能登半島地震でビル倒壊…改めて考えたいマンションの耐震性
1月1日に発生した能登半島地震では、RC造7階建のビルの倒壊が見られた。株式会社さくら事務所マンション管理コンサルタントの土屋輝之氏は、この倒壊について次のような見解を示す。
「正確なことはわからないが、倒れ方を見ると基礎が折れ杭が抜けてしまったものと推察される。阪神淡路大震災でも同じようにパタンと倒れてしまったビルが見られたが、全国どこでも強い地震が起きたときには同様の現象が見られてもおかしくない」(土屋氏、以下同)
マンションの地震に対する強さを左右するのは「建築時期」だけにあらず
マンションの耐震性は「旧耐震基準」か「新耐震基準」かで判断されることが多い。たしかに、旧耐震基準は震度5程度の地震でも倒壊しないことが基準になっている一方、新耐震基準は震度6強や7の強い地震でも倒壊しないことが基準となっているという違いがある。しかし、耐震基準とは建物の地震に対する強さの基準だ。土屋氏は「地震に対する強さは、建物の強さだけでは判断できない」と言う。
「耐震性は、あくまで物理的な机上の話。基本的に、建物が立地する地盤との相関性は見ていないのが現状。建物の強さだけみているので、大規模な地震が来れば、地盤の弱いところは激しく揺れる。建物の耐震性が同じであれば、当然、地盤が弱いところのほうが被害を受けやすく、繰り返し来襲する連続地震では更に顕著となる。輪島でビルが倒壊した場所は、元々、川だったという。東京の六本木周辺、新橋、汐留などは、元々、海だった場所。首都直下型地震などでは、都心で大きな被害が出ることが想定される」
現行の基準を満たす耐震性を備えていなければ建築許可は降りないわけだが、埋立地であろうと内陸部であろうと、基準は同じ。もちろん、地盤に合わせた改良や杭打ち工事はされているだろうし、地盤調査や改良の技術も進歩している。しかし、耐震基準においても地震時の地盤変位などは考慮されていないということは認識しておきたい。
また、地盤によって災害レジリエンスも変わってくる。能登半島地震後も断水が続く(3月19日時点)七尾市や輪島市、珠洲市の地形分類を見ると、液状化のリスクが高いとされる低地や過去の洪水によって形成された氾濫平野が広がっている。
マンションの「形状」によっても被害の受けやすさは異なる
マンションの「形」によっても、揺れの影響の受けやすさは異なる。構造上のバランスが悪いとされる代表的な形状は、次のとおり。
- ・平面形状または断面形状が不整形なマンション(L字やコの字など)
- ・上層部と下層部で構造形式が異なるマンション
- ・細長い形状のマンション
- ・ピロティ形式のマンション
- ・耐力壁がバランス良く配置されていないマンション
「揺れに強いのは、簡単にいえば長方形や正方形などシンプルな形状のマンション。L字やコの字などのマンションは揺れが多方面から伝わるため被害が大きくなる傾向にあるが、一辺ずつ切り離されていてエキスパンション・ジョイントなどで連結されているのであればこの限りではない。ただし、建物は分離していても、基礎は切り離されていないこともある。見た目ではわからないし、管理会社が発行する重要事項報告書でも基礎まではわからないため、竣工図で確認するしかない」
設計どおりに建てられていないマンションも珍しくない
「ここまで言及してしまうときりがないが、現実問題として、設計どおりに建てられていないマンションも決して珍しいわけではない。とはいえ、施工の質まで見極めることはできないことから、できる限り耐震等級の高いマンションを選ぶというのは回避策の1つになる。建築基準法を上回る設計がされていれば、多少、施工不良があったとしても実際の耐震性が基準を下回る可能性は少ない」
耐震等級とは、2000年にスタートした住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)に基づく「住宅性能表示制度」によって「地震に対する構造躯体の損傷(大規模な修復工事を要する程度の著しい損傷)の生じにくさ」を等級で示したもの。耐震等級1は新耐震基準と同レベルだが、耐震等級2は1.25倍、耐震等級3は1.5倍の地震力に対する強さがある。
タワーマンションに見られる「免震」「制震」とは
タワーマンションなどでは「免震構造」や「制震構造」も見られる。免震や制震は、耐震と何が違うのだろうか。
「現行の耐震基準は、震度6強や7の地震でも建物の中にいる人の生命がおびやかされない耐震性としていますが、免震や制震はまったく別物。免震は、緩衝帯などによって揺れを建物に伝えにくくする仕組み。ただし、大きな揺れが来ると、建物への衝撃を和らげるため弱い揺れが継続する傾向にある。揺れなくするのではなく、揺れを逃がすイメージ」
土屋氏によれば「免震構造のマンションの揺れは計算されたものであるため心配することはない」というが、揺れが継続することを不快に感じる人も一定数いるだろう。とくにマンションの高層階は、2023年2月から緊急地震速報の発表基準に加わった「長周期地震動」の影響も受けやすく、地震発生時には「船酔い」のような感覚に陥る住人も少なくないと聞く。
「制震は地震エネルギーを吸収する仕組みにより、揺れ自体が抑えられる。屋上に振り子が設置されているタワーマンションや高層ビルが見られるが、これが制震装置。地震の揺れと逆に振れて、揺れを相殺する仕組み」
制震装置は、他にも振動エネルギーを吸収させるための「ダンパー」が挙げられる。ダンパーは、免震装置部に用いたり、非耐力壁部に挿入したりすることで、変形エネルギーの吸収や減衰効果を高める。
「免震によって建物へのダメージが、制震によって揺れが少なくなるというのは間違いないため、安心感は増す。ただ、免震装置も制震装置も実用化されてから日が浅いため、実際に大規模地震が起きたときにどのような働きをするのか、作動後は元に戻るのか、耐久性はどの程度か、メンテナンスにいくらかかるのか、連続地震の際の影響は……ということなどが実証されていないのが実情。また、『過信』も禁物」
東京都内の避難所の収容人数は、約320万人(2021年4月1日時点)。都民の4分の1以下しか収容できないことから、木造一戸建と比べて地震に強いマンションは、大規模地震発生後に在宅避難を求められる可能性が高いものと推察される。在宅避難には、水や食料などの備蓄とともに、避難用トイレの備えも求められる。地震でマンションの排水管の一部が破損してしまうと、排水トラブルが発生するおそれがあるため、断水が解消しても一定期間、トイレが使用できなくなる可能性があるからだ。
マンションの「寿命」を考えることも大切
近年、マンション修繕積立金のガイドライン改定や管理計画認定制度の開始など、マンションの管理を取り巻く環境は大きく変化している。「マンションは管理を買え」とも言われることもあるが、マンションの維持・管理状態が耐震性を損なわせることはないのだろうか。
「基本的には、経年によってマンションの耐震性が落ちるということはない。維持・管理状態によって大きく左右するのは、マンションの寿命。たとえば、外壁に入ったクラックを放置すればそこから雨水や空気が入り、鉄筋の錆びやコンクリートの中性化につながり耐久性に影響を及ぼすことが考えられる。資産価値や快適性が維持されるマンションか見極めるうえでも、修繕履歴や修繕計画、積立金などについてはよく確認するべき」







