エスコンフィールドHOKKAIDOで一躍全国区となった「北広島」を世界一健康なまちに
▲JR快速エアポートで新千歳空港から20分、札幌へ17分と、空港~札幌都心のちょうど中間地点に位置する北海道北広島市。2023年3月に北海道ボールパークFビレッジが開業し“観光客が通り過ぎるまち”から“観光に訪れるまち”へと進化。道外からの移住検討者の関心も高まっている「Boys be ambitious~少年よ、大志を抱け~」──北海道開拓の父、ウィリアム・スミス・クラーク博士のあまりにも有名なこの言葉は、実は北広島市で発せられたことをご存知だろうか?
博士の銅像がある羊ヶ丘展望台(札幌市豊平区)のイメージから“札幌での名言”と思われがちだが、実際には明治10(1877)年、博士が札幌農学校での任務を終えて帰国する際に、現在の北広島市島松まで見送りにきた学生たちに向けて残された言葉だ。
そのため、北広島市は“大志をいだくまち”をキャッチフレーズに市のPRを行っているが、最近は北海道ボールパークFビレッジ(エスコンフィールドHOKKAIDO)の開業が大々的に報じられたため、道外の方には“ファイターズの新しいホームタウン”と言ったほうがわかりやすいかもしれない。
もうひとつ、いま北広島市で注目を集めている事業がある。それは「世界一健康なまち」を目指す取り組みだ。事業の発案者であり、北広島を拠点とするスタートアップ企業、株式会社Ambiの金原稔幸さんにその経緯を聞いた。
いじめをうけたこときっかけに、睡眠とメンタルヘルスへの関心が高まった
「私たち株式会社Ambiの『世界一健康なまちづくりー1000+1 Movement事業』は、北広島市が公募した令和5年度地域活性化政策補助事業の一環として採択されました。
睡眠と運動を通じて北広島市民全体の健康寿命の延伸とウェルビーイングの向上を図り、世界一健康なまちを目指す取組みです。
事業資金は、主に『企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)』を活用し、本事業へ賛同いただいた企業様からの寄付によって成り立っています」(以下「」内は金原さん談)
世界一健康なまちを目指す──日本ではなく“世界一”という点に目標ハードルの高さが感じられるが、実はこの事業には金原さん自身が長年抱えてきた熱い想いも込められている。ここからは金原さん個人のバックグラウンドに立ち入ることになるが、ご本人に記載の了解を得た上で事業発案の経緯について紹介する。
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「僕自身は父の仕事の関係で8歳から26歳までアメリカで暮らしていました。祖父が北広島の出身だったので、もともとキタヒロには故郷の様な懐かしさがあり、キレイなまちだなと好印象をもっていました。
アメリカではずっとカリフォルニアで生活していたのですが、中学時代を過ごしたシカゴでは学校に僕しかアジア人がいなかったので、ひどいいじめに遭い、うつ病を発症して学校へ行けなくなってしまったんです。その時に出会った精神科医のドクターから言われたのが、“まず睡眠から治していこう”というアドバイスでした。
とにかく一日8時間は寝ること…とても簡単なことのように感じますが、うつを患う人間にとって良質な睡眠をとることはものすごく高いハードルでした。しかし、実際に睡眠時間を増やし、外へ出て体を動かすようになり、両親のサポートや出会った仲間たちに支えられたおかげで、遂にうつ病を克服。今では世界一ポジティブな人間になりました(笑)。
こうした僕自身の経験から、ビジネスでもそうでなくても、いつか睡眠を通して人々のメンタルヘルスに貢献したいと思うようになったんです」
このような経験を乗り越え、大学ではインターナショナルビジネスを専攻し、やがて金原さんは生活の場を日本へ移す。きっかけは祖母の幼馴染であり、家族ぐるみでお付き合いをしていた北海道の恩師からの助言だった。
「君は日本で生まれた日本人なんだから、何か日本に貢献できる事業をやりなさい、と恩師から言われました。そこで日本へ戻って来たのが2019年の秋。最初は東京に住みながら漠然とやるべきことを考えていたら、世の中がコロナ禍に突入しました。
2020年2月には札幌でコロナが急速に感染拡大したので、居ても立ってもいられず“何かお手伝いをさせてください”と恩師へ電話。東京から札幌へ移り、療養中の方に食事や生活必需品を届けるなどのボランティア活動を約半年間行いました。そのとき混乱する医療現場を見て“みんなが疲れている、今こそ、ここで何か自分にできることはないか?”と考えたんです」
ちょうどそのタイミングで、アメリカの友人から一通のメールが届いた。そのメールには「プロバスケットリーグのNBAで『オーラリング』という先進のウエアラブルデバイスを活用し、選手たちの健康管理を行っている」という記事が添付されていた。記事によると、そのウエアラブルは睡眠データの取得に優れた機能を持つスマートリングとのこと。“睡眠を健康に活かす”メンタルヘルスへの取り組みを模索していた金原さんにとって、衝撃的なアイテムだった。
「記事を読んですぐに、オーラリングのカスタマーセンターへ直接連絡し、“どうしても僕の手でこのリングを日本に持ち込みたい”と直談判しました。何度もしつこく連絡したのできっと熱意は伝わったのでしょう(笑)」
このオーラリングをきっかけに、金原さんの「北広島を世界一健康なまちにする」という1000+1Movementの事業計画がスタートした。株式会社Ambiを設立したのは2022年4月のこと。ちなみに、社名は北広島市のキャッチフレーズである“大志をいだくまち”に由来している。
健康なまちを目指して1000歩多く歩き1時間長く寝る「1000+1Movement」を提案
オーラリングを配布し、良質な睡眠と毎日の歩行を通して北広島市民を健康にしたい──この事業の実現に向けて、金原さんは持ち前の行動力で市役所へアプローチ。事業が採択される前にも、睡眠セミナーをはじめとする市民向けの健康イベントを開催した。
「市役所でミーティングをしたとき、担当者の方から『ハード面についてはボールパークというドデカいモノができた。今後は、ボールパークの存在を市民の方に喜んでいただけるようなソフト面のサービスを考えなくてはいけない。だからこそ、ソフト面も含めたボールパークの活用をしていきたい』と言われました。おそらくこの事業は、北広島が抱えていた課題を解決できる可能性があるので採択されたのかなと思っています」
実は北広島市は「市民の高齢化」という課題を抱えていた。北広島市の高齢化率は33.3%。これは全国平均の28.8%、北海道平均の31.9%を上回る高い数値だ。
北広島駅周辺ではもともと1970年代から宅地造成が進められ、「さんぽまち」の愛称で親しまれる広大な北広島団地地区が誕生した。当時は若いファミリーから人気を集めたが、時代とともに北広島団地地区の居住者は高齢化。市の医療費負担も増加傾向にあり、健康寿命と平均寿命の年齢差をいかに縮めるか?が北広島市の喫緊の課題となっているのだ。
「そこでAmbiが提案したのが“1000+1Movement”です。今までよりも1000歩多く歩くこと、1時間長く寝ること、というとてもシンプルな目標ですが、まず市民の皆さんの健康意識を高め、行動変容を促さなくては課題の解決には至りませんから。
事業採択の前段階として、まずファイターズの選手にオーラリングを装着してもらい、昨シーズンの1年間、睡眠データを取得させていただきました。今シーズンは引き続き装着を希望した選手に対し、睡眠データに基づく健康管理のフィードバックを行っています。
また、事業開始後の2023年7月からは、星槎道都大学社会福祉課の学生さんと先生方、約60人にオーラリングを配布し、1ヶ月目は通常の生活を送ってもらい、まずはウェアラブルデバイスと生活することに慣れてもらいました。2ヶ月目からは体のコンディションに応じてポイントが貯まるインセンティブの仕組みを作り、健康管理にチャレンジしてもらっています。
貯まったポイントはファイターズの観戦チケットと交換できたり、タワーイレブンホテルの温泉に入れるなど、様々なリワードを用意したいと考えています。これは北海道ボールパークFビレッジさんのご協力があったからこそ実現できるソフト面のサービスです」
事業を通した多世代の交流が、若者世代のシビックプライドを育む
オーラリングは無料で配布。導入費用は企業版ふるさと納税の寄付金から賄われているため、市の経費負担は無い。最初に配布したのは、健康管理が課題となっている高齢者ではなく地元の大学生たちだったが、金原さんによるとこの点にもちゃんと理由があるという。
「以前、社会福祉を学ぶ学生さんたちと意見交換を行う機会があったのですが、その会場で一人の学生さんが、“市のボランティア活動は好きだけど、誰もやりたがらないことを自分たちに押し付けられている気がする”と率直な意見を述べていたんですね。なるほど、と思いました。何かしらかのモチベーションが上がるきっかけやインセンティブがないと、ボランティアは善意の搾取になってしまう。
そこでまずは、北広島の未来を担う学生さんたちにこのリングを先行配布して、ポイント獲得などインセンティブを楽しんでもらい、さらに、データを見える化して行動変容の成果を実体験してもらいたかったんです。学生さんたちがこの事業に関心を持ってくれたら、一般市民の皆さんにリングを配布する段階になったときも彼らにリーダーとなってもらい、プログラムを一緒に推進していきたいと思っています。
さらに、この事業を通して若い世代と高齢者の方の交流機会が増え、それがシビックプライドを育むことにつながり、大学を卒業した後も“キタヒロに残って仕事を続けたい”という学生さんたちが増えてくれたら、それもまたこの事業の成果になると考えています。なお、2023年9月からは、高齢者の方を含む一般市民の方にもオーラリングの配布をスタートする予定です」
いずれ北広島市を世界に誇れるテクノロジーを活用した健康なまちづくりのモデルシティにしたい
さて、ここで気になるのは、どのような基準を持って「世界一健康なまち」の目標を達成したとするのか?という点だが、同事業では北広島と縁が深いフィンランドのウエルネスライフをひとつの基準に掲げている。
「フィンランドは世界幸福度ランキングで6年連続1位を獲得していて、世界一幸福な国としてお馴染みです。そのフィンランドの国民の平均睡眠時間は7時間半、平均歩数は7500歩だと言われています。一方、北広島市民の平均睡眠は6時間半、平均歩数は6500歩ですから、私たちの事業で掲げている“1000+1Movement”の数字的な根拠はここにあります。
今までより1000歩多く歩き、今までより1時間多く眠れば、世界一幸福な国フィンランドの平均値を超えることになる──これを達成できたら、北広島は“世界一幸せで健康なまち”になっているはずだ、と(笑)
今後も北広島市と一緒に、世界がまだ見たことのないようなメンタルヘルス事業を展開し、北広島を『世界に誇れるテクノロジーを活用した健康なまちづくりのモデルシティ』にしていきたい…採択していただいた以上、北広島市にしっかり恩返しをしていくつもりです」
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金原さん率いる株式会社Ambiには、日本はもちろん、アメリカ、オーストラリア、コロンビア、バングラデシュ出身のIT技術者や医師など多国籍の専門家が在籍。金原さんの壮大な夢の達成も、あながち遠くはないのかもしれない。
兎にも角にも、北広島市の「世界一健康なまちづくりー1000+1 Movement事業」はまだスタートしたばかり。1年後に成果を測定した際に“世界一の目標”にどれぐらい近づいているのか?北広島市民が取り組む1000+1Movementの広がりに期待したい。
■取材協力/株式会社Ambi
https://ambi.jp/
■タワーイレブンホテル(株式会社SQUEEZE)
https://www.hkdballpark.com/hotel/12/
■北広島市地域活性化政策補助事業
世界一健康なまちづくりー1000+1 Movement事業 プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000111488.html
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