吹田のレトロ商店街ににぎわいを
生まれ育った街を改めて振り返ってみると商店街があった、という人も少なくないだろう。人口約38万人、総世帯数約17万5,000世帯という大阪府吹田市は、再開発などによる住宅用地の再整備を背景に、2000年代以降人口が増加し続けている街だ。JR京都線の吹田駅周辺には、6つの商店街が残っている。全天候型アーケード商店街や戦後の闇市から発展したという昭和の面影が残る商店街などそれぞれに趣が異なる通りで、現在合わせて約300軒の店舗が営業している。
そのうちの一つ、今から65年前に誕生した「新旭町通り商店街」の一部、全長約110メートルの「新旭町通食品街」で、あるプロジェクトが2023年10月から進められている。商店街再生プロジェクト「吹田・アサヒキッチン」は、商店街の一部を「吹田のキッチン」(=北摂でおいしい食材と飲食店が集まる場所)へ再生しようとするものだ。
中心になっているのは地元の商店主や事業者によって設立された、民間事業会社「吹田まちづくり合同会社」だ。商店街入口のサインに、新たなLED ネオンサインと間接照明看板サインを設置してイメージを刷新。2024年3月には、空き店舗9区画のうち6区画が入居済みとなり、現在も誘致が進行中。年内には全店舗が埋まる見込みだと、吹田まちづくり合同会社の代表・濱野良平氏は話す。
生まれ育った地元の商店街に恩返しがしたい
「企画がスタートしたのは、ちょうどコロナ禍後半の頃。地元の飲食店が、弁当配達などアイデアを駆使して努力していたり、知人でも地域を活性させるプロジェクトをやっていたりする様子を見て、自分もなにか地域に貢献したいという思いが強くなっていました」と濱野氏は当時を振り返る。「自分でもなにかできることがあるかもしれないと思い、仲間に声をかけて集まったのが始まり。仲間も同じような思いを持っていたようで、話が盛り上がり、そのまま集ったメンバーで意気投合。スキタ会(吹田アサヒキッチンプロジェクト)を発足し、動き始めました」。スキタ会は、行政書士や市会・府会議員、建設事業者、商店街でジャズバーを営むメンバーなど、さまざまな専門家が集まった。
そんな中、2022年8月末頃、商店街にあったひとつの空き店舗を活用できないか?という話が濱野さんに飛び込んできた。スキタ会メンバーの専門知識を生かし、まずは自分たちで3軒工事・誘致・開店まで手掛けたが、その後の空き店舗については、経済産業省の補助金を活用しようと計画。商店会に話を持ちかけた。
「新旭町通食品街は、生きた商店街。空き店舗はありつつも、長年店を営んでいる現役店舗が多いんです。こういう商店街再生プロジェクトを実行する上では、関係者の人数が多いため意見がまとまりにくいかもしれないという懸念もありました」
では、どうやって同意を集めていったのか。まず濱野さんらは、商店街で店を営む同世代に構想を話していった。それは2代目、3代目として親の跡を継いでいるが、このままではまずい、なんとかしたいと感じている世代。濱野さんらの声がけに、危機感のある世代の動きは早く、親世代に理解を求めようと動き始めた。親世代は、新しい動きに対してどうしても保守的や否定的な意見が最初に出がちだ。しかし、プロジェクトの内容を子という身近な人から的確に伝えられたことも、家族経営が多い商店街に適した情報伝達だった。信頼を得られやすかったことも、商店街再生プロジェクトの話が想像以上にスムーズに進んだ理由の一つだろう。
地域と事業者をつなぎ、出店しやすい環境づくりを
スキタ会は、2023年5月に吹田まちづくり合同会社へと法人化。商店街再生プロジェクト「吹田・アサヒキッチン」では、商店街内の6つの空き店舗から活用してほしいと申し出があった。空き店舗の借り上げを行い、飲食店出店に必要なインフラ(ガス・給排水・換気等)を整備するなど、自らが空き店舗所有者と出店希望者双方の支援者になった。商店会の加盟費を吹田まちづくり合同会社が負担するなど、初めて店をオープンする事業者にとってもハードルの低い条件を整えた。
課題は、空き店舗に新しい事業者を誘致することだった。広報は、プレスリリース配信とSNS告知、口コミのみ。蓋を開けると30店舗以上から応募があった。徐々に運営者が決定する中、吹田まちづくり合同会社に属するメンバーがそれぞれの能力や人脈を生かしながら、スタートアップ支援を行い、商店街との関係性を構築。こうして新店舗がオープンしていった。
2023年11月〜2024年3月の毎月第3土曜日にはマーケットを開催し、2024年9月にはお披露目会としてプレオープニングイベントが開催された。当日は、新店舗も既存店のどちらでも限定メニューがいただけたり、クラフト雑貨のブース出店も楽しめたりする内容だった。
「吹田・アサヒキッチン」という一つのプロジェクトは走り出したばかりだが、吹田まちづくり合同会社は更にその先を見据えている。それは、過ごしやすい地域にするために、商店街がどう役割を担うか?ということだ。商店街ににぎわいをつくるだけでなく、住む、暮らすという部分まで視野を広げて活動の幅を広げて行く予定だという。
商店街を媒介に、シニアも若者も共存できる街に
濱野さんは、商店街の中で喫茶店「みずいろ喫茶」を運営している。ここは「まごころサポート」というシニアの日頃のお困り事のサポートサービスの拠点でもあり、働きたい人とサービスを利用したい人の情報が集まり、また交換される環境になっている。「商店街はシニアの方の利用がやはり多いので、そこは忘れてはいけない視点だと思います。新店舗ができて新しい人が訪れてくれるようになったとしても、もともと来てくれているお客さんが来にくくなるのは避けたい。多世代が集える商店街でありたい」と濱野さん。商店街に買い物に来たついでに、ご飯を食べて、知り合いに会って、生活に役立つ情報収集ができる。まさに地域の拠点だ。ちなみに、商店街から徒歩数分の場所に、シニア向けシェアハウスもオープンさせたところだ。
「地元で育ち、地元で事業をしていると人間関係も構築され、知り合いも多いし、地域に愛着もあります。自分たちが育った地域ですが、世代交代していく番がきているなと感じています」
これから吹田まちづくり合同会社では、商店街を越えて、点と点を結んでいくエリアプロデュースもスタートしていく。シニアが暮らしやすい街にするということは、未来のシニアが暮らしたくなる街だということでもあるだろう。もちろん、子育て世代や若者層の視点も置き去りにしてはいけない。商店街で生まれた新しいにぎわいが地域に染み出し、既存の住民の豊かさを生み出し、街への安心と愛着につながっていく。地域で育ったものが地域に還元していく、そんなまちづくりがスタートしたばかりだ。
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