“家族を頼れない”若者が安心して住める家がない現実

“頼れる大人がいない” “家にいづらい”と感じる状態では、若者が安心して未来を考えることすら難しい(写真はイメージ)“頼れる大人がいない” “家にいづらい”と感じる状態では、若者が安心して未来を考えることすら難しい(写真はイメージ)

2023年にこども基本法が施行され、子どもの人権について改めて考えさせられるシーンが増えた方も多いのではないだろうか。
数多くある子どもたちをめぐる課題のなかでも、支援が特に難しいといわれているのが、10代後半から20代前半くらいで生きづらさを抱える青年層である“家族を頼れない若者”だ。

進学・就職など環境の変化が短期間に続くその年齢層にとって、ほっと安心して身を置ける“家庭”と、心を開いて悩みなどを相談できる“信頼できる身近な大人”の存在は欠かせない。しかし、虐待や複雑な家庭環境などさまざまな事情により家族を頼れない若者には、その2つの生きる基盤がない状態となってしまうのだ。
生活の基盤となる“住まい”が揺らいでいることから、社会的な孤立につながるケースも懸念されている。

子どもの居住に関する支援は、児童養護施設や里親制度等の公的なものはあるが、それぞれ15歳・18歳と年齢による制限があるのが実態だ。実社会においても、成人年齢を超えても親の保護が必要なシーンは多い。公的支援から外れる子どもや若者を支えようとする民間団体も増えつつあるものの、その実状はあまり伝えられていない。

家族を頼れない若者が直面する住まいを確保する難しさとは、どういったことなのか。どんな問題に直面しているのか。
今回、居場所のない若者の支援を行う、特定非営利活動法人サンカクシャ(以下、サンカクシャ)にて居住支援を担当する久保菜緒さんを交えて、当事者の二人から実体験を聞いた。

サンカクシャの久保さん。(過去に開催されたイベントの様子)サンカクシャの久保さん。(過去に開催されたイベントの様子)

【話を伺った方】
Aさん……10代後半、男性。長年、親戚宅を転々としていたなかで、2024年前半にサンカクシャの個室シェルターへ入居。その後、生活保護を利用して一人暮らしを開始し、現在は在住する自治体の就労支援を受けながら就職を目指している。
Bさん……20代前半、学生。家族との軋轢(あつれき)があり実家へ身を寄せられず、友人宅を泊まり歩いていたところ、2023年12月にサンカクシャの個室シェルターへ。数ヶ月間一人暮らしをしたのち、民間のシェアハウスへ半年間入居。
久保菜緒(くぼ・なお)……特定非営利活動法人サンカクシャ 居住支援事業マネージャー。団体が所有するシェルターとシェアハウスの運営、自立生活のための一般賃貸契約の支援などを行う。

暮らしを変えたのは“チラシ”と“口コミ”。アナログでつながった支援

サンカクシャでは、安定して住む場所がない若者のための個室シェルターとシェアハウスを運営しているサンカクシャでは、安定して住む場所がない若者のための個室シェルターとシェアハウスを運営している

サンカクシャの支援を得て、苦しい状況を変えることができたAさんとBさん。それぞれ異なる境遇だが、どうサンカクシャの支援につながったのだろうか。そのきっかけを聞いた。

Aさん「当時自宅にいづらく、家主である親族からも早く家を出るよう言われていて、住む場所を探していました。役所の掲示板に貼られていた困り事の支援をしている民間団体のポスターを偶然見かけて、そこへ行ったのがきっかけです。その団体の方から、『若者のことなら』とサンカクシャを紹介されて、相談にのってもらいました」

Bさん「似たような境遇の友達の部屋に間借りをしていた際、彼女が若者を支援する団体にとても詳しくて、サンカクシャを勧められました。webで検索して活動を知り、LINEかなにかでコンタクトを取って、住まいと仕事探しの支援をしてもらうことになりました」

サンカクシャでは、親を頼れない若者の居住支援を行うため、「サンカクハウス」を運営している。サンカクハウスは、7室の「個室シェルター」と13室の「シェアハウス」からなる居住施設。「住まいが欲しい」と希望していた二人は、久保さんと面談し、その緊急性とバックグラウンドから個室シェルターへと入居することになった。

スピード感のある対応で、即入居した個室シェルター。がらりと生活スタイルや状況が変わったと思われるが、その印象を尋ねた。

Aさん「これまでいつも誰かが家にいる環境だったので、一人になり寂しさもありました。けれど、安堵しましたね。スマホで動画を見るときも気を使っていましたから、気兼ねなく音が出せるようになったのはうれしかったです」

Bさん「それまで友人宅を転々とする生活だったので、衣食住が担保されて安心しました。実家にいた頃も自分で家事をせざるを得なかったため、負担が自分の分だけになったなぁと思ったくらいです。ただ、お金の心配はずっとありました」

シェルターから一般賃貸へ。Aさん「審査に落ち続けて気持ちが落ち込んだ」

まずは厳しい状況下から逃れ、シェルターを拠点にこの先の道筋を整えていくことになったAさん。生活保護を利用して新たな暮らしを始めようとするが物件探しの壁にぶつかる(写真はイメージ)
まずは厳しい状況下から逃れ、シェルターを拠点にこの先の道筋を整えていくことになったAさん。生活保護を利用して新たな暮らしを始めようとするが物件探しの壁にぶつかる(写真はイメージ)

Aさんは生活を立て直すにあたり、当時住民票のあった自治体で扶養照会をせずに生活保護申請を行い、無事受理された。しかし、対応した職員から「同じ自治体内で住み続けると身元が親族に知られる可能性がある」と別地への転居を勧められ、自治体外への転居を決行。サンカクシャスタッフにゆかりのある土地へと居を変えることとなった。
サンカクシャのスタッフが同行し、地元の不動産会社2社の協力を得て、物件を探したというAさん。だが、契約に至るまでにはさまざまな困難に見舞われたそうだ。

Aさん「まず、生活保護で入れる物件がありませんでした。なんとか見つかっても、和室、風呂なしといった、あまり住みたいとは思えない物件ばかりで…」

たとえば東京都が23区内に住む単身の生活保護利用者に支給する住宅扶助費は、5万3,700円だ。その金額内で収まる物件を探さなければならないが、家賃が高騰する昨今。23区の1Kの家賃の平均は10万3013円(※)と算出されているうえ、右肩上がりだ。相当に厳しい条件であるだけでなく、10代の若者が住みやすい環境と乖離していることは想像に難くない。

Aさん「それでも10件以上内見をして、ここならという物件を見つけたのですが、申し込みや入居審査、家賃債務保証会社の審査がすんなりとは通らず、何度も落ちてしまいました。立て続けに審査落ちの連絡がきたときには、かなり落ち込みましたね」

初めての転居、しかも自身が契約主となる部屋探し。サポートがあるとはいえ、不慣れな手続きに神経をすり減らしたにもかかわらず残念な結果が続いたことは、10代の少年にとって厳しい出来事だったはずだ。

久保さん「生活保護は制度的には10代でも受けられますが、Aさんの場合は“10代・生活保護・親が保証人ではない”というまれなケースではあるので、審査が通りづらかったのだと思います。部屋探しや審査での応答も初めての体験なので、スタッフと審査の受け答えの練習も繰り返し行っていました。無事審査が通ったときは、私たちも安堵しましたね。Aさんは本当によく頑張ってくれました」

※LIFULL HOME'Sマーケットレポート2024年8月版(https://lifull.com/news/37547/)より。

Bさん「緊急連絡先が親ではないことで、審査結果をずっと待たされた」

保証人を立てることは家賃保証会社を利用することで代替できるが、緊急連絡先の記入には直系の親族を求められることが多い(写真はイメージ)
保証人を立てることは家賃保証会社を利用することで代替できるが、緊急連絡先の記入には直系の親族を求められることが多い(写真はイメージ)

友人宅を転々とし、明日どこに行こうか、お金をどうしようと心身ともに疲労する日々から、シェルターに入居して脱却できたBさん。
シェルターの入居期限である3ヶ月が迫ったことから、一般賃貸へ住まいを移すことを決意し、部屋探しを始めた。自身の状況を鑑みて、いつでも退去できるようシェアハウスを軸に物件を当たり、敷金・礼金がない個室タイプの一室を借りる運びとなった。
入居費用はアルバイトで蓄えてきた貯金から捻出したという。

Bさん「物件を探すのも手当たり次第で苦労はしたのですが、私の場合は契約がネックでした。親を緊急連絡先にできないことから、契約を進めるのが大変で。何とか1件、いい物件を見つけて申し込みをしたのですが、貸主である運営会社から『緊急連絡先が親でないという前例がない』と2週間回答を待たされてしまったのです。賃貸契約を結ぶ期日が近づいてしまって、『入れなくなるかもしれない』と心細かったです」

緊急連絡先とは、火災や地震発生時の安否確認や階下への水漏れといった、何らかの緊急の要件があった際、本人に連絡がつかない場合に連絡する先のこと。“連絡のつく親等の近い個人”の提出を求められる場面が多い。
自身に害が及ぶ家庭環境から距離を置きたい子どもや若者にとって、緊急連絡先を頼むというコンタクトを取ることはもとより、状況によっては居場所がわかってしまうリスクになりかねない。

久保さん「最終的に、サンカクシャのスタッフが緊急連絡先になり、契約を進めることができました。こうした事例は少なくありません。親や家族に居所を知られてはならない子たちのため、スタッフが複数の若者の緊急連絡先を引き受けている、という現状もあります」

また、この経験を経て、自身の心境にも変化が起こったと、Bさんは語る。

Bさん「シェルターでお世話になるまで、“人を頼る・人を信用する”という発想がまったくありませんでした。シェルター入居後、誰かに『助けて』と言えるようになったり、自分のことを気にかけている人の厚意をキャッチしたりできるようになった気がします」

「家にいたくない」「家から出たい」住む場所を求める若者に、二人からのアドバイス

家庭に居場所がなく、繁華街を徘徊して夜をしのぐ若者が、トラブルや事件に巻き込まれることも少なくない。そういった若者にこそ、心身ともに安らかな暮らしが必要だ(写真はイメージ)家庭に居場所がなく、繁華街を徘徊して夜をしのぐ若者が、トラブルや事件に巻き込まれることも少なくない。そういった若者にこそ、心身ともに安らかな暮らしが必要だ(写真はイメージ)

初めての部屋探しを乗り越え、なんとか新居を得た二人。引越した直後の気分を聞いた。

Aさん「幸運にも希望条件に合う部屋が見つかり、すごく安心しました。部屋がきれいで、日当たりもよく、ずっと住んでいたいと思っています」

Bさん「『俺の城!』って感じでしたね(笑) 。自分の名前で借りられて、自由にシャワーも使えましたし」

言葉は違えど、二人の感想からは長年心をむしばんでいた不安感から解放された様子が伝わってくる。
完全な一人暮らしを始めて、大変だと感じることについて尋ねると、Aさんは「電気を使いすぎないなど、節制を意識しています」、Bさんは「家賃を払い続けていけるか常に不安でした」との返答。経済的な心許なさを実感しつつも、“心落ち着ける暮らし”を自力で維持しようとする二人の実直さが表れていた。

インタビューの最後に、家族を頼れない、自分たちと似た境遇の人たちへエールをお願いした。

Aさん「頼れる大人を探すことが大切だなと感じています。私の場合、サンカクシャにつながる前、『この人になら頼れるかも』と思える大人がいるにはいたのですが、その人に迷惑がかかるのではと遠慮してしまい、ストレスを抱える状況が続いていました。サンカクシャを訪れて以降、いつでも相談できるスタッフさんがいるうれしさを感じています。頼れる大人を探して、頼ってみたらいいと思います」

Bさん「メンタルセット面で私が実用的だと感じるのは、“助かる気がないと、助けてもらえない”ということです。行政に限らず、支援をしている人に『助けて』と言えないと、生き延びられないのが現状だと思います。信頼できる大人を見つけるのは大変でしょうが、そう思えた大人の言うことを聞く、これが大事ですね」

家族を頼れない、そして大人に頼ることのできない若者たちは、なぜ困窮した状況に陥ってしまうのか。その背景には、既存のセーフティネットではフォローしきれない課題があると、久保さんは語る。

久保さん「二人は一人暮らしをする前に生活力が鍛えられていた、レアケースだといえます。炊事洗濯ができない子も一定数いて、そういった子は生活を維持すること自体が大変だったりします。
家探しにしても、知識や経験がまったくありませんし、学生だと生活保護の利用もできず、金銭的な面でも困難が伴います。そんななかで『家にいられないからどうにかしたい』という状態から始める、いわばゼロスタートです。そのうえライフラインへの支払いも含めた“自室を借りて住み続ける”ことへのイメージもないので、苦労する場合が多いですね。
家族に頼れない若者は、親御さんが抱える問題、若者自身の精神疾患の問題、経済的な問題など、総合的な問題が複雑に絡み合っているのに、年齢でまとめられているから問題の解決が進まないのかなと感じています」

さらに支援をするなかで、若者の貧困の問題にも触れていた。

久保さん「また、病気やケガで病院へかかる必要があっても、お金がなくて病院に行けなくて負のループに陥る子もよく見かけます。こうした境遇の若者たちの事情をくんで、医療費の免除や緩和が適応されてほしいですね」

勇気を出して、頼れる大人に相談を

子どもたちが信頼できる大人――どういった点で見極めるかと尋ねたところ「話を聞いてくれる人ですね」とBさんは語っていた(写真はイメージ)子どもたちが信頼できる大人――どういった点で見極めるかと尋ねたところ「話を聞いてくれる人ですね」とBさんは語っていた(写真はイメージ)

インタビューの最後に、これからどんなことをしてみたいかを尋ねたところ、Aさんは「テレビを買ってニュースを見たりしてみたい」、Bさんは「将来自立するつもりで、大学の就労支援を受けつつ就職活動を始めました」と、それぞれ希望に満ちた様子で話をしてくれたのが印象的だった。

二人がしてくれた“信頼できる大人を探して頼って”というアドバイスに、「現場で接していると、大人に頼る発想がそもそもない子が多いですね」と久保さんは語る。
“大人を頼れない” “頼ろうという意識がない”といった言葉からは、成長の過程で心が摩耗されて生まれた学習性無力感の強さがうかがえる。

住まいには、自分を取り戻す場所としての役割があり、そこに年齢の差はないはずだ。身近な大人を頼れない若者にこそ門戸が広がってほしいと願うばかりである。


■取材協力:特定非営利活動法人サンカクシャ
https://www.sankakusha.or.jp/

勇気を出して、頼れる大人に相談を

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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