「環境先進×未来資産」 東急不動産が取り組む新たな価値創出

LIFULL HOME'S PRESSが不動産・住宅業界のリーディングカンパニーに事業や社会課題について話を聞く「トップインタビュー」。今回は、東急不動産株式会社の取締役 専務執行役員であり、住宅事業ユニットを率いる田中辰明氏に話を伺った。

東急不動産グループは、2021年に長期経営方針「GROUP VISION 2030」を策定。その中で「環境先進」を重要なテーマとして推進している。近年ではその取り組みに加え、「未来資産」という新たな価値基準を提示した。

環境問題や災害、エネルギー問題といった社会的な不確実性が増す中で 、住むほどに価値が育つ「未来資産」とはどのようなものなのか。そして、それが住まう人のウェルビーイングにどう結びつくのか。LIFULL代表取締役社長の伊東祐司が、田中専務の想いや具体的な戦略について話を聞いた。

「環境先進×未来資産」 東急不動産が取り組む新たな価値創出

「環境経営」を軸に、インクルーシブな社会を目指す東急不動産

伊東: 本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。まず、グループ全体の長期経営方針「GROUP VISION 2030」についてお伺いします。このビジョンを策定された背景にある社会課題や、目指したい社会像についてお聞かせいただけますか。

田中氏: 「GROUP VISION 2030」は、コロナ後の暮らしの変化や気候変動、価値観の多様化といった課題感から生まれました。従来の事業のやり方だけでは難しくなるなか、安心・安全に加え、心身の健康や人とのつながりまで含めたウェルビーイング、脱炭素と自然共生、リアルとデジタルの融合が欠かせないと考えています。

GROUO VISION 2030で目指す社会は「誰もが自分らしく、いきいきと輝ける」姿です。すべての人に使いやすいインクルーシブな街とサービス、脱炭素が進み、災害に強く自然と調和する環境が理想ですね。また、「環境経営」という言葉を使い始めたのもこのタイミングです。もともと、当社は宅地開発やリゾート事業など、自然環境に近い事業を手がけていたため環境への意識は高かったのですが 、このビジョン策定を機に、より本格的に「脱炭素」「循環型社会」「生物多様性の保全」の3つを重要課題として掲げ、舵を切っていくことになりました。

参考:東急不動産ホールディングス GROPU VISION 2030

東急不動産株式会社 田中辰明氏。
東急不動産 取締役 専務執行役員、住宅事業ユニット長。1990年東急不動産に入社し、2017年に東急不動産株式会社の執行役員に就任。コーポレート・ウェルネス部門の担当役員を経て2024年4月より現職に就任東急不動産株式会社 田中辰明氏。 東急不動産 取締役 専務執行役員、住宅事業ユニット長。1990年東急不動産に入社し、2017年に東急不動産株式会社の執行役員に就任。コーポレート・ウェルネス部門の担当役員を経て2024年4月より現職に就任

伊東: 御社の環境への取り組みは、近年に始まったものではなく、創業時からの歴史に裏打ちされたものだと感じます。特に「環境先進」については、いつ頃から企業文化として根付いていったのでしょうか。

田中氏: 当社の原点は1918年設立の田園都市株式会社にあります。当時、自然と都市が共存する住環境を田園調布で創造したのが始まりです。その後も、1982年の「あすみが丘ニュータウン事業※1」や1994年の「季美の森※2」など、住宅事業を中心に先進的な環境への取り組みを重ねてきました。

私が入社した1990年頃から、すでに「環境共生」や「自然と調和する街づくり」といった言葉はごく自然に使われていました。グループに造園会社の石勝エクステリアがあったことも大きいですね。

大きな転機は、2014年の再生可能エネルギー事業への参入です。「脱炭素社会の実現」「地域との共生」「エネルギー自給率の向上」という3つの社会課題解決を掲げ、これまでに全国156ヶ所※3、約2,112メガワット※4の事業に携わってきました(2025年9月末現在)。創業時から培われてきたまちづくりの経験が、この再エネ事業にも生かされていると実感しています。

※1 あすみが丘ニュータウン事業(千葉県)・・・周囲の自然と緑のネットワークを築いた日本最大級のまちづくり
※2 季美の森(千葉県)・・・環境共生住宅団地第一号認定(※旧(財)建築環境・省エネルギー機構の認定)となるフェアウェイフロント住宅
※3共同事業を含む
※4定格容量は持分換算前(開発中プロジェクトを含む)の値

住まいの価値は手入れで育つ。BRANZが挑む“共創型”の環境デザイン

伊東: 現在の住宅事業についてお伺いします。マンション「BRANZ(ブランズ)」は、「DESIGN」「QUALITY」「SUPPORT」という3つの価値を掲げていらっしゃいます。これらが「環境先進」をどのように形にしているのか、ご紹介いただけますか。

田中氏: BRANZは3つの価値で、長く続く暮らし心地や環境に優しい住まいを実現させています。

●DESIGN: 緑化や生物多様性に配慮した植栽計画、ZEH(ゼッチ)の採用、高質感のデザイン
●QUALITY: 構造・断熱・設備の質を高め、災害時も安心な対策を複合的に整備した暮らし心地と資産性の両立
●SUPPORT: 「売って終わりにしない」入居後のサポート。管理・アフターサービス、防災対応の提供

の3つです。

伊東: BRANZの“緑”と“想い”を育てる10年の景観管理計画「GREEN AGENDA for BRANZ」は、2024年のグッドデザイン・ベスト100にも選出されていますね。単に緑を増やすだけでなく、「住民と10年かけて育てる」というコンセプトが非常にユニークだと感じます。なぜこの時間軸と「共創」を大切にされているのでしょうか。

田中氏: マンションの緑は、「植えて終わり」ではありません。10年後、20年後にいかに街の資産として成熟させていくかが大切です。

「GREEN AGENDA for BRANZ」には、造園の専門家である石勝エクステリアや総合不動産管理会社の東急コミュニティーも加わり 、居住者向けのイベント企画や植栽の成長観察などを通じて、住民参加型の仕組みにしています。そうすることで、わが家の庭のように愛着を持ってもらえますし 、それがコミュニティ形成のきっかけにもなります。

第1号物件のブランズ自由が丘では、2025年5月に「共用部見学会・懇親会」を実施しました。参加者からは「緑のある暮らしが資産価値につながると実感した」という声のほか、「有事の際のことも考え、お知り合いになれたことが有意義だった」といったコミュニティに関するお声もいただきました。

参考:東急不動産 BRANZ
参考:GREEN AGENDA for BRANZ

BRANZ 3つの価値(画像提供:東急不動産株式会社)BRANZ 3つの価値(画像提供:東急不動産株式会社)
BRANZ 3つの価値(画像提供:東急不動産株式会社)ブランズ自由が丘で開催された共用部見学会の様子(画像提供:東急不動産株式会社)

伊東: 環境先進やGXは、具体的にどのように住まう方のウェルビーイング向上につながるのでしょうか。

田中氏: お客様アンケートでは、ZEH・緑化・防災といった総合力が高く評価されており、暮らしの満足度調査は例年高水準を維持しています。

GXがもたらすウェルビーイングは、身体的快適・心理的安全・経済的納得の3つの側面があると考えています。

高断熱設計により、熱ストレスの軽減や睡眠の質の向上など、身体的快適性を提供しています。また、非常用電源や備蓄による災害時の不安低減や、防災訓練を通じたコミュニティのつながりによる孤立防止は、災害リスクが懸念される現代において入居者の安心のために重要であると考えます。また、住み続けていくにはコスト面も切り離せません。BRANZでは、省エネ・創エネによる生涯コストの抑制にも努めています。

「駅近なのに緑が多い」「季節の手入れが行き届いている」といった自然と利便性の両立も、心のゆとりにつながっているようです。

BRANZ 3つの価値(画像提供:東急不動産株式会社)BRANZの暮らし心地は、環境とDXの両面を備えた統合マンションギャラリー「東急不動産 BRANZギャラリー 表参道」で確かめられる。住まい探しを一ヶ所で、リアルに、環境にやさしく体験することが可能だ。 田中氏「これまでマンションギャラリーは、一つの物件ごとに建物を建てて、売り終わったら壊す『スクラップ&ビルド』が主流でしたが、これだと資源の無駄遣いにつながります。一ヶ所に集約して、かつDXを活用することによって、物件ごとのモデルルームを作らなくてもお客様に住まいを体感いただけるようにしました」
BRANZ 3つの価値(画像提供:東急不動産株式会社)デジタルツインによるバーチャル内覧や大型LEDの眺望シミュレーションで、現実に近い体験ができる「東急不動産 BRANZギャラリー 表参道」。訪れた人からは「一度で複数物件を比較できて便利」「眺望や間取りを具体的に体験できてわかりやすい」「遠方物件も現地に近い感覚で検討できる」との評価を得ている

東急不動産が新たに提案する「未来資産」。時間が価値になる住まいとは

東急不動産が新たに提案する「未来資産」。時間が価値になる住まいとは

伊東: ブランド戦略をアップデートされ、「環境先進」に加え「未来資産」という新しい価値を打ち出されたと伺いました 。非常にキャッチーな言葉だと感じましたが、なぜ今、「未来資産」という考え方が重要だとお考えでしょうか。

田中氏: 伊東さんは「未来資産」という言葉を聞いて、どういうイメージを持たれますか?

伊東: そうですね、単に「資産価値」というと、市場価値や立地条件といった経済的な側面を想起させるイメージがあります。 ですが、「未来資産」と聞くと、むしろ時間とともに価値が育ち、暮らしの豊かさが積み重なっていくような印象を受けます。だからこそ「手放したくない」「住み続けたい」と思えるような価値を感じますね。

田中氏: ありがとうございます。まさにそういった点も目指していきたい姿の一つです。「未来資産」という言葉は人によって受け取り方が少しずつ違っていても良いと思っていて、むしろそれがこの言葉の面白いところだと感じています。

なぜ今「未来資産」を打ち出すのかというと、災害の増加、物価や金利の上昇が大きな理由です。家は「買う瞬間の価格」より、暮らしている間の安心とランニングコストが重要になります。また、住まいの環境対応や管理の質が、その後の売りやすさ・貸しやすさに直結します。

「未来資産」は、「住むほど価値が育つ」住まいづくりへの想いです 。環境先進の取り組みに加え、経済(光熱費低減・レジリエンス)、生活(快適・健康)、社会(コミュニティ)といった価値を一体で高め、売って終わりにせず、適正管理とアフターサポートで時間とともに価値を積み重ねます。次世代まで安心して住み継げる家をつくるという決意表明でもあります。

伊東: 「未来資産」という概念を、BRANZでは具体的にどのような形で住まいに落とし込み、お客様に届けていらっしゃるのでしょうか。

田中氏: 当社は、ハード・ソフト両面から、快適で安心、そして持続可能な暮らしを支えます。ハード面では、ZEH仕様による高断熱・高気密化に加え、当社独自の「GREEN AGENDA for BRANZ」に基づく緑豊かな生物多様性の保全、非常用電源・蓄電池・備蓄の整備など、災害対策を強化しています。

ソフト面では、「製販管連携」で管理・アフターサービスを高度化し、日常・非常の両面で安心な暮らしのためデジタル接点を強化しています。オーナー様向けの「BRANZ WEB」「ブランズサポートアプリ」で、取扱説明書、問い合わせ先、イベント・防災情報を集約したり、引渡しやアフター手続きもWEB・アプリ・動画で分かりやすくご案内するように進めています。新規物件では災害時に居住者が安否を即時報告でき、状況を可視化する機能や、防災オンラインセミナーも展開を図ってまいります。※5

また、24時間電話受付のアフターサービスや防災への備えに関するご提案、オーナー様向けに野菜収穫体験を提供する「ブランズファーム」を通じたコミュニティ醸成のサポートなども行います。

さらに今後の取り組みとして次のようなことを考えております。

新築物件においては 、高耐久部材を採用し、大規模修繕工事の周期を延伸したり、弊社が既に提供している住宅設備保証制度の品目・年数を拡充してまいります。また、BRANZご売却時においても、弊社グループが連携して中古流通時の資産価値維持を目的とした認定中古制度の準備を進めております。こうした取り組みにより管理の質を高め、ご入居後のサポートを充実させ、住まいの価値をサステナブルに維持する体制を強化しつづけてまいります。

※5 ソフト面の取り組み紹介については一部対象外の物件もある

“製販管一体”で、入居後の暮らし心地をグループとして目指す

(画像提供:東急不動産株式会社)(画像提供:東急不動産株式会社)

伊東: 未来を見据えた価値提供となると、「暮らし」に寄り添った長期的なサポート、特にソフト面が重要になると思います。先ほども触れていた「製販管連携」やグループシナジーは御社の強みかと思いますが、具体的な工夫を教えていただけますか?

田中氏: 「環境先進×未来資産」という方針のもと、用地の買収段階から、計画、販売、引き渡し、管理までを東急不動産と東急コミュニティーがグループ一体でつなぐ“製販管連携”を徹底しています。

特にここ数年で連携を非常に強めており、例えばマンション用地の「買収段階」から管理会社が議論に参画しています。従来は、我々開発側が作ったものを管理会社に引き渡す、いわば川上から川下への一方通行な側面もありましたが、今は全く違います。例えば、計画の初期段階で「このレイアウトだとゴミ置き場の管理が大変だ」「自転車置き場はこう設計したほうが、入居者も管理側もスムーズだ」といった、現場目線の具体的な意見が管理会社から出てきます。

伊東: それは入居者にとっても、非常に有益な視点ですね。

田中氏: はい。さらに言えば、製販管連携は将来的な管理コストや修繕コストにも直結します。例えば緑の維持管理でいうと、イニシャルコストをかけて自動潅水(かんすい)設備を導入すれば日々の水やりという管理コストは削減できるかもしれないですよね。そうしたイニシャルコストとランニングコストのバランスを、買収段階から一緒に議論できるのが我々の強みです。大規模修繕計画についても、手前(設計段階)から関与することで、より効率的で負担の少ない計画を立てることが可能になります。

東急コミュニティーのBRANZ担当部署「BRANZ推進センター」は、今この本社ビル(渋谷ソラスタ)の住宅事業ユニットのあるフロアの1つ下にあります。物理的な距離が近いので、何かあればすぐに集まって打ち合わせができる。この緊密な連携が、日々の業務品質と、将来の「未来資産」としての価値を支えていると自負しています。

もちろん、BRANZ推進センターが中心となった管理員研修 や、東急リバブル・東急住宅リースといったグループ各社と連携し、売却・賃貸・購入まで伴走できる体制も整えています 。こうした購入後も「暮らしと資産」をグループで見守り続けることが、お客様の安心と満足の継続につながっていると実感しています。

(画像提供:東急不動産株式会社)東急不動産会社の本社ビル「渋谷ソラスタ」。外観も、オフィス内も豊かな緑が特徴的だ (画像提供:東急不動産株式会社)

「売って終わり」にしない。次世代へ住み継ぐ住まいを当たり前に

伊東: 最後に、田中専務が住宅事業ユニットを率いるうえで、ご自身の原動力となっている想いや、これからの住宅不動産業界をどのように変えていきたいか、お考えをお聞かせください。

田中氏: 我々は、住宅というのは「住み始めてからがスタート」だと考えています。ですから、ご入居いただいた後、将来にわたって価値が維持され、快適に暮らせるマンションを提供し続けていくことが、我々にとって重要な社会的責任だと感じています。

そのうえで、これからさらに意識していかなければならないのは、「耐久性」はもとより「可変性」です。ご家族の構成やライフスタイルが変わった時に、いかにその変化に対応できるか。固定的な家ではなく、柔軟性のある住宅を意識していかなければなりません。

また、「未来資産」の考え方にも通じますが、将来的なコストについても考えていく必要があります。今、さまざまな物価が上昇する中で、「安心して暮らせる」とはどういうことか。 もちろん、導入時に最新で「いいもの」を提供することは大切です。しかし、例えばそれが10年後、15年後に莫大な交換費用がかかるものだったとしたら、それははたしてお客様にとって本当に「いいもの」と言えるのか。そうした将来的な負担まで見据えた住まいづくりを、しっかり考えていく必要があります。

そして、我々はやはり「環境」を大事にしていますから、自然環境を守り、GREEN AGENDA for BRANZのような取り組みを通じて、人と自然が「調和して生活する」ことを、これからも実現していきたいです。


伊東: ビジョンから具体的な取り組み、そして田中様ご自身の想いまで、大変貴重なお話をありがとうございました。

「売って終わり」にしない。次世代へ住み継ぐ住まいを当たり前に