『NEXT PUBLIC AWARD 2024』最初は、伊豆稲取駅の「まちのレセプション・ようよう」

2023年に続き、2度目の開催となる2024年の「NEXT PUBLIC AWARD」は公共R不動産が実施している、公共空間活用の新たな可能性を発見するアワードプログラム。
新しい公共のあり方を問いかける取組みであり、かつ広く全国で活動する人達と出会う、つながる場としての意図もあるという。2024年は応募のあった8プロジェクトの中から5プロジェクトが選出され、公開プレゼンテーション、最終審査が行われた。

公開プレゼンテーションはそれぞれ10分。以下、当日行われた順にご紹介していこう。

トップバッターは「まちのレセプション・ようよう」。これは静岡県東伊豆町を中心に活動するMDI(株式会社micro development)というローカルでの事業立ち上げに伴走支援する会社が伊豆急伊豆稲取駅改札前の元観光案内所をリニューアル。まちのレセプションとして開業したもの。従来の観光案内所に加え、伊豆の産品を集めたセレクトショップ、オリジナル商品を揃えたポップアップ、電車を待つ時に便利なカフェの4つを備えている。

誕生の経緯としては、地域再生のためと東伊豆町が伊豆稲取駅の改修と新たな運営を目指して事業者選定プロポーザルを実施。そこで伊豆急とMDIが選ばれ、企画段階からワークショップ、ヒアリングを行い、クラウドファンディングで住民、関係人口にビジョンを共有するなどして準備。2024年4月に開業した。

ようようが持つ4つの機能。ただ、案内するだけではない新しい姿を目指しているようようが持つ4つの機能。ただ、案内するだけではない新しい姿を目指している
ようようが持つ4つの機能。ただ、案内するだけではない新しい姿を目指している施策の流れ。実際にはすべてが実現しているわけではなく、その部分が分かりにくいと審査員から指摘があった。これからやることも多く、そこには期待しかない

東伊豆町は鉄道の駅という民間施設に公的資金を投入、新規事業者の参入機会をプロポーザルで創出、地域おこし協力隊を運営者に設定。一方伊豆急は開発費を負担、建物賃借料の負担軽減を図り、MDIが事業投資を含む新規事業として企画、設計、運営に携わるという官民連携のプロジェクトで、今後は多角経営とIT活用により事業を安定化させ、地域の産業、雇用の創出に寄与していく計画という。

東伊豆町は温泉街として知られ、年間70万人が訪れるが、町自体は人口1万人ほどで縮退傾向にある。そこで観光をてこに町に新しい動きをという模索がこの取組み。駅をまちのツボと考え、そこを押さえることでまちの血行を良くしたいと考えているそうだ。

ようようが持つ4つの機能。ただ、案内するだけではない新しい姿を目指している官民それぞれの役割を表わしたもの
ようようが持つ4つの機能。ただ、案内するだけではない新しい姿を目指している手を振り合うというのは至って日本的な風景なのだとか。大きく構えるのではない、日常的な公共のあり方として聞いていて納得

「タルキプロジェクト」農、本、人を地域の中で循環させる

プロジェクトが変えてきた不動産の数々プロジェクトが変えてきた不動産の数々

続いてのプレゼンは江戸時代の新田開発で誕生、今も農地を含めて緑の多い柳窪村(現東京都東久留米市柳窪)にある農園・奈良山園の15代目・野崎林太郎さんとその友人である建築設計事務所IN STUDIO代表の小笹泉さんによるもの。2人はこの8年間、農、本、人を地域の中で混ぜ合わせるべく、野崎さんが所有、あるいは関わる不動産6カ所を拠点として整備してきた。

農は家業であり、「公共性がある」と野崎さん。祖父が地域に複数の書店を展開していたため、本もまた、野崎さんにとっては家業のひとつ。そこで、それらがテーマとなった。

最初に手掛けたのはバス停前にあった元ケーキ店の店舗。現在はMIDORIYAという名称でジャム加工所、地産マルシェやイベントの場として使われており、絵本やおもちゃなども置かれている。農と本、地域の人と経済が循環しているのだ。

プロジェクトが変えてきた不動産の数々舞台となったのは江戸時代の新田開発以来の土地。農業を続けている家系も残る、緑豊かな場所だ

だが、この時点で全体像を描いていたわけではない。プロジェクトの名称となっているタルキとは建物の垂木(小屋根構造材)に用いる断面30ミリ×40ミリの木材のことで、プロジェクトではこれを構造物や什器、仕上げなどに使ってきた。プロジェクトのアイコンなのだが、これがアイコンとなったのはMIDORIYAのプロジェクトをDIYで仕上げるために使ったのがきっかけ。これなら自分たちでできると分かり、以降も使われることになったのだ。

現在では藪だった庭が農産物の直売所兼観光農園の受付となる畑テラス、書店2軒が本+地元産の農産物などが並ぶ店舗に、果樹園が農福連携施設であるデイサービスに、空き家が農業、DIYなどの作業場・ブルーベリーセンターに代わり、そのいずれにもタルキがさりげなく存在を主張している。

農業も、書店も民間の営みではあるものの、地域にとってはあって欲しい、ある意味、公共性のある事業。そう考えると個人の関与する不動産をめぐるプロジェクトでありながら、続けることで公共性を帯びてきたプロジェクトと評された。

プロジェクトが変えてきた不動産の数々最初に改装されたMIDORIYA。ここで使われたタルキが以降のプロジェクトでも使われ続けることに
プロジェクトが変えてきた不動産の数々この図を見ると地域資源というものの捉え方も拡張していることが分かる

「うごくまち ぐるぐるかいけ」屋台が地域をぐるぐる、動きを起こす

3番目のプレゼンは鳥取県米子市皆生温泉に点在する空き地、空き家を利用、車輪のある屋台8台をまちなかに回遊させることから始めて地域に動きを生み出し始めているカイケラボによる「うごくまち ぐるぐるかいけ」。

2022年に行われた最初のイベントでは駐車場や公共施設敷地などに出店、定期的に小さなイベントを繰り返し開催しながら、徐々に活動できる空間を増やしてきた。プレゼン資料には地域の人たちの出店はもちろん、子どもが首からかける箱を下げてレゴなどを販売する姿も登場しており、サービスを提供する人、受ける人が入り交じるような流れが生まれてきていることを感じられた。

その後、屋台をレンタルできるようにしたことで観光客や旅館が店を出したり、地域の祭りで使われたりと、屋台の活動範囲は広がった。2023年3月には1日かけて地域をぐるぐる歩きながら屋台はもちろん、まちそのものを楽しむイベントも開催されている。

まちなかを屋台が回遊、人もそれに合わせて移動。なんだか、湯かいな風景まちなかを屋台が回遊、人もそれに合わせて移動。なんだか、湯かいな風景
まちなかを屋台が回遊、人もそれに合わせて移動。なんだか、湯かいな風景この写真を見て屋台、お店、やってみたいと思った。訪れる人をそう思わせたらまちは変わるだろう

活動は屋台に留まることなく、現在では遊歩道にデッキを設置して暫定的にバーのようにして使ったり、植栽をベンチに変えたりとまちのあちこちに民地と公共用地の敷地境界を超えた居場所を作るなどと拡大。今後はシェア型図書館を作ったり、不動産のプロデュースなども計画されている。

審査員の皆さんが興味を持ったのはカイケラボ6人のメンバーが全員米子市外から来ているという点。カイケラボの上部団体にあたる皆生温泉エリア経営実行委員会は地元の旅館組合、金融機関、観光協会などが参画、米子市文化観光局観光課が所管しているのだが、実働部隊であるカイケラボは全員外の人。

理念と方針、根回しなどを地元が担い、具体的な活動は外の力を巻き込むということだろうが、そうしたアライアンスが組めるというあたりにパブリックマインドがあるといえそう。実働部隊に悩む地域には参考になるのではなかろうか。

まちなかを屋台が回遊、人もそれに合わせて移動。なんだか、湯かいな風景温泉街で屋台を借りて店ができる、やりたいことができる。発想の大きな転換が行われている
まちなかを屋台が回遊、人もそれに合わせて移動。なんだか、湯かいな風景この写真を見て皆生温泉、行ってみたいと思う人もいるのでは

空き家をゆっくり解体「meet the artist 2022:メディアとしての空間をつくる」

空き家を通常の50分の1のスピードで壊し続けるというプロジェクト空き家を通常の50分の1のスピードで壊し続けるというプロジェクト

続くプレゼンは山口芸術センター(YCAM)の「meet the artist 2022:メディアとしての空間をつくる」。YCAMは山口市の複合文化施設で、メディア・テクノロジーを用いた新しい表現を軸に活動をしている。今回のプロジェクト「meet the artist 2022:メディアとしての空間をつくる」はメディア・リテラシーの向上を目指して一般の市民を対象に実施されたもので、10代~70代の専門家ではない市民、80人ほどが参加した。

行われたのは市内にある築90年の空き家を人力で通常の50分の1ほどのゆっくりしたスピードで壊し続けるというもの。1年半ほどかかった解体作業の間には餅蒔きができるように窓を作ったり、焚火ができるようにしたり、演劇やパフォーマンスをやったりと100種類ほどのイベントを開催したという。壊しながらも人が入るため、構造計算をして安全を確保しつつの解体だった。

空き家を通常の50分の1のスピードで壊し続けるというプロジェクト解体が進む空き家を舞台にイベントが繰り広げられた

不動産的な常識からするとちょっと何を言っているのか分からないが、「壊すと作るは表裏一体の作業だが、壊すにはノウハウ、道具が少なく、参加の障壁が少ない」とプロジェクトを担当したYCAMの渡邉朋也さん。気軽に参加することで新たな交流が生まれ、空き家利活用へのリテラシーも高められる。

また、災害、戦争の時代には廃墟のような空間と共生していくこともあり得る。そんな時代には「多少ほつれた空間を共存していくことも必要、その中に自分なりの面白いものを見つけ、他者と共有する、そんな技術も求められるのでは」と渡邉さん。それがこれからの時代の公共ではないかというのである。

ちなみに解体はすでに終わっており、現在は廃材利用の模索のほか、イベントができる場として解体後の敷地を駐車場にするフェーズに入っているという。空き家→解体→駐車場という流れは世によくあるものだが、それをスローに多くの人とやることで見えるものが変わってくる。アートとは面白いものである。

空き家を通常の50分の1のスピードで壊し続けるというプロジェクト壊したもの、出てきたものを利用して作られた作品
空き家を通常の50分の1のスピードで壊し続けるというプロジェクト解体されて更地になったところに置かれた屋台。この屋台にも空き家の部材などが使われている

仮設物を使って公共空間に広場をつくる「出張DIY広場」

最後のプレゼンは教員1名、学生18名からなるまちづくり実践集団・国士館大学都市デザイン研究室による出張DIY広場。発足して7年目という研究室ではこの5年間に43ものプロジェクトをこなしてきているそうで、その数に審査員からは驚きの声が上がった。

どういうプロジェクトかといえば公共空間にDIYで仮設物を設置することでその場所を広場化するというもの。その場の調査・分析から始まり、実際の設計・施行、運営・管理まで自分たちで一気呵成に行うという。

DIY、広場化以外のキーワードとしては協働、ゲリラが上がっており、渋谷区、世田谷区、福島県会津若松市の商店街や図書館、企業その他と連携、神出鬼没にゲリラアーバニズムを行っているとも。今回の他のプロジェクトに比べるとスピード感あふれる活動、プレゼンが印象的だった。

スピードと若さを感じたプレゼンスピードと若さを感じたプレゼン
スピードと若さを感じたプレゼン活動を分かりやすく図解したもの。仮設でもモノが置かれるだけで空間が変わる

特に印象的だったのは渋谷の路上で区の道路占用許可基準を変えるに至った活動。一定の要件を満たした道路でなければベンチは置けないところを植栽帯を使ったガーデニングコンテストに参加してガーデニング作品として脱法ウッドデッキを製作。続いてコロナ特例の占用許可を活用して合法的にテラス設置を行うなど実践を積み重ね、めでたくオリジナルデザインのベンチを歩道上に設置することになったという。

プレゼンでは以降、教員である西村亮彦さんの想いや現在まちづくりに関わっている卒業生が学生時代を振り返って何を考えているかなどが語られたのだが、学生時代からこうした経験が積めるのは羨ましい限り。楽しいプレゼンだった。

スピードと若さを感じたプレゼンひとつのプロジェクト内で行われること
スピードと若さを感じたプレゼンとにかく、この数に審査員一同圧倒されていた

グランプリは「タルキプロジェクト」、準グランプリ「meet the artist 2022:メディアとしての空間をつくる」、審査員特別賞「うごくまち ぐるぐるかいけ」

プレゼン後は審査である。審査員は審査員は公共R不動産のプロデューサーであり、東北芸術工科大学教授の馬場正尊さん、都市プランナーの泉英明さん、キュレーターで東京藝術大学大学院准教授の服部浩之さん、株式会社トーン&マター代表取締役でプロジェクトデザイナーの広瀬郁さん、大阪市港区長の山口照美さんの5人。官民それぞれから、都市づくりから、芸術的観点からなどと多様な視点から次の公共のあり方を議論しようという意図が分かる顔ぶれだった。

結果、グランプリを受賞したのはタルキプロジェクト。準グランプリには「meet the artist 2022:メディアとしての空間をつくる」、審査員特別賞として「うごくまち ぐるぐるかいけ」が選ばれた。

審査発表後のそれぞれの作品について、また今回のアワード自体への審査員の感想がトークセッションという形で行われたので、以下、その中からいくつかご紹介したい。

グランプリを受賞したタルキプロジェクトのお二人。これからも地道にまちを変えていってほしいグランプリを受賞したタルキプロジェクトのお二人。これからも地道にまちを変えていってほしい
審査後のトークセッション。笑顔がお分かりいただけよう審査後のトークセッション。笑顔がお分かりいただけよう

まず、今回のアワードは前回とは全く違ったものだったという言葉が何度も出た。前回はリノベーションと紐づきやすい大きな施設が絡むプロジェクト、実施主体が明確で事業スキームを書けるようなものが中心だったとのことで、それに比べると今回は雲をつかむようなファジイなものが多かったという。

分かりやすいのは「行政のプロポーザルだったら間違いなく選ばれない」と山口さんの言葉。行政からの発想としては出てこないプロジェクトが多かったということである。

そのうちでも最も雲をつかむような、馬場さんいわく「審査員一同が全貌を把握できていない」というタルキプロジェクトが選ばれたのは公共を再考、拡張することを審査員全員が意識していたからではないかと思う。

「公共の意味をもっと広く考えよう」。公共を問い直し、拡張する

プロジェクト紹介のパートでも書いたが、タルキプロジェクトは友人2人が私有財産の価値向上のために始めたもので、いわゆる公共=行政はほとんど登場しない。活用する地域資源の中にはミツバチのような、人がコントロールできないものすら登場している。

だが、受賞した小笹さんの「公共も最初からあったわけではないのではないか、いろんな人が作ったものが重なり合って公共になったのではないか」という言葉を聞くと、活動の主体が個人であることと公共性には関係がないように思う。であれば、公共の意味をもっと広く考えよう、グランプリ選出にはそうした意図があるように思える。

会場の様子。次年度にも期待したい会場の様子。次年度にも期待したい

同様にYCAMの準グランプリは建築、都市計画という従来の目線をアートへも広げるものであり、カイケラボの審査員特別賞は活動の主体を地域外の人に広げるものと考えると、今回のアワードでは拡張が意識されていたように感じる。

また、公開プレゼンでは審査員、会場から何度も笑い声が上がった。プレゼンしている人達、資料に登場する人達も含め、関係者全員が楽しそうであり、軽やか。眉間に皺を寄せて難しい顔などせずに面白がっていこう。これもまた、大事なポイントだ。

会場の様子。次年度にも期待したい『NEXT PUBLIC AWARD 2024』授賞式後の記念撮影。一列目は審査員のみなさん

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