8つの提言の整理

今回、住宅新産業研究会で座長を務めたシンガポール国立大学教授 清水千弘氏今回、住宅新産業研究会で座長を務めたシンガポール国立大学教授 清水千弘氏

住宅取引の活性化は、住宅市場の資源配分機能を高めることで社会全体を豊かにする。

しかし日本の中古住宅市場は、その機能が十分に発揮されることなく市場の成長を著しく遅らせてしまっている。また新築住宅市場と中古住宅流通市場との間に、乖離をもたらしてしまっている。

それでは、どのような主体がどのような変革を遂げていくべきなのであろうか。すでに自由民主党政務調査会住宅土地・都市政策調査会中古住宅市場活性化小委員会(2015)によって多くの提言が出されているが、以下、一連の議論を受けて次のように整理した。

提案1. 不動産取引価格情報の整備と適切な開示
提案2. 製造段階、保有段階、流通段階など様々な局面で蓄積される情報を、製造者、所有者、売り手のそれぞれの責任を明確にした上で情報を生産し、蓄積する社会システムを構築する。
提案3. インスペクションに代表される品質情報を生産する仕組みの一層の普及
提案4. 開示が必要とされる地域情報を地域単位で定義し、それを整備すると共に消費者に対して提供する仕組みを創設する
提案5. 低価格物件、無価値か物件が流通できるように、手数料体系の抜本的見直しを行うと共に、C to C市場の創設の阻害要因となっている制度改正を進める
提案6. 海外からの投資、またはB&Bなどに代表される新しい利用方法、リノベーションなどによる建物利用転換などを含む、住宅需要を拡大させる市場育成に努める
提案7. ビッグデータの活用と市場変革、生産性を向上させるために、データ間の融合が可能になるような情報流通の制度を設計する
提案8. 不動産価格指数、リスク評価ができる情報インフラなどが開発できる環境を整備し、市場リスクを評価できる技術開発を進めることで、新しい金融市場が創設できるような情報インフラを整備する

公的部門と消費者をも含む民間部門の双方が改革を

上記のような提言を実現していくためには、公的部門と消費者をも含む民間部門の双方が改革をしていかなければならない。

まず、提案1の不動産取引価格情報の整備と適切な開示は、他国の例が示すように、国が行うべき課題である。
提案2、3は民間部門が一層努力する課題である。民間部門が機能するためには、消費者を含む民間部門の責任を一層明確にしていかなければならない。また、責任を明確にするためには、責任を限定化していくことも必要であろう。

一つの例を挙げれば、インスペクションを機能させるためには、その物件調査の義務を売り手または買い手のいずれかにしていかなければならないかもしれない。英国ですすめられたHIP(Home Information Pack)は、住宅流通市場における物件調査の義務を売り手に負わせた。住宅市場に出品するためには、その所有者はその商品に関する情報を整備することを義務づけたのである。一方、米国などでは売り手に対しては一定程度の情報の開示義務を負わせると共に、消費者に対しては、その商品を見極めることの責任を負わせている。そのため、インスペクションやエスクローが発達している。しかし、わが国においてはそのような業務はすべて宅地建物取引主任士に負わせることとなっている。

住宅仲介市場を進化させていくためには、市場の透明化を一層進めていくことはその根幹にあることから、公的部門だけでなく、その責任を消費者をも含む民間部門も負いつつ、社会全体で進めていかなければならないものと考える。

このことを進めるためには、提案5も含めて、現在の宅地建物取引業法を抜本的に見直していくことが必要となる。これらのことは公的部門と民間部門とが共に責任を負うべきことであろう。

市場の透明化を一層進めていくためには、公的部門だけでなく、</br>その責任を消費者をも含む民間部門も負いつつ、社会全体で進めていかなければならないと考える市場の透明化を一層進めていくためには、公的部門だけでなく、
その責任を消費者をも含む民間部門も負いつつ、社会全体で進めていかなければならないと考える

透明で中立的な不動産市場育成のために

提案6、7、8もまた公的部門と民間部門が一緒に進めなければならない。
一層の海外投資を呼び込むためには、情報の開示ルールを含めた不動産投資市場の整備を進めなければならない。B&Bなどに代表される一時的な利用ニーズを吸収していくためには、制度的な改正も必要になってくる。また、リノベーションを通じた新しい建物利用への転換を含めた不動産需要の拡大には、人材育成をも含めた課題も残る。

政策目的の不動産価格指数は、すでに国際基準に合わせて政府の責任のもとで整備が進められている。
しかし、まだまだ取引価格の情報インフラが未整備であることから改善の余地はきわめて大きい。加えて、民間での活用が限定されていることから、ビッグデータの恩恵を受けることができず、ひいては、金融市場の進化をもたらすまでには至っていない。
一層の情報整備とその他の情報との融合によって、様々なイノベーションを起こす可能性があるにもかかわらず、その可能性の芽を摘んでしまっているのである。そのために、住宅金融のリスクを高め、リバースモーゲージやクラウドファンディングなどの新しい資金の呼び込みを行うことが限定的になってしまっているとも考えられる。

不動産は、様々な情報の塊である。

我々は不動産を取引しているのではなく、情報を取引しているということを強く認識しなければならない。そして、その情報は生産するものであり、“消費者をも含む官民すべての主体によって”実現されなければならない。

透明で中立的な不動産市場が育成されていくことで、社会全体の厚生水準が大きく高まることを期待したい。

※住宅新産業研究会 提言:「透明で中立的な不動産流通市場の条件~情報流通整備と新産業の重要性」

我々は不動産を取引しているのではなく、情報を取引しているということを強く認識しなければならない。</br>そして、その情報は生産するものであり、“消費者をも含む官民すべての主体によって”実現されなければならない我々は不動産を取引しているのではなく、情報を取引しているということを強く認識しなければならない。
そして、その情報は生産するものであり、“消費者をも含む官民すべての主体によって”実現されなければならない