2024年6月の省令で宅建業法施行規則を改正、2025年1月1日から適用
国土交通省は、2024年6月に宅建業法施行細則を改正し、いわゆる囲い込み行為に関連する物件情報の虚偽登録などが確認された場合は、情報の是正指示を出し、悪質なケースや繰り返し行っている場合は、業務停止命令や罰金、宅建業の免許取り消し処分も行えることとした。2025年1月1日から適用が開始された。
そもそも“囲い込み”とは、売主から売却依頼を受けた不動産会社(物上げ会社)が、売主・買主双方から仲介手数料を得る目的(両手仲介)で、自社で買主を手当てするまでその情報をオープンにしない行為のことで、物件情報を秘匿する行為であることから以前から“囲い込み”と言われてきた。
売主が不動産会社に売却を依頼する際に結ぶ媒介契約には専属専任媒介、専任媒介、一般媒介があるが、専属専任媒介または専任媒介を締結した際は、不動産会社はREINSに物件情報を必ず掲載しなければならない。掲載する情報には当然のことながら現在の取引状況という項目があり「公開中」「書面による購入申し込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」のいずれかを選択する方式になっている。
このステータスが公開中になっていれば、他の不動産会社(客付け会社)からの問合せOKとの意思表示となるが、現時点で問合せなどがないのにステータスを「書面による購入申込みあり」などにすれば(=虚偽登録)、他の不動産会社からの問合せを遮断することができ、この間に自社で買主を見つけることができれば、売主・買主双方から仲介手数料が得られることになる。つまり自社の収益を優先させるために情報をあえて秘匿しているから、この段階で取引の公正さを欠く行為と言うことができる。
この“囲い込み”は、売主に早期の売却機会を失わせたり、流通市場の透明性を毀損して公正な売買の阻害要因となったりすることから、売主に経済的損失が発生する可能性が指摘され、10年以上前から問題視されてきた。実は施行細則改正以前も、“囲い込み”によって結果的に不動産会社が売主に損害を与えたことが明らかな場合は処分の対象となっていたが、今回の改正がREINSの取引状況の虚偽登録を処分の対象にすることで“囲い込み”行為を明確化することができ、一歩前進との見方もできる。
それでも、例えば客付け会社からアプローチがあった際に担当者が出かけていて対応できないとか、まだ準備ができておらず少し待ってほしいと要請するとか、売主の確認が取れないので内見できないなどさまざま理由をつけてはそのアプローチを阻害することは可能だから、この改正が囲い込みを完全に防止することは困難との見解も散見される。
果たして、宅建業法施行細則の改正は“囲い込み”の抑制に一定の効果が期待できるのか、またさらに効果を上げるためにはどのような対策が考えられるのか、不動産仲介に詳しい有識者の見解を聞く。
将来的に求められるのは、情報の非対称性の解消 ~ 山本 直彌氏
山本 直彌:らくだ不動産株式会社副社長。マンション・ビル管理、不動産仲介の経験を経て、マンション管理コンサルタント・不動産エージェントの業務に従事。これまでに50棟を超えるマンション管理フロント業務、500件以上の不動産仲介を経験。2020年4月 株式会社さくら事務所へ参画。2023年にらくだ不動産・副社長、2024年にさくら事務所・副社長に就任。同年、自身が取材協力した『マンションバブル41の落とし穴』(小学館)が発売。これまで規定がなかった中、新たに罰則規定が作られたということは評価に値する。ただやはり、囲い込み撲滅というわけにはいかないだろう。
囲い込みのパターンは、2つに大別される。1つは、宅建業法に違反するケース。専任媒介契約、専属専任媒介契約を締結しているにもかかわらず、REINSに登録しないケースなどがこれに該当する。そしてもう1つは、倫理やモラルに違反している囲い込みだ。囲い込み規制は、前者のパターンにはかなり効果があると考えられるが、REINSに掲載し、取引情報も偽りなく登録していたとしても「商談中」「内見の都合が合わない」などと言われてしまえば、真偽を立証することはまずできない。
倫理やモラルという言葉を使ったが、必ずしも悪意を持って囲い込みをしているエージェントばかりではないはずだ。倫理やモラルというより、この業界の「慣習」が多くの囲い込みの要因になっているように思う。悪しき慣習を根本的に是正するには、囲い込みの定義を明確化し、結果的に囲い込みになってしまっている状態が売主の利益を損なう忌むべき行為であることを広く認識させる必要がある。現段階では、例えば「ケーススタディ」などの形でどのような行為が囲い込みに当たるのかを示し、国交省や業界団体が告知するなどして業界全体の共通認識を深めていくことが肝要だろう。
ドラスティックに両手取引を禁止すれば囲い込みを一切なくすことができるだろうが、ユーザーファーストになってさえいれば、両手取引は決して「悪」ではない。不動産会社やエージェントを選択できるように、両手取引もユーザーにとっての選択肢の一つである。日本独自の不動産流通のスタイルを進化させるには、情報の非対称性の解消も求められる。弊社では昨年、売主・買主・不動産会社が取引の状況に加え、売買に必要な情報を適切に閲覧・取得できる「みんならくだ。」というシステムを開発した。ただ、こうした仕組みは本来、REINSにこそ備えられるべきものだろう。
不動産会社やエージェントの価値は「情報量」ではない。情報から読み解けるメリット・デメリット、リスク、真価を伝えることこそが、不動産会社やエージェントの役割である。したがって、目先の対策としては囲い込みに対する業界全体の共通認識を深めることが肝要であり、中長期的には情報格差を解消することが、囲い込みの抑制ひいては日本の不動産業界の発展につながるものと考える。
囲い込みの抑止を左右するもの ~ 中川 雅之氏
中川雅之:1984年京都大学経済学部卒業。同年建設省入省後、大阪大学社会経済研究所助教授、国土交通省都市開発融資推進官などを経て、2004年から日本大学経済学部教授。専門は都市経済学と公共経済学で、主な著書等に「都市住宅政策の経済分析」(2003年度日経・経済図書文化賞)、「放棄された建物:経済学的な視点」(2014年学会賞・論文賞)がある今回宅建業法施行規則が改正され、いわゆる囲い込み行為に関連する物件情報の虚偽登録などが確認された場合は、情報の是正指示を出し、悪質なケースや繰り返し行っている場合については、業務停止命令や罰金、宅建業の免許取り消し処分も行えるということが明示された。
REINSという情報共有の仕組みは、不動産市場における売り手と買い手のマッチング確率を大きく上昇させる機能を持っており、いわゆる囲い込み行為はその機能を大きく阻害する。このような運用改善が行われたことは、まず評価されるべきことだと考えられよう。
今回の措置がどのような効果を上げることができるかについては、一定の時間をかけて評価が行われる必要がある。ここでは「ルールの遵守を求めるために罰則の適用対象とする」という試みがどのような場合に効果を発揮するかを、一般的に考えてみたい。あるルールを守らせるための罰則は、ある者がルールを破ったことを発見する確率×罰則の重さの値が大きいほど、ルール破りに対する抑止効果が高くなる。
つまり、囲い込み行為を抑止する効果は、「行政機関が囲い込み行為があったことを認知できる確率」と「業務停止命令等の罰則の重さ」が十分に高いかに依存することになる。おそらく後者の「業務停止命令等の罰則」が科されるとすれば、それは違反行為を行った者に対して非常に大きなダメージとなることには、あまり疑義はないのではないだろうか。
その場合は、「『業務停止命令等の罰則』を適用するに足りる確証をもって、『行政機関が囲い込み行為があったことを認知できる確率』が限りなく低い、そして『多くの業者がそのように思っている』」ことがない限り、その抑止効果は効果的に機能するだろう。しかし、「そんなことはあり得ない」と一笑に伏すことはできないように思う。
行政機関が囲い込み行為を認知できる確率は、売主、他の業者からの情報提供に依存する。米国のMLSが、比較的囲い込み行為の抑止に成功しているといわれている原因は、罰金や、MLSの使用停止という罰則が十分に高いということのほか、囲い込み行為が業界自身のためにならないという広い共通認識があり、他のエージェントの監視が張り巡らされていることによっている。
スチュアードシップコードなど、民間主体の行動規範により市場の質を上げる試みが一定の効果を上げている。今回の囲い込み行為自体がルール違反であるという運用は、そのようなアプローチの一貫かもしれない。より効果を上げるためには、新しい常識、行動規範を業界と協力してつくり上げることが求められるのではないだろうか。
「媒介契約書」の重要性と内容の見直しを ~ 高橋 正典氏
高橋 正典:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など問題が表面化して10年以上、実態としてはその何倍もの間、業者間でも問題視されてきた「囲い込み」だが、2025(令和7)年1月からより一層規制が強化された。
では、これをもって「囲い込み」がなくなり、そして市場の透明化に向かうのだろうか?
そもそも「囲い込み」とは売主の損失であるが、その売主が不動産会社に媒介を依頼する段階において、その会社との信頼関係またはメリットがあることにより「媒介契約」が成立しているという実態がある。そこにはある種の「性善説」が存在するのである。ましてや、一生の間に不動産の購入自体が一度という方も多い我が国においては、売却もまた初めてという方が圧倒的に多い。そうした背景の中、信頼して任せた会社をある意味監視するような仕組みをどれほど充実させたところで、売主が注意してチェックすることは現実的ではない。
また先に指摘したように、売却の経験が少ないがゆえに、業界の構図を理解していない方も多く、例えば媒介を依頼する不動産会社の条件として多いものに「購入者がたくさんいる」つまり「購入者をたくさん抱えている」というものがあるが、これは実質的に「両手仲介」を容認していることにほかならない。「囲い込み」の根幹には「両手仲介」至上主義があることを考えれば、売主の業者選択のリテラシー向上がない限り、この状況は大きく変わることはなかろう。また、最近もまだ見受ける「仲介手数料無料」というサービスにメリットを感じる売主も多く、この場合は売主から仲介手数料が支払われない以上、買主を自社で見つけるしかなく、当然に他社の仲介は閉ざされることとなる。
しかし、改善の予兆も出てきている。これまで、この「囲い込み」問題の多くは大手不動産会社で起きていることがクローズアップされてきたが、その大手で働く社員の意識の変化である。「こんなことをしていいのか?」「こういうやり方はよくない」というモラル意識の高まりから、会社の姿勢が変わりつつあるとも聞く。あとは、昔のやり方が抜けないリーダー次第という側面もある。
さて、こうした現場の状況を踏まえて、もっとスピード感を持って業界を改善するとするならば、私からは以下の2点を進言したい。
一つは、「媒介契約」における宅建士の記名押印および説明の義務化。そして、媒介契約書の約款にある「宅地建物取引業者の義務等」へ「囲い込み」を禁ずる等の項目を追加。
そしてもう一つが、「専属・専任媒介」および「一般媒介」ともに「レインズ公開」の選択を売主に説明の上で選択権を与える。できれば別書面での提供が理想。
以上、どちらも売主への説明機会を徹底するものであり、媒介契約を重要事項説明と同等の位置づけにすることにより売主の損失を防ぎ、透明性のある市場へつながると考えている。
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