千葉市の団地の課題
平地が広く造成が容易な千葉市では、大規模に開発された住宅団地が多く存在する。千葉市民の3分の1以上は団地に居住しており、さらに千葉市民の約4分の1は主に開発から40年以上経過した高経年団地に住んでいる。
千葉市内に高経年団地が多い理由としては、高度経済成長期に、都市部への急激な人口集中に対応するため、全国各地で郊外部を中心に多くの住宅団地の開発が進んだことが背景にある。東京に近く、大規模に造成がしやすかった千葉市では戦後に複数の大規模団地が開発された。そのうちの一つが、千葉市花見川区にある花見川団地だ。
花見川団地は高度経済成長期である1968年(昭和43年)より入居が始まった団地であり、ピーク時には2万人以上が暮らしていた千葉県内最大規模の団地となっている。場所は千葉市北西部の内陸側に位置し、鉄道の最寄り駅は京成電鉄本線の八千代台駅である。主に5階建てを中心とする共同住宅で構成されており、戸数は賃貸が約5,700戸、分譲をあわせると約7,200戸を超える巨大な団地だ。
団地は戦後の住宅不足の状況においては、一気にまとまった戸数の住宅を供給できるというメリットがあった。しかしながら、団地は若い世代が同時期に入居する傾向があり、そこに住んだ人たちが団地とともに高齢化するという特徴がある。花見川団地では建物も高経年化しているが、住民の高齢化も顕著になっている。団地内には空き家も増加しており、スポンジ化も生じている。
入居開始当初から50年を経た花見川団地の人口は約1.1万人となっており、約30年前と比べると約1万人減少している。高齢化率は44%と、市全体の高齢化率より10ポイント高くなっており、団地の中で少子高齢化と人口減少という日本の縮図のような問題が発生している状況だ。コミュニティを維持することが難しくなるため、持続可能な団地へと再生していくことが課題だ。
具体的には若い世代の流入を積極的に促進させ、多様な世代が安心して居住できる街に変えていくことが必要となる。また、単に人口を増やすだけでなく、地域コミュニティを活性化させ、日常生活の利便性の向上に向けた取組みを推進していくことも必要となっている。
4者協定を締結
千葉市では花見川団地を持続可能な街へとするために、官民連携によって課題解決に取り組んでいる。具体的には無印良品でおなじみの株式会社良品計画と株式会社MUJI HOUSE、UR(独立行政法人都市再生機構)、千葉市の4者が花見川団地の活性化に向けた協定を締結している。
4者協定によって行われる連携事項は、主に以下の6つである。
(1)多様な世代が安心して住み続けられる環境整備に関すること。
(2)花見川団地商店街の活性化に関すること。
(3)地域で活躍する人材の発掘や活動支援に関すること。
(4)地域資源の活用に関すること。
(5)大学連携に関すること。
(6)情報発信に関すること。
1番目の「多様な世代が安心して住み続けられる環境整備に関すること」では、MUJIとURがコラボレーションしたリノベーション住宅が供給される。千葉市の若者向け家賃等支援制度を活用して、人口を増やす取組みも行う。
2番目の「花見川団地商店街の活性化に関すること」では、団地内の商店街についてもMUJIとURが企画してリノベーションを行うことになっている。MUJI×UR団地まるごとリノベーションと称して、住宅の部屋だけでなく商店街も改修する計画だ。商店街の活性化は小売りが本業の株式会社良品計画が加わったことで、毎週土曜日に無印良品のポップアップストアも開設され、日用品の販売やリユースの取り組みを通じて、課題やニーズの把握が行われているほか、商品リクエストを受け付けるなどの買い物支援も行われていることが特徴となっている。
3番目の「地域で活躍する人材の発掘や活動支援に関すること」では、プチマルシェの実施や、住民の小商い創業支援が行われることになっている。
花見川団地では、商店街の中に「はなみがわLDK+(エルディーケープラス)」と呼ばれるキッチン付レンタルスペースが開設されている。小商い創業支援は、はなみがわLDK+の活用施策の一つとなっている。
4番目の「地域資源の活用に関すること」では、花見川・花島公園のアウトドアイベントと団地商店街イベントの連携実施や、団地周辺のウォーキングイベントの実施、団地内の公園や広場を活かしたイベント等も開催されている。団地内の公園や広場を生かし、イベントも開催していく予定だ。
5番目の「大学連携に関すること」では、商店街ワークショップの実施や、フィールドワークの実施支援等が行われる。
6番目の「情報発信に関すること」ではアプリやSNSの活用、店舗での発信を行うことになっており、Instagram「花見川団地商店街」「ちばまち」のアカウントや、市のX(旧Twitter)「ちば市役所ノヒト」でもイベント情報が紹介されている。
活性化の具体的な取り組み
花見川団地では、MUJI×URのブランドで住戸のリノベーションが行われている。リノベーションのプランは、襖で間取りを変化できるプランと、もともとの押入れを生かして収納を充実させたプランの2つだ。
襖で間取りを変化できるプランでは、もともと存在した押入れの一部を撤去し、大きなLDKの空間を作り、そのLDKを襖で開閉できるようにして1LDKと2LDKを自在に変えることで、住む人の家族構成やライフスタイルに合わせながら自由に間取りを変化できるようにしている。
収納を充実させたプランは、押入れが多いという団地の間取りの強みを生かしたプランである。古い団地は布団を押入れにしまうことを想定して作られていることから押入れに奥行きがあるため、その特徴を生かし、キャンプ用品等の大きなものを収納できるようになっている。
一方で、団地全体の活性化策としては、これまで以下のような取組みが行われてきた。
・団地マルシェ
・花見川団地中央公園でのイベント
・花見川・花島公園でのカヤックイベント
・商店街の未来を考えるワークショップ
・自動運転バス実証実験
自動運転バス実証実験は、令和4年5月~6月にフィンランドの企業が開発し株式会社良品計画がデザインした「GACHA」と呼ばれる全天候型自動運転バスが実験的に団地内を走行した。
結婚新生活支援事業
千葉市内の高経年住宅団地の活性化施策として、若い世代の流入も積極的に増やすための施策も行われている。具体的には、結婚新生活支援事業と子育て世帯住替え支援事業による2つの補助金制度が実施される。
結婚新生活支援事業とは、結婚等を機に市内の「高経年住宅団地」外から市内の「高経年住宅団地」へ転居する新婚等世帯に対し、最大60万円を補助する制度だ。主な要件としては、「夫婦の合計所得が500万円未満」で、「双方の年齢が39歳以下」、「入居対象となる住居が千葉市内の高経年住宅団地であること」などが挙げられる。花見川団地などの高経年住宅団地に入居しないと、補助金がもらえないことがポイントとなっている。
補助の対象となるのは、新生活に係る住居費や引越し費用、リフォーム費用などとなるため、利用できる用途は幅広い点が特徴だ。
子育て世帯住替え支援事業
子育て世帯住替え支援事業とは、新しく千葉市内の高経年住宅団地へ転居する子育て世帯に対し、最大30万円を補助する制度だ。
主な要件としては、「小学生以下の子どもがいる世帯であること」や「市内の高経年住宅団地内へ転居すること」等が要件となっている。子育て世帯住替え支援事業も、花見川団地等の高経年住宅団地に入居しないと補助金を受給できない点がポイントである。補助の対象となるのは、中古住宅の購入費用や賃貸住宅の賃料、引越し費用、リフォーム費用等となっている。
なお、結婚新生活支援事業や子育て世帯住替え支援事業が利用できる高経年住宅団地は、花見川団地だけではない。千葉市内には、海浜ニュータウンや幸町団地、千城台団地等の数多くの高経年住宅団地が存在する。多くの地域で補助金が利用できるようになっているため、引越しを行う際は補助金が利用できる団地に該当していないか千葉市のホームページで確認することをおすすめする。
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