不動産を軸にさまざまな事業を仕掛ける、株式会社And Doホールディングス

“VUCAの時代”と呼ばれるほど、現代社会は変化の波が速く大きく、将来を予測するのが困難な時代だ。パンデミックや気候変動、急速な技術革新など、これまでの常識を覆すような変化が次々と起き、社会課題が山積する中、企業に求められる役割も変化している。事業活動の手法や社会で果たすべき役割は多岐にわたり、それは不動産・住宅業界においても例外ではない。

今回の企画は、暮らしや住まいに対する人々の価値観も変容する現代社会において、常に革新・挑戦を続けている住宅・不動産会社のトップに話を聞き、これからの不動産業界や住宅業界・企業のあり方を考えるものである。

本記事で取り上げるのは、「ハウスドゥ」の名で知られる不動産フランチャイズ事業をはじめ、不動産×金融関連サービス、不動産情報のオープン化など、不動産を軸にさまざまなチャレンジを続けてきた株式会社And Doホールディングス。どのように社会に対して新しい価値を生み出してきたのか、地域に対する役割、責任をどう考え、どう果たしていくのか、株式会社And Doホールディングス代表取締役社長CEO 安藤正弘氏に、その想いとビジョンを聞いた。

株式会社And Doホールディングス代表取締役社長CEO 安藤 正弘氏株式会社And Doホールディングス代表取締役社長CEO 安藤 正弘氏

「一般消費者が損をする、不動産業界の仕組みを変えたい」創業時の想い

安藤 正弘(あんどう まさひろ):1965年、京都府生まれ。1991年、京都府向日市で不動産売買仲介会社を創業。全国にフランチャイズブランド「ハウスドゥ」を広げる。ハウス・リースバック事業、リバースモーゲージ保証事業等を展開し、2022年、株式会社ハウスドゥからAnd Doホールディングスに商号変更。2023年にはタイでも不動産フランチャイズ事業を開始安藤 正弘(あんどう まさひろ):1965年、京都府生まれ。1991年、京都府向日市で不動産売買仲介会社を創業。全国にフランチャイズブランド「ハウスドゥ」を広げる。ハウス・リースバック事業、リバースモーゲージ保証事業等を展開し、2022年、株式会社ハウスドゥからAnd Doホールディングスに商号変更。2023年にはタイでも不動産フランチャイズ事業を開始

編集部:御社といえば、フランチャイズブランド名である「ハウスドゥ」のイメージを持つ読者も多いと思います。いまや全国各地で「ハウスドゥ」の看板を目にします。どのような経緯で会社を立ち上げたのか、創業時の想いをお聞かせください。

安藤氏:私は京都の生まれで、バブル崩壊の頃に不動産業に携わっていたのですが、そこで肌で感じた“不動産業界への疑問”が出発点になっています。
まず、不動産は多くのお客様にとって人生で一番高い買い物であるにもかかわらず、不動産会社とお客様の間にある情報格差があまりにも大きいこと。これはなぜだろうと。お客様が物件の情報にアクセスできないのは、不動産会社が自社の利益のためにすべての情報を見せないからです。オープンな情報が少ないと物件の適正価格が見えにくい。一般のお客様が損しやすい業界構造になっていると感じました。当時は、今よりもその状態が業界の慣習として当たり前だったのです。

もう一つ、自分で人を雇う立場になって、とても苦労したんです。とにかく応募者が全然来ない。来ても消極的な理由で不動産業界を選んでいる人間ばかりだったり、海外では不動産系の専門職といえばエリートが就く職業なのに、日本では優秀な人材の確保がこんなにも難しいのか、と感じました。お客様のためにいい業界をつくるためには、若者が働きたくなる業界に変えなければと思ったんですね。不動産業界全体のイメージがあまりよくなかったからこそ、先駆けてその価値観を広げられればビジネスチャンスになるとも思いました。

編集部:お客様に安心・満足できる不動産取引を提供したい、それがフランチャイズ事業の発端だったんですね。

安藤氏:一社でできることは限られますから、不動産業界全体をよくしていくために、日本を代表するフランチャイズチェーンをつくろうと思いました。当時のアメリカでは不動産のフランチャイズチェーンは増えていましたが、日本ではまだほとんどなく黎明期でしたね。

不動産フランチャイズ「ハウスドゥ」を展開。全国1,000店舗・アジア50,000店舗へ

編集部:日本でフランチャイズ展開はまだまだ認知もなく、手探りだったと思いますが、どのようなことがフランチャイズのメリットだと感じて取り組まれたのでしょうか。

安藤氏:多くのお客様にとって、不動産は高額な買い物です。さらに人生でそう何度もない経験です。安心して家を売買するには、他の業種と比較しても「看板・ブランド」への信頼性が非常に重要です。「ハウスドゥの看板を掲げているなら安心できる」とお客様に思ってもらえるよう、どの加盟店でも同一水準のサービスを提供できるよう、教育とマニュアル化を徹底しました。さらに現場の事例やノウハウをフィードバックして全店舗で展開できるようブラッシュアップしていきました。この一連の流れを同じ水準で広く展開できることが、フランチャイズシステムの強みです。

不動産フランチャイズ「ハウスドゥ」を展開。全国1,000店舗・アジア50,000店舗へ

編集部:一人一人のお客様への対応がハウスドゥブランドへの信頼、ひいては不動産業界全体への信頼を積み重ねていくことにつながるのですね。

安藤氏:そうですね。加えて、全国に直営店・フランチャイズ加盟店が広がることは事業面でもメリットが大きいです。情報が広く集められる分、地域性に合わせた集客などマーケティング観点でも優位ですし、お客様のニーズを洗い出し、次にどのような価値を提供していけばいいのか、次の一手を常に模索することができます。サービスの質を向上させながら、現在約700店舗、ゆくゆくは全国1,000店舗を目指しています。

ハウス・リースバックやリバースモーゲージ保証等、お客様に新たな選択肢を

「ハウス・リースバック」スキーム図:ハウスドゥが買い取り、売却後はリース契約をしてそのまま住み続けられるサービス。住宅ローンの残債があっても相談可能。「家を手放したくない」「引越しは避けたい」という人々に選ばれている
「ハウス・リースバック」スキーム図:ハウスドゥが買い取り、売却後はリース契約をしてそのまま住み続けられるサービス。住宅ローンの残債があっても相談可能。「家を手放したくない」「引越しは避けたい」という人々に選ばれている

編集部:フランチャイズの強みを生かして、不動産仲介事業だけでなく、時代に即したさまざまな不動産関連サービスを開発・提供されています。その背景と狙いを教えてください。

安藤氏:我々は自社のことを「不動産サービスメーカー」と呼んでいます。不動産を軸に、リフォーム事業や中古住宅再生事業、金融関連サービスなど、暮らしの豊かさを広げる新しい事業を手がけてきました。中でも主力事業の一つに成長したのが、「ハウス・リースバック」です。お客様が所有されている不動産をハウスドゥが買い取り、売却後はリース契約をしてそれまでと同様に住み続けていただくシステムです。「老後の資金に不安がある」「まとまった資金を用意したい」「自宅を売却してローンを解消したいが自宅に住み続けたい」などのニーズに対応できます。2013年にサービスを開始し、全国で累計5,000件ほどのお客様にご利用いただいています。

編集部:日本は65歳以上人口の割合が28.9%を超えた超高齢社会です。多くの高齢者が直面しうる老後の資金問題の解決に役立つサービスですね。

安藤氏:同じく高齢者の課題解決につながるものとして、2017年から提供を開始した「リバースモーゲージ保証事業」があります。リバースモーゲージは、老後の生活費などの資金調達方法の一つとして、お客様が所有する自宅などの不動産を担保に、金融機関から融資を受けられる制度です。ただ、元金の返済には不動産の売却が伴うため、もともと不動産の専門家ではない金融機関では扱いにくい制度でした。急にお金が必要になっても融資を受けにくい実態があったのです。
その点、全国にフランチャイズ販売網と売買ノウハウを持つハウスドゥであれば、適正な査定評価に基づく債務保証を行うことができ、さらに不動産の処分まで地域を問わず受け持つことができます。銀行や信用金庫など45の提携金融機関にこうしたハウスドゥが持つ強みを提供し、リバースモーゲージ普及促進の支援をしています。債務保証実績は124億円に上ります。リバースモーゲージ保証事業は、お客様の人生に選択肢を増やすことにつながり、また、日本経済の活性化も促す社会的意義の高いサービスだと思います。

なぜ不動産情報のオープン化に取り組むのか

なぜ不動産情報のオープン化に取り組むのか

編集部:次に、不動産情報のオープン化についてうかがいます。2023年5月には「不動産ID官民連携協議会」が発足するなど、官民が連携して不動産情報の透明化に向けて動き始めています。御社も早くから不動産情報のオープン化を掲げてこられましたが、不動産業界全体は今後どのように変わっていくと思われますか?

安藤氏:お客様のためを思えば、私は不動産情報のオープン化は必要だと思っています。お客様はたくさんの物件情報の中から希望の住まいを選びたい、心から納得して選びたいと思っています。それは今も昔も変わりません。だから当社の直営店・フランチャイズ加盟店では、できるだけすべての物件をお客様にお見せしています。
しかし、不動産業界全体で見れば、「本音はオープン化してほしくない」と思っている会社は一定数いるでしょう。不動産情報がオープン化されると、いわゆる両手仲介(売主・買主の両方から仲介手数料を得ること)がしにくくなる、利益が減る可能性があるからです。とはいえ海外の流れを見ていても、日本も近い将来オープン化の方向に進んでいくでしょう。不動産情報がオープン化されている海外では、お客様も過去の売買履歴や相場情報が分かりますから、取引において透明性が高いんです。結果、お客様満足度の高い適正価格での売買につながります。

将来的に日本もそうなるのであれば、むしろビジネスチャンスと捉えて、一歩先んじて仕掛けていこうと私たちは取り組んできました。不動産業界全体、国や行政も巻き込んで進めていくべきだろうと考えています。

お客様目線での住まいの提案ができる、健全な会社が生き残る業界へ

編集部:常に革新を続けてきた御社ですが、過去10年間の売上は毎年平均20%成長、中期経営計画(2023年6月期~2025年度6月期)でも高い目標を掲げられています。計画達成に向けてどのようなチャレンジが必要だとお考えですか。

安藤氏:まず、不動産業界を代表するフランチャイズチェーンとして、店舗網をさらに広げ、全国1,000店舗とすること。さらに成長強化事業であるハウス・リースバックや金融事業などに対して積極的に投資を行い、不動産×金融サービスの深化を図っていきます。また、海外事業にも注力していきます。ようやく新型コロナウイルスの影響が落ち着き、2023年3月にタイでフランチャイズ店舗1号店をオープンさせることができました。タイでの目標は500店舗、アジア全体では50,000店舗を目指しています。海外事業では「日本人が思ういい家」を提供してもうまくいきません。現地の人々が求めているものや生活習慣を理解し、タイの人々が住みたいと思う家を提供することが重要です。

また、DX、少子高齢化、グローバル化と、この先の数年で不動産業界もさらに激動を迎えるでしょう。常に当たり前を疑い、社会の潜在的なニーズをつかみ、お客様目線で「あったらいいのに」と思うものを今まで以上に生み出していこうと思っています。そのためには、不動産に関するトータルコーディネートを提供できるよう、今後も積極的に金融業界をはじめ他業界とタッグを組んでいきます。

編集部:最後に、今後の不動産業界についてうかがいます。激動の現代社会において、今後どのような会社がお客様や社会から求められ、事業成長を続けていくと思われますか。

安藤氏:不動産情報のオープン化への姿勢ともつながりますが、古い商慣習や常識にとらわれることなく、お客様目線に立った提案ができる、健全な会社だけが生き残る業界になっていくでしょう。そんな業界になってほしいですし、私たちは全国に独自のフランチャイズチェーンを持つ立場として、業界の健全化に貢献したいと思います。不動産にまつわるあらゆる悩みに対応できる“不動産コンビニ”として、お客様と社会から求められるものを提供し続けていきたいと考えています。

ハウスドゥのブランド理念は、「私たちは日本の住宅市場をオープンにし、お客様のライフステージに即した理想の住宅を積極的に住み替えたりできる『住まいの新しい流通システム』を築きます。」というもの。一生で5回ほど住まいを買い替えるというアメリカのように、「ドゥ=Do」にはお客様のアクションを応援する想いが込められているというハウスドゥのブランド理念は、「私たちは日本の住宅市場をオープンにし、お客様のライフステージに即した理想の住宅を積極的に住み替えたりできる『住まいの新しい流通システム』を築きます。」というもの。一生で5回ほど住まいを買い替えるというアメリカのように、「ドゥ=Do」にはお客様のアクションを応援する想いが込められているという

※記事の記載内容及び数値は、2023年6月インタビュー時の情報です

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