日本のマンションが抱える「2つの老い」の問題
国土交通省は2023年8月10日、「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」のとりまとめを公表した。検討会では、マンションを巡る課題を把握・整理し、マンションの管理・修繕、再生するための施策について、総合的な検討が行われてきた。検討会のとりまとめ資料から、マンションの課題ととりまとめに示された施策を確認していく。
今後のマンション政策のあり方に関する検討会
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000214.html
日本の住宅において、将来、大きな問題を引き起こす恐れがあるとして、対策が進められているマンションは、1956年に日本で初めて誕生して以降、主に都市部で普及していき2022年末時点では約694.3万戸に達している。分譲マンションの住民は、国民の約1割超に相当する約1,500万人が居住していると推計されている。2022年末時点で築40年以上を経過している高経年のマンションは約125.7万戸存在し、10年後には約2.1倍の約260.8万戸、20年後には約3.5倍の約445万戸と急増していくことが見込まれている。マンションは、単に建物だけが老朽化しているにとどまらず、住民の高齢化も進んでいる。
建物と居住者の両方における高齢化が急速に進行しており、「2つの老い」と呼ばれる問題が顕在化しつつある。
日本のマンションの現状
日本のマンションにおいては、主に以下のような問題が生じ始めている。
(1)区分所有者の高齢化・非居住化、管理組合の担い手不足
高経年マンションにおいては区分所有者の高齢化が進むことで、空室や賃貸住戸等の非居住化も進んでいる。所在不明住戸が発生しているマンションも増えつつあり、管理組合の役員の担い手不足や総会運営、集会の議決が困難になっている。
(2)修繕積立金の不足
修繕積立金が不足していないマンションは全体の約3分の1しか存在せず、また、約半数の管理組合が長期修繕計画の計画的な見直しを行っていない現状がある。
(3)建替え事業における事業採算性の低下
マンションの建替えの実績は2023年3月末時点において累計で282件しかなく、戸数としては約2万3,000戸にとどまっている。近年のマンション建替え事業では、新たに利用できる容積率が減少しており、建替え後のマンションで新たな入居者に販売をすることができる住戸の面積が減少している。容積率とは、敷地面積に対する建物の延床面積の割合のことである。マンションの建替えで必要となる区分所有者の負担額は増加傾向にあり、建替えはますます困難となってきている。
(4)マンションの大規模化
近年はタワーマンションが増加していることから、新たな問題も生じ始めている。タワーマンションは2000年代以降に大幅に増加しており、2021年末の累積棟数は全国で約1,400棟に上っている。タワーマンションでは、戸数も多く、管理組合が扱う管理費や修繕積立金の額が大きくなる傾向がある。タワーマンションは賃貸率も高く、また中古の売買も多いことから、区分所有者の合意形成に関し、特有の困難さが存在している。
(5)既存住宅流通量の増加と管理情報に関する情報提供不足
2021年の首都圏における新築と中古のマンション市場は、中古マンションの成約件数が6年連続で新築マンションの販売戸数を上回っており、中古マンションの流通量は増加傾向にある。一方、管理に関する情報は中古マンションの購入予定者等に十分に届く環境となっておらず、共用部分の維持管理状況を考慮して購入した区分所有者は1割にとどまっている。
中古マンション市場では、共用部の管理の状況が把握しにくい点が問題となっている。
マンションの課題と大綱の概要
2つの老いによる問題やタワーマンションの増加等の現状を踏まえ、国土交通省では、2022年10月に「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」を立ち上げ、課題を整理している。
本検討会のとりまとめについては、当面のマンション政策の検討・実施にあたっての基本的な認識とし、広くマンション政策全般に係る大綱として位置づけられるものとなる。検討会で取り上げられた主な課題と大綱の概要は以下の通りだ。
(1)マンションの長寿命化の推進
建替えの困難性を踏まえると、すべてのマンションで建替えを行うことは非現実的といえる。
現状では、多くのマンションに建替えを現実化する余剰容積率は存在せず、区分所有者が多額の負担をしないと建て替えできない状況となっている。そこで、検討会では今後、マンションは建替えではなく長寿命化を進めることを推進している。2023年度に創設された「マンション長寿命化促進税制」等の新しい制度の周知を図るとともに、超長期の修繕計画のあり方について検討することになっている。
(2)適切な修繕工事等の実施
多くの分譲マンションでは、修繕積立金は築年数の経過に応じて上がる「段階増額積立方式」が採用されている。段階増額積立方式では、大幅な積立金の引上げが必要な場合、予定通りの引上げができない恐れがある。そこで、今後は修繕積立金について、適切な引上げ幅等の検討が行われることになっている。
(3)管理組合役員の担い手不足への対応
管理会社が管理者となる形式の外部専門家の活用が増加しつつあるが、管理組合が外部専門家に依頼する際の留意事項等が不明確となっている。外部専門家に関しては実態把握を進め、留意事項等をまとめたガイドラインの整備等を行う予定だ。
(4)管理不全マンションへの対応
相続等をきっかけに所有者が不明となる部屋が発生し、総会開催や管理費等の徴収に支障をきたすケースが散見されている。限界マンションと呼ばれるマンションも登場しており、管理不全に陥っている。管理不全マンションは、行政が助言や指導、勧告を行っても、合意形成ができない現状がある。そこで、区分所有者名簿等の更新の新しい仕組みについての検討が行われるとともに、管理不全マンションに対する地方公共団体の権限の強化についても検討される見込みとなっている。
(5)大規模マンション特有の課題への対応
タワーマンション等の大規模マンションでは、管理組合が管理費や修繕積立金の取扱う金額に見合った監査体制となっていない。大規模マンションにおける監査のあり方について、専門家の活用を念頭に検討が行われる予定だ。
(6)円滑な建替え事業等に向けた環境整備
一部のマンションでは、現行の法律の容積率や日影規制等の形態規制が制約となって、事業性や合意形成の確保が困難となっている場合がある。地方公共団体が行う独自の緩和事例等を収集し、横展開を図ることが検討されている。
(7)多様なニーズに対応した建替えの事業手法
近年は、余剰容積率の減少や仮移転に伴う引越し負担の重さから、区分所有者が非現地での住み替えを行うニーズが増えている。非現地への住み替えに伴う区分所有者の負担軽減についての要望があることから、制度的な対応ができないか検討が行われることになっている。
これまでの検討会の取組み
2022年10月に設置された「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」は、2023年7月24日まで、計9回の議論が行われてきた。第1回目は、「マンションを取り巻く現状と課題」の把握や「地方公共団体からの報告」が行われ、第2~5回までは「関係団体等からの報告」と「管理と修繕、建替え」に関する議論がなされている。第6回は「管理と修繕」、第7回は「建替え」に関する検討がなされ、第8~9回にかけて議論されてきた内容のとりまとめが行われている。本検討会で取り上げた課題や議論の内容については、個々の管理組合や区分所有者へ広く周知を行うこととし、自らのマンションの状況と照らし合わせて、全国の管理組合で議論を呼び起こしていくことが目論まれている。
今後の予定
検討会でとりまとめがなされた内容は、今後、法制度やマンション標準管理規約、予算、税制、融資制度、ガイドライン等の見直しに反映されていく予定である。とりまとめ内容は、国土交通省のホームページで公開され、関心を呼び起こす視点から、広く意見募集が行われる見込みとなっている
また、2023年秋には、検討会の下にワーキンググループを設置し、以下の施策の具体化に向けた検討が開始される。
【ワーキンググループで検討される内容】
• 管理計画認定制度の認定基準の見直し
• マンション標準管理規約の見直し
• 管理会社が管理者となる場合を含めた外部専門家の活用のあり方
さらに、2023年度実施予定の「マンション総合調査」においては、今後の施策の検討にあたって必要なデータの把握を行うための調査項目について、政策的な分析の必要性が高い設問を設ける予定となっている。マンション総合調査は5年に1度行われる有益な調査であるため、課題解決に寄与する調査結果となることを期待したい。
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