公共空間や資源をひらき、人の気持ちもまちに開くプロジェクト
近年よく耳にするようになった「ウォーカブル」という単語。「歩く(walk)」と「できる(able)」を組み合わせた造語で、「歩きたくなる」「歩くのが楽しい」といった意味で使われる。
国土交通省では「居心地が良く歩きたくなるまちなか」づくりとして「まちなかウォーカブル推進プログラム」を策定。都市の魅力を向上させるウォーカブルなまちなかづくりを推進しており、全国各地でさまざまな取り組みが行われている。実際にまち歩きをしていると、街路の整備や新たなにぎわいなど、これまでになかったまちの変化に驚くことも多い。
今回訪れたのは、2023年に市制100周年を迎えた静岡県沼津市。
富士山の絶景と海の幸に恵まれたこのまちでは、2040年に沼津駅周辺の鉄道高架化が予定されている。また貨物ターミナルの移転に伴い、駅近くに広大な土地が生まれることが決まっているという。将来沼津市のまちなかエリアは、高架下空間や鉄道施設跡地を活用し、大きく変化を遂げることになるだろう。
そんな未来を見据え、車中心からヒト中心のウォーカブルなまちづくりへ転換しようと行われた社会実験が「OPEN NUMAZU(オープンヌマヅ)」だ。
まちなかの公共空間やさまざまな資源を活用することで、人の気持ちもまちに開き、「あったらいいな」と思える日常の風景や居心地の良い空間づくりを行う取り組みだ。2022年度と2023年度の2年間にわたり行われ、今ではまちに新たな風景や動きが生まれつつあるという。
今回は「OPEN NUMAZU」について、沼津市都市計画部 まちづくり政策課 まちづくり推進係 臼井久人さんと、同課 岩崎光洋さんにお話を聞いた。
車道を人々が集う憩いの空間に「OPEN NUMAZU 2022 STREET」
2022年度のOPEN NUMAZUは、春と秋に3週間ずつ、2度にわたって行われた。
春に行われた社会実験「OPEN NUMAZU 2022 STREET」では、沼津駅前の商業施設「イーラde」前の片側2車線の車道のうち、北側1車線を歩行者空間へ転換。期間中、イスやテーブルなどオリジナルファニチャーを置き、くつろぎの空間を創出した。週末にはドリンクや軽食、物販などの出店も行われたそう。
岩崎さんはこう話す。「現在沼津市では、高架化や鉄道施設跡地の活用など沼津駅周辺総合整備事業とあわせて、『中心市街地まちづくり戦略』を策定し、その中で“ヒト中心のまちづくり”を進めています。これまで駅前エリアは、人通りはあるけれど通過してしまう場所でした。将来的には、このエリアを回遊したり滞在したりできる、多くの人たちにとって魅力的で居心地のよい空間へと再編していく計画です。そのために行った最初のOPEN NUMAZUが、車道を1車線減らしてその分歩道の面積を増やす社会実験。物理的に車道を縮小して歩道を広くすると、渋滞や事故など自動車交通へはどんな影響があるのか、街路空間にどれくらいの来訪者が滞在するのかなど、車側の目線・歩行者側の目線、両方の側面から調査しました」
結果、自動車交通への大きな影響はなく、歩行者の通行量や滞留者は増加。利用者の属性や行動が多様化したという。
車道に突如として現れたオープンな街路空間。まちの人々の反応はどうだったのだろうか。
「これまでにこういった取り組み自体がなかったため、社会実験をスタートした当初は、この空間で過ごす人は少なかったというのが正直なところです。しかし時間の経過とともに徐々に浸透していきました。今回の社会実験は『こんな場所ができたら、皆さんはどう過ごしますか? いろいろな過ごし方ができますよ』という提案。皆さんが思い思いに過ごし、その価値を見いだしていただいたように思います。アンケートでも『こういった場所ができたのはうれしい』『一日のQOLが上がる』『また訪れたい』などといった声を多数いただきました。一方で『車が横付けできなくなった』『自転車が車道を走行しづらくなった』というご意見もありましたので、そういった声も今後のまちづくりに生かしていきたいと思います」と臼井さん。
そしてこう続ける。「実は現在、OPEN NUMAZUはこの場所に常設されています。待ち合わせをしたり、お散歩の休憩をしたり、買ってきたものをここで食べたり……。今では誰もが自由に使用できるパークレットとして定着しております」
社会実験から2年。今や「イーラde」前のOPEN NUMAZU PARLLETで人々がくつろぐ風景は、当たり前になっているという。
第2弾は沼津仲見世商店街で実施「OPEN NUMAZU 2022 ARCADE」
OPEN NUMAZU第2弾となる秋の社会実験「OPEN NUMAZU 2022 ARCADE」は、沼津駅からほど近い「仲見世商店街」で実施された。
臼井さんは同商店街について「普段の仲見世商店街は、比較的人通りの多い商店街です。空き店舗も多少ありますが、いわゆるシャッター商店街というわけではなく、婦人服店や飲食店など長年続けておられる店舗も多数あり、多彩な店が軒を連ねます。アーケードもあり歩行者専用道路であることから、ここを歩いて通勤通学される方も多いです」と話す。
秋のOPEN NUMAZU 2022 ARCADEは、そんな仲見世商店街で3週間にわたり開催された。
前回のOPEN NUMAZUで製作したオリジナルファニチャーや人工芝を商店街の各所に置き、アーケードの中に滞在できる場所をつくった。期間中は毎日4~6店舗が出店。それに加え、読み聞かせやストリートピアノ、将棋などのイベントも不定期で開催したそうだ。
「これまで商店街を利用されていた方は、比較的年齢層の高い方が多かったように思いますが、OPEN NUMAZU開催時は、親子連れや外国人の方などもたくさん立ち寄られていました。車が進入しないので、親御さんたちも安心してお子さんを連れてくることができているようでしたね。ベンチに腰掛けて商店街でテイクアウトしたものを食べたり、偶然会ったご友人とおしゃべりをしたり、学校帰りにちょっと勉強をする学生さんがいたり……。これまで仲見世商店街になかった風景が、新たに誕生しました」と岩崎さん。
OPEN NUMAZUによって商店街になじみのなかった人たちにも、商店街ならではの人情味や温かさなどの魅力が届いた3週間。商店街の人たちにとっても、うれしい景色となった。
月替わりのテーマを設けて行われた「OPEN NUMAZU Weekend 2023」
2022年度のOPEN NUMAZUは、春と秋に3週間ずつ開催されたが、2023年度は「OPEN NUMAZU Weekend 2023」と題し、7月から12月までの半年間、各月の第3週(12月のみ第2週)の金・土・日曜日に仲見世商店街を中心としたエリアで実施。ミュージックやアート、ブックなど毎月テーマを決めて行われた。
テーマを設けたことで、より多くの事業者に関わってもらえるようになり、テーマに興味を持つ新たな来訪者も増加。岩崎さんは「将来に向けて、市内外の方にこういった取り組みを知ってもらういい機会になりました」と話す。常連客にもいつもと違うアプローチができたという。
また商店街には半年間ファニチャーを常設。イベント開催日以外でも、まちに滞在する人が増え、日常的なものになっていった。多世代が思うままに商店街を楽しむ姿、これも新しく生まれた風景のひとつだ。
まちを盛り上げたいという気持ちを醸成
先述のとおり、2023年度のOPEN NUMAZUでは、仲見世商店街に半年間ファニチャーを常設。商店街にはイスやテーブルがあることが日常となっていたが「OPEN NUMAZUが終了し、あえて一旦片づけました」と話す臼井さん。それには理由があるそうだ。
「ファニチャーを撤去したことで『やっぱりあったほうがいいよね』という声が商店街側から挙がりました。われわれとしては、管理は商店街にしてほしい。そのことを伝えると、自分たちで管理できる規模を考えてくださいました。一旦片づけたファニチャーでしたが、現在は商店街管理のもと、小規模ではありますが常設されています。まちを良くするために自分たちで継続的にできることを考え、自主的な取り組みにつながったと感じています」
そして臼井さんはこう続けた。「OPEN NUMAZUのようなイベントも、いずれは地元の人たちだけでやってもらえるといいと思いますが、少しハードルが高いかもしれません。しかし繰り返しやっていくことで、きっとできることも増えていくはずです。行政が予算をとってイベントを大きく打ち出すこともできなくはないですが、いつまでも続けることはできません。生活されている方やお仕事されている方が、まちが良くなるために継続してできることに、少しずつ取り組んでいただけたらうれしいですね」と臼井さんは語った。
そして岩崎さんはこう続けた。「OPEN NUMAZUで公共空間にこれまでになかった日常風景が生まれました。小さな一歩を踏み出せたので、今後はまちの方たちとコミュニケーションを取りフォローアップしながら、一緒に取り組んでいきたいです」
ヒト中心のまちなかをつくるプロジェクトOPEN NUMAZUによって、まちを盛り上げたいという気持ちが広がっている沼津市。未来に向け、その気持ちがより多くの人に広がっていくことに期待したい。そして20年後、沼津市の中心市街地はどのような進化を遂げ、どのような日常の風景が生まれているのか、非常に楽しみだ。









