9日間の開催期間中に世界中から30万人以上が訪れるDDW

オランダ南部のアイントホーフェン市で毎年10月に開催されるデザインの祭典「ダッチ・デザイン・ウィーク(DDW:Dutch Design Week)」。2023年で22年目を迎えたDDWは、建築、アート、社会コンセプトなど、さまざまなデザインが集まり世界的なトレンドを知る上で重要なイベントになっている。今回注目を集めたキーワードは「サステナブル」。今年の模様を現地からレポートする。

アイントホーフェン市には、世界的に有名な高等職業専門大学「デザイン・アカデミー・アイントホーフェン」がある。その卒業展がこの時期に開かれることから、同展を中心にこぢんまりと始まったDDWだが、今や30万人以上が訪れる世界的なイベントに発展した。出展されているのは小物や家具、衣服などの製品から、社会問題の解決などコンセプチュアルなものまで実にさまざま。開催期間の9日間だけでは、とても全部を見ることはできないほど多くの作品が出展されている。

最近のテーマは、「サステナブル」、「ダイバーシティ&インクルージョン」、「ヘルス」などが目立っていて、建築やインテリアの分野でもこうしたテーマが主力となっている。製造段階から廃棄後まで、二酸化炭素(CO2、以下:表記はCO2)排出をいかに減らせるかが模索されている。ここでは、住宅やインテリアに焦点を当て、DDWで見られたサステナブルな解決法を紹介していく。

Close up of  Eindhoven , Netherlands  map with red pin  - Travel concept© Naoko Yamamoto

住宅建築は昔に回帰?ほぼ100%自然素材の住宅も出現

従来からの建築材であるコンクリート、鉄鋼、レンガ、合成断熱材などは製造中に環境に大きな負荷を与え、建物を取り壊す際の廃棄問題も深刻化している。このため、DDWではさまざまな製品を自然素材に置き換えることが考案されていた。

【建築物】「木材」と「わら」だけで造るサステナブルな建物とは
サステナブルな建築を提供するオランダのスタートアップ「Strotec(ストロテック)」は、材料の98%が「木材」と「わら」だけという画期的な建物を展示していた。 木材と木材の間にわらを圧縮して作った断熱材を挟んだ外壁をあらかじめ工場で製造し、それを建築現場で組み立てる。ドアと窓付きのフレームを付け、内装と外装を完成させるという、非常にシンプルな工程だ。補助構造なしで、最大5階建てまで建設できるという。

DDW会場に即席で建設された木とわらの家。現場で組み立てるだけなので工事は簡単 © Naoko Yamamoto DDW会場に即席で建設された木とわらの家。現場で組み立てるだけなので工事は簡単 © Naoko Yamamoto

断熱性と通気性に優れた自然素材により、冬は暖かく、夏は涼しい。空調、加熱、冷却のための設備は最小限で済み、設置にかかる費用のほか、エネルギー代や維持費の削減にもつながる。わらは圧縮すれば、耐火性も驚くほど強いという。

ストロテックの製品とテクノロジーはすでに実用化されており、現在、アイントホーフェン市内にほぼ100%バイオベースの建材だけを使った住宅18戸の建設が計画されている。2023年末から開始される予定で、8~9ヶ月後の完成が見込まれている。

同建築で使われるタイルは、下水からのゴミを植物のセルロースで固めて作ったものを使用。外壁のレンガはオーブンで焼くのではなく、ミネラル分を乾燥させて作ったもので、製造プロセスでCO2を排出しない。今のところ建築コストは、現在の平均よりも10~14%高いが、今後こうした建築が増えて製造規模が拡大すれば、コストは下がる見通しだという。

【エネルギー】外壁に使える美しいソーラーパネルでCO2ニュートラルを目指す
一方、建築物を「CO2ニュートラル」にするための試みも始まっている。 スタートアップ「Solarix(ソラリックス)」は、建物の外壁に使用できる美しい外観のソーラーパネルを開発した。太陽光を使って、建物が消費するよりも多くのエネルギーを生成することで、CO2ニュートラルを目指す。すでにオランダ各地のオフィスや公共施設で使用されている。

DDW会場に即席で建設された木とわらの家。現場で組み立てるだけなので工事は簡単 © Naoko Yamamoto エンジニアリング会社のオフィスビルには、196 枚の Solarix パネルが正面外観に取り付けられている。このうち 177 枚に太陽電池が搭載されている(出典:Solarixのホームページより)

新しい建築素材は自然の力を利用する

DDWではこのほかにも、さまざまなバイオベースの建築材料が展示されていた。素材の製造過程のみならず、輸送でもCO2排出を抑えるため、地産地消が重視されている。地元で自然に育つ亜麻やミスカンサスなどを使った断熱材やタイルなども紹介されていた。

亜麻を使ったさまざまな建築材料  © Naoko Yamamoto 亜麻を使ったさまざまな建築材料  © Naoko Yamamoto
亜麻を使ったさまざまな建築材料  © Naoko Yamamoto 自然素材を使った巨大テント。全体の重量が軽いため、吹き飛ばされないように床下に水を溜めて重量バランスを取る構造になっている © Naoko Yamamoto

【新素材】自然素材を8割使った新素材は、軽く、高い防水性も
DDWのメイン会場である「Strijp-S(ストライプ・エス)」の広場には、アイントホーフェン工科大学のプロジェクトである、巨大なテントが出現した。こちらも支柱は亜麻の繊維やトマトの茎を使ったもの。つなぎ材には樹脂を使っているため、自然素材の割合は70~80%となっている。ラクダ色の外壁は羊の毛とコルクを使用しており、軽くて防水性に優れる両者の強みを生かした新素材となっている。

【塗料】菌が木材を保護する100%バイオベースの塗料
一方、オランダ北東部デーフェンテル市発のスタートアップ「Fungi Force(フンギフォース)」は、菌類を使った100%バイオベースの塗料を開発した。木材用のマットな黒色の塗料で、この上から亜麻仁由来の植物性オイルを塗ると、それが菌類の栄養分となり、菌が育つことで木材を紫外線や水分から保護する。
今のところ色は黒のみだが、現在、さまざまな色を研究している段階だという。完全自然素材のため、廃棄する際も100%自然に返る。

【れんが】陶磁器の廃棄物を利用した再生可能なれんが
アジアからも出展が見られた。中国のスタートアップ「Just One Brick(ジャスト・ワン・ブリック)」は、陶磁器で有名な中国・江蘇省の景徳鎮で排出された陶磁器の廃棄物を収集し、再生可能な材料を使ってれんがを生産している。このレンガは建築物の外装・内装に使えるほか、透水性の高い製品は道路などに利用が可能。何度でも再生することができるという。

亜麻を使ったさまざまな建築材料  © Naoko Yamamoto 菌類の力を活用したFungi Forceの製品。20m2用の塗料とオイル(各2.5リットル)のセットで119.95ユーロ  © Naoko Yamamoto
亜麻を使ったさまざまな建築材料  © Naoko Yamamoto れんがの説明が書かれたJust One Brickの展示パネル © Naoko Yamamoto

インテリアのリサイクルからコミュニティが生まれる

DDWでは、インテリアも「サステナブル」が中心。今やリサイクル製品はデフォルトともいえるほど。いろいろな廃材を利用したインテリアが展示されていた。

防水性、耐久性に優れた消防ホースを再利用
ロッテルダムのデザインスタジオ「Eversom」は、廃棄された消防ホースを再利用したインテリアを製造・販売している。消防ホースは防水性や耐久性に優れるため、アウトドア製品にも適している。ホースの長さを利用して、レッドカーペットや壁掛けなども生産している。

消防ホースを再利用して作った「Eversom」デザインの椅子(出典:Eversomのホームページより) 消防ホースを再利用して作った「Eversom」デザインの椅子(出典:Eversomのホームページより)

【廃プラスチックなどを利用しリサイクルを前提にデザイン
アイントホーフェン拠点の「Bogaerts」は、リサイクルを前提としたインテリアをデザインしている。廃棄された冷蔵庫のプラスチックなどを再利用している一方、のりは使用せず、廃棄後も解体・リサイクルがしやすい作りとなっている。各製品には、使用された素材や製造過程で排出されたCO2量などの情報が明記された「プロダクトパスポート」がついており、消費者が意識的に商品を選べるような工夫も施されている。

同規格のキャビネットを持つ者同士がコミュニティを作り、売買や交換を
キャビネットを数世紀にわたって持続させようという面白い試みも見られる。「Biobased Design(バイオベースド デザイン)」が開発した「Regenerative Modular Cabinet(回生モジュール式キャビネット)」は、同社規格のキャビネットを共有する人たちがコミュニティを作り、その中で古いものや自作デザインのものを売買したり、交換したりするのを可能にする。 材料に使われるのは自然素材のみ。棚は人々の成長に合わせて、拡大したり縮小したりしながらユーザーの人生をともに伴走し、次の世代に引き継がれていくという構想だ。

消防ホースを再利用して作った「Eversom」デザインの椅子(出典:Eversomのホームページより) Bogaertsデザインのテーブルと椅子。テーブルには廃棄された冷蔵庫のプラスチックが再利用されている © Naoko Yamamoto
消防ホースを再利用して作った「Eversom」デザインの椅子(出典:Eversomのホームページより) Regenerative Modular Cabinetは、世代を超えて使える家具を作るとともに、棚の交換や売買を通じてコミュニティを作ろうという社会的プロジェクトでもある © Naoko Yamamoto

サステナブルな家具の拡大目指し、業界横断的な組織も

オランダでは、サステナブルな家具を業界全体で広げていくため、インテリア会社が集まってエコシステムも形成され始めた。「Future Factory Furniture」というエコシステムでは、国内6社が集まって新しい素材を模索したり、サプライチェーンを共有したり、共同でリサイクル活動を行ったりしている。
インテリア業界はバイオベースの材料を家具に組み込みながら、どのように高品質を保てるか?廃棄物の流れにどう対処するか?ビジネスの維持とサステイナビリティのバランスをどう取るのか?――全世界の課題となっているこうした問いかけに対する答えを見つけるため、同組織は活動をスケールアップしていきたい考え。国内のみならず、国外からの参加も呼び掛けている。

インテリア6社によるエコシステムを紹介したDDWの展示(Photo: Almicheal Fraay)インテリア6社によるエコシステムを紹介したDDWの展示(Photo: Almicheal Fraay)

農村・都市開発で進む環境改善の取り組み

ここまで住宅やインテリアを見てきたが、農村・都市開発といった大きな観点からもサステイナビリティが模索されている。
オランダは国土が狭く、九州ぐらいの面積しかない。しかも国土の4分の1が海抜0メートル以下の土地で、もともと湿地帯だったところを埋め立ててつくった土地が多い。この小さな国土で、オランダは農産物の輸出額で米国に次ぐ世界第2位という驚異的な結果を出しているが、それはハイテクを駆使し、エネルギーを大量消費しながら到達した結果でもあり、近年はこうした農法が環境に及ぼすマイナス面が問題視されている。

土地の水分量にも配慮して多品種の作物を育てる試みも
現在、特にオランダ北部や北西部は水をポンプで出しながら土地の水分量を低く抑えているが、デザイナーやパートナー企業の連合体「Embassy of Circular Biobased Building」は、これを自然な水量に戻しながら、地元で育つ多品種の作物を育てる方法を研究している。農家がこれまで通りに十分な収入を得られるよう、地元の作物でバイオベースの建材を作る構想など、社会的な問題にも取り組んでいる。同連合体では、未来の農村と都市のあり方をデザインし、政府や企業などステークホルダーに提言している。

Embassy of Circular Biobased Buildingのブース © Naoko YamamotoEmbassy of Circular Biobased Buildingのブース © Naoko Yamamoto
Embassy of Circular Biobased Buildingのブース © Naoko YamamotoEmbassy of Circular Biobased Buildingの展示。どのように土壌や水路を使い、自然な形で水を浄化し、多様な植物が育つようにするかが研究されている © Naoko Yamamoto

都市部については、自然素材のセラミックを使ったリーフ(岩礁)に雨水を溜め、必要に応じて自然に水分が空気中に補給される仕組みが考案されている。リーフには藻や草が生えるため、これをビルのファサードなどに使って都市部に自然な形で緑を増やすという構想もある。
ほかにも地固め用に使われるコンクリートをバイオベースの材料に置き換え、3Dプリンターでプリントするなど、できるだけ自然素材を取り入れ、自然の力を借りる形の建築が模索されている。

Embassy of Circular Biobased Buildingのブース © Naoko Yamamoto自然素材のセラミックを使ったリーフ(中央)。このリーフで建物全体を覆うという構想がある(詳しくはビデオ:https://youtu.be/L1xOMh16T8I?list=TLGGvyhVhgueo4sxNDExMjAyMw 参照)

日本の伝統が世界の課題解決に貢献する日も

今回のDDWを見て私が感じたのは、住宅も土地利用のあり方も、昔に回帰する傾向があるということ。しかし、ただ原始に戻すというのではなく、そこに最新のテクノロジーを加えるのがカギとなっている。また、さまざまな課題が1社では解決できないほど複雑化しているため、オランダではデザイナー、企業、大学など多様な専門家が集まってエコシステムをつくり、問題解決を目指していることも注目される。
今回紹介しきれなかったが、DDWでは日本の発酵食品や、釘を使わない建築技術にヒントを得た作品も展示されていた。もともとサステナブルな日本の伝統は、世界に注目されている。オランダのエコシステムに日本企業が参加することも、世界の課題解決を一歩早めることになるのかもしれない。

今回は、住宅・インテリア・農村/都市開発をお伝えしたが、DDWはテクノロジーやアート、社会コンセプトなど、ありとあらゆるデザインが展示されていて、とても興味深い。この時期に欧州方面に行く機会のある方には、ぜひお勧めしたい。

参考:DDWとレポート内紹介の企業・団体のHP
・DDW:
https://ddw.nl/nl/home
・デザイン・アカデミー・アイントホーフェン:
https://www.designacademy.nl/
・Strotec:
https://www.strotec.nl/
・Solarix:
https://solarix-solar.com/
・Fungi Force:
https://www.fungiforce.nl/
・Just One Brick:
https://ddw.nl/en/programme/9740/just-one-brick
・Eversom:
https://www.eversom.nl/
・Bogaerts:
https://www.bogaerts.design/nl/projectmeubilair/
・Biobased Design:
https://www.biobaseddesign.com/
・Future Factory Furniture:
https://ddw.nl/en/programme/10544/future-factory-furniture
・Embassy of Circular Biobased Building:
https://ddw.nl/nl/programma/10056/embassy-of-circular-amp-biobased-building