担当部門の方、多様な顧客に対応できる人材を育成し、収益拡大を目指す経営者や管理職の方に向けたセミナーだ。今回はこのイベントの様子をレポートする。
講師には、株式会社HRインスティテュート(以下、HRインスティテュート)のコンサルタント笹尾侑希さんを迎えた。
ニューヨーク州立大学を卒業後、米国で会計監査の仕事に従事。2020年帰国、HRインスティテュートに転職後はファシリテーターとして研修やワークショップを実施する傍ら、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)をテーマにしたコンテンツの作成を手がけている。
EqualityとEquityの違いは? DE&Iに関する基礎知識
セミナーは、「1.オリエンテーション」「2.DE&Iって本当に重要なの?」「3.自社はこれからどうすればいいのか?」「4.Q&A」の4部構成で行われた。
「1.オリエンテーション」では、前身となるD&I基礎知識のおさらいをした。意識改革の重要性、D&Iにまつわる各用語の説明、ダイバーシティ・サイクル(ダイバーシティ推進によって得られる相乗効果)についての説明が行われた。
なかでも、DE&Iの概念の肝ともいえるEquityについて丁寧に解説していたのが印象的だ。Equity(公平性)はEquality(平等性)と混同されがちだが、平等は“機会的均一性”、公平は“結果的均一性”という違いがある。
セミナーでは、同一のゴールに対して、達成の難しさが異なる人への支援方法の例を挙げて、EqualityとEquityの違いを説明した。
画像を例にすると、「果実を取る」という同一のゴールに対し、イラストの左側「Equality(平等)」は、大人から子どもまで同じ量のサポートを用意するイメージだ。“配慮”という面では公平に見えるが、結果的にはどうだろうか。
同じ量のサポートが与えられても、必ず全員が確実に果実を手にできるとは限らない。すでに手の届く方に追加のサポートを与えることで過剰な支援になる場合があり、結果的に不公平が生じる。
公平にゴールへ到達させるには、イラストの右側「Equity(公平)」のように一人ひとりに適切な配慮が大切なのである。
この例では背の高さだったが、課されるものが異なっていたとしても同様のことがいえるだろう。
映画館や遊園地の入場料に大人と子どもの区別がなく、全員同一料金であったら? 収入金額にかかわらず、所得税の納税額が68万円に定められていたら?
「平等」ではあるものの、その結果は「公平」とはいえない状態だろう。これは、“配慮がある"といえるのだろうか?
支援に関して日本は特に同等分配することに意識が向きやすい。しかし、大切なのは“ゴール達成”のためにそれぞれにとって適切な手の差し伸べ方である、という知見が共有された。
企業のDE&I対応の重要性と目指すべきポイント
「2.DE&Iって本当に重要なの?」では、単身の高齢・外国籍・LGBTQの方を例に、さまざまなマイノリティの人口比率が増えていることを示唆した。
画一性に事業を進めると、そこに当てはまらないマイノリティの方々を切り捨てることになり、DE&Iを取り入れることは企業の社会的責任であると、笹尾さんは指摘する。
DE&Iを取り入れ始めた企業では結果が出ているとのことで、楽天銀行株式会社の「LGBT住宅ローン」、株式会社熊谷組のダイバーシティ推進を例に、各社の実績が紹介された。
マイノリティ層をターゲットにした商品開発や売上、社内のダイバーシティ推進による働きやすい環境の創生で売上・利益率の上昇という実例は、DE&Iへの取り組みの意義を感じさせてくれるものだった。
【関連記事】楽天銀行LGBT住宅ローンが広げた住まい探しの選択肢 商品化の舞台裏
「3.自社はこれからどうすればいいのか?」では、現段階での企業内でのDE&Iに対する“活動”と“理解”を可視化するワークが行われた。
活動の有無をY軸、理解の有無をX軸に、4つのエリアから、自分のチーム・組織は今どの段階にいるのかを確認。その現状に必要な打ち手は何かを確認することで、実践的にDE&Iを取り入れることができるのだという。
またそのためには、トップダウンでの働きかけやトップのサポートや援護が必須であるとも、笹尾さんは呼びかけていた。
最後に、DE&Iへの理解・共感、行動・実践のために効果的なワークショップやほかのスキル研修の併合実施の紹介があり、DE&Iの入門セミナーのプレゼンテーションパートが終了した。
Q&Aと参加者からの声
研修の終わりには、参加者からのQ&Aタイムが設けられ、他業界でのDE&I推進の成功例や日々の業務での取り入れ方に関する質問が寄せられた。
その中のひとつ、「企業内でのDE&Iへの温度差をどう埋めるか」という問いに、笹尾さんは「対話者の関心のあることに絡めてアプローチしてみては?」と提案した。
加えて、セミナーの最後に触れた“ほかのスキル研修の併合実施”を勧めていた。DE&Iを推進するには相性がよい学びのジャンルがあるという。まだ意見が分かれがちでパーソナルな内容に触れるDE&Iというテーマでは、単独のセミナーよりも、ビジネススキルやビジネスコミュニケーションに織り交ぜた学びの機会を用意することで、よりスムーズに促進できるそうだ。
その後の参加者アンケートでは、「DE&IのEについてより知識が深まった」、「マイノリティの方々の範囲を網羅的に説明されていてよかった」といった声が寄せられ、よい学びの機会になったようだ。
不動産業界において、DE&Iの推進は顧客を取りこぼさないことにつながる
DE&Iへの見識を広めることは、自分自身がこれまで知らなかったことや見えていなかったことに目を向けることに通じ、さまざまなアングルから物事を考えるヒントを得られるだろう。それがやがて、自分自身のアンコンシャスバイアス(人が無意識に持っている、偏見や思い込み)に気づくことにもつながる。
アンコンシャスバイアスは、誰もが持っているものだ。だからこそ、当事者に対して不適切な対応をしかねないリスクはいつでもあることを知り、そのリスクを軽減する必要があるだろう。
適切な接客対応ができればその顧客を取りこぼすことなく、事業成果につながり、企業にとってもプラスに働く。
不動産会社の実務にでは、顧客が記入する用紙の性別の記入欄を見直す、外国人や障害者といったマイノリティの顧客対応を再検討するなど、すぐに取り組めることも多くある。
顧客から選ばれる企業になるためにも、DE&Iは改めて考えてほしいトピックだと、ACTION FOR ALLでは考えている。
LIFULL HOME’Sでは、HRインスティテュートと共に参加型のDE&I研修を始動させた。これから社内でDE&Iに関する取り組みを始めたい方、より深堀りしたい方に体感していただきたいと思う。
今後もACTION FOR ALLでは、住宅弱者の支援を知る機会を続けていきたい。
※「障害者」の表記について
当事者の方からのヒアリングを行う中で、「自身が持つ障害により社会参加の制限等を受けているので、『障がい者』とにごすのでなく、『障害者』と表記してほしい」という要望をいただきました。当事者の方々の思いに寄り添うとともに、当事者の方の社会参加を阻むさまざまな障害に真摯に向き合い、解決していくことを目指して、「FRIENDLY DOOR」サイトの検索カテゴリー、および接客チェックリストでは「障害者」という表記を使用いたします。
【参考リンク】
株式会社HRインスティテュート https://www.hri-japan.co.jp/
LIFULL HOME'S アカデミー https://academy.homes.jp/login_top
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2023年5月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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