日本国内の不動産を海外法人・個人が所有&開発することに関する軋轢が顕在化

2025年6月に板橋区内の賃貸マンションで突然、家賃がこれまでの2.6倍~3.2倍(30平米の住戸で月額7.5万円から19万円へ)に引き上げられるという“事件”が起こり、あまりに理不尽な値上げがニュースやSNSで拡散・話題となって、ついには国会の決算委員会でも総括質問で取り上げられる事態となったことは記憶に新しい。

これは、当該物件を所有・管理する不動産会社の経営者が外国籍の人物に変わったことが契機となっており、急激な賃料の引き上げに反発した賃借人に対して、点検のためと称してエレベーターを使用できないようにしたり、退去後の空き住戸を届け出せずに民泊に活用したりするなどした結果、本来守られるべき賃借人の権利が脅かされていることに対抗するための法整備の必要性が顕在化し、それが国会での議論につながったといえる。当時、石破総理大臣は「インバウンド消費は重要だが住んでいる人たちが不当に不利益を被ることがないよう対策は徹底する」と応じ、その後2025年10月16日より、日本に経営・管理ビザで入国する際の資本金要件が従来の500万円から3,000万円に大幅に引き上げられ、資本金要件の引き下げには常勤職員1名以上の雇用を条件とするなど、制度を厳格化させている。併せて事業計画書の専門家による確認も要件化されたため、外国人が国内で事業展開するハードルを引き上げ、日本の商慣習に沿うつもりのない外国人経営者を(多少は)入国させにくくするという点で評価できる。

さらに、石破政権後に誕生した高市新政権では、国内に居住する外国人に対する政策を重要課題の一つとし、小野田紀美経済安全保障相が“外国人との秩序ある共生社会推進担当”を兼務する。同相は就任会見で「ルールを守らない方々への厳格な対応や外国人をめぐる情勢に十分に対応できていない制度の見直しを進める」と述べ、犯罪行為や運転免許証の交付など各種制度の不適切な利用を念頭に、「国民が不安や不公平を感じる状況が生じており、排外主義とは一線を画しつつも、こうした行為には政府として毅然と対応する」と表明している。
高市新政権は発足したばかりで、海外法人や個人が国内の不動産を取得・開発することに関する具体的な施策の検討および制度化についてはこれからだが、今後の対策に期待したい。

海外法人および個人が国内不動産を所有・開発すると、どのような問題が発生する可能性があるのか

上記の“事件”では、30平米で7万~10万円が相場とされている賃料を19万円前後まで引き上げると通知し、その通知書面には公共料金をはじめとする諸費用の増加のためと書かれていただけとのことで、根拠となるコストアップの明示もなく、通知をもって一方的に賃料を引き上げることができると考えていた可能性が高い。
「借地借家法」第32条第1項には“賃料増減額請求権”が規定されており、(1)租税や管理コストなど負担額の変化、(2)物価上昇など経済事情の変動、(3)近傍同種の賃貸借建物の賃料との比較を根拠として賃料の増減ができると定められているから、根拠を示さず、曖昧な理由で賃料を上げたいという一方的な要求は原則として通らない。それでも、今回は賃料の大幅な引き上げを不服として転居したユーザーがおり、またそのまま居住しているユーザーにはエレベーターを使用停止にしたことから、賃貸住宅を利用するユーザーに著しい不利益・不便および精神的苦痛を与えたことになり、これは損害賠償請求の対象となり得る行為と考えられる。

一般的に、海外法人および個人が国内の不動産を所有・開発することについてどのような“弊害”が発生することが考えられるか。
まず、最も憂慮しなければならない点は、国の安全保障と国土保全に関することだ。例えば、防衛拠点となるエリアや国境周辺の島々、あるいは水源地など、国や各自治体の安全保障上重要と考えられる区域とその周辺の土地が外国資本によって取得されるケースが発生しているが、こういった土地については、一定の購入制限もしくは購入するための条件を設けるべきとの意見がある(現状では具体的な制度および制限がないということも問題視されている)。

また、土地の使途について特段の制限がないことにも多くの指摘がある。日本では現在、外国人による土地の取得・使途に諸外国が設けている制限もしくは禁止条項がなく、山林や原野が取得されることによって資源および環境の損失・破壊につながる懸念が生じている。国土法によって山林や原野など1ヘクタールを超える広大な土地が開発される場合にはあらかじめ届け出と許可が必要だが、北海道倶知安町では海外法人が届け出の必要のない1ヘクタール未満の森林を購入し、実際には当該森林を含む周辺4ヘクタール以上もの土地を無届けで開発していた事例がある。“法律があることを知らなかった”では済まされない“乱開発”が全国各地で散見される状況にあることも事実であるため、早急に対策を取る必要があるだろう。

さらに、こういった法整備の遅れ・不備に伴う“弊害”だけでなく、不動産を所有・開発した際の税務処理が複雑化することにも、コスト負担を誰がするのかを含めて指摘がある。特に所有者が海外に居住している場合は、不動産購入後の税務処理、すなわち固定資産税や都市計画税、不動産取得税、もしくは売却時に発生する譲渡所得税などの請求および納税手続きが煩雑になり、別途専従で対応ができる組織が必要な状況に至っている。

加えて、円安の進行によるインバウンド需要の過熱についても指摘する声が高まっている。2021年1月には1ドル=約103円だった為替相場は2025年10月現在約150円となっており(いずれも月中平均)、45%超の円安=海外から見ると国内不動産が45%超安価に購入可能であることと同義だ。そのため、不動産を買って貸す=投資ではなく、不動産を買って値上がりを待って売る=投機目的での購入が目立つようになった。いつになったら都心のタワーマンションの価格が頭打ちになるのか、現段階では不明だが(都心では新築分譲時の坪単価がついに2,000万円を超える物件が登場し始めており一向に価格が頭打ちになる気配は見られない)、高額な物件であればあるほど売却差益も大きくなる状況が続けば、物件価格が上昇しても、国内外を問わず購入希望者が減らない道理となる。

ほかにも、生活習慣の違いやゴミ出しルールを守らないなどのささいなトラブル、言語の壁による管理に関する課題、所有者が海外に帰国したまま連絡が取れなくなるケースもあり、制度面以前に近隣の住民として共に生活することは難しいと不安に感じる日本人も少なくない。

これら海外法人および個人が国内不動産を所有することについての課題が山積するなかで、2022年には、国の安全保障に資する防衛関係施設や国境離島などの土地・建物の利用、取引を制限する「重要土地等調査法」が施行され、併せて外国人向けの不動産取引マニュアルの整備、不動産事業者の国際対応力強化などの対策が取られ始めた(東京・市ヶ谷の防衛省周辺の土地・建物を中国法人・個人が集中して購入している実態が法に基づく調査で明らかになっているが、現段階では阻害行為は確認されていない)。

最後に、筆者が所属するLIFULL HOME’SではFRIENDLY DOOR=外国籍の方を含めて住宅の購入・賃貸に課題のある“住宅弱者”を支援する取り組みを展開しており、またインバウンド需要は地域経済活性化に資するものでもあるから、一律に規制するだけでなく、国内の制度や商慣習、生活習慣などから容認しにくい事象を類型化・予防し、海外法人・個人と共存共栄を図ることが最も大切であることを指摘しておきたい。

ホームズ君

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