コロナで始まり、コロナの影響を受け続けた2021年の不動産・住宅市況
2021年の不動産・住宅市況は年末年始の新規感染者の急増を受け、緊急事態宣言の発出で幕を開けた。2008年にミニバブルが弾けて以降、近年稀に見る最悪の船出と言えなくもないが、それでもコロナ前と同様に都市部への人の流入は発生しており、住宅ニーズという点では業界全体に与える影響は比較的軽微なものにとどまったと言うべきだろう。
ただし、テレワークの進捗・定着による住宅ニーズの一部郊外化の意向は特に首都圏で顕著となり、LIFULL HOME’Sの「借りて住みたい街」ランキングでは、4年連続で首都圏トップだった「池袋」がランクダウンするのを尻目に、神奈川県央エリアの「本厚木」が1位となったことは記憶に新しい。実際には、コロナの影響を避けるため、もしくはテレワーク対応を根拠として、雪崩を打って郊外化したという事実はなく、一部の顕著な動きとして首都圏郊外の住宅地がクローズアップされたものだった。しかし、コロナ禍が長期化し、またワクチン接種が徐々に進む中にあっては、その意向も徐々に沈静化していく可能性がある。
新築住宅、特に新築マンションはコロナ禍にあっても堅調な需要が維持されたが、供給戸数が思ったようには回復せず、2021年も需要を上回るようなまとまった供給は実施されなかった。加えて、需給バランスが逼迫したこと、および主にサプライチェーンの脆弱性に起因するコスト高の影響から、価格が上昇する傾向が顕著であった。
一方の中古住宅についても特にマンション流通は、新築からのニーズのシフトや日経平均の高値安定による利益確定~資産付け替えの発生により、新築マンション同様に価格が上昇し続け、三大都市圏では価格自体の違いはあっても、いずれも昨年同期比で10~15%程度の価格上昇を記録している。
いずれのマーケットも需要に供給が追いつかないなかで発生した価格上昇であり、コロナ禍でも需要が減退しなかったという点は特筆に値する。住宅需要が減退しなかった要因としては、空前の超低金利に加えて、2021年度の住宅ローン減税の対象(内法)面積が従来の「50m2以上」から「40m2以上」に緩和されたこと(新築のみ)、控除期間が13年に延長された特例が維持されたこと、およびテレワークの定着によってオンもオフも過ごす住まいのあり方を見つめ直す機会が増えたこと、などが挙げられよう。
この原稿執筆時点では確定していないが、2022年度の税制改正大綱は、会計検査院の指摘を受けて住宅ローン減税の控除率が1%から0.7%程度に縮小されることが確実視されている。制度の変更次第では住宅需要の急激な縮小も考えられ、「コロナ後」を見据えた住宅市場の動向は全く予断を許さない状況にある。コロナ禍での極めて特殊な1年を体験した不動産・住宅市場はこれからどこに向かうのか、市場全体の動きを注視している有識者に2021年の動向を踏まえて2022年の展望を聞いた。
住宅ローン控除率の引き下げはショック商法か。焦り買いを誘う可能性も~松崎のり子氏
松崎のり子:消費経済ジャーナリスト。生活情報誌の副編集長として20年以上、節約・マネー記事を担当。雑誌やWebを中心に、生活者目線で記事を執筆中。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない』(講談社)ほか。「消費経済リサーチルーム」https://www.ec-reporter.com/2021年は、ひと言で言えば「値上げの年」。エネルギー高騰による電気・ガス料金の上昇、そして次々発表される食品の価格改定。消費者はますます節約指向に向かいそうだが、企業側が受け皿としての安価を提供し続けるのは限界だろう。リベンジ消費を期待する声も聞かれるが、2022年以降に景気が上向くとはあまり思えない。モノの値上げ要因には、コロナによる供給不足や海外との取引価格競争がある。住宅価格も、それと無縁とはいかないだろう。コストアップがしばらく続くとすれば、新築住宅価格も下がるとは考えにくい。というより、供給が減るならその分、価格を上げなくては数字も釣り合わなくなる。
では、購入者側の心理はどうか。首都圏新築マンションは平均価格6,000万~7,000万円台と高止まりだが、2022年度税制改正が発表された影響で、購買熱は高まるのではないか。予想されていたとおり、住宅ローン控除率は1%から0.7%に引き下げられそうだ。ただし、2023年までは控除期間が13年だが、2024年・2025年は10年に短縮される。ローン借入限度額も、2023年までは3,000万円、その後は2,000万円まで下がってしまう。適用期間を区切るのは、消費者を慌てさせ、熟慮させずに購入に追い込む、いわば“タイムセール商法”だ。加えて、住宅取得等資金贈与の非課税期間も2023年まで延長される見込み。控除率の引き下げにショックを受けているところに、「あと2年ですよ」とささやかれれば誰でも焦るだろう。
若い世代の話を聞いていると、「コスパ」や「タイパ(タイムパフォーマンス)」という考え方が強い。コツコツ頭金をためる期間の家賃がもったいないとか、共働きのため保育園のお迎えに間に合うよう通勤時間は短くしたいとか、不動産価格だけでなく「時間のコスト」を気にする。そういう世代にとっては、たとえマンション価格が上がっていても都心指向が根強いのだ。
今回の改正で借入限度額が下がれば、そうした世代の夫婦が目いっぱいのペアローンを組もうとするのではと危惧している。中間所得層がしっかり減税の恩恵を受けられるともいわれるが、国が過重なローンに背中を押すことにならないか。持続可能なローンでなければ家計の消費余力を奪い、景気自体を冷え込ませる原因にもなりかねない。
なお、コロナ禍をきっかけに、地方に住む親の健康問題が気になり始めたという声も多い。親が介護施設に入った後の実家の管理をどうするか、親が認知症になる前に実家の処分を話し合うべきかとの心配も聞く。「家を買う」ことと並行し、2022年以降は「家じまい」も、ますます大きなテーマとなるのではないだろうか。
2022年の不動産・住宅市況は好調な勢いを持続、株価の動向によっては高額物件に影響も~田村修氏
田村 修:株式会社不動産経済研究所 取締役編集事業本部長。1960年生まれ。青森県出身。出版社勤務などを経て、1985年4月に㈱不動産経済研究所入社。日刊不動産経済通信の記者として不動産関連業界や行政を取材。総合不動産会社やマンションデベロッパー、不動産仲介会社、マンション管理会社、ハウスメーカー、大手ゼネコン、Jリート、アセットマネジメント会社、国土交通省、内閣府などを担当。2008年2月日刊不動産経済通信編集長、2015年5月取締役編集・事業企画部門統轄。2017年2月取締役編集事業本部長。2019年2月日刊不動産経済通信編集長兼任2021年の住宅市場は最初の緊急事態宣言が明けた20年5月末以降の好調さを概ね持続した。新築、中古を問わず、マンション、一戸建てへの購入意欲が高まり、価格も上昇基調で推移した。コロナ禍による外出の自粛や在宅勤務の普及・定着が改めて住宅への意識を喚起させたという要因は確かにある。郊外のマンションや一戸建てへの需要が高まったからだ。エリアによっては、駅近のマンションより駅からやや離れた広い一戸建て住宅への問合せが増えたというケースも聞く。都心に近くて利便性の高いマンションは依然として人気が高いため、コロナ禍で需要が郊外にシフトしたとは言えないが、以前よりニーズが多様化・分散化したのは間違いない。
マンションが好調な背景には、新築物件を開発するデベロッパーが大手、準大手を中心に限られてきて供給戸数が以前より少なくなったことと、販売価格が上昇し先高感が増していることがある。中古市場も買いの需要に対して売り物件が少なく、売り手市場になっているため、成約価格が上昇している。
2021年11月に販売が再開された五輪選手村のマンションプロジェクト「HARUMI FLAG(晴海フラッグ、総分譲戸数4,145戸)」が631 戸の発売に対して平均で8倍を超える申し込み倍率となったことは、相変わらず東京湾岸エリアのポテンシャルが高いことを裏付けた。湾岸エリアの超高層マンションは中古物件でも坪当たり300万~400万円で取引されている。最上階に近い築浅のプレミアム住戸が坪750万円で成約したという事例もある。都心や湾岸エリアだけではなく、郊外でも駅前再開発によるタワーマンションは人気が高く売れ行きがいい。広域からの集客が図れるのも特徴だ。
2022年の市況も2021年の好調な勢いを継続しそうだ。2022年度から住宅ローン減税の控除率が1%から0.7%に縮小されるものの、低金利は依然続いており、ローン減税の制度自体は大きな変更がないまま継続されるため、市況への影響はほとんどないと思われる。2022年はコロナ収束への期待感が高まり、外出の機会が増え、物件見学やモデルルームへの来場にプラスの効果が見込まれる。在宅勤務は減少すると思われるが、感染症への備えとしていつでも在宅勤務ができる住環境を確保したいというニーズは継続しそうだ。一方、脱炭素社会を目指すため、環境に配慮した省エネ性能の高い住宅の供給が標準化され、購入を刺激する方向に向かうのではないか。
株式会社不動産経済研究所では、2022年の分譲マンションの供給戸数を、首都圏は2021年比4.6%増の3万4,000戸と予測している。当面は好調な市場が続くという見通しのもと、大手各社は2021年並みの供給を計画しており、準大手と中堅クラスのデベロッパーは2021年より供給を増やす意向だ。2022年は年明け早々から大型案件の発売が相次ぐため、市場を占う意味で注目される。懸念材料を挙げるとすれば、株価の動向だ。都心の高額物件は富裕層や投資家の需要が高いため、株価が低迷すると影響は出る。グローバル経済の動きには注意したい。
ポストコロナの2022年、不動産価格は長期下落トレンドに入る~坂根康裕氏
坂根康裕:「住宅情報スタイル首都圏版」(現「SUUMO新築マンション」)「都心に住む」元編集長。不動産市況解説サイト「Fact Stock(ファクトストック)」を運営。日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書「理想のマンションを選べない本当の理由」「住み替えやリフォームの参考にしたいマンションの間取り」話題の「晴海フラッグ」(2021年11月分譲)は、平均倍率8倍超で即日完売に。前評判どおりの結果も最高倍率111倍は東南角最上階1億3,570万円。前回分譲(2020年1月)にみる「一次取得者メイン」の顧客層とは様子が異なるよう。富裕層の余剰資金の振り替え先として「都心の新築大規模物件」を有力候補とする傾向は相続税改正以降続くが、コロナ禍での資産インフレと選手村跡地という特別感を追い風に、「晴海フラッグ」はそれらの恩恵を最大化できたとみる。
だが留意すべきは、マイホーム予備軍のニーズは抽選が外れたら他の物件に向かいがちだが、富裕層のそれは「希少価値のある住戸で当たらなかったら買わないだけ」。不動産データの平均値を押し上げているのは、高額住戸への特殊な需要群で、相場全体がまんべんなく底上げされているわけではないとしたら……。個人が買うマイホーム用不動産は、現物ただひとつ。株のようなインデックス商品があるわけではないのでマーケットデータを見て行動するうえでは最低限の分析力が求められる。
ポストコロナの2022年、コロナ前に「戻るもの、戻らないもの」が明らかになる。先日鉄道各社は「100%戻ることはない」として来春のダイヤ改正で通勤時間帯の運行本数を軒並み減らした。テレワークの浸透がこんなにも早くインフラ産業に影響を及ぼすとは。前後して「豊洲―住吉」「白金高輪-品川」両区間の地下鉄延伸等の検討を前に進めるニュースが報じられたが、都心の交通利便向上に対する見解は、これまでの「都市に活力を」一色から、枝分かれするとみるのが自然かもしれない。
オフィス空室率の上昇は、利用価値の低下にほかならず、資産評価は長期的に低迷するだろう。壮大な玉突き合戦は始まったばかりだ。大手財閥企業の新規ビルは、グループ結束力を武器に高稼働を維持するかもしれないが、ここでも「個」と「市場」のデータを見分ける力が求められる。収益力の劣るオフィスやホテルは、やがてマンションに建て替わる可能性も。需給バランスが今の「品薄気味」から超長期で改善されることは十分考えられる。
中古マンション価格は、リーマンショックや東日本大震災後「在庫件数が増えた後、成約単価は下落に転じる」傾向が顕著だった。コロナで急減した首都圏の在庫件数は、直近の前年同月比で「23区が増加に転じた」。一方で相変わらず「2割減が止まらない郊外地区」も(東日本不動産流通機構発表)。首都圏全域で数字を捉える意味合いは薄れつつある。
人口動態に着目すれば、2018年、2019年でそれぞれ9万676人、8万3,785人増加した23区人口が、2020年は3,349人増にとどまり、2021年にいたっては4万340人減った(東京都発表、2021年のみ11月1日時点)。ちなみに10月中減少分の約77.9%が日本人。東京一極集中は「戻らない」ほうに分類されるかもしれない。
市場を根底から動かす金利と税制はアゲンストとは言わないがフォローでも弱まる。2022年住宅不動産市場は、メインシナリオとして(個々に上値を追うエリアや時期が一時的にあったとしても)上記要素などから価格相場は長期下落トレンドに入るとみている。
22年はコロナ禍によって先送りされてきた日本の構造的課題に改めて向き合う年~榊原渉氏
榊原 渉:
1998年3月早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻 修了。1998年4月株式会社野村総合研究所 入社。2017年4月グローバルインフラコンサルティング部長。2020年4月コンサルティング人材開発室長。現在 コンサルティング事業本部 統括部長 兼 サステナビリティ事業コンサルティング部長 兼 コンサルティング事業本部 DX事業推進部長、北海道大学客員教授。専門は建設・不動産・住宅関連業界の事業戦略立案・実行支援
内閣府の2021年11月15日発表によれば、2021年の国内GDPの1~3月期は、東京をはじめとした緊急事態宣言の影響で3四半期ぶりのマイナスになった後、4~6月期は、企業による設備投資の再開を受けてプラスに転じた。その後、7~9月期は、東京オリンピック・パラリンピックが開催された一方で、緊急事態宣言が東京や大阪を中心に拡大・延長したため再びマイナスに転じた。10月以降は緊急事態宣言が解除されたことで人出が戻りつつあり、10~12月期は個人消費を中心に持ち直し、プラス成長に転じる見通しだ。
こうした状況を踏まえた野村證券金融経済研究所の「2021~23年度の経済見通し(21年11月22日発表)」によれば、実質GDP成長率の予測値は、21年度は+2.6%、22年度は+4.3%、23年度は+1.2%とされている(なお、民間住宅投資は、-0.9%、-1.8%、-0.9%と減少トレンドが予測されている)。海外経済がコロナ禍からの正常化を進めるにつれ、日本の輸出や設備投資も回復していくと見られている。しかしながら、オミクロン株による感染再燃リスクは、経済活動が完全に正常化するうえでの障害となりうることには留意が必要だ。
新設住宅着工戸数を見ると、2021年1~10月の季節調整値(年率)は80万~93万戸で推移しており、20年の同時期と比較すると約5%程度回復している。実需との連動性が高い「持家」に注目すると、コロナ前の2019年8月から2020年10月まで15ヶ月連続で対前年同月比マイナスであったものが、2020年11月にプラスに転じて以降、2021年10月まで12ヶ月連続でプラスとなっている。とはいえ、2019年同期水準に若干及ばない程度に回復したにすぎない。さらに、足元の状況を見ると、コロナ禍による繰り越し需要にも息切れ感が目立ってきている。目先では、住宅着工戸数を力強く押し上げる材料に乏しく、中期的には世帯数減少とともに減少トレンドに転じる可能性が高い。投資的な側面の強い「貸家」も、2021年3月に対前年同月比がプラスに転じて以降、8ヶ月連続でプラスとなっているものの、その前は2017年6月から40ヶ月以上マイナスが続いていた(2018年8月を除く)ことを鑑みると、市場が回復傾向にあるとは言い難い。
2022年の住宅市場は、ウッドショック等をはじめとしたコロナ禍に起因する、需給不適合を背景とした供給制約は徐々に解消に向かうものの、中期的な需要が制約となる構造が変わることはないだろう。
一方、不動産投資市場に目を転じると、コロナ禍による世界的な金融緩和政策により「世界的な金余り状態」は、そう簡単に崩れそうもなく、不動産投資市場への資金流入が増えることはあっても減る可能性は少ない。したがって、高騰した不動産価格が下がる材料は見当たらないものの、先述した住宅をはじめ、コロナ禍の影響を強く受けているオフィスやホテル、商業施設は需要面の力強い回復も見込めないことから「金余りによる資産バブル」の状況が当面は続くと見込まれる。唯一、需要が堅調な物流施設も、国内の適地が少なくなってきたことから、頭打ちの様相を呈し始めている。
感染再拡大の懸念は拭えないものの、ワクチンや「飲み薬」によってコロナ禍は徐々に収束していくことが期待されるからこそ、2022年の不動産・住宅市場は、国内需要の中長期的な縮小という、コロナ禍によって一時的に先送りされてきた日本の構造的課題に改めて向き合わなくてはならないだろう。エンドユーザーの行動変容をデジタル技術なども活用しながら新しい価値創造に結びつけ、不動産・住宅業界のみならず、業種業界を越えた「エコシステム」を構築することによって、社会システム全般のデジタルトランスフォーメーションを実現していくことが望まれる。
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