地域活性化を目指した新たな図書館「ミヨット」の誕生

「ちょっと行ってみようかな?」と、スーパーへのお買い物ついでに寄るくらいの気軽な感覚で立ち寄れる図書館。2021年3月にオープンした、淡路市の津名地区に位置する淡路市立津名図書館「ミヨット」は、“ひと・知識・情報との出会いの場”をコンセプトとして、いつでも誰でも利用できる市民の集いの場となる図書館だ。2024年度には、兵庫県が実施する「第26回人間サイズのまちづくり賞」のまちなみ建築部門で知事賞を受賞。また、2024年3月には、第19回公共建築賞地域特別賞を受賞した。注目の施設となっている。

公募により中学生の提案が採用された「ミヨット」という名前には、「行ってみよっと、やってみよっと」という気軽な来館を促す意味が込められている。

左が淡路市立津名図書館「ミヨット」、右がしづかホール。鉄骨造り平屋約2000m2と、市内5カ所の図書施設で最大の大きさ左が淡路市立津名図書館「ミヨット」、右がしづかホール。鉄骨造り平屋約2000m2と、市内5カ所の図書施設で最大の大きさ
左が淡路市立津名図書館「ミヨット」、右がしづかホール。鉄骨造り平屋約2000m2と、市内5カ所の図書施設で最大の大きさ淡路市立津名図書館「ミヨット」は、志筑新浜に面している

もともと​旧・津名図書館は志筑市街に位置しており、市内で最も多くの人が利用する図書館だったが、施設の手狭さと老朽化が課題となっていた。図書館の新たな立地として移転先が検討されていたのは、高度経済成長期に埋立地として造成された、音楽ホール「しづかホール」前の広場だった。​図書館移転の決定は、図書館とホールの相乗効果による地域活性化を期待してのものだった。

多彩な市民活動を促進するために、ハード面・ソフト面双方で工夫がされている「ミヨット」について紹介していきたい。

左が淡路市立津名図書館「ミヨット」、右がしづかホール。鉄骨造り平屋約2000m2と、市内5カ所の図書施設で最大の大きさしづかホールとの間にある中庭には、子どもが遊べる遊具が置かれていて、親子連れが公園代わりに利用している様子も見られる。(写真提供:淡路市立図書館パートナーの会)
左が淡路市立津名図書館「ミヨット」、右がしづかホール。鉄骨造り平屋約2000m2と、市内5カ所の図書施設で最大の大きさ取材に応じてくださった皆さま。左から、株式会社昭和設計の小平弥史さん、淡路市立津名図書館・事務局担当の高橋晴菜さん、「淡路市立図書館パートナーの会」初期メンバー・関美恵子さん、同会会長の須ヶ原之斗さん

しづかホールと調和したデザインと多機能空間

「近年、図書館は単なる書籍の貸し出しや静寂な読書空間を提供する場から、人々が集い交流するコミュニティの中心へと進化しています。この変化に対応するために、図書館の設計では物理的な施設(ハード面)とサービスやプログラム(ソフト面)の両方を統合的に考慮する必要があると考えました」と設計を担当した、株式会社昭和設計の小平弥史さんは説明する。

まずは、利用者の交流を促すハード面について見ていこう。既存のしづかホールとの調和を重視した平屋建ての「ミヨット」は、ふわりと舞う大屋根のもと、夕方には内部の明かりが外にあふれるようなデザインが施されている。天井や家具などが最大限木質化された温かみを持った​内装空間には、シーンに合わせて子どもも大人も読書を楽しめる読書スペースが複数配置されている。

「図書館を訪れて、最初に入るのが『交流エントランス』と名付けた細長いエントランスホールです。テーブルは誰でも自由に利用でき、飲食も可能な、市民が自然に交流できる場です。​ギャラリースペースの壁面には地域のアーティストによる作品が展示されています」と小平さんは続ける。

広々とした「交流エントランス」。子どもが遊んでいたり、放課後は、テーブルで高校生などが集まって雑談している風景も見られる広々とした「交流エントランス」。子どもが遊んでいたり、放課後は、テーブルで高校生などが集まって雑談している風景も見られる
広々とした「交流エントランス」。子どもが遊んでいたり、放課後は、テーブルで高校生などが集まって雑談している風景も見られる自然光を生かした明るい空間。写真に写っているのは、メインストリート「あわじ出会いのみち」

本棚の間のメインストリートは「あわじ出会いのみち」と名付けられている。​メインストリートに沿うように淡路の出土品や伝統工芸品、地元の人々の作品などが展示されており、淡路の過去から未来を紹介するコーナーもある。本を探しながら自然と目に入ってくる配置にすることで、来館者が自然に地域の魅力に触れられるようになっているのが特徴だ。

また子どもトイレや屋外の遊具など、子どもが楽しくなるような仕掛けもふんだんにあり、絵本や児童書の蔵書も多く、子育て世代にもうれしい場所となっている。

​「​図書館内の動線はオーソドックスですが、職員の働きやすさ、使いやすさも考慮しています。施設全体が人と共に成長する『生き物』のようであることを心がけました」と小平さんは語る。

広々とした「交流エントランス」。子どもが遊んでいたり、放課後は、テーブルで高校生などが集まって雑談している風景も見られるメインストリートの「あわじ出会いのみち」に展示されている工芸品「国生み 日本濫觴」 作者:河合賢申
広々とした「交流エントランス」。子どもが遊んでいたり、放課後は、テーブルで高校生などが集まって雑談している風景も見られるちょっと座って本を読みたいときに使えるようにと設けられた、本棚の間のスペース

「ミヨット」と共に歩む、市民参加型の活動「淡路市立図書館パートナーの会」

「ミヨット」では、市民参加型の「淡路市立図書館パートナーの会(以降、パートナーの会)」が図書館で地域の課題解決に向けた活動に取り組んでいる。​開館直前に発足した「パートナーの会」は、月に一度のミーティングを定期開催し、市民と図書館が対等な関係で手を取り合いながら活動を進めている。​

「年に一度の『としょかんフェス』では、音楽コンサートやワークショップ、ボードゲームコーナー、クイズラリー、古民家再生協会による廃材を使った本棚作り、竹を使った楽器作りワークショップなど、多彩なイベントが開催されています。こうした活動は『パートナーの会』だけにとどまらず、地域内での連携も広がっています。例えば、ビーチクリーン活動団体との協力で、漂流物を活用したアート展示が実現したこともありました。

さらに、展示物の作成にあたって地域の写真サークルが撮影に参加するなど、『パートナーの会』​を起点にさまざまな団体との関わりが生まれています。ほかにも、淡路高校のパティシエコースの学生が図書館内でカフェを出店する取り組みも行われるなど、学生たちの実践の場にもなっています」とパートナーの会の会長である須ヶ原さん。

ミヨット側としても、「パートナーの会を通して、市民の方からのいろんなアイデアをいただくことができています」とイベント担当として関わる高橋さんはうれしそうだ。

「としょかんフェス」で開催された音楽コンサート(写真提供:淡路市立図書館)「としょかんフェス」で開催された音楽コンサート(写真提供:淡路市立図書館)
「としょかんフェス」で開催された音楽コンサート(写真提供:淡路市立図書館)「としょかんフェス」でのファッションショー(写真提供:淡路市立図書館)

まちづくりや市民協働の拠点であり旗印となっているのが、エントランスホールの入り口にある「サポーターズルーム」だ。この場所は、パートナーの会の会員やイベント利用者専用のミーティングスペースとなっている。​「このサポーターズルームにはガラス窓を採用しています。通常、会議室は建物の奥に配置されることが多く、閉鎖的な雰囲気になりがちですが、外部から内部の様子が見える開放的なデザインにすることで、図書館に訪れた方々の開かれた交流や情報共有を促進させ、より多くの人々が集まりやすい環境につなげています」と小平さん。​

内部で行われている活動が外部に伝わりやすくなり、通行人や他の利用者が興味を持ち「自分も参加してみよう」という気持ちを喚起している。最初は昔から図書館に関係していた人や館長さんの声かけにより集まった会員も、活動を経て徐々に増えつつあるという。

「としょかんフェス」で開催された音楽コンサート(写真提供:淡路市立図書館)エントランスホールの入り口にある「サポーターズルーム」
「としょかんフェス」で開催された音楽コンサート(写真提供:淡路市立図書館)図書館で開催したイベントの様子(写真提供:淡路市立図書館)

地域とのさらなる連携を目指して

子ども向けの読み聞かせ会の開催や、高齢者向けのパソコン教室の運営、さらには地域の歴史を学ぶワークショップの企画など、図書館での日常的な催しは多岐にわたっている。​子どもたちの学習支援や社会人向けのスキルアップ講座の開催も計画しており、これからは地域の学校や企業との連携をさらに深めていくという。​さらに、「しづかホール」との連携も強め、館内外のスペースを活用したアート展示や音楽イベントなど、文化的な催しを増やして、より多くの市民が気軽に訪れることができる場を提供する予定だ。

「阪神淡路大震災30周年を振り返る展覧会」は、パートナーの会により生まれたアイデア企画だ「阪神淡路大震災30周年を振り返る展覧会」は、パートナーの会により生まれたアイデア企画だ
「阪神淡路大震災30周年を振り返る展覧会」は、パートナーの会により生まれたアイデア企画だ「淡路市立津名図書館のキャラクター・ラブックは、図書館の利用促進を目的として、淡路市立図書館パートナーの会と協働でプロモーション動画を制作しました」と小平さん

​​「パートナーの会」の関さんは、「ミヨットは単なる本の貸し借りの場ではなく、人と人とがつながるコミュニティの中心です。​私たちの活動が、その架け橋となれば嬉しいです」と語り、ミヨット事務局の高橋さんは、​「図書館は地域の知的なリビングルームです。​これからも市民の皆さんと共に、新しい価値を創造していきたいですね」と続けた。

市民が集まり、活動ができる、「ミヨット」という施設。これらの取り組みを通じて、図書館は単なる本の保管場所ではなく、地域の文化とコミュニティの中心として、さらなる発展を遂げるにちがいない。

「阪神淡路大震災30周年を振り返る展覧会」は、パートナーの会により生まれたアイデア企画だ移転後、約5万5,000冊に増やした絵本や児童書
「阪神淡路大震災30周年を振り返る展覧会」は、パートナーの会により生まれたアイデア企画だ天井まで届く「ブックツリー」

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