素材、設計、なにより法規制の壁が大きく立ちはだかる現状は打開できるのか?
最近よく耳にするようになった3Dプリンター住宅。これは立体成型が可能な3Dプリンターを活用して住宅の部材を作成し、それを組み合わせて、もしくは建設現場に3Dプリンターを持ち込んでその場で立体成型することで建設可能な住宅を指す。
3Dプリンター住宅は、もちろん規模にもよるが最短で20~30時間ほどで完成可能で、プリンターによる機械作業のため休みなく造り続けられるという点でも工期の大幅な短縮に寄与することができる。工期が極端に短いということは建築コストも大幅に削減可能で、3Dプリンター住宅の素材はその多くがコンクリート、モルタル、プラスチックなどで占められており、運搬が必要な壁や柱などの大きな資材を現地で成型することで運送コストも減らすことができるから、人件費も含めて大幅な削減が可能だ。
当然のことながら建設現場で発生する温室効果ガスも削減できるため、住宅・不動産部門で889万kl削減しなければならないとされている(昨年の646万klから243万klも増加していることに留意されたい)地球温暖化防止対策にも有効な手段になる。つまり、安価で簡易で、温室効果ガスも削減できるから、経済面でも環境面でも大いに期待できる3Dプリンター住宅なのだが、その普及に関しては課題が多いと言わざるを得ない。
良いこと尽くしの3Dプリンター住宅は、事実上、セレンディクス株式会社という専門企業が販売している“フジツボモデル”と“スフィアモデル”しかないのが現状で、供給力に限界があり、足元でも6棟のみ抽選販売している状況だから、一般に販売しているとは言い難く、買いたい人がすぐ買えないという意味では普及には程遠い。
また、建設(成型)素材には速乾性のコンクリートやモルタル、一部プラスチックなどが使用されているが、これらの建材は建築基準法に対応していない。海外では金属炭素繊維、木質繊維、バイオ樹脂などを使用する例もあるが、これらももちろん建築基準法には未対応の素材だ。
当然のことながら、鉄骨&鉄筋ほかの“指定建築材料”を使用しない場合は、その建築物の安全性を証明し、国土交通省から物件ごとに認定を受けなければならないが、その手続きが極めて大変で時間も要する。
建築確認申請をする必要もあるが、これも3Dプリンター住宅の場合は個別に耐震性や断熱性ほか様々な基準をクリアしなければならないため、極めてハードルが高いとされる。さらに、建物が大きくなるほど現在の3Dプリンターでは対応が難しく、意匠や細かいデザイン面でも技術的に追いつかず、構造計算の課題など現実的な問題にも直面している。
このようにメリットが大きい半面、課題も山積している3Dプリンター住宅だが、普及を後押しするために必要な方策は何か、自然災害の極めて多い日本において3Dプリンター住宅が新たな生活基盤を支えるカギとなる可能性はないのか、など建築分野に知見のある専門家に見解を聞いた。
二極化する提供価値 ~ 高橋正典氏
高橋 正典:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など安くて早い、意匠性にも優れ、エコで社会課題の解決につながる3Dプリンター住宅。その技術は日進月歩で、この記事に書かれることも恐らくすぐに解決されるのかもしれないが、現状における課題と起こりうる未来を考えてみたい。
まず消費者にとって最もメリットのある「安い」という点においては、その価格があくまで「本体価格」のみであることには注意が必要だ。基礎工事や配管、内装工事費は別途あることから、これらを合計することで現存する住宅施工費と比べて価格優位性は減る可能性は高い。また、先行する企業が提供するものには、建築基準法に基づく国土交通大臣の認定を取得していないものが多く、今後これらの基準をクリアしていく過程で価格転嫁が起きてくる懸念もある。
他にも、外壁はプリンターの特性上ボコボコしたような形状いわゆる積痕(せきこん)と言われるものが残ってしまう場合がほとんどで、メンテナンスの重要性が今後課題となると言われている。目立つ汚れの問題から、クラックした場合の雨水の侵入は構造へのダメージが大きく、屋根の形状や軒の有無などの技術が向上していくことが求められる。他にも、金融機関の評価基準も未整備であり住宅ローンが組めないことなど、様々な理由によりまだ日本では本格供給には至ってない。
こうした現状を踏まえて、筆者は今後3Dプリンター住宅市場が二極化していくと考えている。
遡ること15年ほど前、現在ほど中古住宅市場が活性化していない時期、中古住宅は新築住宅に価格的に手が届かない層の方が購入検討する時代だった。従って自ずと「中古住宅=安い」ということが選択材料となっていたが、現在は安いから中古住宅を選択するということだけではなく、立地・性能・可変性等あらゆる要因を比較し、敢えて中古住宅を選択する方も増えた。3Dプリンター住宅もこれまでは「安い」「早い」というメリットが強調されてきたが、仮に現存する住宅との価格優位性がなくても選択されるような市場が生まれるのではないだろうか?
昨年、株式会社大林組が国内初となる、建築基準法に基づく国土交通大臣の認定を取得した構造形式で建てた3Dプリンター実証棟を完成させて話題となった。まさに、ベンチャー的な市場から大手も参入する市場になっているということだ。環境に配慮したエコな住宅としての価値や、頻発する震災に備えたシェルターとしての価値などを踏まえると、次世代へ向けた高付加価値住宅としての可能性を感じている。もともと注目されてきた住宅取得価格の低減というメリットとともに、その提供価値は広がっていくだろう
3Dプリンター住宅の可能性 ~ 宮村昭広氏
宮村昭広:株式会社住宅産業新聞社代表取締役。1957年長崎県生まれ。大学卒業後、家電業界専門紙の新聞記者として、冷暖房や照明から水回りまで幅広く住宅設備分野を取材。さらに住宅専門誌の編集などを経て、住宅産業新聞社に。移籍後は住宅産業新聞の記者として住宅設備・建材業界、旧国土庁(現・国土交通省)や旧建設省(同)を取材し、その後取締役編集長として大手ハウスメーカーを担当。2015年から代表取締役にプラモデルのように簡単に家が作れないものか――。かつて子どもだった頃の夢だが、3Dプリンター住宅が話題になった時に、真っ先に頭に浮かんだのがこの夢だった。夢が現実になる日は近づいたのだろうか。
ご承知のように、3Dプリンターとはコンピュータ上で作った3次元(縦×横×奥行き)データを設計図として、断面の形状に沿って素材を積層することで、複雑な曲面などデザイン性の高い形状であっても短時間で立体にできる優れもの。
特に、最近の機器・システムの大型化を受けて、建設時のCO2排出量の削減や自動化施工に伴う省人化効果も期待できるとして建設業界が注目。ゼネコンの大林組は、2023年4月にセメント系材料による3Dプリンター実証棟「3dpod」を、東京都清瀬市の同社技術研究所敷地内に完成させた。
これが公表された時には、「3Dプリンター住宅」として話題となり、マスコミを含め各方面からの問合せも多かったという。だが、同社としては「実証棟なので小規模サイズだが、あくまで想定は大型の建築物」と困惑気味。むしろ、一般の住宅は想定していないという。
他の住宅企業も同様の見方が多い。短工期で低価格というメリットは、あくまでモルタルを積層するだけの施工方法に由来するもの。かなり奇抜なスタイルなので、一般向けの住まいとしては受け入れられにくいとの判断による。追加で内外装に費用をかけるのも本末転倒だからだ。
さらに、建築後の増改築や間取りの変更においても課題がある。間仕切りの除去や壁面に切り込みや穴を空ける工事が必要になった時、躯体の強度に影響が出る可能性が見込まれるからだ。分野は違うがテスラ社のEVは、フレームの一体成型ゆえに、小さな傷や凹みなどわずかな不具合の場合でもインナーフレーム全体を取り換えることとなり、修理代が高額に及んだ事例もあると聞く。同じ一体成型の3D住宅にとっても、低コストで強度を劣化させないリフォーム技術の確立は必須といえる。
一方で、応急仮設住宅としての活路はありそう。仮設の使命を終えても、その先も使い続ける恒久化という要望が増えている。寒冷地や蒸暑地といった、多様な気候風土に応じた仕様の使い分けが必要だが、低コストで短工期というメリットも生かせそうだ。
また、海外のアフォーダブル住宅の用途も期待が持てるかもしれない。世界的には住宅不足が叫ばれている状況にあって、低コストで短工期は大きなメリット。持ち家だけでなく賃貸住宅も含めて可能性はある気がする。
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