生活困窮者の居住支援や国の制度について知るセミナー

LIFULL HOME'Sが運営する「FRIENDLY DOOR」は、一人ひとりの多様なバックグラウンドを理解し、当事者の住まい探しに寄り添う不動産会社を検索することができるサービスだ。「FRIENDLY DOORセミナー」はサービスの趣旨に賛同してくださる不動産会社や不動産オーナーに、より理解を深めてもらうため不定期で開催しているものだ。

7回目となったセミナーでは、認定NPO法人抱樸(ほうぼく)の理事長 奥田知志さんを講師に迎え、生活困窮者の居住支援や国の制度についてお話しいただいた。
抱樸は1988年の活動開始以来、ホームレスの自立支援を中心にさまざまな生活困窮者と手を携えつつ、利益を生む社会支援事業を成立させてきた実績がある。

困窮者支援活動の現場から見る居住支援とは? 居住支援の課題

今回のテーマは、「生活困窮者の居住支援〜制度の活用法と空室対策〜」だ。
① 抱樸紹介
② 困窮者支援の現場から見た居住支援の課題
③ 知っておきたい制度・厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」
④ 知っておきたい制度・国土交通省「新たな住宅セーフティネット制度」
⑤ NPO 法人抱樸(ほうぼく)の居住支援の取組み
⑥ 全国居住支援法人協議会の取組み
という6章構成でセミナーは進められた。

まずは奥田さんが代表理事を務める抱樸のホームレス支援の活動の様子と理念が紹介からはじまった。

「居住」という言葉の説明のなかで奥田さんは、居住とは住宅(ハコ)のみを示すのではなく、人の営みも含めたものである、ということを強調していた。ただ住む場所を提供するだけでなく、居住支援には包括的な支援が必要であり、支援のイメージをどう捉えるかの大切なのだという。

その後は、居住支援の現状の問題や課題や省庁の管轄について、スライドを使用して説明された。
現在は「国土交通省」「厚生労働省」「法務省」の3省が居住支援のための協議会をつくっていて、そこに民間の団体が加わっている。

供給価格と生活支援を二次元的に表した中に、既存の住宅とさまざまな制度をあてはめていくと、すっぽりと抜けるゾーン(グレーの部分)が出てくる。現在はこの部分に該当する支援がなく、誰が担うかを話し合う必要がある、と奥田さんは問題を提議する。

引用:平成27年度社会福祉推進事業「これからの低所得者支援等のあり方に関する検討会」報告書(株式会社野村総合研究所)引用:平成27年度社会福祉推進事業「これからの低所得者支援等のあり方に関する検討会」報告書(株式会社野村総合研究所)
引用:平成27年度社会福祉推進事業「これからの低所得者支援等のあり方に関する検討会」報告書(株式会社野村総合研究所)引用:平成30年版厚生労働白書(厚生労働省)

3省庁の支援の状況について

厚生労働省では高齢者、障がい者、子育て世帯のような「対象者別」の支援。国土交通省は「ハード(建物)の供給」「連帯保証人の確保」「入居支援」などを主軸に施策を進めている。また、法務省は刑務所出所者への支援を担当している。複雑に絡み合う住まいの問題には多岐にわたる支援が必要で、包括的な支援が求められているのである。

住居の喪失は、「ハウスレス(経済的・物理的な困窮)」と「ホームレス(社会的孤立)」の異なる2つの問題が同時に起こる。それにより「生存的な危機(身を守る術を失う)」、「社会的危機(あらゆる行政的な手続きが困難、就職活動ができない等)」、「関係的危機(社会的孤立が進む)」という3つの危機に直面する可能性がある、と奥田さんは警笛を鳴らす。
しかし、住居を確保するだけでは孤立してしまい、孤独死に繋がることがあるという。賃貸物件における看取りの問題は、大家への課題になっている。

日本の孤立社会の要因のひとつとして、生活が困難になった人の面倒を見るのは、その人の家族が担うケースが多い。地域社会との関わりが少なくなり、非正規雇用が増え、個の余力が減ってきている。身内が支えられなくなったときに誰が支えるのかが、今日本が抱えている問題だと奥田さんは言う。
抱樸では、その家族の役割を団体が代わって担うことを「家族機能の社会化」と定義して、その実現を目指している。家族と制度の間をNPOがどう埋めるか、難しい問題だ。

知っておきたい国の制度➀ 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」

今回は多数参加する不動産オーナーに合わせ、2つの居住支援制度についての説明があった。

1つが、厚生労働省が管轄する生活困窮者自立支援制度。これは、賃借人が何らかの理由で賃料が払えなくなったときなどに、オーナーが相談できる制度だ。
制度の仕組みと内容についての詳細は、過去記事を参照していただきたい。

■生活が苦しい人を取り残さない社会へ。知っておきたい「生活困窮者自立支援制度」のこと

住宅確保給付金はこの制度の肝である。これまで年間約4,000件の申請数があった給付金の申請件数は近年右肩下がりになっていた。しかし、コロナ禍の2020年4月~2021年2月で12万8,193件に激増したそうだ。その期限が切れた後、家賃が払えず生活保護に切り替わる人が出てくると予想されている。
奥田さんは「生活保護では家賃額に上限があるため、現在住んでいる場所より給付される家賃額が低いと転居せざるを得なくなり、ホームレスが増えるのではないか」と懸念していた。

引用:平成30年版厚生労働白書(厚生労働省)引用:平成30年版厚生労働白書(厚生労働省)

知っておきたい国の制度➁ 国土交通省「新たな住宅セーフティネット制度」の紹介

次に紹介があったのは、国土交通省が管轄の新たな住宅セーフティネット制度だ。こちらも制度の詳細は過去記事で確認してただきたい。

■住まい探しが難しい人のための「住宅セーフティネット制度」とは何か

話の中で特に印象的だったのは、居住支援法人についての説明だった。
居住支援法人は、既に事業をしている株式会社やNPO等が新たに居住支援を行う団体としての認定を受けるものだ。本業にプラスして、登録住宅の入居者への家賃債務保証、住宅相談など賃貸住宅の入居情報の提供や相談業務、見守りなど要配慮者への生活支援のいずれかを担う。活動には国から1,000万円の支援金が出る制度もあるので、国交省の情報を確認しよう。

引用:新たな住宅セーフティネット制度について-制度の概要‐(国土交通省)引用:新たな住宅セーフティネット制度について-制度の概要‐(国土交通省)

持続可能な支援を行いながら団体運営費も賄う 抱樸の取り組み

ここまでは、生活困窮者を取り巻く現状の解説だった。では実際に抱樸がどんな活動に取り組んでいるのか、事業の一例を紹介いただいた。

抱樸のある北九州市は、政令指定都市において空き家率が全国ワースト2位だった。そこで50社以上の不動産会社と連携した「自立支援居宅協力者の会」を立ち上げ、空き物件とケースワークに対応した物件をマッチングし、抱樸と大家とで見守るという体制をつくりあげた。

さらに債務保証に関しても、債務保証会社との連携を開始している。債務不履行を防ぐために「生活支援見守り付き債務保証」という新しい債務商品を一緒に開発した。これは保証会社に初回家賃1ヵ月分+毎月収納する金額の1%の保証料に加えて、抱樸に毎月2,000円の生活支援費を支払うことによって入居審査で落とされない、というものだ。
「生活支援見守り付き」の名称の通り、抱樸が日常的な見守りや生活支援を行うことで、滞納事故や生活トラブルを未然に防ぐ機能を果たすことになり、家賃債務会社にとってもメリットがある。
また賃料を債務会社から大家に支払う代行収納であるため、家賃未納を防ぐことができる。賃借人が賃料を払えないと場合でも抱樸に情報が届き、支援がスムーズに進む仕組みになっている。

持続可能な支援を行いながら団体運営費も賄う 抱樸の取り組み

サブリース型日常生活支援付き居住・ごちゃまぜ型支援付き住宅「プラザ抱樸」の実践

不動産オーナーは空き家問題を抱え、債務保証会社は家賃滞納に悩み、抱樸は生活支援費用を当事者から受け取ることができないというように、それぞれ解決したい問題があった。
そこで抱樸は、11階建ての1Rマンションの全110室のうち100室を抱樸が借り上げ、生活支援付き住宅、地域交流サロン、障がい者向けのグループホーム、日常生活支援住居施設の運営を開始した。複数の施設が1つの建物に入ることで、複数名のスタッフが常駐しやすくなり、見守りを可能にしている。
「空き家の活用」「家族なき時代に生活支援を社会が担う」「国からの支援を得ずにサブリースの家賃の差益によって運営費を生み出す」という、三位一体の見事なビジネスモデルだという。

そして地域の人も参加できる互助会の役割についても語られた。互助会はスタッフの見守りだけでなく、活動を通じて社会的なつながりをもつことが目的としている。見守りやバス旅行など楽しいコミュニケーションを目的とした活動もあるが、最大の活動は入会者が亡くなった際に抱樸が主催者となって、互助会葬を執り行うことだろう。亡くなった後までを考えた見守りが必ずある環境を構築できていることにより「不動産オーナーからの入居拒否がなくなった」と奥田さんは話す。

持続可能な支援を行いながら団体運営費も賄う 抱樸の取り組み

参加者の関心の高さがうかがえる質疑応答

質疑応答にもたくさんの質問が寄せられた。
中でも興味深かったのは、「住宅確保要配慮者の要件にいくつも該当していて、困難な様子が容易に想像できる方に部屋を貸すスキームはあるか」という質問だ。複雑なバックグラウンドにどう対処するか、という事例に奥田さんは「抱樸がサブリースを始めたのは、こういった契約上の手間を省くためだったんです。サブリースとは実質オーナーになるということ。オーナーの了解を得たうえで、転貸物件として責任を負うのはNPOなんですね。空き家活用のサブリース・モデルは、社会的に大きな資源になるのではと考えています」と回答していた。
さらにはこうした取り組みに賛同するオーナーを増やすべく、補助金制度の確立などを国へ提言していると語る。社会資源を円滑に回す仕組みをいかにしてつくるか、奥田さんたちの奮闘の様子もうかがうことができたセミナーだった。

1時間にわたった講演は、実践した体験に基づいた内容だった。多岐にわたる抱樸の活動からは一貫して「共生の場をつくる」という意志が感じられた。奥田さんが「住居だけで困っている人はごく少数で、総合的な相談と地域の見守りが必要」と語っていたのが印象的でだった。
不動産を活用して適切に入居者を集め、利益を生みだしているという実例は、セミナーに参加したオーナーや不動産会社の方々を勇気づけたのではないだろうか。

お話を聞いた方

お話を聞いた方

奥田知志(おくだ・ともし)
1963年生まれ。関西学院大学、西南学院大学を修了、九州大学大学院にて博士課程後期単位取得。学生時代からホームレス支援や障がい者の自立生活のボランティアに携わり、2000年にNPO「北九州ホームレス支援機構」を発足。2014年に「抱樸(ほうぼく)」と改名。理事長として団体の運営や活動に尽力するほか、NPO法人ホームレス支援全国ネットワーク、生活困窮者自立支援全国ネットワーク、全国居住支援法人協議会などの代表も務め、国の審議会等においても重役を歴任する。また書籍の出版やメディア出演など、活動は多岐にわたる。

▼抱樸HP https://www.houboku.net/

※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2021年8月掲載当時のものです。

お話を聞いた方

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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