王子の基本情報

満開の桜の中、都電が街角をゆっくりと走り抜ける。東京都北区・王子は長年、そんな懐かしくも穏やかな風景とともに親しまれてきた街だ。

その王子が、いま静かに、しかし大きく動こうとしている。超高層ツインタワーの建設、新区役所の移転、そして飛鳥山や石神井川といった豊かな自然を活かした「ウォーカブル・ガーデン」構想。

歴史と緑に恵まれながら、交通の要衝としての力をまだ十分に発揮しきれていなかったこの街が、いよいよそのポテンシャルを解き放とうとしている。

今回は北区役所へのインタビューと現地取材、そして北区が策定した「王子駅周辺まちづくりガイドライン」をもとに、"新しい王子"が描く未来の全体像に迫る。

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東京都北区・王子が、いま静かに、しかし大きく動こうとしている。超高層ツインタワーの建設、新区役所の移転、そして飛鳥山や石神井川といった豊かな自然を活かした「ウォーカブル・ガーデン」構想。
北区役所へのインタビューと現地取材、そして北区が策定した「王子駅周辺まちづくりガイドライン」をもとに、王子駅前の様子

王子駅の特徴・交通利便性

東京都北区・王子駅の特徴を語るうえで欠かせないのが、その交通利便性だ。JR京浜東北線・東京メトロ南北線・東京さくらトラム(都電荒川線)・路線バス・高速バスと、多様な公共交通が1ヶ所に集まるターミナルとして機能している。

京浜東北線では上野まで約12分、東京駅まで約20分。さらに南北線を使えば、永田町や麻布十番といった都心のオフィス・商業集積エリアにも乗り換えなしでアクセスできる。

交通利便性だけを見れば、同じ北区内の赤羽と比較しても遜色ない。しかしこれまで北区の繁華街としての中心的な役割を担ってきたのは赤羽であり、王子は行政・公共機能の集積地としての性格が強く、商業面では長らく赤羽の陰に隠れてきた。

東京都北区・王子が、いま静かに、しかし大きく動こうとしている。超高層ツインタワーの建設、新区役所の移転、そして飛鳥山や石神井川といった豊かな自然を活かした「ウォーカブル・ガーデン」構想。
北区役所へのインタビューと現地取材、そして北区が策定した「王子駅周辺まちづくりガイドライン」をもとに、駅からすぐの飛鳥山公園

王子駅周辺の再開発の概要

王子駅周辺には江戸時代からの桜の名所である飛鳥山公園・音無親水公園など豊かな自然・歴史資源が点在し、渋沢栄一ゆかりの地としても知られる。にぎやかさと緑の静けさが同居するこのエリアに、いま大規模な再開発が動き始めている。

注目したいのは、この再開発が単なる駅前の高度利用にとどまらず、王子の自然をまちの中に引き込む設計思想を持っている点だ。計画のランドスケープ・コンセプトは「飛鳥山をまちなかにつなぐ」。

飛鳥山の台地・崖線・水辺という3つの地形的特徴をまちに継承し、新しい駅前空間を創り出すという考え方だ。駅前には「交流とにぎわいの広場」「文化と体験の森」「水と憩いの広場」という3つのゾーンが設けられ、石神井川の水辺から飛鳥山の緑へとつながる回遊動線が生まれる構想になっている。

公表されている計画資料によると、先行実施地区の民間開発は東西2つの街区で構成される。

出典 王子共創会議(東京都北区)出典 王子共創会議(東京都北区)

西街区(西棟)は敷地面積約11,300m2、地上51階・地下2階建て、高さ約190m、延床面積約165,000m2の規模だ。低層部に物販・飲食などの商業施設とサービス機能、中層部に事務所とホテル、高層部に住宅という複合構成が計画されており、住宅戸数は約1,050戸、駐車場台数は約490台が予定されている。

東街区(東棟)は敷地面積約6,300m2、同じく地上51階・地下2階建て、高さ約190m、延床面積約105,000m2。低層部ににぎわい機能を持ちつつ、主に住宅として整備される構成で、住宅戸数は約950戸、駐車場台数は約310台。2棟合計の総延床面積は約270,000m2、住宅戸数は合計約2,000戸に上る規模だ。

両棟は歩行者デッキで結ばれ、さらに西街区から新庁舎へもデッキが接続される。このデッキは平常時の回遊動線としての役割に加え、水害時には浸水しない高さを確保した避難ルートとしても機能する設計になっている。

工事は2027年度から2033年度にかけて行われる予定で、供用開始は東街区が2033年度、西街区が2034年度を見込んでいる。

北区役所で王子の再開発についてインタビュー

現在の北区役所現在の北区役所

北区役所の王子駅周辺まちづくり担当課の方に、王子エリアの再開発について詳しい話を聞いた。

――まずは王子エリアの特徴について教えてください。

担当者:王子は江戸時代から飛鳥山を中心とした交流の場として知られ、明治期以降は洋紙発祥の地として日本の近代化を支えてきた歴史があります。JR、東京メトロ、東京さくらトラム(都電荒川線)、路線バス、高速バスなど、多様な公共交通が王子駅で接続しており、多方面からのアクセス性の良さが特徴です。

また、駅周辺には区役所や北とぴあなど、公共・公益施設が多く立地し、北区の中心地として重要な役割を担っており、高校等も多く立地しています。自然・文化・歴史資源も豊富です。居住者、就業者、学生、観光客など多様な人々が集まる北区の中心的な拠点です。

一方、鉄道や幹線道路、石神井川などが駅周辺の歩行者の回遊性を阻害しているほか、災害への対応も求められており、緑の不足、商業集積の低下等の課題もあります。まちの魅力を高めつつ課題解決を図っていくことが求められています。

――王子駅周辺の再開発について、概要や狙いを教えてください。

担当者:北区では、区役所の庁舎が駅の西側から東側へと2035年度頃に移転する予定です。これを契機として、まちの将来像を「東京の北の交流拠点 水と緑豊かな王子」と定め、その実現に向けて、まちづくりの検討を進めてきました。

最初にまちづくりを進めていく「先行実施地区」は、JR王子駅中央口より北東側の、駅前商業施設サンスクエア、新庁舎建設地、国立印刷局王子工場等を含む約12haの範囲です。現在、新庁舎の基本設計を進めており、サンスクエア及び周辺の地権者による民間開発や、新たな道路等の整備も検討されています。

民間事業者からは、現在、商業施設、ホテル、オフィス、住宅の複合用途による約270,000㎡の大規模な開発の概要や、屋外空間のイメージが示されています。周辺道路の整備や地下通路のバリアフリー化、石神井川部分の緑地整備などの環境整備も民間開発とあわせて進む見込みです。

――飛鳥山公園や石神井川といった自然資源は、どのように活かしていく予定ですか。

担当者:王子駅周辺まちづくりでは、特に駅に近いエリアを「ウォーカブル・ガーデン」と位置付けている点が特徴の一つです。

まちの地形的、構造的な特徴を捉えつつ、歩行者が快適さと楽しさを感じることができる回遊性を備えるほか、水と緑豊かな居心地の良い空間を創出し、多様な活動や交流を促すこととしています。そこで、先行実施地区では「飛鳥山をまちなかにつなぐ」というランドスケープ・コンセプトを掲げました。

新庁舎建設と民間再開発が連携しながら、拠点性と水と緑豊かな環境を兼ね備えた、王子ならではの特徴ある駅前を目指してまちづくりが進められています。

王子駅周辺には、飛鳥山公園をはじめ、音無親水公園や名主の滝公園、旧醸造試験所第一工場など多くの自然・文化・歴史資源があり、公園の魅力向上や観光振興などにも公民連携で取り組んでいます。

新たに整備する駅前とあわせて、周辺の地域資源の魅力も高めながら、回遊性の向上にも取り組んでいきます。

――2035年度頃に移転予定の新庁舎によって、どのような効果が期待されますか。

王子駅周辺まちづくり担当課:新庁舎建設はまちづくりと連携し、歩行者動線や広場・緑地の検討を進めています。

現在の北区役所出典 王子共創会議(東京都北区)

飛鳥山からの連続性に配慮した起伏あるグリーンインフラ「ジオガーデン」の整備により、緑豊かな居心地の良い空間をつくり、環境配慮にも取り組んでいきます。

また、低層部にはにぎわい創出機能を配置する予定です。休日にも庁舎低層部を活用し、まちににぎわいをもたらすことを目指しています。

民間開発とは浸水しないレベルの歩行者デッキで接続し、エリア全体での防災性の向上を目指しています。

再開発予定地の現在の姿と計画を紹介

王子駅周辺に足を運んで、再開発による変化の予兆を感じてみた。

実際に駅周辺を歩いてみると、再開発の「いま」が肌で感じられる。再開発の中心となるサンスクエアの店舗は閉店が進み、かつての賑わいは一時的に落ち着いている状態だ。

この場所に高さ約190mの超高層ツインタワーと広場が整備されると聞いても、すぐにはイメージが追いつかない。それほどまでに、いまの王子駅前と、これから生まれる景色とのギャップは大きいと感じる。

王子駅前の再開発の予定地「サンスクエア」王子駅前の再開発の予定地「サンスクエア」

一方、王子ならではの強みである自然の豊かさは、再開発後も街の骨格として残り続ける。駅から徒歩すぐの飛鳥山公園は子どもから高齢者まであらゆる世代の憩いの場として愛されており、計画でも「飛鳥山をまちなかにつなぐ」というコンセプトのもと、JR王子駅中央口に隣接する未開設区域に新たな広場・エントランス空間が整備される予定だ。

駅前の北区立音無親水公園も、水車やアーチ橋が彩る落ち着いた水辺の風景とともにそのまま残る。石神井川沿いには「水と憩いの広場」として新たな親水空間が加わる計画もあり、水と緑のネットワークは現在より豊かになる見通しだ。

再開発が目指しているのは、王子の自然や歴史を壊すことなく、その個性を都市の力へと昇華させることだ。今後、工事が本格化するにつれて街の景色は大きく変わっていくが、変わるものと変わらないものを知ったうえで王子を歩くと、この街の未来がよりリアルに見えてくる。

王子駅前の再開発の予定地「サンスクエア」北区立音無親水公園

王子は豊かな自然を生かしながら、より利便性が高い都市へ

王子の再開発は、単なる駅前の更新にとどまらない。「東京の北の交流拠点 水と緑豊かな王子」という将来像のもと、交通拠点機能の強化・にぎわいの創出・豊かな自然との共存・防災性の向上という4つの軸が、いま同時に動き出している。

注目したいのは、この再開発が"王子らしさ"を起点に設計されている点だ。これまで北区の繁華街としての役割を担ってきた赤羽とは異なり、王子には飛鳥山公園や石神井川といった都心では得難い自然環境と、江戸・明治から続く歴史の厚みがある。

「ウォーカブル・ガーデン」構想や「飛鳥山をまちなかにつなぐ」というランドスケープのコンセプトは、まさにその王子固有の資源を最大限に活かそうとするものだ。

大規模な開発が進むとき、街が均質化してしまうことへの懸念はどこでも生まれる。しかし王子の場合、豊かな自然を生かしながら利便性を高めるという方向性が、まちづくりの中心に据えられている。その姿勢が貫かれるなら、王子ならではの魅力はむしろ再開発によって磨かれ、街の価値はさらに高まっていくだろう。

歴史と緑に包まれたこの街が、都市としての新たなステージへと踏み出そうとしている。結局のところ、まちづくりの成否を決めるのはシンプルな一言に尽きる。「ここに住んでみたい、住み続けたい」、そう思う人をどれだけ増やせるか。王子の未来は、その積み重ねの先にある。