福井など北陸の「よいこと」を楽しめる食を中心にした施設「ESHIKOTO」

福井県・永平寺町にオーベルジュが2024年11月オープン福井県・永平寺町にオーベルジュが2024年11月オープン

福井県の名所の一つで、700年以上の歴史を誇る「大本山永平寺」。その門前町となる永平寺町に複合施設「ESHIKOTO(えしこと)」がオープンしたのは、2022年6月のこと。運営するのは、このまちで220年にわたって日本酒を作り続けている黒龍酒造(石田屋二左衛門株式会社)だ。

施設名のESHIKOTOの“えし”は、“よい”という意味の古語に由来。福井をはじめとする北陸の「よいこと」を楽しむ拠点にしたいという願いが込められている。また、反対から読むと“とこしえ(永)”となって「永久に」という思いと、永平寺町の「永」にも通じている。

酒樂棟(しゅらくとう)には、パティスリーも併設するレストラン・acoyaと日本酒や梅酒などを販売する石田屋 ESHIKOTO店がある。その隣の臥龍棟(がりゅうとう)は、ESHIKOTOオリジナルとして販売するスパークリング日本酒の「ESHIKOTO AWA」を瓶内二次発酵させるセラーで、イベントスペースとしても利用される。

2024年11月26日、その敷地の一角にオーベルジュ「歓宿縁(かんしゅくえん) ESHIKOTO」が誕生。前日に行われた内覧会を取材した。

福井の風土の魅力をオーベルジュでも発信、株式会社アクアイグニスが運営

オーベルジュは、三重県・菰野町にある癒しと食をテーマにしたリゾート施設・アクアイグニスを手がける株式会社アクアイグニスの運営となる。同社は、同じテーマの施設を仙台や淡路島などで開業しているほか、当サイトでも取材した三重県・多気町の大型商業施設・VISON(ヴィソン)と12のヴィラからなる宿・湯の山 素粋居(ゆのやま そすいきょ)の事業も行っている。今回の運営は、2024年春の北陸新幹線敦賀開業を見据えた福井県が、アクアイグニスと、福井県の旧美山町(現福井市)で創業した前田建設工業株式会社とオーベルジュの開発協定を締結したことに始まった。土地を選定していたなかで、ESHIKOTOが候補となったのだ。

黒龍酒造の水野直人社長にとっても願ってもない機会だった。

ESHIKOTOそのものをつくるきっかけは、さかのぼること30年ほど前。日本酒を発展させるため、同じ醸造酒であるワインからヒントを得られるかもしれないとフランスなどの生産地に出かけたときのこと。「それこそブドウ畑しかないような場所に世界中からワインラバーの方が集まっていて、ワインだけを楽しむのではなく、そこの風土を楽しんでしばらく滞在されている姿を見ました。当時はまだ日本酒は世界に発信されていないころでしたが、将来的に必ず世界で飲んでいただけると思っていましたので、どのように日本酒が作られているかを知っていただくためにも、その土地の風土を感じられる場所を作る必要があると感じたのです」

そこから、実際にアクションをはじめたのが12~13年前。「お酒といえば水が命です。水がないと原料の一つであるお米もできません。我々はこの永平寺町で、お酒の仕込み水の元になっている九頭竜川を見渡せる場所を見つけ、ESHIKOTOのプロジェクトが始まりました」と水野社長。

計画のなかで宿泊の必要性も感じていたが、「我々だけの力では、すぐには無理だと思っていたところ、話が舞い込んだのでありがたかったです」と明かす。

ESHIKOTOの酒樂棟。黒を基調に周囲の自然環境と調和するよう設計され、内部から前面のガラス窓で、外はオープンテラスで、目の前を流れる九頭竜川などの自然を堪能できる造りESHIKOTOの酒樂棟。黒を基調に周囲の自然環境と調和するよう設計され、内部から前面のガラス窓で、外はオープンテラスで、目の前を流れる九頭竜川などの自然を堪能できる造り
ESHIKOTOの酒樂棟。黒を基調に周囲の自然環境と調和するよう設計され、内部から前面のガラス窓で、外はオープンテラスで、目の前を流れる九頭竜川などの自然を堪能できる造りESHIKOTO 酒樂棟テラスからの眺め

「蔵元だからこそやるべきこと」日本酒を元につながる縁で新しいものを創造

黒龍酒造の水野直人社長黒龍酒造の水野直人社長

「日本酒は、交流を生み、人と人を結びつける飲み物だと思います」と水野社長。原料となる米を作る農家のほか、現代では少なくなってしまったが昔は酒を作る樽などの道具を介して林業と密接していた。神事(しんじ)に酒は欠かせないので地元の神社やお祭り、そして食事の際に家族や友人たちと楽しむものとしても利用される。

「そのご縁でつながった方たち、クリエイターや建築家、デザイナー、シェフ、生産者、伝統工芸に携わる人など、いろんな方が集まって新しいものを創造していくというのが、ここの大きな意味合いでもあるんです」

水野社長は「人々の交流を生む日本酒の蔵元だからこそやるべき仕事」「我々の住む場所に何かしら貢献できる活動」ということを胸に抱きながらESHIKOTOをスタートさせ、さらにオーベルジュへと縁がつながったのだ。

内覧会に来賓として参加した福井県副知事の鷲頭美央氏は、「福井を訪れる方の一番の目的が食の魅力となっている」と語った。福井県は宿泊施設を充実させることも課題の一つであったが、「食を中心にした施設である歓宿縁 ESHIKOTOで質の高い滞在の経験」ができ、「地域の魅力を一層高める」ことに期待を寄せた。

水野社長も「お酒を楽しんだ後に宿泊できるというのが魅力だと思いますが、加えて風土を感じていただきたい。季節や天気などでいろいろな表情がありますから、ぜひまた来て楽しんでもらえたら」と語る。また、このESHIKOTOで出合ったもの、伝統工芸品や木材などの産地を訪れる縁が結ばれてほしいとも願う。

建物は異なる建築家がデザインし、伝統と新しい素材をミックスしたおもしろさ

約3万坪という広大な敷地。目の前には九頭竜川が流れ、その向こうに永平寺がふもとにある大佛寺山(だいぶつじさん)や吉野ヶ岳という山が連なる。太陽が出ているときは緑豊かな山々と九頭竜川の清らかな流れが目に鮮やかに、太陽が沈めばそれらが奏でる音が耳に届く。昼夜滞在するオーベルジュだからこそ、その変化を体感でき、日本酒を生む風土を存分に感じられるはずだ。

建築材やインテリアなどで広く福井県の風土が育んだものがそろうのも特色になっている。レストラン・acoyaと石田屋ESHIKOTO店にあるテーブルは水野社長自ら選んだ旧美山町(現福井市)で育った美山杉を使用。床は、はるか昔の火山活動で降り積もった灰が固まってできた火山礫凝灰岩で青みがかった色合いが美しい笏谷石(しゃくだにいし)、壁紙は越前和紙、ショーケースに越前箪笥、カトラリーに越前焼や越前漆器。建物は、そんな福井の自然が培った伝統的な素材を使ったモダンなデザイン。水野社長いわく「新しい技術や伝統で守られているものをミックスさせながら使っていくことによって、福井らしさを表現したい」とのこと。なお、オーベルジュ滞在の際は、acoyaで朝食をとることになる。

歓宿縁 ESHIKOTOからの永平寺がある山の眺め歓宿縁 ESHIKOTOからの永平寺がある山の眺め
歓宿縁 ESHIKOTOからの永平寺がある山の眺め石田屋 ESHIKOTO店の店内。宿泊のお土産として、また食事と合わせて気に入った銘酒を購入できる

そして、建物は建築家が違う。酒樂棟は、東京在住で注目の建築家・古谷俊一氏、臥龍棟とオーベルジュと同時に新たにできたウイスキー樽の貯蔵庫であり、イベントスペースなど多目的な空間としても予定するサイモン棟は、いくつもの建築及びデザイン賞を受賞しているイギリスのサイモン・コンドル氏。同じくオーベルジュと同日にオープンした「ベーカリーハレヤ」と「蕎麦山や」は隈研吾氏が監修している。

ただ、不思議とというのか、それぞれの建築がまとまりあるように感じるのは、永平寺町の風土を感じられるようにというコンセプトが息づいているからだろう。

オーベルジュ、歓宿縁 ESHIKOTOの建築的見どころは、次の記事で紹介する。

取材協力:株式会社アクアイグニス https://aquaignis.jp/
     黒龍酒造 https://www.kokuryu.co.jp/
ESHIKOTO https://www.eshikoto.com/ja
歓宿縁 ESHIKOTO https://kanshukuen.com/

トップ画像クレジット (C)ToLoLo studio

歓宿縁 ESHIKOTOからの永平寺がある山の眺め2024年11月オープンの「ベーカリーハレヤ」
歓宿縁 ESHIKOTOからの永平寺がある山の眺め2024年11月オープンの「蕎麦山や」。ベーカリーは〇、蕎麦店は△、酒樂棟は□の図形をもとに作られている。その図形は、永平寺にちなんで、禅の悟りのプロセスを表現していて、〇は悟りを得た状態、△は仏と一体となった姿、□は物事にとらわれた心だという

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