離婚経験者に聞く、ひとり親の住まい探し
末長く添い遂げようと努力した末にする「離婚」という決断は、あまりにも重いものだ。特に子どもが小さい場合は成長を鑑みて「離婚をしたいけれどできない」と、二の足を踏む方もいるのではないだろうか。
子連れ離婚をするとどんな問題に直面するのか、子どもにどんな影響があるか、住まいやお金のことなど当事者には聞きづらい話題だ。そんなひとり親の住まいについてヒアリング先を探す中、「今、離婚を考えている、もしくは離婚したばかりのママたちへ、自分たちの体験を伝えたい!」という2名の離婚経験者による座談会式のインタビューが叶った。それぞれ状況の異なる子連れ離婚経験者のリアルな声をお届けする。
【参加者】
Kさん……宮城県出身。仙台で結婚・出産を経て、専業主婦となり元夫の転勤に帯同するかたちで東京へ。移住後、夫婦仲の悪化が原因で元夫が突然家を出て行方不明になる。1年間の調停ののち、離婚が成立(当時子どもは2歳)。現在は都内インターナショナルスクールに勤めながら、子どもと2人暮らしをしている。
Tさん……福島県出身。都内不動産情報会社に正社員として勤務。結婚・出産後、夫婦仲の悪化が原因で別居に至った(当時子どもは5歳)。協議の末、離婚が成立した。現在は再婚し、夫と子どもの3人暮らし。
龔 軼群(キョウ イグン)……上海生まれ。LIFULL HOME’S事業本部PP1部賃貸UA推進ユニットUA推進2グループ長。LIFULL HOME'Sが行うさまざまなバックグラウンドの人と不動産会社をつなぐプロジェクト「FRIENDLY DOOR」の事業責任者であり、LIFULL ACTION FOR ALL noteのコンテンツプロデューサー。認定NPO法人Living in Peaceの代表理事も務める。
山本 順子……栃木県出身。株式会社LIFULL地方創生推進部FaMグループ所属のライター。LIFULL ACTION FOR ALL noteのライティング担当。都内で夫と子どもの3人暮らし。
離婚後の新居探しはどんなことが大変だった?
――離婚を決めてから生活を再建していくうえで、住まいが欠かせないわけですが、お部屋探しの際にどんな困りごとがありましたか?
Tさん:私の場合、まず別居をするための部屋探しをしたんですが、不動産会社に行くと「家族構成は?」「住み替えの理由は?」など、いろいろと聞かれました。そこで別居をする旨を話すと、今度は「どうやって家賃を払っていくのか」「仕事は何をしているのか」など、一人暮らしのときは聞かれなかったことを根掘り葉掘り聞かれたことに違和感がありましたね。
ほかにも、管理会社によっては子どもの性別や年齢を気にされました。「男の子はうるさいからダメ」「5歳以下の子はうるさいからダメ」などと言われたり、管理会社に内見を3回すっぽかされたりしたこともありました。家族や単身で住み替えしたときには経験しなかったことなので、びっくりしましたね。
Kさん:確かに。私も細かく聞かれるなぁという印象はありましたね。私の場合、3社の不動産会社にお世話になりました。最初に不動産会社に来店したときはまだ仕事が決まっていなかったので、お部屋探し自体が賭けみたいな感じでしたし、難航しましたね。給料が安定して入るか分からないけれど、住む場所は探さないといけないという状況で、いいお部屋はあっても先に進めなくて…。
ただ、3社とも理解のある不動産会社だったのか、「シングルマザーだから難しい」とは言われませんでした。「ひとり親で生活保護を受けることになっても、安定した収入があれば問題ないよ」と前向きな言葉をかけてくださったんです。最終的には、3番目に行った不動産会社で直接管理している物件を契約することができ、今も住んでいます。
――Kさんはいいご縁があってラッキーでしたね。
Kさん:ええ、本当に。ただ、私の場合は部屋探しと同時に、仕事と保育園も探さないといけなかったので、それも大変でした。
一同:(嘆く)
Kさん:保育園は求職中でも申込みはできるのですが、そうすると保育園入所のための点数計算が低いんですよね。仕事先には「預け先が決まってないとちょっと…」などと言われるので、どちらも同時に必要なことなのに、どうしたらいいんだろう…と悩んでしまいました。
Tさん:分かります!
Kさん:当時私は、書類上は「3人暮らしの専業主婦」だったんです。これもまた低めに点数を計算されてしまうので、直接窓口で実情を訴えました。おかげで保育園は決まったんですが、保育料が元夫の収入額で決まることにびっくりしました。
Tさん:びっくりしますよね!離婚は、することを決めていても書類上で成立するまでに半年~1年ぐらいかかるんですよ。行政から見える家族のカタチと実情は、だいぶかけ離れていると感じます。保育料の算出は夫の収入も含めて計算されるし、児童手当も夫の口座に入ります。私も区役所へ行って直談判しました。
住まいに関しても賭けです。新居を決めても、本当にそのエリアの保育園に入れるか分からないです。私は部屋と保育園を同時に探していたのですが、23区の場合は通園に区をまたぐと各種申請が大変なんです。なので、保育園の定員に余裕がありそうな場所に絞って部屋を探しました。
――今まで住んでいた所から心機一転「離れた場所で暮らしたい」を叶えるのも、難しいことなんですね。
Kさん:ほかにも元夫が出て行ってしまった際、行政の支援を受けようと思っても、書類上は離婚していないので頼れなくて困ったことがありました。行政が運営する母子生活支援施設(※)に入居できたらと思って窓口の方に連絡を取ったら、「まだ離婚していないし、旦那さんは会社員ですし、なんとかできませんか?」と施設の方から言われて、振り出しに戻されたんです。私のケースは、ということかもしれませんが、それでも悲しかったです。
※母子生活支援施設…母子家庭に準じる家庭の女性が自立生活を目指すため、18歳未満の子どもと一緒に利用できる施設。全国に221ヶ所あり、約6割が地方自治体で運営されている。
力になった、頼りになった人は?
――離婚に際して、頼りになった人はいましたか?
Kさん:私は法テラスを介して知り合った弁護士です。法律に関係ないところまで相談にのってくれましたし、自分では導き出せないような解決方法を提案してくれたので助かりました。今では友達から離婚の相談を時々されるんですが、その際は「弁護士に相談したほうがいいよ!」と伝えるようにしています。
Tさん:私も弁護士にお世話になりました。離婚に関して悩んでいたとき、当時の上司に相談して離婚に強い弁護士を紹介してもらいました。書類のことなどいろいろ教えてもらえて、とても心強かったですね。そのほか、私も法テラスを利用しました。保育園については地域の子育て課を頼りました。
Kさん:私も、弁護士にお願いする前に行政へ相談に行っていました。まず区役所へ行って、困っていることを全部受付で話して、相談の窓口を紹介してもらいました。区が行っている無料の弁護士相談、法テラス、それと当時仕事が決まっていなかったので子育て支援センターにも行きました。子育て支援センターには子どもを連れて行けたため、遊ばせながら相談にのってもらいましたね。困っていたときは、手あたり次第にいろんな人に相談していました。そこでいろいろ情報を集めて、最終的に弁護士にお願いした、という流れでした。
気になるお金のこと。どう工面した?
――弁護士にお願いしつつ、引越しや入居費用もとなると、かなりお金がかかりますよね。金銭面、どう乗り切りましたか?
Tさん:独身のときから貯めていた貯金をすべて使い切りました。離婚が決まってから入るお金…たとえば前夫からの養育費は、振り込まれるまで時間がかかるので、しばらくは貯金を切り崩していました。そうした貯金がない場合でも行政で貸してくれるところはあるのかもしれませんが、元手がなかったらと思うと不安でしたね。
Kさん:私の場合、家賃は支払いが夫の口座のままだったので何とかなったんですが、生活費の工面のために自分の貯金を切り崩していました。それでも足りなくて、子どもの口座から下ろさなくてはいけなくなったのは、さすがにつらかったです。あとは、実家の母から少し援助があったので助かりましたね。弁護士を通じて困窮度合いを訴えて、元夫から生活費を調達したこともありました。
Tさん:給付金に関して、シングルマザーのすべてが対象になるというわけではないことも実感しましたね。私は職に就いていて受給対象のラインをギリギリ超えた収入があったため、対象から外れてしまいました。確かに専業主婦で離婚した人は経済的に大変だろうと思いましたが、そうでない人も含めて幅広く支援をしてもらえたら嬉しいなと感じました。
――Kさんはご実家からの援助があったとのことですが、地元に戻るという選択肢はありませんでしたか?
Kさん:父からは「帰ってくれば? 孫たちのパパになるよ」と言われてありがたかったです。でも子どもにアレルギーがあることも考えると、実家で子育てするほうが大変そうだったので、友人知人も多く、慣れ親しんだ東京に住み続けることを選択しました。
Tさん:私も帰ってくるよう、かなり強くすすめられました。資格を取ったらと、地元の看護学校の資料を渡されたりもしました。確かにありがたかったですけれど、自分が積んできたキャリアや自分たちらしい生活をしようという思いから、東京に残ろうと決めましたね。
子どもの反応は?
――お子さんたちについてお聞きします。それまで一緒だった父親と離れて暮らすことに際して、子どもたちとの向き合い方はどうしていましたか?
Tさん:うちはそのとき5歳を過ぎていたので、いろいろ分かっていた分、大変でした。それまで3人で住める広さの家に住んでいたけれど、2人暮らしでは当然住居のスペックが落ちるわけで。そこで「前のおうちがよかった」「パパがいたほうがよかった」などと、かなり言われてつらかったです。めまぐるしく生活環境が変わったことで子どももストレスがたまっていたんだなと、今となっては思います。
そうした言動にうまく対応できていたといえる自信はないです。ただその当時は、自分の気持ちに余裕がないと子どもにやさしく接することはできないと思い、「自分もあんまり頑張りすぎないようにしよう」と決めて、外食に頼るなど工夫をしていました。
――Kさんの場合は、お子さんがまだ小さい頃でしたよね。
Kさん:そうですね。なので、パパがいなくなったことを認識してはいなかったみたいです。ただ、夫が家を出ていく直前は夫婦で喧嘩ばかりしていたので、出て行ったあとはお金や将来の心配はあったのですが、子どもと2人でいられることが楽しすぎて笑顔が増えたんです。子どももイキイキしはじめました。それまで家の中の雰囲気が殺伐としていた分、家がすごく安らげる場所になりましたね。
引越しに関しては、私も前の家より狭くなってしまったので申し訳なさはありました。でも部屋に引越し先の設備が新しかったので「前のおうちよりあったかいね!」などと、新居のいいポイントを共有して、前向きな印象を植え付けるようにしました。そのかいあってか、子どもは前の家よりいいところを見つけて今でも喜んでいます。
――保育園には問題なく通えていましたか?
Tさん:保育園が途中で変わってしまったので「行きたくない!」と言われたことはありましたね。自分も仕事をしているから、保育園に行ってもらわないと困るので、毎朝親子でバトルしていました。今では当時のことを振り返って、「ママと2人のときも楽しかった」と言ってくれたりします。
Kさん:うちの場合は、働き始めるのに伴って保育園に行き始めたという環境の変化はありました。別れ際に泣かれて、後ろ髪を引かれる思いで仕事に行く日もありましたが、最終的には保育園をとても楽しんでいました。今では通わせてよかったなと思っています。
――なるほど。お二方とも、離婚による子どもの心的ストレスなどにはそこまで悩むことはなかったのですね。
Kさん:はい。むしろ、とてもいいことが1つありました。私がフルタイム勤務になって、子どもの保育時間が長くなったときのことです。さらなる生活の変化を心配していたのですが、子どもが「ママおしごとがんばってるから、わたしもがんばる」と言っていたと、保育園の先生が伝えてくださったのです。私が離婚という選択をしたことで、子どももたくましく育っているなと感じましたね。離婚は大変なことも多いですけれど、得られるものも大きいと思いました。
離婚したからこそ出会えた人たちも多かったです。
――それは胸が熱くなりますね。それを聞いてママもまた頑張れたのではないでしょうか
Kさん:子どもがいいパートナーになってくれています!
離婚を考えているママたちへ、ふたりからのアドバイス
――では最後に、シングルマザーになることを考えている方たちに向けて、何かアドバイスがあればお願いします。
Tさん:もし、「つらい状況だけれど我慢するしかない」という人がいたら、行政や司法に相談に行ってみてください。自分では思いつかなかった解決策や助けになる情報や方法が必ず見つかるので、まず一歩踏み出してみてほしいです。
Kさん:夫婦関係の悩みは「うちだけなのかな」「私のせいなのかも」と感じることがあると思います。でも自分から悩みを周りに伝えてみると、意外と同じようなことで悩んでいたりするんですよ。なので、悩みがあれば発信することをおすすめします。発信すると情報2倍になって返ってきます。悩んでいることは恥ずかしいことではありません。
――周りに相談した結果、今親子で楽しく暮らしていらっしゃる様子にとても説得力がありますね。貴重なお話をいろいろとありがとうございました。
お二方とも終始笑顔で話していたのが印象的で、離婚がポジティブな選択であったことを体現しているようだった。同席していた一同が元気をもらえた、そんなエネルギッシュかつあたたかい座談会だった。子は親の鏡とはいうが、親が笑顔でいられることが、子どもにも良い環境なのではないか。独り悩んで暗い顔をしているなら、胸の内を誰かに伝えることからはじめてみてはいかがだろうか。
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2022年5月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
公開日:
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