うるおいや憩い、にぎわいをもたらす運河への再生を目指す「中川運河再生計画」
2024年9月、愛知県名古屋市にある中川運河沿いに新たなにぎわい拠点「PALET.NU(パレット・ニュー)」が誕生した。
「誰もが気軽に立ち寄れて、運河の魅力を学び、体感できるコンテンツやイベント開催の場を提供する」ことをコンセプトとしており、中川運河のにぎわいを創出する期間限定の社会実験の場となっている。2024年9月6日~2025年3月31日までオープン予定だ。
イベントや展示、地域活動の場所として無料で使用でき、これまでに紙漉きや茜染め、ヨガなどのワークショップやアートの展示などが行われている。
パレット・ニューの社会実験は、「中川運河再生計画」の一環でもある。
かつては「東洋一の大運河」と呼ばれ、名古屋の水運による物流を支えた中川運河。1932年より運河の全線利用が始まり、1964年には7万5,000隻を超える船が行き来していたという。しかし、その後利用量は年々減少し、現在の取り扱い貨物量はピーク時の約1%となっている。
そんな中川運河を再生しようというのが「中川運河再生計画」だ。「うるおいや憩い、にぎわいをもたらす運河」への再生を目指し、20年先を見据えた計画として2012年に打ち出された。
計画発表から10年が経過した2023年に、これまでを振り返り、その成果や課題をもとに今後10年の取り組みを練り直した更新版が発表された。
今回は、「中川運河再生計画」でのこれまでの10年の取り組みや今後の展望についてご紹介したい。
中川運河再生計画これまでの10年「4つの方針」
中川運河再生計画では、「交流・創造」「環境」「産業」「防災」の4つの方針を掲げ、取り組みを行ってきた。まずは、2012年の計画策定から、これまでの10年間の取り組みを紹介しよう。
方針1【交流・創造】人と人、人と運河をつなぎます
中川運河では、市民や観光客が水辺を楽しめるよう、カフェやレストランなどの商業施設、ギャラリーやアトリエなどの文化・芸術施設を誘致し、憩いやにぎわいのある空間の創出を図ってきた。
2012年に策定された「中川運河再生計画に基づく沿岸用地の土地貸付けに関するガイドライン」により、沿岸用地でのにぎわい施設の立地が可能となった。これまでに、鋳造メーカーのバーミキュラビレッジ(愛知ドビー株式会社)やカフェの珈琲元年(富士コーヒー株式会社)などを含めた5施設が誕生している。
中川運河のにぎわいと魅力を向上するため、2012年~2022年まで「ARToC10(アートックテン)」というアートイベントも行われた。インスタレーションや映画、演劇、水上パフォーマンスなどさまざまな創作活動が行われ、市民を魅了してきた。
中川運河は、都心と港をつなぐ貴重な水辺空間でもある。2017年より水上交通「クルーズ名古屋」が誕生し、ささしまライブから金城ふ頭まで、計6ヶ所の乗船場を結んでいる。
他にも、ウェイクサーフィンやSUP(スタンドアップパドルボード)などの水上スポーツを拡充するための環境整備、歴史資産の保存・活用など、人と運河をつなげる取り組みを行ってきた。
方針2【環境】水・緑・生き物に親しめる水辺空間を形成します
中川運河再生のために、良質な水環境を整えることも必要不可欠だ。運河沿いに立つ露橋水処理センターに高度処理が導入され、中川運河の水質改善が進んでいる。
方針3【産業】モノづくりの未来を支え続けます
再生計画より以前は、中川運河周辺は港湾・物流産業が中心だった。しかし、ガイドラインを策定したことによって、沿岸用地での多様な産業の立地が可能となったため、さまざまな分野の産業誘致を進めている。
モノづくりの未来を支える環境・エネルギー課題解決産業、医療・福祉・健康産業、クリエイティブ産業、先端分野産業など多様な産業の誘導を図っている。
方針4【防災】まちの安全・安心を支え続けます
地震や津波対策として、中川口通船門の改修を行った。他にも、引き続き老朽化した護岸の改修工事や、名古屋駅周辺地域をはじめとする流域内の浸水被害の最小化を図るため、 雨水貯留施設等の整備を進め、運河の治水機能の強化を進めている。
中川運河再生計画「3つのゾーン」ごとの取り組み
中川運河再生計画では、「にぎわいゾーン」「モノづくりゾーン」「レクリエーションゾーン」の3つのゾーンに分けた空間計画も打ち出した。
特に、今後は「にぎわいゾーン」において、官民連携でにぎわいを創出していくことをイメージしている。
その一つに、水辺のプロムナード整備がある。ウォーカブルなまちづくりの実現に向けて、にぎわい施設からプロムナードまでの導線を確保し、誰もが利用できる憩いの場として、効果的なにぎわい創出を目指している。
さらに、中川運河再生は行政の主導だけではなく、市民や企業などが連携して取り組んでいる。市民・企業・学校・行政などが参加する「中川運河再生推進会議」や「中川運河再生プラットフォーム」が連携して、さらなるまちづくりの機運を高めていくことを目指している。
3つのゾーンごとによるテーマを持った計画や、市民や企業を巻き込んだまちづくりの活動は今後も継続していく。
これからの10年は?今後の開発計画
中川運河再生計画の策定から10年以上が経過し、社会情勢も変化してきた。特に、リニア中央新幹線開業に向けて、名古屋駅周辺の開発が進められており、中川運河の堀止地区であるささしまライブ24地区のまちづくりにも力が入れられている。
名古屋市は、ささしまライブ24に都心のにぎわいと憩いの水辺空間を創出するため、人工ビーチやホテルなどの整備を行うことを2023年に発表した。現在はクルーズ名古屋の乗船場がある場所だが、2026年までに開発・整備し、さらなるにぎわい創出を図ることを目指している。
中川運河再生計画の発表から10年以上、行政や企業、市民が交わりながら、憩いやにぎわい創出のために変化を続けてきた。しかし、「飲食店が少ない」といった地元の人からの声も聞こえてきており、まだまだ課題は残っている。20年先を見据えた計画は折り返し地点を過ぎたところだ。名古屋の豊かな資源である中川運河の歴史・文化を守りつつ、今後どのように変化していくのか、見守っていきたい。
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