「超高層住宅は簡単に再建築できない」という事実
住総研は1948(昭和23)年に設立された住まいに関する研究機関。その当時に超高層住宅が無かったことを考えると日本の住宅は大きく変わってきた。現在では全国で1500棟に迫らんとする超高層住宅が建設され、都市圏のみならず、あちこちのまちの駅前の当たり前の景観となっている。
だが、これまでの災害対応は制度、法令その他を含め、大半が木造一戸建てを中心に組み立てられている。建物自体は倒壊するまでの被害を受けないとしても、被害を受けないはずはなく、そこで生活し続けようと考えるのは他の住宅と同じ。そこで今回のシンポジウム『超高層住宅の災害対応を考える』では超高層住宅の現状から始まり、あるべき姿、実際の災害事例、住民の不安、長期修繕の現状などから超高層の災害対応を考えるという。
ここではそのシンポジウムのうちから現在超高層住宅に住んでいる人、これから住みたいと考えている人に役に立つような内容をピックアップしていきたい。まずは冒頭で行われた東洋大学名誉教授の秋山哲一さんによる主題解説から、いくつかご紹介しよう。
住総研では今回、超高層住宅長寿命化研究委員会を設置、2024年から3年間を費やして超高層住宅の長寿命化を研究していくとしている。その背景として秋山さんは超高層住宅の3つの特徴を挙げた。
① 超高層住宅の多くは容積率一杯に建てられており、再建築はできない
② この40年で技術、法令が変化したことに加え、各棟の個別性が高く、長寿命化についての情報が共有されていない
③ 一般中高層マンションにない設備が多く存在、初期のものは設備改修の時期に入りつつある
再建築できない以上、できるだけ長く使い続ける必要があるが、そのために必要な情報共有ができていない。そこを3年間かけて研究していこうというわけである。
災害時倒壊はしないが、エレベーターの閉じ込めなど災害被害はさまざま
続く工学院大学建築学部教授の久田嘉章さんは超高層住宅の災害対応は従来とは異なるものであることを教えてくれた。従来の地震対策は揺れ、火災への備えが中心で立地などによっては水害へも備える必要があった。
だが、超高層住宅では基本揺れはするが倒壊の危険はないとされる。それなら安心と思うかもしれないが、揺れによってエレベーターに閉じ込められる可能性があり、発災後首都圏のエレベーターが全て停まったとしたら復旧までにはかなりの時間がかかるだろう。エレベーターが使えない状態では生活にも支障をきたす。階数、地震の周期によっては家具などが移動、それによって室内だけでなく、人的被害に発生する不安もある。
そう考えると揺れに関してだけでも不安要因は多数ある。超高層住宅は倒壊しないというだけであって発災時、直後、その後と、これまでとは異なる危険があるわけである。
また、超高層住宅だけではないが、被災後の制度、法令などはマンションに不利な点が多いという指摘も気になるところ。たとえば応急危険度判定は10階以下の住宅が主たる対象となっており、それ以上高層の集合住宅は対象外。複合型マンションも同様である。
あるいは罹災証明のための被害認定となる被害認定調査では構造体の被害の割合が60%を占め、設備が15%、非構造壁が10%、内部仕上げ・天井が10%、建具が5%となっている。となると集合住宅で構造に問題がない場合にはあまり被害がないということになってしまう。地震保険が重視するポイントなども同様で、実際の被害額と認定される額の間には乖離が生ずることになる。
都市部での地震では集合住宅の被災も想定されるが、その前に災害対策そのものを見直していただきたいものだ。
もうひとつ、久田さんが最後に提案した逃げる必要のない、地域貢献する超高層住宅という観点について。これは超高層住宅を災害時の避難場所として地域に役立てようというもの。地域によっては津波避難ビル、水害時避難ビルを指定、避難所としているが、そこに超高層住宅もということと考えれば分かりやすい。地域によっては自治体と一緒に検討してみても良いのではなかろうか。
マンションの災害対応力を評価する指標2題
続くお二人の講演はマンションの災害対応力を異なる視点から評価しようというもの。最初の東京都住宅政策本部民間住宅部マンション課の山口大助さんは2012(平成24)年に創設された東京とどまるマンションを説明した。これは耐震性、ハード対策、ソフト対策でいくつかの要件を満たしたマンションを登録できるというもので、2024年11月末時点で508件の登録がある。
東京都マンションポータルサイトの中にある東京とどまるマンション情報登録簿一覧を見ると登録されているマンションは☆ひとつから☆3つまでとレベルが異なっており、☆の多いマンションのうちには超高層住宅が目につく。
山口さんによると「タワーマンションは11月末時点で75件の登録があり、ハード面ではタワーマンションは備えが進んでいます。今後はそれだけにとどまらず、大規模改修時に防災備蓄、非常用電源などを増やしてもらうよう誘導、非常用資材購入後にはそれを利用した訓練もしてくださいと呼びかけていく予定です。防災訓練はコミュニティの形成にも繋がりますし、管理会社とも連携して進めていきたいところです」とのこと。
マンションを選ぶ際の参考資料としても役にたちそうだ。
在宅避難を想定、マンションの強み、弱点をレーダーチャートで表示できるようにした仕組み、マンション生活継続力評価を紹介したのは一般社団法人新都市ハウジング協マンション会LCP分科会主査で清水建設技術研究所室長の村田明子さん。
この仕組み自体は超高層住宅を想定したものではないが、一般のマンションとの違いを考えるとタワーマンションの問題点が分かると村田さん。被災後の安否確認は戸数が多ければ多いほど大変だし、エレベーターが使えない超高層で人が確認に歩くのは現実的ではない。ドアの変形で住戸内に閉じ込められた場合、一般のマンションでは隣戸のベランダからアプローチできるが、タワーではベランダが繋がっていないこともあるなど。
その一方でタワーマンションは設備的には高評価になることも多いそうで、プラスもあればマイナスもあるということ。どこにマイナスがあるかを知るために同評価にチャレンジしてみても面白いかもしれない。
人数、規模の大きさが、災害対応のソフト面での障壁に
4本目の講演はみなとBOUSAIプログラム代表、東京防災学習セミナー講師などを務める港区防災アドバイザーの久保井千勢さんによるもの。久保井さんによると超高層住宅、つまりタワーマンションは数としては少数派なのにも関わらず、1棟あたりの人数が多いという存在。都内には3万棟以上のマンションがあるが、そのうち、20階以上のマンションは479戸で比率にすると1.6%。だが、1棟当たりの居住人数は一般のマンションの4.1倍だ。
高さがあることから、人数が多くなっており、ハード面では独自の施設、構造となっているわけで、この3点が災害時のリスクになるという。3階から負傷者を下ろすのと32階から下ろすのでは難易度が全く異なるし、百人単位の居住者に情報を間違えずに伝達するのは大変なことだ。多くの超高層住宅では階段は2カ所だが、そこに階段に住んでいる人が殺到したら大きな騒ぎになろう。
そう考えると「被災時を想定し、普段できることを考えて備えておくことが大事」と久保井さん。確かに何も備えていない状態であれば電気が停まっただけでパニックになりそうだ。
集合住宅の場合、備えるためには管理組合が活動をリードすることになるが、そこにも障壁がある。超高層住宅では管理そのものに関心のない人、そもそも、住んでいる人の間でコミュニケーションがない例が少なくないのだ。
「投資目的の所有者がいると合意形成が難しくなりますし、賃貸率が高いと無関心な人が増えやすくなります。居住者同士の関係が希薄なこともよくあります」と久保井さん。
だが、住み続けたいのであればそこは乗り越えるしかない。まずは何かあった時の情報共有や迅速な安否確認ができるための仕組み作り、続いては自分自身が当事者であることを認識してもらい、さらに各階、ブロックごとに何をすべきかを具体的に検討していく……。伺っているとやるべきことは多く、道のりはかなり遠い。
物理的耐用年数が最も長く、寿命(実際に存在した年数)、経済的耐用年数が順に短い超高層住宅
最後の講演は日本マンション学会マンション大規模改修工事技術開発研究委員会主査でエムズラボ代表取締役の橋本真一さん。講演のテーマは「超高層マンションの長期修繕計画と防災対応工事の関係」。
聞いて分かったことは2点。ひとつは一般的な長期修繕計画は30年ほどで考えることが多いが、超高層住宅を対象にした際にはもっと長期で考えるべきではないかということ。超高層住宅には長期修繕計画ガイドラインには示されていない独自の防災設備も多く存在。そうした設備があれば大規模修繕時などに修繕するのは当然だが、もし、ガイドラインにない場合には新たに計上することも考えても良いのかもしれない。
ちなみにそうした設備として挙げられたのは非常用発電機、給排水排煙設備、中間階給水ポンプ、スプリンクラー、ホバリングスペース、航空障害灯、ごみのコンパクスターなど。他ではなかなかないものばかりで、こうした設備類を適切に扱える事業者は多くはないのではないかと思いながら聞いた。
もうひとつは超高層マンションの耐用年数について。耐用年数にはさまざまなものがあるが、ショッキングだったのは超高層マンションの場合、物理的耐用年数(使用に耐える年数)が最も長く、それよりも寿命(実際に存在した年数)、経済的耐用年数(経済的に市場性を有する年数)が順に短いということ。
経済的耐用年数が市場で価値がある年数と考えると超高層住宅は市場では価値がなくなったとされた後も建物としては存在し続けるということになる。今シンポジウムでは「だから、長寿命化を」という話なのだが、市場価値がないものを長寿命化するためには技術的な問題だけではなく、経済的な問題もクリアする必要があろう。今回のテーマとしては上がっていなかったが、今後はその点も検討されるべきではなかろうか。
超高層住宅では平時には気づかない難点も多数ある
講演終了後は新たなパネリストも加わり、パネルディスカッションが行われた。充実した内容だったが紙幅の関係で、そのうちのごく一部を。
ひとつは壇上から声をかけられて登壇したテーアイエンジニアリングの飯塚敏志さんが指摘した災害時の集合住宅の、これまであまり指摘されてきていない問題点。
ひとつは非常用発電機の運用について。最近では非常用発電機を備えた物件が増えているが、非常時に発電した電気がどこで使われることになっているかの情報が引き継がれていない例があるという点。本来なら管理会社の担当者が替わった際に引継ぎが行われるべきだが、日常的に行われない点は忘れられがちなのだ。
ふたつめは同じ建物内で防災スペックに差があること。これに気づいたのは自宅マンションの火災だったそうで、15階建ての12階で出火、延焼はしなかったものの専有部内の共用排水立管が焼失した。となると上階は水が使えなくなる。
こうしたことを防ぐために超高層住宅では、専有部内にスプリンクラー消火設備が設置されているが、「法令で設置義務がない10階以下に設置されている例は知る限り1棟もない」と設備設計に携わる飯塚さん。つまり、超高層住宅の下層階で火災が発生した場合にはその上階すべてに影響が出ることになる。
みっつ目はここ数年、30階以上住戸のバルコニーの隔て板が台風などで飛んでいく例が数件出ているということ。敷地内にはなく、どこに飛んでいったかは分からないという。今のところ、それで被害が出たということはなさそうだが、聞いているだけで怖い話である。
もうひとつ、怖いと思ったのは災害時の内廊下。ご存知のようにマンションの共有廊下には建物内にある内廊下式、建物外に設置する開放型とも呼ばれる外廊下式があり、内廊下式のほうがホテル風でグレードが高いとされる。絨毯が敷かれているなどしつらえも豪華だ。
だが、一度停電で照明が消えると真っ暗。昼間でも暗い場所になってしまう。外廊下なら昼は太陽光、夜も月などが出ていれば多少は見えるだろうが、建物内だとそうはいかない。
「維持管理も考えると内廊下式はコストがかかる。どこかに落としどころはないものか、考えています」
30年目にくる積立金料率の転換点をどう考えるか
もうひとつ、パネルディスカッションでモデレーターを務めた公益社団法人日本建築士会連合会名誉会長で集工舎建築都市デザイン研究所の近角眞一さんの修繕積立金の話も書いておこう。
200戸の中高層住宅、機械式駐車場有という物件の60年間の修繕積立金の予測データを見てみると築24年目、48年目に修繕費用の大きな壁にぶつかり、築30年目に積立金料率を上げざるを得なくなる。それは機械式駐車場などの大型設備の更新にお金がかかるためで。このことは超高層住宅に限らず大型物件に共通の問題と思われる。建物自体は長持ちするにも関わらず、市場価値が下落するというのにはこうした問題も絡むのだろう。
設備の専門家である飯塚さんもフルスペックの設備が導入されている超高層住宅では、築60年までで考えると建築より設備の維持管理にお金がかかるとのこと。
超高層住宅は建物を高くすることで都市の地価の高い場所に比較的安価に多くの人が住めるようにしたわけだが、暮らしを多くの設備類に頼っていることからどうしてもコストが嵩む。それを負担しつつ、でも、建物の市場価値を維持、長寿命化を図る。どうすればそれが可能になるのか。今後の論議の行方に期待したい。
■参考資料
東京とどまるマンション情報登録簿一覧
https://www.mansion-tokyo.metro.tokyo.lg.jp/kanri/05lcp-list.html
マンション生活継続力評価
https://anuht-lcp.com/
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