建設業をめぐる現状
国内の建築費は2013年頃より総じて上昇傾向が続いており、建築費が上がり始めてから既に10年以上が経過している。
国土交通省の建設工事費デフレータによると、建築総合指数は2011年に上昇してから一度2012年に下がった後、再び2013年に上昇してそれ以降から上昇が続いている状況だ。2011年に建築費が上昇した理由は、東日本大震災の復興事業のために職人が大幅に不足した影響が大きい。
東北地方に多くの職人が移動したことで首都圏等での職人が減り、建築費の高騰が生じた。職人不足は2011年の当時から話題となっており、10年経った現在でも根本的な解消に至っていない。
2013年から建築費の上昇が続いている理由は、2013年頃から日銀が超低金利政策を実施し始めたからである。超低金利政策により住宅ローンの金利が格段に安くなり、それ以降、住宅需要が旺盛になったことから、建築費だけではなく土地価格まで上昇に転じている。
その後、新型コロナウイルスの影響で上昇がやや足踏みした時期はあったものの、1~2年で回復し、建築費は再び力強く上昇し始めている。
さらに、ここ1~2年で建築費が高騰している理由は、円安による影響が大きい。諸外国はインフレ対策で金利を高く設定しているが、日本は低金利のままであるため、円を売る動きが相次いだことで円安圧力が強まっている。
日本は政府が多額の借金を抱えているため、長期金利を上げてしまうと国の利払いが増えてしまうことから長期金利は低く抑え続けなければいけない状況にある。そのため、日銀は機動的に金利を上げて円安を是正することができず、輸入建築資材の価格を抑えられない状況にある。
ここ数年は、建築費の高騰によって公共工事の予定を中止している事例も出てきており、建築費の高騰は社会に深刻な影響を与え始めている。
建設業の賃金は上昇しているのに就業者は減っている
建築費の高騰を背景に、国土交通省では、「建設業を巡る現状と課題」※(以下、資料)を公表している。
※:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」
資料では、建設業界の就業者の推移を示している。
建設業就業者数は、ピーク時が1997年で685万人いたが、2022年は479万人となっており、ピーク時から約3割も減っている状況にある。
建設投資額のピークはバブル崩壊直後の1992年であったが、バブル崩壊後も建設業就業者数はしばらく増加していたことがわかる。
建設投資額はいったん1996年に回復したが、その後は2010~2012年あたりまで下がり続け、2013年からは再び上昇している。
建設投資額と建設業就業者数の過去の推移を見ると、2012年頃までは正の相関関係が見られる点が特徴だ。建設投資額が増えれば建設業就業者数も増え、建設投資額が減れば建設業就業者数も減っていた。
しかしながら、2013年以降は、建設投資額と建設業就業者数との正の相関関係が崩れ始めている。
2013年以降は建設投資額が増えているものの、建設業就業者数は緩やかに減っている。特に2019年以降は建設投資額と建設業就業者数との間に負の相関関係がくっきりと現れており、建設投資額が増えているにもかかわらず、建設業就業者数が減り始めた。
一方で、建設業の人件費に関しては上昇が続いている。資料によると公共工事設計労務単価に関しては、2013年から11年連続で上昇している状況だ。処遇は改善されてきているのに、人が増えない矛盾が生じている。
一見するとパラドックスにも感じるが、これには日本の人口構造が大きく関係している。現在の日本は釣り鐘型の人口構造をしており、1947~1949年に生まれた団塊の世代と、その子である1971~1974年に生まれた団塊ジュニアの世代の人口が突出した人口ピラミッドを形成している。
団塊ジュニアよりも下の世代は年を追うごと人口が減少しており、近年の29歳以下の就労人口はそもそも絶対数が少ない。ボリュームゾーンである団塊世代は2024年時点では1949年生まれの人は75歳であり、多くの人は既に引退している。
近年は、団塊世代の職人が次々と引退し、人口の少ない若い世代をなんとか採用してきたことから、全体としては建設業就業者数が減ってしまっているのだ。どの世代も人口が同じであれば人件費が増えると建設業就業者数も増えるのかもしれないが、そもそもベースとなる日本の人口が減少しているため、建設業就業者数が減少していることになる。
現在建設業界が抱えている人手不足の原因は、少子化という日本全体の問題にあることから、他の業界でも同様に生じている大きな課題といえそうだ。
職人不足で懸念されていること
職人不足が生じることで、今後懸念されることとしては主に「建築費のさらなる上昇」や「工期の遅れ」、「災害対応の困難化」の3つが考えられる。
建築費の高騰は10年以上前から職人不足が一つの原因となっていた。2024年時点では2013年よりも建設業就業者がさらに減っており、さらに人件費が11年連続で上昇している状況にある。人が減り、人件費も増えていることから、建築費に関しては今後も上昇していくことが予想される。
職人不足によって、今後は工期の遅れも懸念されるところだ。現在、建設産業は人を集めるために職場環境を改善し、働き方改革に努めている。建設業は他の業界に比べると休日の取得が少ない状況となっており、週休2日を確保する取組みが行われている。
働き方改革自体は望ましい改善であるものの、人が減っている中で就労時間を減らしていけば現在よりも工期は長期化していかざるを得ない。今後はあらゆる工事の工期が、今まで以上に長くなることが予想される。
また、職人不足により、難易度の高い工事を経験してきた職人の絶対数も減っている。例えば、新築工事よりもリフォーム工事の方が豊富な経験を要するとされているが、知識がある職人が減れば今後はリフォーム工事の工期が延びることも懸念される。工期の延長に関しては、システム化しにくいリフォーム工事等で大きな影響が現れそうだ。
さらに、災害対応の困難化も懸念される。
つい最近も能登半島で大きな地震があったが、このような地震が生じると災害復興のために被災地で職人が必要となり、その他の地域で職人が減る現象が生じる。建設業就業者数が減れば現場に駆け付ける職人自体も減るし、復興期間中の他の地域の職人不足も一層深刻なものとなる。
日本は、数年に1度のペースで国内のどこかで大きな地震が生じるため、建設業就業者数の減少によって災害対応はますます困難なものになっていくと予想される。
国土交通省の施策
国土交通省では、建設業就業者数を増加させるために、賃金引上げと働き方改革の2つを目的とした施策を実行している。
賃金引上げに関しては、職人の技能を適切に評価し、処遇に反映させる取組みを行っている。公共工事の入札価格に関しても、2022年4月から見直しが行われている。働き方改革に関しては、2024年4月から時間外労働規制の見直しが実施される。工期に関しては、2020年7月に発注者に対して週休2日が確保できるような適切な工期を設定するよう勧告がなされている。
今後の展望
建設業界の人手不足対策は、今に始まったわけではなく試行錯誤を繰り返してきている。少し以前には、2019年4月に入管法を改正して外国人労働者を受け入れやすくしたところだ。
しかしながら、タイミングが悪く2020年に新型コロナウイルスが流行したことで外国人の来日が大きく減り、スタートダッシュはできなかった。加えて円安圧力が強まったことから、外国人が日本で働く魅力も減ってしまい今のところ期待した成果は上がっていない。
今回の施策は、建設業界の労働環境を改善することで国内の若者を建設業界へ呼び込む対策が中心だ。日本全体で若者の人口が減っているため期待できる効果は限定的かもしれないが、二の矢、三の矢の対策を打ってみることは必要だ。
今回の対策を実行しつつ、今後も次の一手が新たに検討されていくことだろう。
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