補助金の規模は45億円 こどもみらい住宅支援事業の12分の1以下

前回執筆したオピニオン(こどもみらい住宅支援事業、あるいは日本の住宅ストックの中長期的強靭化について)で、こどもみらい住宅支援事業ほか、国の補正予算で毎年実施され続けている住宅購入やリフォームなどに関する補助金事業が実にたくさんあって、住宅ローン減税の制度変更によって控除率が縮小されたからといって住宅が買いにくくなったと悲観する心配は全くない、との論旨を展開した。

この件に関連して、2009年に施行された「長期優良住宅普及促進法」を背景とした“長期優良住宅化リフォーム推進事業”(2013年度補正予算から継続して実施)の効果はあるのかについて意見を求める声が届いたので、今回はこの長期優良住宅化リフォーム推進事業をテーマに見解を述べることとする。

長期優良住宅化リフォーム推進事業とは、既存住宅(中古住宅)において、劣化対策や耐震性、省エネルギー対策など、住宅の性能を一定の基準まで向上させるリフォーム工事費用に対し、国が補助金を交付する制度で、令和3年度(2021年度)補正予算には45億円が計上された。

紛らわしいのは、この補助金事業の対象となるのが一定の基準まで住宅性能を引き上げた場合のリフォーム工事、つまり長期優良住宅化=(認定)長期優良住宅の基準を満たすリフォームを実施する必要があるように考えられがちだが、実際には一定の基準さえを満たしていれば補助金の対象となる。つまり長期優良住宅と長期優良住宅化の名のもとにリフォームすることは似て非なるものだという認識がポイントになる。

いくつかのリフォーム会社のウェブサイトには、長期優良住宅化リフォーム推進事業の補助金を受けるためには、長期優良住宅に改修する必要があるとの主旨、もしくは長期優良住宅の説明に終始してこれ以外の選択肢がないような説明が記載されており、これはより高額なリフォームの受注を前提とした誘導とも受け取れるから、リフォームによって長期優良住宅の認定を受けなくても「一定の基準」を満たしていれば補助金の対象になることをここで念押ししておきたい。

なお、上記の「長期優良住宅普及促進法」は長期優良住宅を対象とした容積率緩和の特例制度が創設されたことに伴い、特例制度の対象となる住宅の敷地面積の規模を定めた改正法が同じく2021年に施行されている。

長期優良住宅の認定を受けなくても、一定の基準を満たしていれば補助金の対象になる「長期優良住宅化リフォーム推進事業」長期優良住宅の認定を受けなくても、一定の基準を満たしていれば補助金の対象になる「長期優良住宅化リフォーム推進事業」

長期優良住宅化リフォーム推進事業の概要

補助対象となる条件の一つが、既存住宅状況調査技術者によるインスペクションの実施だ補助対象となる条件の一つが、既存住宅状況調査技術者によるインスペクションの実施だ

では、対象となるリフォーム工事とは何かというと、
①建築士である既存住宅状況調査技術者が行うインスペクション(建物現況調査)を実施し、維持保全計画および修繕履歴を作成すること
②リフォーム工事後に耐震性と劣化対策、省エネルギー性が確保されること
の2項目となっている。

補助率はリフォーム工事費用の3分の1までで、上限は1戸当たり100万円だが、ここからが国の施策のややこしいところで、長期優良住宅の増改築認定を取得できるレベルまで性能を向上させた場合は1戸当たり200万円に上限額が引き上げられ、さらに省エネ性能を向上させる場合はプラス50万円の250万円までとなる。
基準となる補助金の2.5倍が支給されるから、より良質な住宅を取得するための改修促進という点では、住宅性能という品質に応じた補助金制度という立て付けになっている。

性能向上とは別に、三世代同居リフォーム工事を併せて実施する場合は、上記に加えて50万円を上限として補助金が支給されることになっており、また若者・子育て世帯がリフォーム工事を実施する場合、もしくは既存住宅を購入して上記の対象リフォーム工事を実施する場合も別途50万円が加算される(仮に若者・子育ての対象となる世帯が両親と三世代同居のためのリフォーム工事をした場合は100万円加算されそうなものだが、それについてはどこにも記載されていないので長期優良住宅化リフォーム推進事業実施支援室に確認したところ、令和3年度ではこのケースでも加算上限は50万円との回答を得た)。

良質な既存住宅(中古住宅)市場の形成には施策の継続が必要

2021年度から10年間の国の住宅政策の方向性をまとめた「新たな住生活基本計画(全国版)」が2021年3月に閣議決定され、このうち「住宅ストック・産業の視点」では、既存住宅流通の活性化が再び掲げられた。
これまでと同様に、安心R住宅の推進および長期優良住宅の拡充など、既存住宅の情報が購入者に分かりやすく提示される仕組みの改善を実施して、購入者の中古住宅に対する安心感を高め、流通を促していく方針だ。

ちなみに、2020年度までの計画では、既存住宅流通とリフォームを合わせて20兆円規模に市場を倍増させるという成果目標が掲げられていたが、現状は12兆円程度、つまり約10年で2兆円の伸びにとどまっている。
このため、これまでの市場拡大状況を考慮して、現実的な数値目標として市場規模を2030年度に14兆円に拡大する成果指標が掲げられた。住宅性能に関する情報が明示された(良質な)住宅の流通割合も、現状の15%程度から2030年度は50%に高めるとしている。

世界的な気候変動やコロナ禍を契機とした多様な住まい方の進展、および自然災害が頻発・激甚化する住生活をめぐる課題は、対策に“待ったなし”の状況だから、新築住宅の建設・供給によって新たに良質な住宅を増やすだけでなく、長期優良住宅化リフォーム推進事業の推進によって中古住宅を良質化することは必要欠くべからざる施策であることに疑いの余地はない。国民に向けて大いに啓蒙し、日常生活においては居住性が高く快適でエネルギー効率も良好かつ低コスト、災害時においては蓄電池などを活用してエネルギー自給が可能で自然災害にも強いという“長期優良住宅化リフォーム”の活用促進に向けてアピールしてもらいたいものだ。

笛吹けど踊らず?住宅の長期優良”化”に向けた課題とは

社会構造を支える基盤のひとつである住宅政策、なかでも良質な住宅の増加に伴う流通市場の活性化は、上記に記すまでもなく以前から住生活基本計画などに繰り返し謳われてきていることだが、その市場規模は目標の20兆円には遠く及ばない状況にある。

国が掲げた目標ほどに流通市場およびリフォーム市場が活性化しない要因には、もちろん日本人の“新築信仰”が依然として強く、人生で一番高い買い物をするのだから誰も住んでいないものを買って住みたいという気持ちで住宅を選択するユーザーが圧倒的多数を占めることも挙げられるだろう。

近年ではリフォーム&リノベーションの技術が飛躍的に向上し、リフォームコストの低価格化と併せて徐々に中古住宅を選択する購入者も増えてきてはいるが、それでも最新の住宅設備、セキュリティ、居住性を兼ね備えた新築住宅の魅力には抗いがたいものがあるのも事実だ。
また、住宅ローン減税の制度も2022年度からは新築に厚く、中古にはやや薄いという“格差”が設けられたことから、より新築住宅が“お得”という心証形成に誘導されやすい状況にあることも一因ではある。(関連記事:2021年の不動産・住宅市場を振り返る。なぜ、コロナ禍でも住宅需要は落ち込まなかったのか?

さらには、購入後の保証という点でも、新築住宅は10年という期間が設定されているのに対して、個人間売買が多数を占める中古住宅流通では原則保証なし、買取仲介でも売主の保証は2年とされているから、たとえ高額であっても(高額であるからこそ)安心して長く住める住宅が欲しいと考えるならば、新築住宅に目が向くのは当然のことといえるのかもしれない。

中古住宅を購入してリフォームという選択肢を阻む消費者心理とは中古住宅を購入してリフォームという選択肢を阻む消費者心理とは

それでも、中古住宅を比較的安価に購入して補助金の対象となる長期優良住宅化リフォームを実施し、新築と全く変わらない快適性を得て生活するというモチベーションになかなかつながらない最大の要因は、リフォーム工事の品質および内容などが千差万別で確固とした価格の基準がなく、もともと知識のない一般の消費者には良しあしが判断できないという“不安要素”が極めて大きいことを指摘しておきたい。

実際には補助金の対象となるリフォーム工事のみを委託するのではなく、好みに応じてより快適に満足度の高いリフォームを望むケースが圧倒的多数だから、そうなるとコストがいくらかかるのか皆目見当がつかず、結局実績の多い大手リフォーム会社や友人・知人を通じて紹介してもらった先に頼ったり、口コミを確認したりという人伝(ひとづて)が多いのが現状ではないか。
リフォーム会社のおすすめランキングなどもウェブ上で公表されてはいるが、これも客観性や公平性などが担保されたものではなく、口コミやコンサルタントの独自基準によるものだから、結局最終的には依頼者の自己責任に帰結してしまう。
住宅購入だけでなく、リフォームに関しても運頼みの要素が多分に含まれる状況は依頼者にとって極めてストレスフルかつリスキーであり、結局敬遠される方向にユーザーの気持ちを向かわせることになる。

ちなみに、国民生活センターに寄せられるリフォーム工事や点検商法による相談件数はコロナ禍でも増加傾向にあり、現状で年間の相談件数が公表されている2020年は約1.6万件と前年から3,000件、割合にして約15%も増加しているから、リフォームで後々のトラブルの種を抱えたくないとする心理も理解できる。
この件に関して、国交省では「住まいるダイヤル」を設置して具体的な相談を受け付けたり、2014年に「住宅リフォーム事業者団体登録制度」を創設し、事業者団体を通じて消費者が安心感のある住宅リフォーム事業者の選択を可能にしたりするなどの市場環境の整備を図ってはいるが、トラブルは一向に減る気配がないから(つまり制度に実効性がないということになる)、リフォーム事業者の信頼性の獲得に向けて新たな手段を講じる必要があると考える。

リフォーム事業者の信頼性だけではない 課題はほかにも

長期優良住宅化リフォームと長期優良住宅は異なるということについては前半で述べたとおりだが、実は長期優良化リフォームの基準も、一般には決してハードルは低くない。
上記のとおり、①のインスペクション(建物現況調査)と維持保全計画および修繕履歴を作成することについては、建築士である専門家のインスペクターに依頼するしかない。しかしこれも、大半はリフォーム事業者経由で依頼することになる可能性が高いから、その信頼性についてユーザーは全く関知できない。専門家なのだから信頼するしかないという点では一抹の不安は残るだろう。
例えば専門家としての経歴、具体的には耐震診断や耐震改修の経験のある建築士であるかどうかなどは、長期優良住宅化リフォームの補助金を受ける前提であれば念のためチェックしておきたいものだ。

また、②のリフォーム工事後に耐震性と劣化対策、省エネルギー性が確保されることについては、「特定の性能項目を一定の基準まで向上させる工事」を実施しなければならないので、耐震性においては耐力壁の増設や屋根の軽量化(瓦屋根の交換)など、構造躯体の劣化対策では床下の防腐・防蟻処理、ユニットバスやトイレ、キッチン、給排水管の交換など水回りの見直し全般、省エネルギー性では断熱サッシュへの交換や内窓の設置に高効率給湯器の設置、などについて専門家であるリフォーム事業者から説明を受けつつ、施主・所有者である当事者が判断しなければならない(マンションでは共有部分との兼ね合いがあるためサッシや玄関ドアの交換はとてもハードルが高い)。

ほかにもバリアフリー改修や①で指摘された箇所の補修はマストだし、高齢になった際や要介護者の準備目的での改修、コロナ禍では必須ともいえるテレワーク対策としてのオン/オフ切り替えのための改修も検討する必要があるから、これらを一つ一つ検討し、予算に応じて適切に判断していくというのはなかなか骨の折れる作業になることは間違いない(これらに加えて三世代同居や若者・子育て世代に必要な改修工事もあるからリフォームには膨大な労力と一定の期間がかかるとの覚悟が必要だ)。

さらに、補助金交付申請をした内容のとおりに工事が完了し、建築士による適合確認を受けて完了報告書を提出しなければ補助金の最終的な交付額は確定しない。
また補助金の交付対象はリフォーム事業者なので、発注者である施主に交付金が渡るまでは事業は完結しないというわけだ(もちろんこの段階で施主とリフォーム事業者に信頼関係が構築されていないとは一般に考えられないことだが)。

ほかには、この補助金の対象は中古住宅(一戸建てかマンション)であり、事務所や店舗併用住宅の場合は住宅部分のみが適用対象となる(リフォーム前も後も床面積の過半が住宅であることが条件)など、細かい規定も多々存在するし、一戸建ての場合は階段を除く1つの階の床面積が40m2以上かつ床面積の合計が55m2以上、マンションの場合は40m2以上の広さがなければ対象とならないことにも注意が必要だ。もちろん面積の算定基準は間取り図で採用されている壁芯面積ではなく、登記簿上の内法面積であることもお忘れなく。

このように手間と時間のかかる長期優良住宅化リフォームだから、初めから長期優良住宅の仕様で建築された一戸建てもしくはマンションを購入したほうが(すなわち新築住宅のほうが)面倒がなくて簡単、さらに住宅ローン減税の対象としても年末の住宅ローンの元本上限が5,000万円に設定されているので“お得”と考える人が増えても全く不思議ではない。
それでも長期優良住宅は令和2年度(2020年度)で一戸建てが10万503戸、マンションに至ってはわずか889戸の実績しかないから(長期優良住宅には住宅履歴情報、すなわち設計・施工の管理やメンテナンス管理などの義務があり、少なくとも5年程度で住宅の点検を実施しなければならないのでやや減少傾向にある)、中古住宅を購入し、本来の意味で長期優良住宅化するのは極めてハードルが高いと言わざるを得ない。

実際に、長期優良化リフォーム推進事業の対象物件として補助金を受けることを前提に、中古住宅のリフォームを行う“気概あるユーザー”は果たしてどれほどいるだろうか。
国には国の“良質な住宅の基準”があり、その基準を満たすものあるいはリフォームによって新たに基準を満たそうとする住宅に補助金を支給するのは当然のこととしても、運用段階でもっと簡易に活用できる施策であることも長期にわたって良質な住宅ストックを増やすためには必要ではないだろうか。

面倒がない、簡易に活用できる、という観点も大切だ面倒がない、簡易に活用できる、という観点も大切だ

公開日: