1967年の設立から日本の住宅を担うミサワホーム株式会社
今回が、第4弾となる【NEXT 日本の住まい】。
この企画は「日本の未来の住まいはどのように変化をし、住まいに携わる企業の使命はどういったものなのか」を住宅業界のリーディングカンパニートップにインタビューを行い、考えていくという企画である。
各社のトップへのインタビュアーを務めるのは、「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージとし、不動産ポータルサイトLIFULL HOME'Sを運営する株式会社 LIFULL 井上 高志 代表取締役社長。
今回は、1967年の設立から日本の住宅を担うミサワホーム株式会社(※以下、ミサワホーム)をとりあげる。
ミサワホームは、国内外に多数のグループ企業を有し、独自の発想の木質パネル接着工法をはじめ、南極昭和基地で多くの建物に関わってきた実績や、ゼロエネルギー住宅開発など、あらゆる分野で先進的な取組みを続ける業界のパイオニア企業である。デザイン分野でも、業界で唯一グッドデザイン賞を31年連続受賞(※2021年6月現在)するなど、住宅業界を牽引してきた。また、2020年1月に設立された未来志向のまちづくりを目指す会社 プライム ライフ テクノロジーズ株式会社(※以下、PLT)のグループ会社のひとつとしても、新たな挑戦を続けている。
コロナ禍でさらに住まいやまちの役割が見直される中、「住まいを通じて生涯のおつきあい」をコーポレートスローガンとするミサワホーム株式会社 代表取締役社長執行役員の磯貝 匡志氏に"これからの社会と住まい""ミサワホームとPLTの挑戦"についてお話を伺った。
戦後の住宅事情を救うため前川國男が生み出した「プレモス」その思想を継ぐ"プレハブ"を技術力と企画力で普及してきた歴史
井上氏:今回、磯貝社長にお話を伺えるということを大変楽しみにしておりました。本日はよろしくお願いいたします。さっそくですが、最初にミサワホームの紹介として、御社の歴史からお聞きできればと思います。
磯貝氏:ミサワホームとは何か、というお話ですが……。まず日本の住宅事情から遡ると、戦後当初、日本各地の都市が空襲で戦火に見舞われて多くの住宅が焼失しており、400万棟もの住宅が足りないといわれていました。現実、当時の東京の様子を知る人に聞くと、バラックも焼け残りのトタンや柱を釘で打ち付けた家で暮らしている人が多かったといいます。
戦後を代表する建築家である前川 國男氏は"日本の住宅を工業化する以外に根本対策はない"とし、木質パネルをつかったプレハブ技術でプレモス住宅を生み出しました。たった数年で1000棟を建て、規格化して工業の力で住宅を普及させるという取組みです。独自の木質パネルでによる「プレハブ住宅」を基とするミサワホームの原点がそこにあります。東大名誉教授の藤森 照信氏の著書では「誰もが行いたかった住宅の大量生産に初めて成功したのはミサワホームではないか」と書かれておりました。プレモス住宅からはじまる、戦後住宅の普及にプレハブ技術をもって貢献してきたという歴史がミサワホームにはあります。
井上氏:日本の住宅需要の初期にいちはやくプレハブ住宅を供給することで、社会に貢献されてきたということですね。
磯貝氏:そうです。また、その後の高度経済成長期では、住宅自体は足りているが、土地の高い都会で働く人々が家族とともに暮らせる家ということで、縦に面積を確保するため総二階の需要が高まります。ただ、当時の在来木軸では耐久性の問題で総二階を建てることが難しかった。それをミサワホームがプレハブの技術で実現させたのです。そのとき、企画住宅と銘打って発売した住宅が「ミサワホームO型」です。当時では珍しい2階をオーバーハングさせた外観や、建具・設備・備品に付加価値の高いオリジナル部品を用いた住宅です。画期的な意匠や先進技術の導入も相まって、多くの人々に受け入れられ、爆発的なセールスを記録しました。
その後に新しい発想の「蔵のある家」が出てきます。所有する物が増えて収納ニーズが高まるなか、それを押し入れや納戸など水平面でとると居住空間が狭くなってしまう。そうではなく、縦方向に空間を活用し1階と2階の間に半階分の空間を設け、そこを収納スペースとしました。一般的な2階建てよりも高くなるので、バルコニーの目線も高く、眺望、通風なども良くなるというメリットにあふれた商品となりました。
ミサワホームはプレハブの歴史とともに時代のニーズをいち早く捉え、常識にとらわれない発想と技術力をもってニーズにお応えしてきたことによって伸びてきた会社だといえます。
コーポレートスローガン「住まいを通じて生涯のおつきあい」の本質的な意味
井上 高志:株式会社 LIFULL 代表取締役社長。1997年株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現:LIFULL HOME'S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外あわせて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している井上氏:コーポレートスローガンである「住まいを通じて生涯のおつきあい」についてお聞きしたいと思います。
磯貝氏:「住まいを通じて生涯のおつきあい」を続けていくためには、時代によって変化していくことだと社内で話しています。
かつて「住宅双六(すごろく)」という言葉がありましたが、以前の住宅双六のあがりは"持ち家"でした。ところが時代が変化してくると、もう一度どういう住まい方がよいか考えなければならない。
例えば、郊外の駅から離れた戸建では高齢者にとって住みにくい。そうすると次は共同住宅で住むのか、そのあと配偶者と別れがきてしまうと一人暮らしで住むのか、お子さまとの二世帯住宅・近居を考えるのか、いずれは介護施設なのか、と以前より双六のゴールの向こうにある住まい方のニーズが多様化しています。
働き方に目を向けますと、統計では近年、日本の就業者が増えていますが、これは働きつづける女性が増えたからで、それは共働き世帯が増えたことを示しています。出産後に早期復職を考えるご家族が多く、今や、0歳児保育が増えています。そういった働き方と子育ての関係をどう考えるべきか。
また、これまでのまちづくりを見ますと、日本では高度経済成長期における都市の拡大によって、まちのスプロール化が進んでいます。その結果、ドーナツ化といって、中心市街地が寂れていき、シャッター商店街などを生み出してしまった。
つまりこうした社会課題や、暮らし方、働き方の多様化に目を向け、我々は「住宅」だけでなく「保育園」や「介護施設」も住まいとして、人生100年時代における「生涯のおつきあい」を考えるべきだと思います。以前の住宅双六の上がりであった持ち家一戸建てだけではない、集合住宅や分譲マンション・賃貸などを提供していくことが必要です。そして医療介護や子育て施設の複合もあわせて検討する。時代に合わせたニーズに応えていかなければ、本当に幸せな住まいをお客様にお届けすることはできないと思っています。
我々が向き合うべき「住まいを通じて生涯のおつきあい」とは、新たな課題や社会の変化に対して、これまでの常識にとらわれない様々な提案をもって解決していく、それができない企業は生き残れないと思っています。
これからは、介護離職ゼロ、子育て離職ゼロの社会とプレハブ技術の海外展開を
井上氏:戦後の日本のプレハブ住宅の歴史をミサワホームが担ってこられたお話、またコーポレートスローガンについてのお話、ありがとうございます。引き続き、少しお話の中でも触れていただいた少子高齢化・エネルギー問題・働き方改革などの社会を取り巻く環境が変化する中、どのように課題に向き合っていくのかについてお考えをお聞かせいただければと思います。
磯貝氏:ミサワホームの歴史でお話したように、弊社は、暮らしのニーズを読んだ提案ができているか、を問い続けてきた住宅メーカーです。
私は、社員に2つのことを話すようにしています。ひとつは、介護離職ゼロ、子育て離職ゼロの住まいづくり・まちづくりを目指していくこと。共働き社会の中で、未だ解決されていない様々な課題が潜んでいると考えます。朝、ビジネス街で小さなお子さんを自転車にのせているビジネスマン・ビジネスウーマンを見かけますが、先ほども申し上げたように、職場と住まい(子育て)の間の課題を解決するためにできることが、住宅メーカーにはたくさんあると思います。
そして、もうひとつは、日本の経済成長が鈍化しているといわれる中、日本独自で培ってきた技術力をいかに海外で生かしていくのか考えなければならない、ということ。たとえば、私どもでいうとプレハブ(スケルトンインフィル、もしくは乾式工法)の技術をいかに世界に広げていくか、ということがあります。
世界には戦後の日本と同じように、技術はあるが大工が足りていない国や、安全安心な住宅が足りない国が数多くあります。アジア・中東などそういった国々こそ、工業化されたプレハブ技術の活躍の場です。我々はその技術を広めていき、その対価をまた国内に還元したいと思っています。
このあたりは、PLTという枠組みの中で、トヨタ・パナソニックのモビリティとエレクトロニクスの技術と、我々PLTの住宅3社(ミサワホーム・トヨタホーム・パナソニック ホームズ)のスケルトンインフィルの技術をもって、グローバルに展開していく力が求められるのだろう、と考えます。
コロナをきっかけに変化する、ニューノーマル時代の住まいとまちづくり
井上氏:足元の社会でいうとコロナ禍は、様々な社会構造に影響を与えています。今後の企業はさらにビジネス、テクノロジー、デザイン(クリエイティブ)の力で社会に対して価値を生み出していかなくてはならないと考えます。ニューノーマルといわれるこれからの時代の住まいづくり・まちづくりについて、もう少し、磯貝社長のお考えをお聞かせください。
磯貝氏:少し余談のように聞こえるかもしれませんが、わたしは海外ドラマの「スター・トレック :ピカード」が好きでコロナ前に見ていたのですが、ピカードが宇宙に点在する友人とリモートで話をするシーンがあります。今までもスカイプなどのツールはありましたが、去年の1・2月までは、あまり活用されていなかった。普及はまだ先だと思っていたリモートでのやりとりが、このコロナであっという間に普通になりました。人々が必要と認識したものは、あるきっかけで、一気に拡がります。
このコロナ禍で特に大きく変化したのは、移動と通信に対する人々の考え方です。通信にはもちろん、電力を使います。コロナをきっかけに大きく変わり始めた社会ですが、これからよりいっそう加速していくと思います。スマートグリッドやスマートハウス、スマートタウンと、人々が便利な生活を維持していくため、電気を中心としたエネルギー需給を建物やエリア間でどうまかなっていくのか。10年間で急拡大が予測されるエネルギー需要に対してどう対応していくのか、これは大きな課題です。
この課題解決に向けた重要な役割が住宅メーカーにあると考えます。CO2排出量削減という観点で考えると、家電製品ひとつあたりでは省エネ家電が普及してエネルギー消費がだいぶ減ってきていますが、住宅やまちなど、大きな枠組みで考えるとまだ削減の余地が大きいと考えています。また、「人々がどのように暮らしているか、何が便利だと感じているか」、これらをライフステージやライフスタイル別に一番身近で知っているのは、住宅やまちづくりに取り組み、家電や自動車にも関わりの深い我々PLTグループのような会社だと思います。
エネルギーを人々の暮らしの必要なところに安定して供給して活かしていく、日々の暮らしに変革を起こし、いかに課題を解決していくのか。人間の生活の基本を問い続けることが、いわゆるニューノーマルにつながると私は思っています。その問いに応え続けることが、PLTで協業していく上での重要な役割であり、使命だと思います。
井上氏:ニューノーマル時代からの質問となりますが、2045年にはシンギュラリティの時代をむかえるといわれています。人工知能活用による社会は、便利となる一方で人が関与する生産活動の場が減り、収入減となることも懸念されている。そういった時代にコストがかかる建物・住まいづくりに、どう対応していくのかをお聞かせください。
磯貝氏:そういった時代に対応するために、つくり続けるということを見直し、今あるものを活かして新しい価値を付加していくことが必要だと考えます。
例えば当社では、既存の建築ストックを有効活用するために、リファイニング建築を提唱する青木茂氏を取締役に招いて「MAリファイニングシステムズ」を設立し、既存建物を活かしていく取組みをしています。昭和56年以前に建てられた新耐震基準でない建物も私たちの社会がもつ資産です。これらをすべてコストと時間を掛けて建て替えるのではなく、乾式工法でつくられた再生可能な建物があれば、リファイニングで再利用できる仕組みを考えていく。また、新たな建物も今後の再利用を前提につくっていくことが必要だと考えます。
またときには、用途を大きく見直すことも必要です。以前にリファイニング建築で、取り壊される予定であった専門学校校舎をレジデンスとして再生しましたが、建物だけではない、まち自体も見直すことが必要です。
磯貝氏:私どものミサワホームアメリカは、先日に三菱商事の米国子会社とともにコロラド州デンバー近郊で賃貸集合住宅の開発プロジェクトに参画しました。建設地周辺はもともと空港があった場所で、17年ほどかけて再開発が行われたエリアであり、今では全米でも人気の分譲地になっています。
デンバーの例のように、使わなくなったエリアや施設の再利用をしっかり考えていくことが必要です。
井上氏:ドイツの街づくりもそうですが、計画されたまちでは、医療含めて近隣ですべてがコンパクトに収まり、暮らしやすい街となっていますよね。
磯貝氏:日本はあまりにも都市化されてしまったのですが、さきほどのデンバーなどは自然も近く暮らしやすく豊かな街です。郊外や都市がひとつの機能しか満たしていないと、社会ニーズの変化に対応できず、一気に衰退するリスクがあります。これからのまちは、用途地域も見直し、医・職・食・住・娯楽をうまく複合できる一体化されたまちづくりが必要でしょうね。
グッドデザイン賞31年連続は、技術をもとに新しい付加価値をつけるという取組みへの評価
井上氏:デザイン(クリエイティブ)部分のお考えをお聞きしたいのですが、ミサワホームはグッドデザイン賞を31年連続で受賞されていますが、どのような思いがおありなのでしょうか。
磯貝氏:創業以来、確かな技術力をもって暮らしに新しい付加価値をデザインする、こうした取組みを続けてきた結果だと思っています。ミサワホームの目指すデザインは、単に意匠で優れているというものではありません。例えば、自信をもって良いデザインだといえる例のひとつに将来的な宇宙での有人探査拠点の構築を見据え、産官学が連携して南極地域で技術実証を行っている「南極移動基地ユニット」があります。これは2020年度にグッドデザイン・ベスト100を受賞しましたが、将来的に月や火星に移住するために役立つデザインです。
もうひとつは、2019年にグッドフォーカス賞を受賞した、沖縄科学技術大学院大学と共同研究する「蒸暑地サステナブルアーキテクチャー」で、電気や水などが未整備である蒸暑地域においてサステナブルかつ快適な生活の提供を目指すプロジェクトです。
あわせてデザインについて、我々はバウハウスの研究もしていますが、今なお高く評価されている極めてシンプルなデザインは、ミサワホームのデザイン思想にいつも大きな力と示唆を与えてくれています。東京高井戸には日本で唯一のバウハウス専門美術館「ミサワバウハウスコレクション」がありますので、ぜひご見学にいらしてください。
「もう一度人間活動について考え直すことから始める」ことがSDGs
井上氏:最後にSDGsについてのお考えをお聞かせいただければと思います。
磯貝氏:SDGsを考えるときに、私はアントロポセン(人新世)の話をするのですが、地球温暖化による気候変動など、いわゆる人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった、という地質時代の区分です。
かくして、人類の活動が本来の枠組みを超えてしまったことで起こる問題が数多くある。もう一度、人類の活動について考え直そう、ということが私はSDGsのひとつだと思います。今後は宇宙まで含めて活動領域が拡がるかもしれませんが、その時その時でSDGsの考え方に照らし合わせていくことが必要です。
これまでのお話とあわせますと、SDGsに向けた住宅メーカーの役割のひとつに、エネルギー効率の良い住まいを考えること、また暮らしの知見を生かして、新しい建物の活用方法を提案していくことがあり、こうした取組みができるように準備をしていくことが重要だと考えます。
井上氏:これからは、大きな変革の時代となりますね。未来に向けて我々住宅業界ができることがたくさんあることを、磯貝社長のお話で再認識できたように思います。さまざまな本質的な、また未来への指針を含めたお話、本当にありがとうございました。
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