中高の6年間で中国地方の道の駅102ケ所をコンプリートした女子大生
いまやクルマの旅や地域発信のビジネスに欠かせないのが道の駅である。
利用者数は年間延べ2億人にのぼるという。道の駅は当初、利便施設という色合いが濃かったが、昨今は地域資源と利用者が出合う旅の目的地として、また地方創生の実験場として大いに注目されている。
一方で道の駅によってはつくることを優先し、細かいレギュレーション設定をできるだけ控えた結果、人気の道の駅とそうでない道の駅では大きな差がついているのは間違いない。
長年、国土交通省の道路畑で活躍し、道の駅の発展に尽力した森山誠二氏(一般財団法人日本みち研究所専務理事)は「道の駅は道路標識に表示される公共施設であり、ドライブインなどとは異なる。最近は設置者が指定管理者に運営を丸投げしてしまい、運営費の安さやややもすれば儲かる、という視点にとらわれているケースもある。設置者が責任をもって公的な役割の原点に戻るべきだ」と語る。
そもそも「道の駅」というアイディアは、実は広島で開催されたイベントから生まれたと言っても過言ではない。1990年に広島で開かれた「中国地域づくり交流会シンポジウム」で、山口県の船形総合農場グループ代表の坂本多旦氏は「道路にも、鉄道の駅のようにトイレがある駅があっても良いのではないか」と述べ、この発言が口火となり、出席者からは地元産の野菜や干物も販売したらどうか、など発言が相次いだという(参考:2022年10月31日付『日本経済新聞』 より)。
さて、広島の安田女子大学現代ビジネス学部公共経営学科で教鞭をとっていた際に出会ったのが「私、中国地方の道の駅に全部行きました」という学生・森本心咲さんである。
行政や公益に関係する仕事に就きたい、と入学した森本さんだが、このコンプリートへの道はそういう目線ではなく、家族の提案がきっかけという。そのきっかけは、旅行好きな叔父さんの「よく旅行に行くんじゃけぇ、道の駅の記念にスタンプを集めてみたら?」という言葉が当時(2016年)中学1年生だった彼女の心に刺さったのだという。実は「道の駅」という言葉を聞いたのも初めてだったものの、スタンプ冊子にスタンプを集めていくという楽しさも含めて非常に興味を持ち、家族ぐるみの巡礼が始まった。
中国地方には道の駅が102ケ所あり(鳥取県13ケ所、島根県29ケ所、岡山県14ケ所、広島県23ケ所、山口県23ケ所)、今回は載っていないが、彼女が人生で初めて訪れた道の駅は山口県にある「願成就温泉」だったのだとか。ここで道の駅巡りの冊子を購入し、道の駅巡りがスタートしたそうだ。今、中国地方で地域おこしに携わりたいと考えているのも道の駅巡礼がきっかけである。
ここでは、森本さんが中国地方5県から厳選した「県を代表するグルメな道の駅」をお伝えする。
道の駅広島県代表は、道の駅なのに酒蔵。「西条のん太の酒蔵」
「西条のん太の酒蔵」という道の駅は国内でも数少ない「酒」を前面に出した道の駅だ。東広島市西条は吟醸酒のふるさとであり、中心部にある「西条酒蔵通り」は、1キロ圏内に7つの酒蔵が集中している。その魅力を1ケ所に凝縮したのが「西条のん太の酒蔵」なのである。
「のん太は、京都の伏見、兵庫の灘と並ぶ『日本三大酒どころ東広島』をPRするキャラクターです。西条酒蔵通りの賀茂泉、賀茂鶴、亀齢、西條鶴、山陽鶴、福美人、白牡丹が入手できるほか、ジビエや野菜など、東広島のすべてが凝縮されています。
こちらのもうひとつのポイントは、広島県で初めての防災道の駅である、ということ。2023年3月にオープンした東広島・安芸バイパスにあるため、ドライブの最中に寄りやすいだけでなく、大規模災害時にはここが警察や自衛隊、消防の救援部隊の集結拠点として活用されるのです。このため、駐車場が広く、トイレも防災仕様です。
その他の施設・イベントも充実していて、私が一番お勧めしたいのは、こどもひろば『のん太のあそびの森』です。木がふんだんに使われた広いスペースで子供がのびのび遊べます。親もフードコート、通路、レストランの3方向から見守ることが可能です。もちろん、電気自動車の充電場所の確保や、ドッグラン、24時間利用可能なコインシャワー・バリアフリー&子供用設備を完備したトイレなど、文句無しの造りです。
また、多目的展示室を活用して多くのイベントが行われます。子育てサークルと連携した体験講座や各種ワークショップや作品の展示やトークイベントなどが開かれています」
道の駅岡山県代表は、果物王国×広大な花畑×鮮魚の魅力「笠岡ベイファーム」
岡山県の西端に位置する笠岡。
瀬戸内は笠岡湾のカブトガニが生息する。生息地である神島と西大島の海域は国の天然記念物に指定され、干潟が広がっている。そのお隣、カブト南町に笠岡ベイファームがある。
「笠岡ベイファームでは場所柄、道の駅のなかでも新鮮な魚が多く取り揃えており、笠岡名物のシャコをはじめとする海の幸や地元産の野菜など味わえます。地元の人ははさみを使って器用にシャコを食べますが、さばいてくるメニューがおすすめです。冬は牡蠣が名物で、イベントもあります。
『笠岡ベイファーム名物ちーいか天ぷら』は年中食べられるグルメで、揚げたてで、ほくほく!忘れられない一品です。食べないと損ですよ。笠岡名物のカブトガニは食べられませんが、かふとがにまんじゅうの見た目はカブトガニそのままで、大人気です。そして、私がおすすめする魅力は四季折々のお花畑です!春は菜の花×ミツバチ(気をつけてください)。夏はひまわり×真夏の太陽。秋はコスモス×秋風。冬は準備期間ということで寂しくなりますが、イチゴの季節でもあります。
個人的にはイチゴフェアが開催される2月の毎週土・日あるいは祝日に行くことをお勧めします!新鮮な魚に美味しい果物に加えて、隣の広場にはキッチンカーもきて大賑わいしています。
ただし1つだけ注意点があります。最高の思い出となるために、花の開花情報をチェックしてから行きましょう」
岡山県内の道の駅で常に来場者数トップ争いを繰り広げている言わずと知れた人気スポット。
特にシャコが丸ごとのったシャコ真丈は衝撃の逸品である。イベント時には、笠岡市が誇るキャラ、カブニ君・カブ海ちゃんにも会えるかも。
道の駅山口県代表は、手ぶらでバーベキュー。長門の海の幸を食べに行こう。「センザキッチン」
山口といえば下関のフグを思い出す方が多いのではないだろうか。そのフグを格安で味わえる道の駅がある。「センザキッチン」の名物は道の駅の商品を何でも焼けるグリルハウスだが、実は隠れた人気が仙崎産のトラフグなのである。
「センザキッチンは山口県内で最新の道の駅だけに、施設はピカピカで、海もきれい。何より野菜に魚に、すべてが新鮮です。そして、誰もがハマり、イチ押しの施設がグリルハウスです。ステップ1 まずは受付!ステップ2 道の駅店内で新鮮な食材を購入する!(途中で買い足しも可能)ステップ3 買った食材を持ち、グリルハウスへ!ここで料金を支払う(1人200円!)。なんと、ここにガス代や食器代がすべて含まれています。ステップ4 食事開始!制限時間は90分!お店の人が教えてくれるのでバーベキュー初心者でも簡単にできます。そして、焼くだけではなく、地元産の新鮮な刺身も併せていただきましょう」
「ふと外を見ると、限りなく青い日本海をバックに海上保安庁の巡視船の雄姿が見られるのもセンザキッチンの魅力です。
ご飯を食べた後は同じ敷地内にある「長門おもちゃ美術館」へ。入った瞬間に木の落ち着くにおいに囲まれ、大人から子供まで見て触って楽しめられる体験型美術館です」
仙崎といえば金子みすゞ。その代表作「大漁」は仙崎漁港に水揚げされた鰯な着想したものとされる。ぜひ、記念館記念館になっている生家にも立ち寄りたい。
道の駅鳥取県代表は、まるで中国へ旅行気分「中国庭園燕趙園」
鳥取というとカニと梨、そして砂丘というイメージだが、県西部に忽然と姿を現す中華建築が道の駅中国庭園燕趙園である。
鳥取県の友好州(姉妹都市)であると中国河北省との友好のシンボルとして、1995年に鳥取県が25億円をかけて建設した。名称はは河北省にあった戦国七雄の「燕」と「趙」にちなんだもの。東郷湖を借景とする総面積約1万m²の庭園である。
「行くなら中国の正月である2月がおすすめです。毎年行われる春節祭ではアクセサリー作りのワークショップも楽しめます。近くには『鳥取二十世紀梨記念館』の観光スポットがあるため、鳥取県産の二十世紀梨をふんだんに使った梨ソフトクリームが食べられます。また、燕趙園すぐそばには『ゆアシス東郷龍鳳閣』という温泉施設や本格的な中華料理が食べられるレストラン『豊味園』があります。
道の駅は入場無料ですが、庭園は入園料がかかり、大人500円、小中学生は200円で中国の風景・景色を楽しむことができます。
そして、何といってもここの魅力は、本場中国雑技ショーが毎日3回公演されていること(※開催時間①9:30~、②13:30~、③15:00~ 各回とも約25分)入園料だけでこのショーも見ることができます。中国の伝統芸能一瞬で面を変える“変面”の仕組みは国家秘密というのを知っていましたか?これは見ないと損ですね。
またチャイナドレスのレンタル(大人500円、小人300円)や中国アクセサリーや飾りが作れるワークショップ(有料)が開催されたり、中国文化(太極拳)や中国の楽器が弾ける体験が無料で学べたりできます」
「中国の歴代皇帝が造り親しんだ皇家園林方式の庭園」「設計、資材の調達、加工まですべて中国で行った」というのが県庁のこだわりポイントだが、山陰の風土に合わず当初は破損が相次ぐなど公共事業としての話題に事欠かない施設。ぜひ、帰りには近隣の温泉にも立ち寄りたい。
道の駅島根県代表は、夕日だけじゃない。泊まれる道の駅「キララ多伎」
島根というと、出雲大社と宍道湖グルメの印象が強い。しかし、島根を知らない多くの人々が見落としているのが海の魅力である。特に、春から秋にかけての日本海の美しさはぜひ、一度体験していただきたい。
「キララ多岐は夏がベストシーズンです。キララビーチとコテージで最高のひとときが過ごせます。海だけでなく、出雲大社・石見銀山などの歴史観光スポットもあり、充実の休日になるのではないでしょうか。
道の駅の魅力の1つとして地域を活かした特産品が詰まっていることが挙げられますが、多伎といえば、イチジクが有名です。通常のイチジクと比べて多伎町特産の『多伎イチジク』にはミネラルが豊富に入っています。ちなみに、キララの人気商品ベスト1位と3位はイチジクの商品でした。特に1位の干しイチジクは『フランスヴェゼノーブルイチジク収穫祭 最優秀賞』を受賞しています。
ここまでイチジクの話でいっぱいですが、皆さんに知っていただきたいのは、何といってもキララの海と夕日です。キララ多伎には大きな赤煉瓦の建物の裏側にビーチが隣接しています。また道の駅から400メートル離れた場所には『見晴らしの丘公園キララコテージ』からは日本海を一望できる景色で泊まることも可能です。
花火をしたり、スイカ割りをしたりと夏の思い出と共に、綺麗な日本海&夕日が見られること間違いなしでしょう。多伎町特産物のコーナーやお土産コーナーにキララベーカリ、新鮮な海鮮丼も食べられるフードコートのような場所にコテージなど、たくさんの魅力があります」
道の駅は、地域の魅力の詰まった場所であると同時に、人々を元気にさせる力がある
「道の駅には、その地域の魅力がたくさん詰まっている場所であると同時に、人々を元気にさせる力があるものだと私は思います。もっと道の駅について知ってほしい、道の駅だけではなくそこから地域の有名な特産物を始め、その土地の人のやさしさや温かさについても知ってほしい。という思いを込めて選びました」という森本さん。
「運転をしてくれた父をはじめとする家族、何より、道の駅という存在を教えてくれた叔父に“ありがとう”と心から思っています」
森本さんのチョイスをもとに中国地方の道の駅の魅力をお伝えしてきたが、この5カ所以外にも、中国地方には魅力的な道の駅が目白押しである。これらの道の駅を目指して中国地方を旅してはどうだろうか。
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