マンションの窓を改修する2つの方法

マンションの窓の断熱性能のレベルは、一般的に低い。特にサッシの素材は、現在でもほとんどの新築マンションでは、熱伝導率の高いアルミサッシが採用されている。
近年向上している新築の一戸建て住宅の窓の性能を下回るほどだ。さらに、中古マンションの窓の改修についても、選択肢は限られる。マンションの窓の性能を上げるにはどうすればいいのか。
大規模改修の際、外窓を性能の高いサッシに交換したマンションを取材した。

中古マンションの外窓改修で新しく設置されたアルミ樹脂複合サッシ(撮影:高橋真樹)中古マンションの外窓改修で新しく設置されたアルミ樹脂複合サッシ(撮影:高橋真樹)

マンションは一戸建てに比べて、外気と接する面積が限られている。当然、窓の数や総面積も少ない。そのため、すべての窓を改修してもコストは比較的少ない上、それにより、住まい全体の断熱性能を大きく向上させることができる。マンションの窓の性能向上リノベーションの方法は、大きく分けて2つある。内窓の設置と、外窓の交換である。

最も簡単な性能向上リノベーションは、自分の判断だけで設置できる内窓だ。基本的にすべての窓に対応できる上、外窓の交換に比べて費用も安価だ。窓を二度開ける手間はかかるが、それを上回る数々のメリットがある。例えば、防音性、暑さ、寒さの緩和、エアコンの効きの向上、光熱費削減、そして結露の大幅な減少である。工事も住みながら数時間で終了する。国などからの補助金の割合も増えているので、設置を検討するのであれば、すぐにでもやった方がいいだろう。

ただし、外窓の性能が悪ければ、外窓と内窓の間に結露が起きることはある。また、内窓の気密性は高くはないため、外窓の気密性が悪ければ、隙間風などを完全には遮断できない。

そこで、建設から相当の年数が経ったマンションであれば、大規模修繕の際に、以前と同じ性能の窓に交換するのではなく、より性能の高い窓に交換することをお勧めする。それにより、先に挙げた防音性向上や暑さ寒さの緩和、結露の防止といった効果を、マンション全体で得ることができるようになる。経済的にも性能の高い窓の方が、補助金の金額が高くなるため、費用対効果に優れる。以下に、マンションの外窓を交換した実例を紹介する。

高性能のサッシをお得に設置

取材したのは、江東区にある12階建のマンションだ。築およそ50年になるこのマンションでは、2022年の大規模改修の際に、全113戸の外窓を交換した。以前の窓は、アルミサッシの単板ガラスだった。50年の間に歪みなどから隙間が空き、温熱環境や防音性能はひどい状態だったという。また、結露は当たり前でカビが生えやすかった。そのため外窓を交換すること自体は、管理組合の総意となっていた。

当初、窓メーカーの担当者から提案されたのは、アルミサッシ(Low-E複層ガラス)だった。しかし、住人の一人で大学教員の田中信一郎さんは、「もっと性能の高い窓の見積もりも出してもらえないか」とリクエストをした。環境・エネルギー問題に長く携わってきた田中さんは、アルミサッシよりも性能の高い、アルミ樹脂複合サッシをマンションに設置できることを知っていたからだ。

田中信一郎さんと、アルミ樹脂複合サッシ(オレンジ色)。その手前には内窓(黒)も設置されている(撮影:高橋真樹)田中信一郎さんと、アルミ樹脂複合サッシ(オレンジ色)。その手前には内窓(黒)も設置されている(撮影:高橋真樹)

窓の性能を表すUw値は、値が小さいほど外の熱を伝えにくいことを示す。このマンションの元々のアルミサッシ(単板ガラス)のUw値(※1)は6.51である。これを最初の提案であったアルミ(Low-E複層ガラス)に換えると4.07(※2)になる。さらに田中さんが提案したアルミ樹脂複合サッシ(Low-E複層ガラス)となると、2.33(※3)だ。今回のマンションは、階高の関係により、戸建住宅用の断熱性能の高いオール樹脂サッシが使えないため、外窓交換のサッシの選択肢ではアルミ樹脂複合サッシが最高性能となる。Uw値の性能以上に、アルミサッシは結露しやすくなるため、よりレベルの高いサッシに交換する意味は大きい。

もちろん価格は、性能が良い方が高くなる。ところが見積もりを取ると、アルミサッシとの差額は1割にも満たなかった。その理由は、性能の高いアルミ樹脂複合サッシの方が、補助金額が多く出たからだ。補助金は、環境省と東京都、そして江東区の3者からそれぞれ出て、合計すると価格の3割ほどを補助金でカバーできた。なお補助金額は、住んでいる地域や時期によっても変わるので、事業者に確認する必要がある。

見積もりを受けて、田中さんのマンションの管理組合は、西側に2つ並ぶ掃き出し窓に、アルミ樹脂複合サッシを採用することに決めた。一方で、東側には特殊な形状の格子窓が1つあり、対応するアルミ樹脂複合サッシがなかったため、こちらはアルミサッシ(Low-E複層ガラス)の窓に交換した。工事は22年の9月から11月に渡って実施。壁を壊すことなく設置できるカバー工法を採用したため、それぞれの世帯の工事は数時間で終わり、全戸滞りなく交換することができた。


※1 Uw値算出元:平成28年省エネルギー基準・非木造・・・窓・框ドア・引戸(大部分がガラスで構成される開口部)より
※2 仕様はアルミサッシで、Low-E複層ガラス、ガスなし。同様の仕様でも、中空層の厚みによってUw値は異なる。
※3 仕様はアルミ樹脂複合サッシで、Low-E複層ガラス、アルゴンガス入り、樹脂スペーサー。同様の仕様でも、中空層の厚みによってUw値は異なる。

交換した窓は結露しない

窓を交換した後の田中さんに感想を聞いた。実は田中さんは、このマンションに10年ほど前に入居した際に、居室に3ヶ所の断熱改修をしていた。まず、古くて隙間だらけだった既設の窓(アルミサッシ/シングルガラス)を交換している。外側の窓は同じ仕様である必要があったため、交換後もアルミの単板ガラスだ。さらに、すべての窓(3ヶ所)に内窓を設置した。そして最後に、床下に断熱材を入れている。

こうしたことから、田中さんの居室は今回の改修以前から他の居室よりも断熱性能が良かった。それでも田中さんは、外窓をアルミ樹脂複合サッシと複層ガラスの窓に交換したことで変化を感じると言う。「まずは音が静かになりました。外窓のガラスが1枚から2枚になったのですごくわかりやすい。あとは、夏も冬もエアコンの効きが良くなったと思います。アルミ樹脂複合サッシになってからは、外窓にも結露が起きることもありません。ただし、東側の格子窓はアルミサッシ(Low-E複層ガラス)にしか替えられなかったので、結露しています。やはりサッシの性能の差は歴然ですね」

東側の格子窓はアルミ樹脂複合サッシではなく、アルミサッシ(Low-E複層ガラス)に交換(撮影:高橋真樹)東側の格子窓はアルミ樹脂複合サッシではなく、アルミサッシ(Low-E複層ガラス)に交換(撮影:高橋真樹)

田中さんの居室は、広めのLDK、寝室、脱衣所と浴室という間取りになっている。LDKだけで20畳ほどの広さがあるが、エアコン一台を軽くかけるだけで十分に全館を冷暖房できている。また、田中さん宅では猫を飼っているが、エアコンを切っても室温がわずかしか上下しないため、留守中も安心だという。

マンション全体では、交通量の多い通りに面していることから、騒音が問題になっていた。今回の窓の交換後は、他の住人たちから「音が静かになって嬉しい」という声を聞くという。

一方で、温熱環境についてはそれほど意識していなかった人が多いのか、今のところは暑さ、寒さ、光熱費などの件で良くなったという感想を聞く機会はないと、田中さんは言う。それだけ、窓と部屋の快適さとの関係を、日頃から意識している人が少ないのではないだろうか。ただ、今までのひどい窓に比べると、住環境が改善していることは間違いないだろう。

田中さんは言う。「マンション全体での外窓交換は数十年に一度しかやりません。せっかくやるのであれば、その時点でできるだけ性能の高い窓を入れた方が、長い目で見てお得です。住環境は向上し、光熱費の削減にもつながるからです。補助金を入れれば費用もそれほど変わらないので、やらない理由はないと思います」

新築マンションのサッシは98%がアルミ

マンションの窓の性能については、多くの課題がある。まず、今回紹介した中古マンションの外窓の改修だ。日本では、耐風圧や水密性の関係から、高層マンションで使用できる改修用のアルミ樹脂複合サッシは販売されていない(24年8月現在)。交換する場合、アルミサッシ(Low-E複層ガラス)しか選択肢しかないわけだ。ただそれでも内窓を入れることは可能なので、性能向上を考えるのであれば、マンション全体で外窓交換と共に内窓の導入を検討する方法はあるだろう。

一方で低層マンションに関しては、今回紹介した事例のようにアルミ樹脂複合サッシ(Low-E複層ガラス)を設置することが可能となる(※)。グレードが高い上に、補助金の割合も増えるので、総額はアルミサッシの場合とあまり変わらない。温熱環境の向上や結露の防止などを考えれば、せっかく交換するのなら高性能のサッシを選ぶ方が合理的だ。外窓交換を検討している管理組合は、高さの条件に当てはまるのであれば、アルミ樹脂複合サッシの見積もりを取ることを強くお勧めしたい。

最後に、新築マンションの窓についても触れておく。新築マンションでも、サッシの性能は高くはない。ガラスの性能は上がっているが、窓枠の素材はアルミの割合が現在でも98%に及ぶ。アルミは結露を引き起こし、カビやダニの発生源となることで健康に悪影響を与える。23年には、東京23区の新築マンションの平均価格が1億円を超えたことが伝えられた。しかし1億円以上する居室の窓で、結露するのが当たり前でいいのだろうか。

そうした課題感は、窓メーカーの間でも共有されるようになってきている。YKK APは、今年の秋に、中⾼層建築物にも対応する新築マンション用のアルミ樹脂複合サッシをリリースする。ビルの窓を担当するYKK APビル本部事業企画部の東谷昇和さんは言う。「単に数値だけで見れば、アルミサッシ(Low-E複層ガラス)でもZEH(断熱等級5)が達成できてしまいます。でもそれで満足するのではなく、住む人の健康や快適性などを考えれば、マンションの窓の断熱化は進めていかなければならないと考えています。マンションでも結露をしない窓を当たり前にしていきたいと思っています」

内窓を入れるだけでも快適性が大きく改善する(撮影:高橋真樹)内窓を入れるだけでも快適性が大きく改善する(撮影:高橋真樹)

新築でも、中古でも、マンションの窓の性能は決して高くはない。それを前提に、建設関係者は性能向上を通じて快適な暮らしを実現できる取り組みにつなげていく必要がある。また、マンションの住人の側でも、窓と住環境が深くつながっていることを意識し、内窓などの対策を取ることで、改善できることを知ってもらいたい。

※マンションが建つ地域により、高さと耐風圧の規定は異なるため、一概に「何階建てまでのマンションであれば改修の際にアルミ樹脂複合サッシを設置できる」とは言えない。

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