新大阪から御堂筋線1本で行ける新駅「箕面船場阪大前駅」

大阪・箕面(みのお)市で2024年3月23日、北大阪急行線が延伸開通した。
新駅の1つ「箕面船場阪大前駅」は、地下駅とは思えない華やかな屋根とダイナミックな吹き抜け空間が話題だ。

地上1階レベルの南側外観(写真:宮沢洋)地上1階レベルの南側外観(写真:宮沢洋)
地上1階レベルの南側外観(写真:宮沢洋)膜屋根が折り重なるダイナミックな吹き抜け空間(写真:宮沢洋)

「北大阪急行線」と言っても、大阪以外の人にはピンとこないかもしれない。
新大阪駅から地下鉄・御堂筋線で北に向かうと江坂駅に着く。列車から降りずにそのまま乗っていると江坂駅から千里中央駅までの区間が北大阪急行電鉄だ。
今回、千里中央駅から北へ約2.5kmの区間を延伸し、「箕面船場阪大前駅」と「箕面萱野(かやの)駅」が新設された。 

地上1階レベルの南側外観(写真:宮沢洋)延伸を伝える駅の広告(写真:宮沢洋)

“繊維の街”からの再生を目指す

箕面船場阪大前駅周辺は、ここ数年で街がガラッと変わった。こんな変化だ。

南側から見た建設工事前の駅周辺(写真提供:大阪船場繊維卸商団地協同組合)南側から見た建設工事前の駅周辺(写真提供:大阪船場繊維卸商団地協同組合)
南側から見た建設工事前の駅周辺(写真提供:大阪船場繊維卸商団地協同組合)南側から見た現在の駅周辺(写真:宮沢洋)

「箕面船場」という地名も大阪以外の人にはピンとこないかもしれない。「船場」と言えば、大抵の人は「船場センタービル」(大阪市中央区)があるあたりを思い浮かべるだろう。

箕面船場は大阪市の船場と同様、“繊維の街”として発展した。
高度経済成長期の1960年代、大阪の船場地区では荷降ろしのトラックによる渋滞が問題になっていた。繊維卸商が集団で移転する案が持ち上がり、移転した先が現在の箕面船場だ。伊丹空港や新大阪駅にアクセスしやすかったことなどが理由という。もともと船場という地名ではなかったが、繊維の街・船場の一部ということで名前が引き継がれた。

1967年に造成がスタート。1970年の大阪で行われた万国博覧会に向けて道路整備が進み、1970年に街開きがされた。繊維卸業者が集まる商業団地として街は発展した。

南側から見た建設工事前の駅周辺(写真提供:大阪船場繊維卸商団地協同組合)かつての箕面船場を上空から見る(写真提供:大阪船場繊維卸商団地協同組合)

大阪大学と箕面市の劇場が先行して完成

しかし、半世紀がたち、物流・業務以外の土地利用ニーズが高まり、街は更新時期を迎えた。

新駅が設置されることになった箕面船場阪大前駅周辺(船場東地区)では、土地を所有する箕面船場駅前土地区画整理組合と箕面市が協働する形でマスタープランを策定。大規模な再開発を実施することになった。

鉄道の延伸工事は2017年1月に着工。再開発は、まず大阪大学箕面キャンパスと箕面市立文化芸能劇場が、2021年春に誕生した。大阪大学箕面キャンパスの設計は日建設計、箕面市立文化芸能劇場の設計は久米設計と大林組で、ともに建築やデザインの賞を受賞している。当初は駅も同時オープンの計画だったが、地下鉄工事が難航し、開通が遅れた。そして今春、待望の新駅が開業した。

地上2階レベルのペデストリアンデッキから北方向を見る。右手前が箕面市立文化芸能劇場(設計:久米設計、大林組)(写真:宮沢洋)地上2階レベルのペデストリアンデッキから北方向を見る。右手前が箕面市立文化芸能劇場(設計:久米設計、大林組)(写真:宮沢洋)
地上2階レベルのペデストリアンデッキから北方向を見る。右手前が箕面市立文化芸能劇場(設計:久米設計、大林組)(写真:宮沢洋)ペデストリアンデッキでつながる大阪大学箕面キャンパス(設計:日建設計)(写真:宮沢洋)

丘陵地ゆえ地下深くなった改札とデッキを結ぶ

改札の近くから地上方向を見る。屋根から漏れる光に吸い寄せられるよう(写真:宮沢洋)改札の近くから地上方向を見る。屋根から漏れる光に吸い寄せられるよう(写真:宮沢洋)

この記事で知ってもらいたいのは、駅舎ではなく、「箕面船場阪大前駅エントランス」である。駅舎とは別に、箕面市がエントランス空間を整備したのだ。

千里丘陵に位置していることから、駅の改札は地下3階と深い位置にある。新たにできた大阪大学箕面キャンパスや劇場は、地上2階レベルで結ばれている。この高低差をエスカレーターで一気に結ぶ吹き抜け空間を整備したのだ。

改札の近くから地上方向を見る。屋根から漏れる光に吸い寄せられるよう(写真:宮沢洋)地上2階に向かうエスカレーターの終盤部分。エスカレーターに乗っていても景色が刻々と変わる(写真:宮沢洋)

エントランスは、トイレなどの一部を除いて土木工事だ。通常、土木施設の設計は土木専門のコンサルタントに発注されるが、箕面市は設計コンペを実施して、ともに建築系のジオ-グラフィック・デザイン・ラボと東畑建築事務所に設計を発注した。

設計の中心になったジオ-グラフィック・デザイン・ラボの前田茂樹代表に案内してもらった。

改札の近くから地上方向を見る。屋根から漏れる光に吸い寄せられるよう(写真:宮沢洋)前田茂樹氏。1974年生まれ。1998年大阪大学卒業、2000~10年にドミニク・ペロー・アーキテクチュールにチーフアーキテクトとして勤務後、2010年にジオ-グラフィック・デザイン・ラボを設立した。前田氏が師事したドミニク・ペロー氏は、パリの「フランス国立図書館」やベルリンの「オリンピック自転車競技場」などを設計した建築家で、日本では大阪の「大阪富国生命ビル」の設計で知られる(写真:宮沢洋)

利用者が思い思いに滞留できる空間

大阪出身、現在も大阪を拠点とする前田氏は、2018年にやはり大阪を拠点とする東畑建築事務所と組み、箕面船場阪大前駅エントランスコンペに応募した。土木施設の設計実績はなかった。だが、この駅の近隣に住む前田氏は、「パリでは駅舎や駅前広場が長い年月に耐えうる豊かな空間だった。箕面市に100年残る駅前空間をどこにでもあるような駅前空間にしてほしくない」と思い、組織規模の大きい東畑建築事務所に声をかけ、見事、当選を果たした。

前田氏は、「通過するだけでなく、滞留できるコモンズとしての駅」を目指したという。「機能的に求められている用途は、地下3階の駅の出入り口と、地上レベル、ペデストリアンデッキレベルとをつなぐ通過空間であり、避難が迅速に行える空間だった。しかし私たちは、コンペを通じて、単なる通過空間ではなく、自然環境あふれる箕面市に来たこと、住んでいることを日々実感できる豊かな余白を持ったコモンズ(共有財)としての駅エントランスの空間をつくりたいと考えた」(前田氏)。

階段は法規上「道路」扱いのため、有効幅員4mを確保した階段は法規上「道路」扱いのため、有効幅員4mを確保した
階段は法規上「道路」扱いのため、有効幅員4mを確保した地下3階の休憩スペース。奥のガラス張り部分はギャラリー(写真:宮沢洋)

そうして生まれたのが、エスカレーターを横目に折れ曲がりながら上り下りする階段と吹き抜け空間だ。

階段の途中には、ゆったりとした踊り場が複数個所にある。見ていると、下りはエスカレーターに乗らず、階段で下りる人も多い。自分の足で下りたくなるのだろう。

前田氏は、「滝や紅葉が有名な箕面市ならではの自然地形と人工物の中間のような豊かさを持つ半外部空間として、利用者が思い思いに滞留できる空間を設計した」と説明する。

階段は法規上「道路」扱いのため、有効幅員4mを確保した踊り場がゆったりした階段は、屋根を支える柱もあることから、森を散策しているような気分にさせる(写真:宮沢洋)

30度の角度で雨が降る状況になっても、屋根の重なりで濡れることを防ぐ

そして、地上に向かう人の気分を盛り上げ、地下に下りる人を柔らかく包むのが8枚の白い膜屋根だ。膜を通した拡散光と、重なりの間から漏れる自然光や風により、地下であっても、自然を感じる。

地上2階のデッキから見下ろす(写真:宮沢洋)
地上2階のデッキから見下ろす(写真:宮沢洋)

「8枚の膜屋根を、ペデストリアンデッキレベルをカバーする高さで重なり合う構成にした。屋根の重なり具合は、全方位から30度の角度で雨が降る状況になっても、エスカレーターには雨がかからないことをシミュレーションして確認した」(前田氏)。

技術的な話をすると、8枚の屋根はそれぞれ梁の高さが異なるが、3本もしくは4本の柱で各屋根を支持しながら、全体で1つの架構として成立している。構造設計は東畑建築事務所が担当した。

改札のある地下3階にはギャラリーとカフェがある。いずれも箕面市が指定管理者に委託して運営している。このエリアは「チカノバ」と命名された。

地上2階のデッキから見下ろす(写真:宮沢洋)
左がカフェ。右奥が駅の改札(写真:宮沢洋)

境界を感じさせず、にぎわう地上

地上部分の敷地範囲がどこまでなのか、線引きがよく分からないのも面白い。施設が箱形のデザインでないため、境界があいまいになるのだ。

筆者が訪れた日は、多くの若い女性が屋外のベンチにたたずみ、絵に描いたような“にぎわいの情景”だった。

談笑する若い女性が多くてびっくりしていると…(写真:宮沢洋)談笑する若い女性が多くてびっくりしていると…(写真:宮沢洋)

大阪大学にこんなに学生がいるのかと不思議に思っていたのだが、前田氏に聞いてみると、箕面市立文化芸能劇場で開催されるミュージカル『刀剣乱舞』の開演待ちの人々だという。「乱舞」という言葉が、8枚の屋根のイメージと重なり、この場所の誕生を祝うかのようだ。

駅は完成したが、エリアの開発は終わっていない。今後は、箕面市立病院の移転や健康寿命の延伸拠点となる箕面船場阪大・ヘルスケア総合センター(仮称)のほか、民間事業者による高層マンションが建設されるなど、都市機能の激変が続いていく。この街に興味のある方、あるいは都市再生の関係者は、今、この時点の状況を見ておいた方が良さそうだ。

(参考:駅周辺の開発についてはこちらの記事もご覧ください→北大阪急行の延伸で生まれる新駅「箕面船場阪大前駅」「箕面萱野駅」周辺のまちづくり。箕面市の利便性と暮らしやすさはどうなる?

■概要データ
箕面船場阪大前駅エントランス
設計・監理:ジオ-グラフィック・デザイン・ラボ+東畑建築事務所設計共同体
構造・設備:東畑建築事務所
サイン計画:UMA / design farm  
施工:村本建設
用途:事務所、ギャラリー、公衆便所、カフェ、その他(道路施設、歩行者デッキ、機械式駐輪場)
構造・規模:鉄骨造、地下3階 / 地上2階建
敷地面積:1364m2
建築面積 : 102m2(確認申請に関わる部分※トイレ棟・事務室)
施工床面積:2240m2

談笑する若い女性が多くてびっくりしていると…(写真:宮沢洋)「乱舞」という言葉が似合う屋根(写真:宮沢洋)

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