健康で快適に暮らせる世界基準の家づくりを使命とする、ヤマト住建株式会社

少子高齢化やエネルギー問題といった社会問題は、依然として私たちの前に立ちはだかっている。さらに昨今のコロナ禍は、私たちの価値観の変容を加速させた。企業においても、働き方改革、グローバル化、ダイバーシティ、デジタル化、地方創生、SDGsなど、事業活動の手法や求められる役割が変わりつつあり、それは不動産・住宅業界においても例外ではない。

住まいの”本当”と”今”を発信するLIFULL HOME’S PRESS編集部が、私たちの住生活を担う不動産・住宅会社のトップに話を聞き、社会の変化に対応する取組みをお伝えするとともに、これからの不動産・住宅のあり方を考える企画。今回は、兵庫県神戸市に本社があるヤマト住建株式会社を取りあげる。

ヤマト住建はハウス・オブ・イヤー・イン・エナジー(※)を11期連続受賞、うち大賞を2度受賞するなど、住宅性能の向上を通して、健康で快適な暮らしの提供に取組んでいる。同社代表取締役社長 中川 泰氏に、同社のスローガン「日本の住宅を世界基準に」に込めた想いや、その実現に向けた取組み、そして今後の展望を伺った。

※ハウス・オブ・イヤー・イン・エナジー:一般財団法人日本地域開発センターが開催する、建物躯体と設備機器をセットとして捉え、トータルとしての省エネルギーやCO2削減等へ貢献する優れた住宅を表彰する制度

ヤマト住建株式会社 代表取締役社長 中川 泰氏ヤマト住建株式会社 代表取締役社長 中川 泰氏

阪神・淡路大震災での「安心やったわ。ありがとう」が原点

<b>中川 泰(なかがわ とおる):</b>1963年滋賀県生まれ。1992年ヤマト住建に入社。本店店長、専務取締役などを経て2017年4月より現職。お客様にも協力会社様にも従業員にも愛される100年以上続く企業を目指している中川 泰(なかがわ とおる):1963年滋賀県生まれ。1992年ヤマト住建に入社。本店店長、専務取締役などを経て2017年4月より現職。お客様にも協力会社様にも従業員にも愛される100年以上続く企業を目指している

編集部:本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、まずは中川社長のプロフィールをお伺いできればと思います。

中川氏:私は、大学卒業後、マンションデベロッパーに勤めていました。しかし同時に、もっと直接エンドユーザーと関わる仕事がしたいとも思っていました。そんな中、バブル崩壊後で元気のなかった不動産業界でも、非常に元気のいい会社があると知り、創業間もないヤマト住建に入社しました。当時、従業員は10名くらいでした。

編集部:今でこそ400名を超える従業員を抱えるヤマト住建ですが、最初は小さなスタートだったんですね。その後、会社はどのように成長していったのでしょうか。

中川氏:当初は、神戸エリアでの仲介業をメイン事業としており、徐々に分譲住宅の取扱いを始めました。実は当時の社長(現会長 西津昌廣氏)は幼少期に第2室戸台風(1961年)を経験し、いとも簡単に壊れる家々を目の当たりにしたといいます。そのときの経験から、「家族を守らないといけない家が、こんなのでいいのか。もっと頑丈な家をつくらないといけないのでは」と住まいの持つ大きな役割を実感し、創業以来頑丈な家づくりにこだわってきました。それは、当時の耐震基準をもはるかに超える家で、私たち従業員や現場の大工さんはいつも「そこまでしなくてもよいのでは」と思うくらいでした。

そのおかげもあってか、1995年に阪神・淡路大震災が発生した際は、ヤマト住建の家は全壊・半壊がゼロ。震災後お客さまのところに駆け付けると、「あんたらがあれだけ頑丈につくってくれたから、安心やったわ。ありがとう」と言っていただけました。それが、住む人のことを一番に考えるという私たちの家づくりの原点ですね。

6,434人が死亡した1995年の阪神・淡路大震災。全壊10万4,906棟、半壊14万4,274棟と、甚大な建物被害が出た6,434人が死亡した1995年の阪神・淡路大震災。全壊10万4,906棟、半壊14万4,274棟と、甚大な建物被害が出た

編集部:そのような経験を経て、世界基準の性能の家づくりをしていこうとなったわけですね。

中川氏:はい。住宅性能というと、耐震性のほかに断熱性があります。阪神・淡路大震災の後、当時の社長(西津氏)が「命を守るために、もっと強い家を」ということで、アメリカにわたって輸入住宅のノウハウを学んできました。欧米諸国をはじめとした先進国は、住宅の寿命が70年以上、あるいは100年以上ともいわれるのに比べ、日本の住宅の平均寿命は約30年といわれています。祖父や父親の代に購入した家を大切にメンテナンスして住まい、自分たちの代では簡単なクロスの貼り替えなどのリフォームをするのみ。新たな住宅の購入はせず、その代わりに家族との密な時間を大きな家で過ごす。そのようなアメリカでの暮らしを見て、日本の家とは住宅の性能、特に断熱性能が全く違うと感じたそうです。

例えば、家で料理をするときに、フライパンの取っ手が鉄製だと熱くて持てません。しかし樹脂製であれば持てますよね。金属と樹脂だと熱伝導率が1,000倍くらい違うからです。実は、日本の窓サッシの多くは、熱をよく伝える金属(アルミ)が使われています。これだと、外気の熱を室内に伝えやすいので、夏は暑く冬は寒い家になるのは当然です。
日本の場合、断熱性の高い樹脂サッシの普及率は約20%程度でしょうか。欧米は60~70%、中国は30%くらいなので、世界的に見ても、日本の家の断熱性能は高いとはいえません。

最初は、命を守るための強い家というところから始まりましたが、命を守る家を突き詰めると、実は健康で快適に暮らせる家に行きつくのです。断熱性を高めてリビングと洗面所などの温度差をなくし、ヒートショックを防ぐ。シックハウス症候群やアトピーの方でも安心して暮らせるように、天然無垢材を使用する。こういった当社の家づくりは、そこからきています。

しかし、性能が良いからといって簡単に樹脂サッシなどが普及するわけではありません。当然販売価格も高くなるので、営業担当者としてはお客さまに提案しにくいわけです。そこで、冬場建てたモデルハウスに社員みんなで泊まってみようということになりました。するとそれが非常に暖かかったわけです。「これは売れる」という自信になり、以来営業担当者の提案の仕方も変わりました。

かつて吉田兼好法師は徒然草で、「家の作りやうは夏を旨とすべし」と綴りましたが、今は「冬を旨とすべし」です。現在は気候変動などによって状況は変わっています。私たちも今にあった住宅をつくらなければなりません。

専門家とのパートナーシップとコストダウンの努力で、新たなスタンダードを

専門家とのパートナーシップとコストダウンの努力で、新たなスタンダードを

編集部:高性能住宅といっても、今はまだスタンダードにはなっていないものを普及させるのは大変だと思います。そういった壁を乗り越えるために、どのような取組みをされているのでしょうか。

中川氏:大変ですが、もともと新しいものを採り入れるという社風があり、社員は前向きに取組んでいます。

取組みとしては、専門家と手を組み、家の性能を上げることのメリットを、学術的なデータや調査で実証して勉強会などを行っています。例えば、リビングとトイレの温度差が10度以上ある場合は、1日の歩数が約2,000歩下がるのと等しいくらい運動量が減るというデータや、断熱改修をした幼稚園では、改修工事後に子どもたちの運動量が1日平均約12分増えたといったデータなどを、家づくりに生かしています。

また、価格が高いと普及しないので、コストを抑える努力もしています。分かりやすいところでいえば、テレビCMなどはローカルのテレビを除いて出稿しません。店舗もほとんど建築費用が抑えられる居抜きの物件です。これは出店スピードにもつながります。
また、注文住宅のメーカーは、総合住宅展示場に出店するのが当たり前ですが、ヤマト住建の場合はそれも最小限。わざわざ展示用借地のモデルハウスにコストをかけるくらいなら、売却可能なモデルハウスを作り、そこで宿泊体験をしてもらうほうが理にかなっていると考えています。
協力業者会(ヤマト共栄会)や社員大工を抱えて内製化していることは、コスト削減にもつながりますが、なによりも技術向上と伝承のためです。大工さんや協力業者様のよい仕事なくして高性能の家は建てられません。

お客様への伝え方も工夫するようにしてきました。住宅の性能を上げることで建物価格は上がります。しかしその分、電気代が下がったり、極論を言うと医療費が下がったりということもあります。今でこそやっている会社は増えましたが、例えば住宅ローンの支払いは月々10万円だとしても、下がる電気代や医療費を考慮すると8万5,000円相当だというような考え方を、当初から行っていました。

専門家とのパートナーシップとコストダウンの努力で、新たなスタンダードをヤマト住建の建築事例。木のぬくもりに包まれるナチュラルテイストの家の外観
専門家とのパートナーシップとコストダウンの努力で、新たなスタンダードをヤマト住建の建築事例。吹き抜けと窓からたっぷり光を取り込む住まいのリビング

働き方も改革。ペア営業でより柔軟に経験を積める体制に

編集部:従業員の方々は、ヤマト住建で働くということをどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。

中川氏:数年前から営業体制を「ペア営業」としています。1人で業務を抱え込むことがなくなりますし、ベテランの先輩とペアを組むことで得られる成功体験も数多くあります。この体制にしてから離職率は下がりました。また、最近は人材も多様になってきました。もともと学校の先生だった営業担当者や、前職がアパレル、警察官、消防士といった営業担当者もおり、入社してすぐに実績を残しています。何より「日本の住宅を世界基準に」ということに使命を感じるとともに、自分たちの仕事が社会貢献になっていると、誇りをもって働いてくれている人が多いです。

パートナーシップで「日本の家を世界基準に」の実現へ

パートナーシップで「日本の家を世界基準に」の実現へ

編集部: 最後に、ヤマト住建の今後と、日本の住宅性能の今後についてお聞かせください。

中川氏:これまで日本では、「住まいと健康」への理解が進んできませんでした。日本の住宅の断熱性能は一向に上がらず、現在省エネ基準を満たしている住宅は、全国でわずか5%しかありません。ということは、我々住宅業界が解決しなくてはならない住宅が、まだまだたくさんあるということです。

政府はやっと、2020年までにハウスメーカー等が新築する注文戸建て住宅の半数以上でZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス=年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅)の実現を目指すという目標を掲げました。しかし2019年度の全体の結果は20.3%とまだまだ道半ば。当社は2020年のZEH受託率が78%となっていますが、ZEHは当然80%以上に、さらにはLCCM(ライフサイクルカーボンマイナス住宅=ライフサイクル全体を通じてCO2排出量をマイナスにする住宅)も50%以上に引き上げたいと思っています。

高性能なサッシや断熱材などは、多くの量が出回ることで、コストを下げられます。これは業界全体がパートナーシップで取組んでいかなければならないことだと考えています。ここについては、もともと「高性能な住宅をお手頃価格で」提供しつづけてきた我々ヤマト住建が、業界を牽引していかなければならない立場になりつつあると思っています。今は、業界内の会合などで一緒になる工務店さんに声をかけ、勉強会を開くなどしてノウハウを共有しています。もちろん無料です。お金を取ると、やはりそれが普及の障壁になってしまいますので。

自社だけではなく、お客様も取引先も、皆でいい付き合いといいますか、未来の子どもたちのために、地球環境を守るいい仕事をしていきたいなと考えています。

編集部:今日は貴重なお話をありがとうございました。

パートナーシップで「日本の家を世界基準に」の実現へヤマト住建株式会社 本社より神戸港を望む。神戸で生まれたヤマト住建は、現在日本全国に29拠点を展開。国内だけでなく、いずれ進出する東南アジアをはじめとして、世界にも目を向けている

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