境町ってどんなまち? ふるさと納税6年連続関東地方1位
近年、移住検討者から注目を浴びるまちがある。茨城県の西部、千葉県と埼玉県の県境に位置する茨城県境町(さかいまち)だ。
境町は、東西に約8km・南北に約11km、面積は約46.59km2というコンパクトなまち。町内には利根川が流れ、のどかな田園風景が広がる。一方で中心部には商業施設や飲食店も多く、便利に暮らせるのも魅力だろう。
東京駅や成田空港まで、圏央道「境古河IC」を利用すれば車で約1時間、高速バスなら東京駅まで最短90分と、都心へのアクセスも良好だ。
しかし豊かな自然や都心への良好なアクセスを”売り”にしている自治体は、ほかにもたくさんある。ではなぜ過疎化の一途をたどっていた境町が、これほどまでに注目を浴びているのか。
それは、こちらが驚いてしまうほどの子育て支援や住宅支援などの移住・定住促進に注力している点にある。
また将来を見据えた新たな施設の建設も積極的に行っており、まちがどんどん進化しているのだ。
しかし大胆な施策を打ち出すためには財源が必要である。
実は茨城県境町は、ふるさと納税の受け入れ額が6年連続で関東地方1位となっている(2022年度)。
ふるさと納税による寄付や国の交付金など新たなる財源を獲得し、さらに民間企業の活用や事業の見直しによる改善を行った結果、同町の予算規模は年々増加傾向に。そうして、見事なまでに財政再建を実現したのだ。
子育て支援を実施してわかった住宅の不足
以前は境町も、ほかの地方自治体と同じく、人口減少にあえいでいた。
そんな同町が人口増加政策に大きく力を入れたのは、2014年のこと。現町長が就任したことがきっかけだという。自身も子育て中だという町長が掲げたのは「子育て支援日本一を目指すまち」。独自の子育てサポートを充実させたのだ。
施策の詳細については後述するが、ソフト面を充実させたことにより、「境町に移住したい」という人が増えた。
しかしひとつ大きな問題が発覚する。それは、町内に子育て世帯や新婚世帯が「住みたい」と思う、民間のアパートやマンションが少ないことだ。家賃や広さ、設備など、若者世代のニーズに応えられる物件がなかったのである。
PFIを活用した地域優良賃貸住宅整備事業で賃貸住宅を建設
そんな矢先、同町長は神奈川県山北町の町長からPFI住宅の話を耳にする。山北町はPFI手法で地域優良賃貸住宅を整備した、全国初の自治体だ。
PFI(Private Finance Initiative)とは、公共事業を実施するための手法のひとつ。公共事業等の建設や維持管理、運営などを、民間企業の持つノウハウや資金を活用することで、低廉かつ優れた品質の公共サービスの提供が可能となり、財政負担の軽減につながるのだ。
視察や勉強会などを重ね、2018年、境町に第1弾PFI住宅となる新築賃貸マンション「アイレットハウス」が完成した。建設費の約50%は国の交付金、残りの約50%はPFIにより民間企業が資金調達して建設しているため、町の負担はゼロだという。
現在第5弾まで建設は進み、これまでの全125戸は満室となっている。入居募集をすれば町内外から多くの応募があり、なかには大阪府や三重県、山形県など、関東近郊以外からの移住者もいるそうだ。
また一定期間この賃貸物件で暮らした後に退去する世帯もあるが、その9割以上が町内に一戸建てを購入し定住しているという。境町の住み心地のよさを感じたからこそだろう。
同物件は、基本的には子育て世帯・新婚世帯を中心に境町への移住・定住希望者のための賃貸物件であり、町外から転入する子育て・新婚世帯の入居が優先される。
一般的な公営住宅は低所得者向けであるが、同物件は入居者および同居者の所得月額を合算した額が15万8,000円以上であることが所得基準となる。合算額が48万7,000円以下でないと減額が受けられないのだが、「減額されなくてもいいので入居したい」という希望者も多いのだとか。それほど境町には、こういった住まいが求められているのだろう。
第5弾は一戸建てタイプ。25年住み続けると土地・建物を無償譲渡
境町のPFIを活用した地域優良賃貸住宅整備事業は、2023年8月現在第5弾まで進んでいるが、第5弾はそれまでのマンションタイプとは異なり、一戸建て住宅が12棟・ガレージハウスが5棟。第4弾までと同様に、町の負担はゼロで建設された。
この一戸建てとガレージハウスには、驚きの住宅支援がある。
それは入居者が25年住み続けると、土地と建物が境町から無償譲渡されるという支援。つまり25年住めば、土地付き一戸建てが自分のものになるのだ。譲渡は強制ではないが、入居者のほとんどは無償譲渡を受けることを前提に入居しているという。
家賃は一戸建てタイプが6万8,000円。ガレージハウスタイプが13万円となっている(取材時点)。
ちなみに賃貸のため固定資産税はかからない。また勤務する会社に家賃補助制度があれば家賃補助も受けられ、さらに火災保険も町がかける。言わずもがな大好評であり、一戸建てタイプは12世帯の募集に対し55世帯の応募があったそうだ。
そしていよいよ第6弾(一戸建て)の募集が、今秋開始予定だという。詳しくは境町公式ホームページで確認を。
境町にはPFIを活用した地域優良賃貸住宅整備事業とは別に、「定住促進戸建住宅事業」という、町外から移住する子育て世帯に向けた住宅支援がある。
こちらは町内に点在する新築の一戸建て住宅で、これまでに7棟が建てられた。家賃は5万2,000円で、20年住み続けると、土地と建物が無償譲渡される。PFI住宅同様、賃貸なので固定資産税などは不要だ。
驚くべき住宅支援だが、総事業費を入居者の家賃収入で回収するため、町の負担ゼロを実現しているという。
リモートワークが普及し移住を検討している人も多い昨今、これらの住宅支援は非常に魅力的なのではないだろうか。
手厚い子育て支援が充実。決め手は英語移住!?
先述のとおり、境町は子育て支援日本一を目指すまちだ。筆者も子育て真っ最中だが、今回取材をしてうらやましく思う子育て支援がたくさんあった。
なかでも多くの子育て世帯にとって移住の決め手となっている子育てサポートは英語移住だそう。「茨城に英語移住!?」と驚くかもしれないが、境町では全国初の先進的な英語教育が行われているのだ。
全小中学校にはALT講師が複数名常駐し、児童・生徒は授業以外にも、休み時間や給食中など日常的に英語に触れている。「英会話教室に通わなくても、境町で義務教育を卒業すると英語が話せるようになる」というのが同町の目標。英語の教育費負担が減ることは、親としてもありがたい。
ほかにも同町は、保育料第2子以降無料、3~5歳の給食費無料、小中学校の給食費は全員半額・第3子以降は無料という大盤振る舞いだ。
また、医療費はなんと20歳の学生まで助成するという。さらにそれらすべてにおいて所得制限を撤廃しているというから驚きだ。
維持管理費ゼロの「境町モデル」で新施設が続々誕生
直近8年間で新しい施設が続々と誕生している境町。
先述のPFI住宅は民間資金による事業で町の負担をゼロに、定住促進戸建住宅は総事業費を入居者の家賃収入で回収することで町の負担をゼロにしていたが、境町ではそのほかにもさまざまな形で『町の負担ゼロ』を実現させている。
そのひとつの手法が、同町が確立した「境町モデル」だ。
境町モデルとは、施設運営を民間企業に委託し、町が負担する維持管理費をゼロに。さらに事業者から施設利用料をもらい受け、施設への投資を回収するという”稼げる仕組み”である。
同町では、この境町モデルでさまざまな施設が運営されている。
手厚い住宅支援や子育て支援により、子育て・新婚世帯の移住者が増え、まちが活気づく茨城県境町。町の負担ゼロの公共投資「境町モデル」で、今後ますます進化を遂げ、さらに暮らしやすさが増すとなると、今以上に「境町に住みたい」という人が増えるだろう。
すべての人にとってWin-Winとなるこのよい循環は、人口減少にあえぐ他の地方自治体にとって大きなヒントとなりそうだ。
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