新しい交通手段で拠点連携のまちづくり

リニア中央新幹線駅の開業予定などで名古屋のまちが変化のときを迎えていることは、これまでもお伝えしてきた。進行中のプロジェクトから、今回は「新たな路面公共交通システム」の導入について取り上げたい。名古屋市が発表した、2019(平成31)年1月策定の「新たな路面公共交通システムの実現をめざして」と、2023(令和5)年3月策定の「名古屋交通計画2030」よりまとめる。

そのシステムは、「技術の先進性による快適な乗り心地やスムーズな乗降、洗練されたデザインなどのスマート(Smart)さを備え、路面(Roadway)を走ることでまちの回遊性やにぎわいを生み出す、今までにない新しい移動手段(Transit)」ということから、「SRT」と称される。

SRTは、陸の玄関口となる名古屋駅、名古屋駅と並ぶ繁華街の栄地区、そして観光のシンボルである名古屋城、サブカルチャーの聖地として若者の人気を集めている大須地区を結び、回遊性を高めることを目指す。

名古屋駅地区、栄駅地区、名古屋城地区、大須地区を結ぶSRTのイメージ(名古屋市発行「新たな路面公共交通システムの実現をめざして」より)名古屋駅地区、栄駅地区、名古屋城地区、大須地区を結ぶSRTのイメージ(名古屋市発行「新たな路面公共交通システムの実現をめざして」より)

最先端モビリティ都市として、ストレスのない移動を実現へ

愛知県は“車社会”といわれる。整備された自動車中心の道路空間は、便利な一方で、まちからまちへの人の流れやにぎわいを分断してしまうという面がある。

もちろん、電車やバスの公共交通機関はあるのだが、名古屋駅から栄を結ぶ地下鉄は常に混雑していて、そのほかの地区に行くには乗り換えが必要になる。路線バス利用も初めて訪れたときには、乗り場や行き先確認など十分な下調べがいるのが現状だ。

多くの観光客、またこれから高齢化社会がより進むなかで、地元の人々のためにも、ストレスなく利用できる移動手段があればという期待が高まる。

名古屋では豊かな道路空間を生かして道路中央部に専用レーンや停留所を設置した市独自のバス交通「基幹バス」が2路線導入されているほか、高架専用区間を走る「名古屋ガイドウェイバス(ゆとりーとライン)」、地下鉄環状運転(地下鉄名城線)、磁気浮上式鉄道の「Linimo(リニモ)」がある。いずれも導入時は全国初の取組みで、モビリティ都市としての一面を持つ。

そんななかで、リニア開業による波及を確実に広げて活性化するためにも、時代に合った新しい交通手段が検討されているのである。

名古屋市の基幹バス。一路線では平日朝夕の渋滞しやすい時間帯にバス専用、その他の時間帯ともう1路線は優先とし、定時運行できるように工夫している名古屋市の基幹バス。一路線では平日朝夕の渋滞しやすい時間帯にバス専用、その他の時間帯ともう1路線は優先とし、定時運行できるように工夫している

誰にでも優しい、快適性と環境に考慮した車両を開発予定

では、具体的にどのようなことが考えられているのか。まずは、新しく開発予定という車両から見ていこう。

名古屋市が新たに開発するSRT車両のイメージ図(画像提供:名古屋市)名古屋市が新たに開発するSRT車両のイメージ図(画像提供:名古屋市)

上記のイメージ図は、デザイン・仕様がこうなるというものではなく、SRTのコンセプトから、どのような機能が必要になるのかを表したものだ。

車内空間は、車いすやベビーカーの使用も含めて誰もが快適に過ごせるように、フラットでゆとりのあるものに。座席は、空間確保にもなる折りたたみ式のものも設置する一方、立ち乗り用の背もたれもあるといいのではと考えられている。景色を楽しめる大きな窓、運行状況やまちの情報を提供する案内システムの備えも。

スムーズな乗降のために、乗降口付近には広いたまり空間を設け、停車時に車両と乗降・待合空間との隙間をなくすことや、広い扉にすることが組み込まれている。

それらを“乗りたくなる”デザインの車体に搭載しつつ、車両そのものは名古屋市が取り組んでいる「低炭素で快適な都市なごや」の実現もあり、走行時にCO2を排出しない環境技術を採用するという。

誰にでも分かりやすく、利用しやすい、そして環境にも優しいというSDGsの観点が大切にされている。

名古屋市が新たに開発するSRT車両のイメージ図(画像提供:名古屋市)SRTは、車両の連節、あるいは単体や隊列走行も検討中(画像提供:名古屋市)

走行空間と乗降・待合空間は?

SRTが走るのは、既存の道路となる。まちの美観に配慮しつつ、レーンの着色や路面標示(ピクトグラム)でルートの存在感を高めるとしている。また、渋滞などによる運行の遅延の低減対策として、歩道側車線の専用レーン化や公共交通の走行を優先させる仕組みを検討していく。

2段落目でご紹介した名古屋市の基幹バスレーンの色づけと似たイメージだ。走行レーンは、他の路線バスと共有するだけでなく、タクシーの走行、自転車の車道走行との調整も考えていくとしている。

SRTの走行空間のイメージ(画像提供:名古屋市)SRTの走行空間のイメージ(画像提供:名古屋市)

一般的なバス停に当たる乗降・待合空間については、バリアフリーな環境を整えるとともに、まちの回遊拠点としての機能を持たせる。

乗降・待合空間には雨風や日差しを防げる上屋と、ベンチも設置し、快適に乗車を待てるように。そして、まちのアイコンともなるデザイン性で、歩道の休憩施設や沿道の建物と連携して、憩いやにぎわいの空間になるようにする。そしてデジタル案内板を設置し、無料Wi-Fi機能を備える予定もあり、旅行者にとってうれしい情報収集のためのスポットにもなる。

SRTの走行空間のイメージ(画像提供:名古屋市)SRTの乗降・待合空間のイメージ(画像提供:名古屋市)

2022年9月に社会実験を実施、市民から良好な反応

SRT導入に向け、2022年9月3日と4日に社会実験が行われた。名古屋駅と栄間で連節バス(車体が2つつなげられたもの)を走行させ、2日間で延べ600人の一般モニターが乗車した。

SRTでは、輸送力がアップする連節のスタイル、または単車車両による隊列走行を検討中だ。今回は隣の岐阜県で実際に使われている岐阜乗合自動車の連節バスを借用した。体験乗車アンケートでは、普通のバスと比べて、見た目の目立ち具合、楽しさ、車内のゆとりという3つの質問で、「そう思う」から「そう思わない」までの5段階のうち「そう思う」が最も多い結果に。おおむね良好な評価を得た。自由回答では、「街のアイデンティティやシンボルとして活躍してほしい」という声がある一方、「SRTの導入による交通渋滞が心配、また定時制が確保できるか」と懸念する意見も上がった。

連節バスを見かけた沿道の歩行者にもアンケートを実施。「乗ってみたい」「使ってみようと思う」という声が多く、期待の高さがうかがえた。

SRTの社会実験で名古屋駅前を走る様子(画像提供:名古屋市)SRTの社会実験で名古屋駅前を走る様子(画像提供:名古屋市)
SRTの社会実験で名古屋駅前を走る様子(画像提供:名古屋市)SRTの社会実験アンケートまとめ(名古屋市ホームページより)

実現に向け、トータルデザイン懇談会がスタート

SRT社会実験で名古屋・栄地区を走る車両(画像提供:名古屋市)SRT社会実験で名古屋・栄地区を走る車両(画像提供:名古屋市)

リニア開業は当初の予定から遅れる見込みという報道もされているが、名古屋では2026年に愛知県との共催でアジア最大のスポーツの祭典が開かれる計画がある。そのときの来訪者を見据えて、実現を目指していくという。

2023年4月には「SRTトータルデザイン懇談会」がスタートした。2年かけて、SRTの車両や乗降・待合空間のデザインをより魅力的なものにするための案を検討するというもので、着実に進んでいる。

次世代交通は、日本含めて世界各地で導入が進んだり、検討されたりしている。線路を走りつつ騒音や振動が少ない次世代型路面電車システム・LRT(Light Rail Transit)はヨーロッパ、オーストラリアなどのほか、日本では富山市などで運行している。東京ではバス高速輸送システム・BRT(Bus Rapid Transit)のプレ運行がスタートしている。

いずれも輸送力向上と利便性を兼ね合わせたものだ。これまでもモビリティ都市としてさまざまな取組みを行ってきた名古屋市が、まちづくりを含めて考える新たなシステムに期待したい。

参照:名古屋市「新たな路面公共交通システム『SRT』の導入に向けて」
   https://www.city.nagoya.jp/jutakutoshi/page/0000089453.html

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