派手さの中に光る職人技 北九州の成人式衣装に込められた想い

全身金色や銀色の着物、キラキラと光るスパンコール、鮮やかな色彩のデザイン。

北九州市の成人式で見られる独特な衣装が全国的な注目を集めている。その多くを手がけるのが貸衣装店「みやび」。同店が過去に制作した衣装は1万着をゆうに超える。ここ数年で、その活動は世界へと広がりを見せ、2023年にはニューヨークファッションウィークでショーを開催した。

独自の進化を遂げる北九州市の成人式の衣装文化について、「みやび」の小倉本店店長兼デザイナー、池田 雅(いけだ みやび)さんに話を聞いた。

みやびの店舗ではさまざまな「ド派手衣装」が出番を待つみやびの店舗ではさまざまな「ド派手衣装」が出番を待つ

二人の若者が願った金と銀の衣装 独自の職人技術で北九州の成人式文化に新たな風を

“ド派手衣装の元祖”金と銀の衣装“ド派手衣装の元祖”金と銀の衣装

2003年の成人式直後、それまで普通の貸衣装を提供していたみやびに男性二人から大きな転機となる依頼が入った。

「全身金と全身銀の衣装で成人式に行きたいんですよ」

当時、そのような衣装は前例はなく、取引先に問合せても生地が見つからない。彼らに断りの返事ができずに時間が過ぎたが、そんな状況を知らない彼らは毎月、みやびの店舗に直接代金を支払いに来た。 「衣装を楽しみにして毎月支払いに来る彼らの姿に心を動かされ、とても断ることができませんでした」と池田さんは振り返る。

そして池田さんは、オリジナルの生地から全身金・全身銀の成人式の衣装を作り上げることを決断。赤字覚悟の挑戦だったが、これが後のみやびの方向性を決定づけることになる。

「元々ブライダルの貸衣装や美容を手がけていたので、花嫁の要望は叶えるものという考え方がありました。『できない』と言うのは簡単だけど、その言葉は言いたくないんですよね」(池田さん)

その思いは成人式衣装の制作でも変わらなかった。

金と銀の衣装を作った翌年以降、後輩へと紹介が続き来店数が増加。「もっと派手なのがいいんですよ」「ここに柄を入れてください」と要望は多様化していく。 こうした要望が新たな基準をつくり、どんどん衣装が華やかになっていった。

「新成人たちが実現したいデザインをかなえるだけで、十分に満足してもらえるわけではありません。彼らに話を聞くことでビジョンを明確にし、アイディアを形にしていますが、それよりももうワンランク上の衣装を作り、彼らの期待を必ず超えてみせたいと思っています」(池田さん)

こうした想いがみやびの信念となっていった。

元々美容師だった池田さんは、デザインを完全な独学で習得。デザイン作成ソフトの使い方をマスターし、世の中に存在しない柄を自らデザインするようになった。

繊維産業は今や中国がメインという現状の中、みやびは国内の職人との協働を選択。一着ごとに異なるデザイン、細かな要望に応える作りは、日本の職人ならではの技術があってこそ可能になる。「日本の職人じゃないと作れない」という池田さんの言葉には、長年の信頼関係が込められている。既存の衣装も、そのまま貸し出されることは少なく、ほとんどの衣装がその都度カスタマイズされる。完全な新作は毎年数十着程度だが、既存の衣装も含めた作業量は膨大なものとなっている。

“ド派手衣装の元祖”金と銀の衣装新成人たちが実現したいデザインは多様化していく 提供:みやび

衣装文化を育んだのは、日本初の「アミューズメント成人式」と工場の街の寛容さ

テーマパークで開催されたという成人式 ※画像はイメージテーマパークで開催されたという成人式 ※画像はイメージ

この独特な衣装文化の発展には、ある施設の存在が大きく影響しているのではないかと池田さんは話す。

北九州市は1998年から2013年まで、当時存在したテーマパーク「スペースワールド」を成人式会場としていた。これは、日本初のテーマパークでの成人式典であり、千葉県浦安市がテーマパークで成人式を行うようになる4年前のことである。

市民会館などで行われる成人式に比べて、テーマパークでの式典は「非日常」である。「テーマパークだから、マスコットキャラクターもいますし、会場そのものが派手なんです。それに負けじと、衣装も華やかさを増していったのではないでしょうか」と池田さんは分析する。

テーマパークで開催されたという成人式 ※画像はイメージ工業都市として成長したきた北九州市

さらに、北九州市には、この文化を受け入れる土壌があった。

四大工業地帯のひとつとして発展してきた街には、独自のファッション文化が根付いている。高校卒業後に工場勤務する若者たちの間でも、派手な髪型や着こなしは珍しくない。

「仕事はつらいけど、袴代を払わないといけないので辞められない」と頑張って働く若者たちを、職場は温かく見守る。工場の上司は「成人式でやりたいことがあるんやね」と髪を伸ばす若者を理解し、派手な衣装で会社に報告に来れば「まるで別人やね」と笑顔で迎えるという。病院に入院中の祖父母に会いに行く新成人もいるそうだ。

「『一世一代の晴れ舞台にしたいんだね』という新成人への優しさが、この街にはある」と池田さんは語る。地域に根付いたさまざまな人間関係の中で、この文化は育まれてきた。

反響は全国から世界へ 地域文化からグローバルに認められた北九州発の和装

ニューヨークファッションウィークに花魁姿で登場した日本人バレエダンサーのShokoさん 提供:みやびニューヨークファッションウィークに花魁姿で登場した日本人バレエダンサーのShokoさん 提供:みやび

インターネット上で話題になったことをきっかけに、この衣装文化は全国的な注目を集めるようになる。

個人ブログに掲載された成人式の写真がインターネット上で注目され、テレビ番組の取材を皮切りに、全国ネットの報道が相次いだ。成人式当日には20社以上のメディアが取材に訪れるようになった。 メディアでの露出が増えるにつれ、否定的な声も上がるようになった。報道の翌日には苦情のメールや電話が寄せられ、北九州市からは「成人式に参加する際はきちんとした服装で」という通達が出された年もあった。

「この時期は正直大変でしたが、成人式が終わった後の新成人からのお礼の言葉が励みになりました」と池田さんは振り返る。

そんな中、2018年にニューヨークの投資家に3着の着物を貸し出したことが 、世界への扉を開くきっかけとなった。

その後、2020年3月にニューヨークでの個展の機会を得た。2023年9月11日には、ニューヨークファッションウィークでのショーへの出場が実現。花魁をモチーフにした衣装での独自の演出に、楽曲はテレビドラマやアニメなど数々の劇伴音楽で知られる作曲家・池頼広氏に依頼をした。このショーで、著名メディアも含めた多くの観客を魅了。その後も2024年にはパリコレクションに出場し、ダウン症のモデル、斉藤菜桜さんとのステージで大きな反響を呼んだ。グラミー賞受賞アーティストのスキップ・マーティン氏からの依頼も舞い込んだ。

国内でも評価は大きく変化していく。2023年2月に着任した新北九州市長は「豪華絢爛な衣装を、北九州市発の新しい文化として発信していく」と話し、市主催のイベントでみやびの衣装を見る機会が増えてきた。

2024年には、ミスインターナショナル日本代表の植田明依さんの衣装も担当。熊本の伝統的な山鹿灯籠を取り入れた衣装は、「ミス・アジアパシフィック」受賞後の山鹿市役所での報告会見で大きな話題となった。

ニューヨークファッションウィークに花魁姿で登場した日本人バレエダンサーのShokoさん 提供:みやびショーの様子。真ん中は池田 雅さん

誰も予想しなかった急展開 北九州から世界へと広がり続ける和装の新しい物語

池田さんにこの先の夢や目標を尋ねると、予想外の答えが返ってきた。「夢がないわけじゃないんですが、現実があまりにも大きく動きすぎていて、夢を見ている暇がありません」。

この言葉は、みやびの現在を象徴している。コロナ禍や自らの体調不良で「もう海外旅行には行けない」と考えていた矢先、ニューヨークから個展のオファーが入った。それがファッションウィークへの出場、パリコレクションへの参加へと繋がっていった。本人すら驚くほどの急展開だ。

「この先に何が起こるのかなって考えると、将来は楽しみしかないです」(池田さん)

北九州から生まれた独自の衣装文化は、誰も予想できない展開を見せながら、さらなる進化を続けている。

ミスインターナショナル日本代表の植田明依さん(右)と池田 雅さん 提供:みやびミスインターナショナル日本代表の植田明依さん(右)と池田 雅さん 提供:みやび

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