全国44市区町、119路線で活用される「ほこみち制度」
「ほこみち」とは国土交通省が2020年に制定した歩行者利便増進道路制度の愛称。
これまでの道路は車両が主役だったが、それを通行に支障のない範囲で活用していくことで賑わいのある道路空間を構築しようというもの。この制度を利用すれば幅の広い歩道にオープンカフェを開いたり、ベンチを置くことができるなど、道路を通行以外の目的で使うことができるようになるのである。
制度開始から3年、すでに全国の44市区町、119路線で活用されており、道は使い方次第で地域のコミュニケーションや賑わいその他に寄与するものと認識されるようになってきているようだ。3回目となるほこみちインスパイアフォーラム2023はそうした道の使い方の事例を全国に紹介、併せてこれからの道の使い方を考える場である。
以下、どのような事例が紹介されたかなどイベントの様子を紹介していこう。
トップバッターの国土交通省道路局環境安全・防災課の井上直さんはほこみち制度の紹介役。今後、トライしてみたい人のために簡単に要点をまとめると、ほこみち制度では以下の3つのことができるようになる。
●歩行者のためになるものを歩道におくことができる
●道路を占用するものを公募できる
●長期間の専用ができる(最長20年)
もちろん、なんでもかんでも置いてよいわけではない。現状でどんなものが置かれているかというとベンチ、看板、キッチンカー、自転車駐輪器具、食事施設など。ベンチがひとつあるだけでも場所の雰囲気が変わると考えると、いろいろ置けるものはある。
といってももちろん、ただ置くだけでなく「利用する以上は掃除その他への協力もお願いします」井上さん。
利用するためには道路管理者に相談するなど段取りもあるが、国が管理している道路からもまちづくりを進めているので、遠慮しないで相談してほしいとも。国交省の道路活用に前向きな姿勢がよく分かった。
長崎市で進む2つの道路活用のプロジェクトとは
続いては事例紹介したい。
最初に登壇した長崎市のまちづくり部まちなか事業推進室の平山広孝さんは2010年に市民活動団体「長崎都市・景観研究所」を設立、まちを楽しくする活動をしつつ、2011年に長崎市に入庁、河川や景観に関わる仕事をしてきた。現在はまちなかエリアの再生に関わっている。
長崎市は人口39万人強、斜面と離島からなる地形的には居住適地の少ない住宅的には不利なまちで転出超過が2020年から2022年まで全国の市町村でワースト2位(2018~2019年はワースト1位)と人口減少が続いている。
一方で地形的な制約は長崎を天然のコンパクトシティにしており、人口密度は仙台市よりも高く、バス路線、路面電車など市内の移動の足は充実している。歴史的な景観、催事が多く残され、そのうちには道を利用したイベント、祭りなども少なくない。
今では当たり前になったまち歩きを最初に地域に活力を与えるイベント・長崎さるく(さるくとは長崎弁でまちをぶらぶら歩くという意味)として「発見」したのも長崎市。最近はまちをぶらぶらするまちぶらプロジェクトも行われており、夜間景観や使いやすいトイレの整備などが進められてきているという。
そんな長崎で進むほこみちプロジェクトは2つ。ひとつは長崎の歴史を語る上で欠かせないメインストリート国道34号で、2023年4月にそのうちの750m弱がほこみちの指定を受けた。現在はオフィスビルの並ぶ通りだが、そこが今後どのように変わるか。
もうひとつは暗渠になっていた銅座川を再生、川沿いをそぞろ歩きの楽しいプロムナードにしようという計画。すでに下流の新地中華街あたりは開渠となっており、多くの観光客が集う場所になっているが、上流には川の上に闇市由来の銅座市場があり、川の姿が見えない状態が続いていた。ところが2017年に市場の床が崩落、その後、再開発のイメージ図が公開され、現在は少しずつ土地の収用などが進んでいる。
このプロムナードができると新地中華街と思案橋界隈、2つの繁華街が水辺の道で繋がることになり、地域に新しい魅力が付加されることになる。人口減少が続く長崎だが、コンパクトで歩きやすいまちであり、まちなかには賑わいがある。道の意味が大きいまち、ということだろう。
狛江駅前、上野の上野2丁目仲町通り。東京での道の変化
続いての事例は全国で2番目に小さい市、東京都狛江市。
大きな産業のない同市では財産は市民。そこで2024年春からの狛江駅北口周辺の市道でのほこみち運用開始に先立ち、2022年から市民と一緒に社会実験やトークイベントなどを積み重ねてきたと一般社団法人狛江まちみらいラボチーフディレクターの銀林悠さん。合計で34もの団体、個人が関わって行われてきたそうだ。
狛江市北口にはえきまえ広場があり、人が集まりやすくなっている。それに加えて道路も使えるとなれば、より人の顔が見えやすくなる。自治体の規模が小さいことは決してマイナスではなく、顔見知り、さらには知り合いを作りやすいと考えるとプラス。
目指すものは「子どもも含めて市民が主役のほこみちで、『今日は楽しかったね』という経験を増やしていきたい」とのこと。住んで楽しい、誇りに思えるまちのベースとして道を考えるということである。
3事例目はホームズプレスでも以前記事として取り上げたガイトウスタンド(https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_00842/)。
これは2020年から始まった上野~湯島に位置する池之端仲町通り、上野2丁目仲町通り(以下仲町通り)で通りの街灯に小さな着脱式のテーブルを取りつけ、そこで飲食を楽しもうというもの。道を飲食店にしてしまおうという試みと考えれば分かりやすい。
かつては、寛永寺の門前町、湯島天神の鳥居前町として繁栄、江戸時代には商店街、明治時代には花街、近年では歓楽街として栄えてきた仲町通りだが、このところは空き店舗も増えて元気がない。
それをどうするかというところで始まった勉強会は、社会実験などがコロナ禍での道路の占用許可基準の緩和の追い風も受けて発展したもので、現在ではそれが発展して各地で行われている。熊本、札幌、栃木、熊谷、博多、有楽町だけでなく、また業種も飲食だけではなく、演劇、本棚のスタンドなどの事例も生まれていると東京大学都市デザイン研究室の永野真義助教はいう。
仲町通りでは近々ほこみちの申請をして、歩道なしの8m道路でガイトウスタンドを継続する予定。また、街灯のみならず、街中のさまざまなものへの寄生を考える都市寄生デザイン会議が開かれるなど、街角の風景が変わる試みも生まれているそうだ。
道路が、ロータリーが、広場に変身。なんば、福山の事例紹介
事例紹介中盤にサプライズとして紹介されたのは、2023年11月23日に誕生したなんば広場。
これまで主に車道とタクシープールとして活用されていた南海なんば駅前エリアが約6000m2、サッカー場ひとつくらいの広さの歩行者中心の広場としてリニューアルしたというもので、2008年に地元の声から生まれた構想を15年かけて実現している。今後は2025年まで、大阪市と地元の準備委員会が協働して活用実験を実施していく計画だ。
また、なんば広場から続くなんさん通りでは隣接ビルと一緒に難波千日前地区の再開発プロジェクトが始まり、将来的にはなんば広場と一体化した、より広い歩行者中心エリアになるという。
中継で印象的だったのは、プロジェクトを紹介した都市デザイン事務所ハートビートプランの泉英明さんが、道路が残っているところ(なんさん通り)もこれから広場になると説明した後で、「でも、みんなはなんとなく歩道を歩いているんですよね」という言葉。
なるほど、これまで人間は道路の端っこを車に遠慮しながら歩くものだったのだ。それがなんば広場から変わっていくのだろう。
続く事例は広島県福山市の福山駅前の活動。
3つのプロジェクトが進行しており、うち、ひとつは駅南口のアーケードに登場した屋台8基。地元伏見町の飲食店などで作る福山伏見町商店会が駅前の賑わいや景観づくりのために貸出を始めたものだ。目印は屋台に掛けられたデニム。
「実は福山市は日本一のデニムの産地。デニム屋台と呼んでいます」と福山市福山駅前周辺再生推進課の吉岡慎祐さん。
すでに整備が終わっているのは、福山駅北口スクエアの整備だ。福山駅北口には駅ホームから見えるほどの距離に福山城があり、大きな観光資源。2022年の築城400年に向けての令和の大普請と合わせて芝生広場、バラ花壇などが造られ、車道と歩道の段差解消、横断防止柵を取り外し可能なものにするなどの整備が行われたという。
もうひとつ、これから行われる予定なのは南口駅前広場の再編。
現在はバス、タクシーのためのロータリーになっているが、これを人のための広場に変えていくという。すでに社会実験を経て福山駅前広場整備基本方針が策定されている。あとは実現を待つだけ。楽しみである。
道がまちを変える、コミュニケーションを変える。虎ノ門ヒルズ
5番目の事例は東京の都心ど真ん中、2013年の森タワーに始まり、2023年のステーションタワーの完成で4棟が出揃った虎ノ門ヒルズだ。
高度経済成長期に繁栄したものの、その後まちの更新が行われた来なかった虎ノ門エリアを大胆に変えるプロジェクトで新たに作られた道路である新虎通りには広い歩道があり、使い方次第でさまざまなことができる。
2023年3月にほこみちとして東京都の指定を受け、今後は周辺の公共施設、道路なども利用して地元の事業者などと一緒にイベントなどをやっていきたいと森ビル株式会社タウンマネジメント事業運営部虎ノ門ヒルズエリア運営グループ、一般社団法人新虎通りエリアマネジメント事務局の横山貴史さん。
「普段の新虎通りは単なる通り道。でも春と秋にイベントを開催すると普段の2倍の人が集まり、キッチンカーには行列ができます」。道のポテンシャルが実感できるというものである。
最後の事例はこれまでとは視点を変え、街中の広場に着目、さまざまな地域のまちなか広場作りに伴走する、広場ニストの山下裕子さん。広場は滞在する、道は通過する空間で、異なるタイプというのが一般的な考え方だと思うが、山下さんは開口一番「道は広場になりたがっている」という。
「道にこそ、その場所らしさがあります。歩いて、そこにある、置かれているものを見ることからそのまちの個性が伝わってくるもの。その道にベンチやリサイクルの箱その他を置くことでコミュニケーションも生まれてきます」とさまざまな地域の道とその使い方がスライドで紹介された。
たしかに通過するのがメインではあるものの、人は路上で人と会い、立ち話をする。そう考えると、仕掛け方次第では道もまた広場になり、邂逅の場になりうる。なんだか、わくわくする話である。
若者はなぜ公共空間にコミットするのか
事例の後に登壇した日本大学理工学部建築学科准教授の泉山塁威さんの発表は、「なぜ今、ミレニアル世代以降の若い人が人中心の道路=公共空間にコミットするのか」。
ミレニアル世代は2000年以降に成人、社会人になった、2023年時点では20代後半から40代前半くらいを指すが、これからの都市ビジョンではその下の年代が中心になる社会が対象になる。となると、20代前半以下の世代が何を考えているかを知ることには大きな意味がある。
泉山さんがアンケート調査をした結果によると、若者が人中心の道路=公共空間を好むのはそこにコミュニティと交流があるからだという。彼らが挙げたキーワードとしてはワクワクする気持ち、お金がないけど話したい、非日常感、人の気配を感じられる、新しいところなど。気軽に人に会えるこれまでにない空間というのがポイントということだろうか。
「どこかに遊びに行くときは、スマホでインスタなどで行列になっているところを探すことが多いようで、人が集まっているところに行きたいという気持ちが強い。イルミネーションで賑わう丸の内で観察してみるとリアルに見るというよりはスマホで撮影、写っているものを見ており、これからの公共空間にはWi-Fiは必須と思いますね」
一方で若者たちは、無駄に広い都市の道路、郊外の歩道には批判的でもあり、活用されることに意味があると考えているようだ。
また、公共空間の活用はまだまだ新しいジャンルでもあり、そこに伸びしろ、魅力があると考えている若い層も多く、「若者は公共空間活用を応援している、そういった活用をする企業に就職したがっている」とも。公共空間のこれからに期待できるアンケート結果である。
ゆっくり走れば渋滞は起きなくなる!
最後は子どもをまんなかに置いたまちづくり、みちづくりがテーマのセッション。これまでまちも道も大人目線で行われてきたと考えると、大きな変化である。
この背景には、こども・子育て政策の強化を図るために開かれた国の「こども未来戦略会議」で示された「こどもまんなかまちづくり」という概念がある。
子どもを中心に近隣地域の生活環境を考えることで子育て世帯が感じている子育てしづらい社会環境を変えていこうというものだが、ほこみちも多世代が交流するコミュニティ空間の創出をテーマとして考えている。そう考えると、道が子どもに歩みよっていくのは自然な流れなのかもしれない。
ここでは前述の山下さんに加え、コミュニティデザインラボmachi-ku代表で柏アーバンデザインセンター副センター長の安藤哲也さん、一般社団法人ストリートライフメイカーズ代表理事の三浦詩乃さん、国土交通省総合政策局社会資本整備政策課の梶原ちえみさんが登壇したのだが、いろいろなやりとりの中でもっとも印象的だったのは三浦詩乃さんが紹介した事例。
ヨーロッパで道路の制限速度を時速30キロにしていこう、という例が50都市以上で進んでいるというのである。
全部の車が時速30キロ走行と考えると、渋滞が発生するのではないか、という疑問が浮かぶ。
だが、三浦さんは「スピードを出すから信号が必要になり、途中で強制的に止まることになりますが、ゆっくりと譲り合って運転するようになれば信号は不要になり、実は所要時間は変わらない」と説明。これには登壇者も会場の参加者もどよめいた。
これまで道を考えるにあたっては、通過するスピード優先の道路、スピードを落とすあるいは交通量を減らしてコミュニケーションを深める道路に二分した考えるのが一般的だったと思うが、ゆっくり走ることで渋滞もコミュニケーションも手に入るのだとしたら、道路の考え方は大きく転換する。
参加した人達のどよめきは、この「発見」の大きさを物語っていると思ったが、これが実践に結びついていくかどうかは今のところはまだ不明だ。
いずれにせよ、道路はまだまだ変化しそうである。
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