2050年の日本の総人口は1.05億人 2020年から約17%減少との予測
国立社会保障・人口問題研究所が2050年までの地域別人口推計を公表した。
都道府県単位だけでなく、市区町村単位で2050年まで5年単位で推計しており、もちろんインバウンドの増加など不確定要素はあるものの、どのエリアでどれくらいの人の増減があるのかイメージできる。
これによると、2020年の日本の総人口は約1.26億人だが、5年で約3%減少していき、2050年には1.05億人と約2,100万人減少、2020年の83.0%程度の人口になると予測されている。合計特殊出生率:15~49歳の女性の年齢別出生率の合計が例年2.08前後で推移すれば、日本の総人口は増えも減りもしないとされるが、2023年は過去最低であった2005年および前年の1.26を下回ることが確実視されており、日本の人口減には歯止めが掛からず、併せて高齢化も直実に進む状況が続いている。
現岸田政権も“異次元の少子化対策”との触れ込みで「子ども・子育て支援法」などの改正案を閣議決定し、①児童手当の対象拡大と多子世帯への増額②返済不要の給付型奨学金の拡大および授業料減免対象の拡大③子ども医療費助成制度(開始時期未定)などを柱として子どもを産み育てやすい生活環境・経済環境の整備拡充(3年間で3兆円を投じる構想)を掲げているが、2015年以降継続して強化され続ける少子化対策は残念ながら効果を上げているとは言い難く、合計特殊出生率は2005~2015年にかけて1.26から1.44まで一時的に上昇したものの、その後は現在に至るまで再び下がり続けている。
住宅取得政策においても優遇策が実施されており、住宅ローン控除においては、夫婦の一方が40歳未満である世帯および19歳未満の子どもがいる世帯を対象に、2023年末までの元本上限が適用されるから、例えばZEH住宅であれば4,500万円まで、13年で最大409.5万円の控除が受けられる計算になる。ただし、この制度は2024年入居が対象の時限措置であり、制度延長は今後要検討とされている。また金利自体は高いが固定型のフラット35についても同世帯に金利優遇策が検討され、併せて公営住宅の優先貸し出しも実施される予定だ。
実際に、子育て世帯は住宅価格の高騰が続く都市圏中心部・近郊エリアから準近郊・郊外エリアへと拡散し始めており、都市圏への人口集中とは別に、より広くより安価で子育てしやすい住環境、生活環境を求めていることが明らかだ。経済的支援は重要ではあるものの、出産後の“不安”を取り除いて安心して育児・教育が継続できる社会的環境の整備も重要であり、保育・学童保育、産後ケア、共働き世帯支援&育休ほか、周囲の理解が得にくく使い難いとされる様々な制度の活用促進とコンセンサスの醸成が求められる。
少子化・高齢化が進み、またそれに伴って地方圏の過疎化と都市圏の過密化が同時並行する日本において、“子どもを増やし、安心して子育てを継続できるようにするための”住宅政策は如何にあるべきか、またそのために必要な具体的な施策とは何か、住環境&住生活に詳しい有識者の見解を聞く。
経済的不安で結婚をためらう単身世帯への住宅支援を ~ 松崎のり子氏
松崎のり子:消費経済ジャーナリスト。生活情報誌の副編集長として20年以上、節約・マネー記事を担当。雑誌やWebを中心に、生活者目線で記事を執筆中。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない』(講談社)ほか。「消費経済リサーチルーム」https://www.ec-reporter.com/政府が発表したレポート「こども未来戦略 ~次元の異なる少子化対策の実現に向けて」には悲観的な言葉が並ぶ。引用すると「2022年に生まれたこどもの数は77万759人となり、統計を開始した1899年以来、最低の数字となった。(中略)こどもの数はピークの3分の1以下にまで減少した。」「少子化は、人口減少を加速化させている。今後も100万人の大都市が毎年1つ消滅するようなスピードで人口減少が進む。」「若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでが(中略)重要な分岐点であり、2030年までに少子化トレンドを反転できなければ、我が国は、こうした人口減少を食い止められなくなり、持続的な経済成長の達成も困難となる。」などである。
むろん、こうしたトレンドを住宅政策だけで解決できるはずはない。レポートでも「若者・子育て世代の所得を伸ばさない限り、少子化を反転させることはできない」とあるように、先立つものは所得の向上だ。しかし、現在の住宅政策がそれに沿っているかは疑問が残る。まず、都市部の住宅価格は高騰のまま、子育て世帯への控除や金利優遇制度があっても取得費用そのものが下がるわけではない。となると買えるのは所得の高いパワーカップル世帯のみ。それも妻は正社員として働き続けることが前提でペアローンを組む。育休制度の拡充はあったとしても、ローン返済のためにフルタイムで働き続け、子育ても家事も担うとなれば、第2子、第3子を持とうという気になるだろうか。先の政府のレポートでも、「⼥性にとって⼦育てとキャリアを両⽴することは困難」、「フルタイム共働きで⼦育ては無理があるかもしれない」との当事者たちの声が反映されている。
では、住宅価格が比較的手ごろな地方圏はどうか。その場合、女性が相応の給与を得られる正規雇用の就職先がどれだけあるかがポイントだろう。現実にはそれが担保されていないから若者は都市部を目指すのであり、また、前時代的な「結婚したら女性がすべての家事を担い、出産・子育てをし、親の介護をするべき」のような風土が少しでも垣間見えたりすると、今どきの女性から敬遠される。むろん、これは都市部でも起こりうる。「結婚、子育てにメリットを感じない」との非婚者の声は、我々がそういう社会を構成してきてしまったツケなのだ。
所得の伸びに期待できない不安から、結婚も子どもを持つことにも踏み切れない若者に対し、行政がすべきことは何か。優遇するから住宅を買えではなく、買わなくても住まいに困らないと安心できる住宅供給制度が充実されることではないか。自治体は子育て世帯に対しては家賃補助などに取り組んできたが、経済的理由で結婚をためらう若者が増えている今は、彼らへの支援こそ欠かせないはず。最大のコストである住宅費を下げれば、生活費に余裕も生まれるからだ。真剣に少子化に取り組むなら、国や自治体はそろそろマイホーム取得主義から離れた、単身者向け住宅優遇施策を打ち出すべきではないだろうか。
シェアできる居場所づくりへの支援 ~ 永井ゆかり氏
永井ゆかり:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、闘う編集集団「亀岡大郎取材班グループ」に入社。住宅リフォーム業界向け新聞、リサイクル業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、平成15年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスクに就任。翌年9月に編集長に就任。現在、「地主と家主」編集長を務める。全国の不動産会社、家主を中心に、建設会社、建築家、弁護士、税理士などを対象に取材活動を展開。新聞、雑誌の編集発行のかたわら、家主・地主や不動産業者向けのセミナーで多数講演。2児の母少子化に歯止めがかからない。最大の原因といえる未婚化の進展についての指標では、2020年の未婚率が男性28.3%、女性17.8%(※1)となっている。2000年の男性12.6%、女性5.8%(※1)と比較すると、この20年で男性は2倍超、女性については3倍超に増加したことになる。
※1:国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集』、『日本の世帯数の将来推計(全国推計)』(2018(平成30)年推計)を参照
ただ、未婚化率上昇の原因には、若者の結婚に関する意識の変化もあり、その点から対策を講じることは難しい。そこで少子化対策として目を向けたい課題が、すでに子がいる世帯の育児に対する経済的負担と、育児や家事に対する負担が共に大きい点だ。結婚して本当は子どもがほしいけれど、この2つの課題により、諦めている夫婦もいるだろう。しかも、共働き世帯は、2000年は942万世帯(※2)だったが、2022年には1262万世帯(※2)へと増加している。ちなみに、私も2児の母で働きながら子育てをしているため、その負担を実感する当事者の一人でもある。
※2:総務省統計局「労働力調査(詳細集計)(年平均)」を参照
こうした状況の中で、目の前の課題の解決策となるのは社会福祉分野であるし、育児や家事についての負担割合は各家庭に因るところが大きいため、今回の主題である住宅政策における対応策とは違う。では、子育てしやすくするための住宅政策として、いわゆる住宅取得や家賃補助以外で何が考えられるのだろう。
私が着目しているのは、シェアできる居場所づくりだ。その居場所を提供する賃貸住宅のオーナーや運営者に助成制度を設けることを提案したい。シェアできる居場所として、例えば、子ども食堂があるだろう。最近全国で広がっており、その数は9000ヶ所(※3)を超えるという。
(※3:認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえおよび地域ネットワーク団体の2023年度12月速報値を参照)
こども食堂とは、子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂で、民間発の自主的・自発的な取組みだ。それゆえに運営を支援する公的な制度などが整備されていないのだが、こども食堂の数は増加の一途をたどっているという。私の知り合いの複数の賃貸住宅オーナーがこども食堂を定期的に運営しており、近所の店舗や町内会の集会所で行っている。自身が所有する不動産でも行えなくはないが、もともと空室がなかったり、空室があっても家賃の補助がなかったりするため、使用しない時間に場所を提供してくれる所で行っている。私の知り合いのオーナーの場合、費用については基本的にスポンサーの支援や募金だったり、オーナーが自己負担したりする。それでも、「近所で若い女性に声を掛けられて驚いてよく顔を見たら、こども食堂に来るお母さんでうれしかった」と笑顔で話すオーナーもいて、新たな交流が生まれている感じが伝わってきた。
助成金によって、賃貸住宅のオーナーが住宅として貸すのではなく、自宅以外の台所をシェアする環境を提供する機会が増えれば、親の経済的かつ家事的な負担を削減しつつ、地域の人と交流する機会も増やすことができる。こども食堂の認知度が高まり、もっと多くの食事を提供できるようになれば、経済的に困窮している人たちだけでなく、精神的にも負担に感じている子育て世帯を支援することはできるだろう。
子育てをしていて実感するのは、なるべく家庭内で抱え込まないことだ。その昔、近所付き合いが活発であったころは、自分の家にないモノの貸し借りもしやすかったし、何か用事がある時にはその間、子どもの面倒を見てくれる人や子どもが危険なことをしていると注意してくれる人もいた。服などのおさがりも近所で回っていた。シェアできる日常があちらこちらであったような気がする。今増えているシェアサービスとは違って、人間関係で成り立つプライスレスなシェア社会だ。
もちろん、その時代のような社会はもう難しいだろう。だが少し時間はかかっても、地域でいろいろな関わりを持てる人たちを増やしていけば、子育ての先輩は多くいるし、直接的なサポートをしてくれるかもしれない。国や自治体はこうした地域交流の場として住宅の一部を提供する志高いオーナーを支援することが、長い目で見た時に「子育ては一人で抱え込まなくても大丈夫」と思う若者を増やせるのではないか。
住宅政策と子育てを考える—地域のつながりの重要性 ~ 小沢理市郎氏
小沢理市郎氏:会津若松市出身。東京都立大学建築学科卒業後、都市計画コンサルタント、金融系シンクタンクを経て現職。建築・不動産・金融を切り口として、都市・住宅・不動産政策、不動産マーケットリサーチ、低未利用不動産再生を切り口としたまちづくりに従事する。合同会社鍬型研究所代表、一般社団法人タガヤス代表理事、株式会社地域デザインラボさいたまシニアアドバイザー、公益財団法人未来工学研究所研究参与。著書に、「安心の設計」中央公論新社(読売新聞社会保障部編集)(共著)、「空き家問題対策がよくわかる本」経済法令研究会(共著)、「地域創生と未来志向型官民連携」DBJBOOKs(共著)。
少子化や子育てに関して、住宅政策の視点により切り出すことはとても難しい。
都市部と地方部でも、考えなければならないことに違いがあり、住宅政策だけでは切り込めないことが多い。例えば、地方部ではすでに産婦人科開業医院の姿は消え、地域の総合病院に産婦人科があるだけの状態が多い。里帰り出産をしたくてもなかなかできない状況にある。都市部では(特に都心部では)、冒頭の解説文でも触れられているように、都心部に知縁・血縁があったとしても、住宅価格の高騰により、住宅取得が難しい状況にある。
最近公表された「都心マンションの価格高騰がもたらす住宅取得行動の変化に関する調査(公益財団法人日本住宅総合センター)」を見ると、都心マンション購入者の多くは20~30歳代が多く、その多くが元より都心に知縁・血縁がある。また、購入の理由としては、「出産などによる世帯構成員の増加」、取得時のこだわりとしては、「子育て環境」、「親元の近く」が多く挙げられている。
一方、出産及び子育てに必要なもの、欲しいものはなにか、ということを自分の経験も踏まえて大きくまとめると、一つはやはりお金。子どもが進学していくにつれ、覚悟の度合いが上がっていった。そしてもう一つは親族の手助けだ。私の両親は遠方に住んでいるため、妻の両親の近くに住まいを構え、出産以降、本当にお世話になった。我が家は年の近い二人の子どもだったため、その手助けがなければどうなっていただろうと思うほどである。
もし親族の手助けが受けることができない状況であれば、単独で踏ん張るか、知縁の手助けを受けるか、それに代わるサービスを購入するかになろう。そのサービスは一般的に高額であるため、共働きにならざるを得ない。
このようなことを踏まえて、あらためて住宅政策の視点で少子化や子育てについて考えてみると、出産をする・子育てをする世帯だけでなく、それを支える親世帯も含めて考えていく必要がある。例えば、であるが、多くの地方都市で、移住定住策として子育て世帯の支援策が行われている。その多くは補助金などの金銭的支援である。しかし、たとえ補助金があったとしても、知縁・血縁から離れてその地を選ぶかと言えば、私だったらなんとかして知縁・血縁のある地域にとどまる方法を考える。
つまり、子育て世帯を呼ぶ込む、支援するのであれば、その親世帯とともに移動しやすい、移動するインセンティブが働く施策をデザインするべきではないかと考える。
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