阪神・淡路大震災後に放置されてきた管理不全地

1995年1月17日、国内史上初の震度7が観測された阪神・淡路大震災で甚大な被害を受けた神戸市。震災は神戸経済を支えてきた産業に大きな打撃を与え、一面が焼け野原になった地域もあった。

震災後、神戸市が復興に力を注いできたが、一部では大きな被害を受けながらも、復興事業の対象にならなかったエリアが存在する。そのエリアが神戸市長田区の真陽地区・駒ヶ林地区・二葉地区である。復興事業の対象にならなかったことで、このエリアには震災で家屋が倒壊して解体されたものの手つかずのまま放置され「管理不全状態に陥っている空き地」が点在している。

ではなぜ、手つかずのまま管理不全状態になってしまった空き地がこのエリアに点在しているのだろうか?

その理由の1つに、このエリアには狭小敷地や狭あい道路、未接道敷地が多く、接道条件を満たしていないことにより再建築ができない土地が多数存在することが挙げられる。そのため、活用することも手放すこともできず、中には所有者不明になっている土地も多いのである。

このような市街地内に残る管理不全状態の空き地の発生を抑え、空き地の活用や所有者支援などを行い、地域課題の解決に向けた活動を行っている団体がある。それが地域密着プラットフォーム「空き助ながた」である。

今回は、空き助ながたの代表角野氏に、その取組みや地域課題、今後の展望について伺ってきた。

神戸市長田区エリアに点在する管理不全地神戸市長田区エリアに点在する管理不全地
神戸市長田区エリアに点在する管理不全地バリケードで囲まれた管理不全地もある

「多文化共生ガーデン」として生まれ変わった空き地

一級建築士である角野氏は、建築事務所やまちづくり会社を経て、平成28年に独立。当時は、まだ空き助ながたは存在せず、角野氏が代表をつとめる「一級建築士事務所こと・デザイン」が主となり地域活動を行っていた。

建築士としてまちづくり支援の仕事を請け負っていた中、付き合いのあった方から「街なかの土地を活用して畑をしたいという団体があって、そこに提供できる空き地をこのエリアで探している」と相談を受けたという。そこで、畑として利用できる空き地を探し始めるが、候補地探しは難航する。

「管理不全状態になっている空き地の所有者にコンタクトを取るものの、そのほとんどが無関心の人ばかりでした。”相続した土地で手続きが面倒くさい”という空き地の所有者や、”高齢者が静かに生活しているから若い人が来て賑わうと困る”と自治会が取り組みを拒否するケースもありました」と角野氏は語る。

しかし、その後も地道に情報収集を続けることで、地域のふれあい喫茶で空き地の管理に困っている所有者の情報にたどり着いた。

「空き助ながた」代表角野氏「空き助ながた」代表角野氏

「苦労の末やっと活用候補地が見つかりましたが、放置されてきたが故に課題が重層的に入り組んでいました。たとえば、相続で複数のきょうだいの共有物になっていて、それぞれが疎遠で連絡がつきづらくなっていたり、未接道地かつ昔の建物の基礎が残ったままだったりと……。これ以外にも多くのハードルがありましたが、一つ一つ解決していきました」と角野氏。

その結果、長い間管理不全状態として手つかずだった空き地が「多文化共生ガーデン」に生まれ変わった。多文化共生ガーデンは、収穫物を通して近隣住民と、近くに住む定住外国人が交流する場として活用されてきた。その他にも、芸術祭の場所として提供したり、防災空地(災害時の一時避難場所や消防活動用地)としての機能も備える場所にしたりと、今でも地域利用が続いている。

角野氏はこう続ける。「多文化共生ガーデンとして生まれ変わった空き地のように、隠れた課題が重なり合っている土地こそ支援が必要だと感じました。このような空き地は、支援がないとこの先も放置され続けてしまいます」

「空き助ながた」代表角野氏多文化共生ガーデンの様子。地域住民との交流が今も続いている

「空き助ながた」の多岐にわたる地域支援活動

空き助ながたは、エリアにとってマイナスイメージになってしまった管理不全の空き家空き地を「地域にとっての魅力」に転換したいという想いで発足させたプラットフォームである。

空き助ながたによる地域の空き家空き地所有者に対する支援活動は、多岐にわたるものとなっており、その1つとして「地域のコーディネーション事業」を行っている。

「空き家空き地の課題を抱えている人は高齢者に多いんです」と角野氏は語る。

地域のコーディネーション事業として、地域の医療施設や高齢者支援を行う事業者、片付け事業者などの専門家、行政の職員と、空き家課題を抱える当事者とが定期的に顔を合わせる「地域連絡会」を開催している。

ここでは、地域包括支援センターによる支援対象の実際の状況を提示しながら、現状の課題や今後出てくるであろう課題が何なのか、この課題に対して自分の立場で何ができるのかについて話し合いが行われた。

角野氏は「この地域連絡会を開催することで、地域のネットワークが仕組み化されて、僕がいないところでも繋がりができることを期待しています」と続ける。

地域住民や専門家による地域連絡会(画像引用:令和5年度地域密着プラットフォーム「空き助ながた」の運営 報告書)地域住民や専門家による地域連絡会(画像引用:令和5年度地域密着プラットフォーム「空き助ながた」の運営 報告書)
地域住民や専門家による地域連絡会(画像引用:令和5年度地域密着プラットフォーム「空き助ながた」の運営 報告書)ホームセンターによる野菜づくり講座の様子

さらに、空き助ながたは、地域のランドバンク事業への支援も行っている。ランドバンク事業(小規模連鎖型区画再編)とは、空き家空き地について小規模での区画再編を行い、接道状況や土地形状の改善を図ることで、土地の付加価値を高める事業だ。

先述のとおり、空き助ながたの活動エリアには狭小敷地や狭あい道路、未接道敷地など、課題を抱えた敷地が多く存在する。このような土地が今後所有者不明土地になり、さらなる課題が生まれる可能性を秘めている。そんな長田区南部エリアで、今年度から神戸住環境整備公社によるランドバンク事業の調査・検討が始まり、空き助ながたが事業の支援を行うことになったのだ。

角野氏はこう話す。「地域の事情をよく知っている私達が、ランドバンク事業の支援を行うことで、放置されたままの空き家空き地の課題解決に向かうと考えています。ランドバンク事業は長い期間を要することが少なくないので、区画再編が決まった敷地を畑や交流の場として暫定活用することが空き助ながたの役割です」

地域住民や専門家による地域連絡会(画像引用:令和5年度地域密着プラットフォーム「空き助ながた」の運営 報告書)障害者福祉施設とともに草刈りサービスも実施している

レンタル菜園「おさんぽ畑」による地域貢献

空き家空き地活用の一環として、現在空き助ながたが取り組んでいる事業がレンタル菜園「おさんぽ畑」である。おさんぽ畑は、もともと管理不全状態の空き地だった場所をレンタル菜園として活用している事業だ。
おさんぽ畑の目的は「空き家空き地の管理の担い手問題が解決し、周辺の住環境が整備されていくまでの間、地域に貢献する形で空き地を暫定利用しよう」というものである。

「最初のおさんぽ畑ができた場所は、もともとゴミ屋敷があって問題になっていた場所だったんです」角野氏は話す。

当時、ゴミ屋敷になっていた家の所有者へ「危険空き家通告」が届いたと高齢者福祉の方から相談があり、支援することになったのだが、当初所有者は取り壊したくないという意向だったという。

「1年ほど何度も話を重ねる中で、解体することになりました。その後、土地の売却を勧めたのですが、所有者さんは”手放したくない、でも管理することもできない”となって、成り行きから僕が管理・活用を引き受けることになりました」と角野氏は続ける。

角野氏はおさんぽ畑をさらに増やして地域貢献につなげたいと話す角野氏はおさんぽ畑をさらに増やして地域貢献につなげたいと話す
角野氏はおさんぽ畑をさらに増やして地域貢献につなげたいと話すおさんぽ畑は人工芝や砂利によって汚れにくい畑となっている

おさんぽ畑は、1区画から畑をレンタルでき、誰でも気軽に野菜作りができるレンタル菜園だ。畑で利用する道具は現地に揃っているので手ぶらで行っても問題ない。さらに「できるだけ汚れない菜園にしたい」という角野氏の意向で、通路はすべて砂利敷きになっており、収穫した野菜を洗う水場も完備されている。これにより幅広い層に野菜作りを楽しんでもらっているそうだ。

角野氏はこう続ける。「ただ野菜を作る人に借りてもらうだけではなく、近くのホームセンターに野菜作り講座を開いてもらったり、畑を近隣住民に開放して多文化共生ガーデンで作った野菜を販売したりもしています」

また、おさんぽ畑を借りてもらうことで、普段その道を通らない住民がおさんぽ畑の周辺を歩くようになり、地域を知ってもらうきっかけになれば良い、とも話す。
2024年9月現在、おさんぽ畑は全4拠点まで数を増やしており、多くの区画を利用してもらっているとのこと。このおさんぽ畑事業のように、所有者が管理しきれない空き地を空き助ながたが管理の受け皿となり活用することで、地域の課題を総合的に解決する糸口となるだろう。

角野氏はおさんぽ畑をさらに増やして地域貢献につなげたいと話すおさんぽ畑は子育て世代も多く利用している
角野氏はおさんぽ畑をさらに増やして地域貢献につなげたいと話すおさんぽ畑では野菜販売や雑貨販売もおこなわれている

地域課題の解決に向けた「空き助ながた」の展望とは

空き助ながたのこれからの展望はどうだろうか。
角野氏は「地域課題解決のために、さらに多くのサービスを提供したいと考えています。たとえば、空き家の管理サービスや、今行っている地域の草刈りサービスも広げていきたいです。そのための空き助ながたの法人化も視野に入れています」と話す。

さらに、平成31年から神戸市長田区の真陽地区・駒ヶ林地区・二葉地区にエリアを限定して事業を始めたが、全市レベルで空き家空き地コーディネーションを行いたいとも語る。

また、「民間が運営する空き家空き地のマッチングの仕組みを作れれば、さらに広いエリアの地域課題の解決に繋がると思っています」と続けた。

所有者不明の空き家空き地問題は、今や日本全国に共通する大きな課題である。その中で、これだけ地域課題と向き合っている人が日本にどのくらいいるだろうか。地域課題の解決に向けて情熱をもって活動している空き助ながたの活動にこれからも注目していきたい。

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