公衆トイレ改善からスタート、災害時のトイレ問題にも取組み

全国トイレシンポジウム2024のイベントの主催者である一般社団法人日本トイレ協会は1985年に「快適なトイレ環境の創造」を目標に発足した民間団体。名称からして業界団体と思ってしまいそうだが、そうではない。公衆トイレが4K(汚い、くさい、暗い、怖い)と言われていた時代で、それを改善することが当初の目標だった。

ところが設立から10年後の1995年に阪神・淡路大震災が発生。
協会ではトイレ清掃のボランティア、トイレの実態調査などを行い、その後には協会内に「災害・仮設トイレ研究会」を設置、災害時のトイレ問題などについてさまざまな提案をしてきた。11月10日をトイレの日としてシンポジウムを行ってきた同協会が40回目のプログラムに選んだのは「能登半島地震の経験から考えるインクルーシブ防災と災害トイレ」というテーマ。

会場には過去に行われたイベント時の資料も置かれていた会場には過去に行われたイベント時の資料も置かれていた

災害トイレは分かるものの、インクルーシブ防災とは?と思う人もいるだろう。トイレに限ったことではないが、災害時には障害者や高齢者、子ども、妊婦や外国人など配慮や支援が必要な人達に被害が集中することがある。そうした事態を引き起こさない、「誰も取り残さない」防災、それがインクルーシブ防災である。

シンポジウムは午前中に被災現場を訪れた専門家による実情報告、災害時の保健医療体制とトイレの課題、そして2024年4月に地震のあった台湾花蓮県での被災者支援、災害トイレの実情が語られ、午後からは被災地からの報告、それに対する支援体制、そして登壇者全員による意見交換、質疑応答などが行われた。

いずれも興味深い内容だったが、ここではそのうち、我が家の備えとしてトイレも用意しなくてはと思っている人達に役に立つ内容を中心に情報をピックアップ。不測の事態が起きた時に対処できるようになることを目的としたい。

災害用トイレには大きく分けて4種類ある

最初のキーノートスピーチでは日本トイレ協会の理事、高橋未樹子さんによる「能登半島地震でのトイレ」。1月7日から現地に入って復旧支援活動を行ったという高橋さんだが、断水が続く現地で痛烈に思ったのは「水をごくごく飲みたい、お腹いっぱい食べたい、流水で手を洗いたい」ということだったという。トイレに行けないとなると水も食べ物も控えるようになるため、喉が渇き、空腹な状態が続いていたのだ。

さて、災害用トイレは大別すると4種類ある。
ひとつは携帯トイレで個人で防災備蓄として購入するのはこのタイプが中心だろう。袋と凝固剤がセットになっており、既存の洋式便器や簡易トイレにかぶせて使う、ビニール袋などを組み立てて使うなど、使い方は商品によって異なる。
続いては簡易トイレ。これは持ち運びできる便器、組み立て式のボックスなど。介護の現場で見かけることもあると思う。
3つ目はマンホールトイレ。マンホールの上に直接設置して使うもので最近は防災公園、ある程度の規模のあるマンションの共有部などでも見るようになった。

そしてもうひとつが仮設トイレ。これは工事現場、イベント会場などでも見かけるようなもので、今では災害時でも快適に使える仮設トイレが増えているそうだ。

災害時のトイレの主なもの。それぞれに特徴がある。これ以外にも仮設トイレをコンテナ型にしたもの、移動できるトイレトレーラー、トイレカーなどもある(資料は一般社団法人日本トイレ協会 災害・仮設トイレ研究会のもの。以下特記がないものはすべて)
災害時のトイレの主なもの。それぞれに特徴がある。これ以外にも仮設トイレをコンテナ型にしたもの、移動できるトイレトレーラー、トイレカーなどもある(資料は一般社団法人日本トイレ協会 災害・仮設トイレ研究会のもの。以下特記がないものはすべて)

これらの災害時用トイレは種類によって長所、短所があり、発災からの時間などで使い分けることになる。たとえばマンホールトイレは組み立てが必要なため、発災直後はすぐに使える携帯トイレ、簡易トイレの利用が現実的。仮設トイレは現場に備蓄されていることが少ないので到着を待つことになり、物流の状況などにもよるがマンホールトイレよりも時間がかかることになる。だが、仮設トイレが設置されるようになれば携帯トイレなどを使う必要はなくなる。

高橋さんが支援に入った現場では1月5日に仮設トイレが入り、同7日にはトイレカーが到着したという。ただ、仮設トイレは男女別にはなっていたものの隣接して設置されており、女性には使いにくいところもあったそうだ。トイレカーも昇降機能があって便利だったものの、操作補助をする人がいない夜間などは高齢者には使いにくかったとも。

被災者に必要だったものとしては高橋さんは下着、ズボンを挙げた。トイレを我慢した結果、失敗してしまい、その上風呂に入れない状態が続いたのである。汚れた下着をつけ続けるのは辛い。支援する際も、自ら備える際もその点は覚えておこう。また、女性では生理用品に加え、風呂に入れない時などにはおりものシートが役に立つとのことだ。

災害時のトイレの主なもの。それぞれに特徴がある。これ以外にも仮設トイレをコンテナ型にしたもの、移動できるトイレトレーラー、トイレカーなどもある(資料は一般社団法人日本トイレ協会 災害・仮設トイレ研究会のもの。以下特記がないものはすべて)
災害用トイレの特徴と役割についてまとめたもの(「マンホール整備・運用のためのガイドライン」国土交通省水管理・国土保全局下水道部より)

災害関連死を防ぐポイントは排泄、食事、睡眠

続いては浜松医科大学医学部医学科健康社会医学講座教授の尾島俊之さんによる災害時の保健医療対策とトイレの課題。尾島さんによると災害関連死を防ぐためのポイントはTKBの質。これはトイレ、キッチン、ベッドの略で被災後も排泄、食事、睡眠がきちんととれるような環境を保てるようにすることが被災者の健康状態を保ち、尊厳を守ることに繋がるという。

そのためには保健医療だけでなく、福祉分野との連携も必要で、2022年には厚生労働省が大規模災害時の保健医療福祉活動に関わる体制の整備について各都道府県知事に向けて通知を出している。

それによると大規模災害が発生した場合には被災都道府県は速やかに都道府県災害対策本部の下にその災害対策にかかわる保健医療福祉活動の総合調整を行うための本部、保健医療福祉調整本部を設置することとされている。これ以前にも被災都道府県で保健衛生活動を行う災害時健康危機管理支援チームなどといった組織があったが、それらを統合、保健、医療、福祉が連携して取り組むことが明確にされたものである。

尾島さんの講演ではトイレの状況で懸念される健康課題、トイレで広がりやすい感染症の話もあった。よく知られているのは静脈血栓塞栓症(エコノミー症候群)だが、それ以外にも循環器疾患、感染症、熱中症、消化器疾患、転倒などの事故があり、かなり広範に影響があることが分かる。

トイレの状態が良好に保たれていない場所では感染症が発生しやすくなるが、ここでひとつ、覚えたおきたいと思ったのはウイルスによって対策が違うこと。コロナウイルスはアルコール消毒で不活化できるが、ノロウイルスにはアルコール消毒の効果がやや弱く、トイレ等の消毒には次亜塩素酸ナトリウムを使う。名称は似ているが次亜塩素酸水では十分な効果は得られないとのこと。また、トイレ使用後は石鹸と流水で手洗いしたいところだが、断水時はアルコール消毒が有効だ。

災害に対してできることのひとつが備えること。災害が続く昨今、食料や水などを備蓄する家庭が増えているが、まだまだ足りていないのがトイレ。能登半島地震の経験から災害時のトイレのあり方について考えるシンポジウムを聞いてきた。トイレを我慢することで起きる負の連鎖。命にもかかわる問題だ

台湾では4時間で救援活動が終了

午前中最後に行われた台灣衛浴文化協會の林錦堂さんによる特別講演では台湾と日本の違いに愕然とした。
台湾では2024年4月3日に花蓮県でマグニチュード7.2、1999年の921地震以降でもっとも大きな地震が発生している。ビルの倒壊、ホテルの傾斜が起きたにも関わらず、すべての救援活動は4時間で終了したというのだ。

しかも、避難所開設はスフィア基準という国際的な基準に則っている。この基準では避難所及び避難先の住居では1人あたり最低3.5m2確保すること、トイレについては20人につき最低1つ設置、男女比は1:3が必要など具体的なルールが定められており、避難している人に劣悪な状況、我慢を強いるものではない。

林さんによると発災後すぐに政府機関は避難所を設置、しかも、被災した住戸の近くに用意されたという。十分な広さ、エレベーター動線、バリアフリー設備などが揃っており、家族構成にも配慮。シャワーやトイレ、子どもの遊び場、ペットの避難所も用意された。細かく被災者それぞれの生活に配慮、快適に暮らせるようになっており、しかも、その整備が終了したのは発災からわずか4時間後。

なぜ、そんなことが可能だったのか。いくつか、理由が挙げられた。
ひとつは花蓮県ではこの数年、小さな地震が続いており、それ以外にも台風の被害などもあって、いざという時にどうするかと官民を挙げて訓練、シミュレーションが続けられていたということ。
災害情報がテレビ、SNS、携帯などを通じて1時間ほどで全国に配信され、政府に加え、様々な民間の団体がすぐに動き始めたこと。新型コロナウイルス時、台湾の初動は世界的にも話題になったが、それを彷彿とさせる話である。

もうひとつは市町村、町内会、NPO、NGOなどといった各種の団体間で横の繋がりがあり、隣の自治体で何があったかはすぐに伝わり、すぐに救いの手が差し伸べられるようになっているということ。
町内会では町内に援助、支援が必要な人が何人、どこにいるかも把握しているそうで、それがすばやい対応に繋がった。コミュニティが生きているとでもいえば良いのだろうか、この点は日本も見習う必要がある。

ただ、林さんには理由は分からないとのことだったが、この地震での電気、水道の被害は軽微だったという。そのため、早期の支援が可能になったと推測されるが、それにしても4時間は考えられない速さである。

備蓄するだけでなく、携帯トイレは使ってみることも大事

続く現地からの報告では地域にある空き家、空き地を利用した分散型の福祉施設・輪島KABULETの寺田誠さん、珠洲市健康増進センターの三上豊子さんが当時と現在の様子を伝えた。

輪島KABULETの拠点施設のひとつに温泉があるのだが、建物は地震時には被害を受けておらず、1月12日には温泉を再開させたという。それによって介助が必要な人達も風呂に入れるようになった。
「4月末まで大きな避難所には自衛隊の手で風呂が用意されたのですが、介助が必要な人は断られてしまう。そうした人達も含めて1日300人ほどの人が利用していました」

ところが9月の豪雨で温泉も30センチ以上の床上浸水をした。それでも2週間後には再開させ、今も日に200人以上のお風呂難民の人たちが利用しているという。また、同施設では仮設住宅の見守りを行っており、仮設の集合住宅にご飯と風呂を提供しようと輪島市内で4カ所のコミュニティセンターの立ち上げも手がけている。

聞いていて思ったのは地域に福祉に強い地元密着型の事業者のいる強みである。災害は普段支援を必要としない人を支援が必要な人に変える。そう考えると福祉施設は現在必要な人のためだけでなく、誰にとっても必要な施設と言えるのではなかろうか。

三上さんの報告では経験を経て分かったトイレ関連の問題点をご紹介したい。まず、携帯トイレは使ったことがないと使い方が分からない、高齢者などには凝固剤の袋が開けられないなどの問題があるとのこと。各社がそれぞれに仕様が少しずつ異なる携帯トイレを出しており、使い方は微妙に異なる。備蓄はしてあっても使ったことが無い人は停電で説明が読めないことも想定、一度使ってみるべきだろう。

高齢者には洋式便器が必要で、トイレまでの動線上の段差を解消する、介護者も入るトイレを用意するなどの必要がある。また、和式に慣れていない子どもが多く、怖くて座れないという報告も覚えておきたいところだ。
もうひとつ、トイレ問題では水と汲み取りがセットになっていないと使えないという点も大事。都心では汲み取り式トイレがほぼなくなっていることを考えると首都直下で仮設トイレを設置した場合、汲み取り車はどうするのだろうと思いながら聞いた。

首都直下地震に備え、7日分×家族数の用意を

経済産業省製造産業局生活製品課住宅産業室の伊藤昌洋さんからは政府による物資支援についての説明があった。それによると能登半島地震では要請が出る前に支援物資を送るというプッシュ型の支援が行われ、食品、毛布、トイレ、生理用品、トイレットペーパーなど8品目にマスクなどを加えた物資が早々に送られた。

トイレに関しては被災者50人に対して1基の仮設トイレが目安となっているが、その目標を達成できたのは発災から10日後。それまでの期間は携帯トイレなどを中心に自分たちでなんとかするしかない。

「首都直下の場合、5日間の備蓄では足りない可能性があるので、7日分くらいは備えておいていただきたいところ。1日5回排泄するとして、その1週間分、家族の人数分が必要ということになります」

ちなみにトイレの備蓄率は水、食料に比べると格段に低い。日本トイレ協会の調査によると携帯トイレの備蓄率は2023年で22.2%。2017年に15.5%だったことからすると増えてはいるが、水の57.4%、非常食の43.4%に比べると半分以下。しかも、3日分備えている人はそのうちの3割程度。使ったことがある人はわずか7.7%。
これを読んだ人はすぐに1週間分を用意、モノが到着したらその日のうちに使ってみよう。

​経済産業省、一般社団法人日本トイレ協会、災害・仮設トイレ研究会が作成したトイレ備蓄を呼び掛けるポスター​経済産業省、一般社団法人日本トイレ協会、災害・仮設トイレ研究会が作成したトイレ備蓄を呼び掛けるポスター

最後の報告は日本トイレ協会の災害・仮設トイレ研究会の外山ゆう子さん。報告の中からいくつか、覚えておきたい点を挙げる。まずは発災直後に携帯トイレを常設トイレに設置、トイレを詰まらせないようにしようということ。使い方が分からない状況で使って詰まらせてしまうとトイレが復旧しても使えない状態が続いてしまう。

また、能登半島地震では遠隔地へのスピーディーな支援に限界があることが分かった。働き方改革の時代であり、長距離輸送には制約も出てくる。それを考えるとやはり備蓄は重要。どこでどのように使うかに加え、廃棄する際の生活ゴミとの区分け、衛生面の配慮などについても知っておく必要があるだろう。

災害時には助ける、助けられる関係が逆転する

最後は登壇者全員による意見交換が行われた。ここでひとつ、忘れてはならないのは障害のある人などにとっての災害時のトイレ。視覚障がい者の方が汚物に触れてしまうなど、不利、不快な状況に置かれてしまった例が報告されており、それ以外にも認知症、発達障害の子どもなどにとっての避難所のいづらさも挙げられた。

これについて日本では災害時だからしょうがないと言われがちだが、今回、報告のあった台湾やそれ以外の国ではその人にあった避難を用意できている例がある。何が問題なのか、どうすべきなのか。災害の多い国だけに少しずつでもすべての人を取り残さない対応を考えていきたいものである。

これに関連しては高橋さんが30社、30の役場に障害のある社員、職員の避難計画について聞いてみたところ、避難計画を立案する部署では社員、職員にそうした人がいることを知らない、考慮していないということが分かったという。まだまだ、これからやるべきことは多そうだ。

最後にひとつ、非常に感銘を受けたのは被災後、障害者の人たちが一般の人たちのように放心せず、いつものように仕事をこなしていたという点。

「市役所2階に私たちが運営していたカフェがあり、1月2日以降そこが避難所になりました。1月11日に電気が復旧、水道が2月下旬に通ったものの、トイレは使えない。そこで1時間に1回はゴミをまとめて袋に詰めて廃棄するという作業が必要になりました。

障害のある、以前からカフェで働いていた障害者の人たちにはいつもの仕事で、彼らは被災後にも周囲の変化に影響されず、淡々と仕事をこなしていました。いつもは手助けされる立場の人達ですが、この時には逆転しました」と寺田さん。

助ける、助けられるという関係は固定されたものではなく、状況によって変わり得る。そして災害はそうした変化をもたらす。助ける立場と思っていた人が一転、助けられる人になる。つまり、視点、立場が一瞬のうちに転換するわけで、それを意識すれば備えるという意味、やるべきことが分かりやすくなるのではなかろうか。

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