環境に配慮した建物を建てることは良いこと?
前回記事で、現在の日本において「住宅のアフォーダビリティ問題」はないといってもよいと述べ、同時に日本やアジアの各都市において今後に重要になってくるのは、「住宅市場の持続可能性」であると説いた。本稿では、建物に対する環境配慮の要求が住宅市場の持続可能性に与える問題について紹介したい。
一見、環境に配慮した建物を建てることや、それを促進することは正しいことのように思うかもしれない。しかし、その過度な圧力は、さまざまな問題を生み、住宅市場の持続可能性に悪影響を与える恐れがあると考える。
気候変動と高齢化が造成宅地の空き家化と所得分布の不平等を促進
日本では、高度経済成長期からバブル期にかけて、人口が増加し住宅価格が高騰した。この時期には、山を切り開いたり、地盤の弱い農地を宅地に転用したり、埋め立てをしたりしながら住宅地を拡大していったが、とりわけ中・低所得世帯が、都心から離れ、そのように造成されていった地域に住宅を持つようになった。今日、このように造成された地域は、現在は大きなリスクにさらされてしまっている。要因は、気候変動と高齢化である。
まず高齢化が進展していくと、傾斜が大きい坂が多いところには住むことができなくなる。そうすると、平地部へと移動しようとする圧力が高まっていく。しかし、坂の多い地域の買い手はなかなか見つけることはできないことから空き家となってしまう。または、売却ができないために、その土地に固定化されてしまうといった問題も出てきている。
そこに、気候変動に伴う圧力が加わる。地球温暖化や気候変動に伴い、年々に世界規模で災害が激甚化し、今まで経験したことのない集中豪雨が発生している。山を切り開いた宅地では土砂災害が発生しやすく、農地だった地域を転用したり、埋め立てられたりした地域では、浸水被害のリスクも高い。とりわけ地球温暖化で海面が上昇してきているために、水のリスクは年々に大きくなってきている。さらには、温暖化が進む中で、山火事による被害も深刻化している。そのような中で、安全に住むことができる場所が限定されてきているのである。この問題は、中・低所得者に集中しやすいことから、所得分布の不平等度に拍車をかけている。また、所得水準が低いほどリスクにさらされているという問題が発生しているとも考えないといけない。
建物の環境配慮への要求が、環境負荷の高い建て替えを促してしまう
もう一つのリスク要因は、エネルギーコストの高騰と環境への配慮であろう。社会全体が高い環境への配慮を要求しているが、それが住宅市場のリスクを高める要因にもなっていることに気が付かないといけない。環境配慮に対する要求が上昇していけば、既存ストックの陳腐化が高まり、建て替え更新への圧力が高まる。つまり、社会のルール変更によって、あと20年使うことができた住宅も寿命が10年に縮んでしまうこともある。環境基準が強い欧州では建て替えが進んでおり、建設ラッシュのようになっているが、このような建て替えはかえって高い環境負荷を与えているという批判が大きくなってきているのだ。
建物の取り壊しと新規の建築は、環境に対して高い負荷を与えてしまうことは簡単に予想されることである。建物の環境配慮への要求により、新しい建築基準を作ったり、環境性能をポータルサイトなどに掲載したりして、環境性能の高い住宅を普及させようとすることで部分最適は実現できても、全体最適にはつながらないことが認識されつつある。
環境配慮に対する要求の上昇がもたらす低所得世帯へのダメージ
何よりも高い建物の環境配慮の要求は、低所得世帯に大きなダメージをもたらす。
環境配慮をした建築物の促進に、日本のように補助金や税控除を与えて公的資金が使われるとすると、その政策は高い逆進性を持つことになる。環境配慮への投資は、一定の所得以上の家計が中心となり、そのような高所得世帯のエネルギー費用の節約のために補助金が使われることになるため、所得格差を一層に拡大してしまうのである。
一方低所得世帯は、価格が抑えられたエネルギー効率の悪い建物に住まざるを得ないことが多いために、エネルギーコストの上昇は、家計の生計費をひっ迫させる。例えば、環境配慮がされていない住宅に安い家賃で居住していたときに、その住宅が環境配慮をした住宅に建て替えをしたとすれば、光熱費の節約分以上に家賃が上昇してしまう確率が高い。そのようなことから、環境配慮に対する過度な圧力は、低所得世帯の住宅費を高騰させてしまう可能性がある。
これらは現在、欧州から米国にかけて議論が始まっている問題である。そして、これらの問題は、住宅市場そのものの持続可能性の問題へとつながっていく。
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