岡崎市の乙川で進む水辺の利活用

殿橋から見る岡崎城(写真右側)殿橋から見る岡崎城(写真右側)

徳川家康の生誕地として、2023年は大河ドラマの放送もあり、さらなる注目を集める愛知県岡崎市。ここでは中心部を流れる一級河川、乙川(おとがわ)の豊かな水辺空間を活かした“かわまちづくり”が行われており、筆者は2018年に取材させてもらった(愛知県岡崎市、乙川で進行中の「かわまちづくり」。公民連携で目指す未来とは?)。

公民連携に重きを置く取組みは、着実につながっており、当サイトでは名鉄・東岡崎駅の再開発についても紹介している(愛知県岡崎市の玄関口、名鉄・東岡崎駅の北口と南口を一体再開発。コンセプトは「ジャズ」)。

そんななか、東岡崎駅から岡崎城へと向かうルートの途中にある、乙川にかかる殿橋(とのばし)のたもとで、2023年3月25日から5月28日までの期間限定でポップアップショップ「殿橋テラス -River Port Village-」がオープンしていると聞き、取材に伺った。

殿橋から見る岡崎城(写真右側)東岡崎駅から街中を結ぶ“街なかへのお迎え空間”として、殿橋の東側に造られた歩行者のための人道橋。2018年の取材時は工事中だったが、2020年3月22日に開通。乙川の上流に位置する岡崎・額田(ぬかた)産のヒノキで装飾されたこの橋は、「桜城橋(さくらのしろばし)」と名付けられた。“橋上公園”として、イベント開催の場ともなっている

“母なる川”に対して自分たちでできることを

かわまちづくりに関しては、過去の記事をご参照いただくとして、殿橋の橋詰は社会実験の場として活用されてきた。その活動を経てできた“殿橋テラス”で今回のポップアップショップが開かれている。

その殿橋テラスについて紹介しておくと、実はかなり革新的な場所なのである。橋のたもとなのだが、河川敷のほうにせり出す形でテラスが作られている。河川区域内にあたり、現行の河川法では構造物を常設することは基本的に認められていないが、市の担当者などが奔走して許可を得ることができ、オープンカフェを開く社会実験を実施。実験終了後、その成功体験から常設のテラスが誕生した。

ポップアップショップを運営するのは、市民団体のONE RIVER。団体の事務局長を務める岩ヶ谷充さんは、かわまちづくりの一環である2016年度から2020年度まで行われた河川活用プロジェクトの社会実験に、以前所属していたNPOで2017年から携わっていた。

河川敷から見た殿橋テラス。かわまちづくりの始動にあたり、“水都”といわれる大阪市で水辺のプロジェクトを多数手がけていた有限会社ハートビートプランの代表・泉英明氏を勉強会に招いた。殿橋の橋詰を訪れた泉氏から、川だけでなく岡崎城も見える景観のよい場所を活かし、かわまちづくりの拠点を作るといいのではと提案を受けたのが殿橋テラスのはじまり。社会実験のときは単管足場を組んだデッキスペースのような仮設だったが、2021年にコンクリート製のしっかりとした空間に再整備された河川敷から見た殿橋テラス。かわまちづくりの始動にあたり、“水都”といわれる大阪市で水辺のプロジェクトを多数手がけていた有限会社ハートビートプランの代表・泉英明氏を勉強会に招いた。殿橋の橋詰を訪れた泉氏から、川だけでなく岡崎城も見える景観のよい場所を活かし、かわまちづくりの拠点を作るといいのではと提案を受けたのが殿橋テラスのはじまり。社会実験のときは単管足場を組んだデッキスペースのような仮設だったが、2021年にコンクリート製のしっかりとした空間に再整備された

社会実験は、ある程度の成果を得ることができ2021年3月に終了。そこから乙川の河川緑地を対象に指定管理者制度を導入し、岡崎市と隣の豊田市の会社2社がJVとなって日常の清掃などを含む再活性化を担うことに。

そうした一方で、岩ヶ谷さんにある思いが浮かんだ。「岡崎市民の半分くらいの方が乙川から生活水として恩恵を受けており、そういった点で“母なる川”といえます。また、当たり前のことですが乙川には人間以外にも魚や鳥、植物などさまざまな生き物が生息しています。川を部分ではなく流域という視点で捉えたとき、下流部である、まちなかの一部のみが活性化しているだけでいいのかと社会実験を進めるなかで思うようになりました。乙川の源流部の額田地域には、豊富な自然資源がたくさんある一方、少子高齢化が進み、多くの社会問題を抱えています。一部の場所で経済や賑わいを生み出す取組みとは別に、プレイヤーとして流域全体に対してできることがあるのではないかと考え、社会実験を一緒に進めてきた仲間たちとともにONE RIVERという団体を設立。2021年以降もかわまちづくりにプレイヤーとして参画することにしました」

その取組みの一つが、「殿橋テラス-River Port Village-」だ。

河川敷から見た殿橋テラス。かわまちづくりの始動にあたり、“水都”といわれる大阪市で水辺のプロジェクトを多数手がけていた有限会社ハートビートプランの代表・泉英明氏を勉強会に招いた。殿橋の橋詰を訪れた泉氏から、川だけでなく岡崎城も見える景観のよい場所を活かし、かわまちづくりの拠点を作るといいのではと提案を受けたのが殿橋テラスのはじまり。社会実験のときは単管足場を組んだデッキスペースのような仮設だったが、2021年にコンクリート製のしっかりとした空間に再整備された殿橋の橋詰に作られた常設テラスにオープンした「殿橋テラス-River Port Village-」。このあたりの乙川の堤防と河川敷、そして岡崎城は桜の名所として親しまれている

「川とまち、まちと森、人と人がつながる拠点」

「殿橋テラス-River Port Village-」は、2022年に続いて2年目となる。建物が設置してあるデッキ部分は常設スペースではあるものの、周辺エリアで大型の再開発が予定されていることや社会情勢などから、現状で常に何かが企画されているわけではない。

そんななかで2022年に市が桜まつりを開催する10日間、スペースを有効活用する事業者を募った。岩ヶ谷さんたちは「社会実験のときから関わっていた経緯もあり、この場所にどういう機能があったらいいのか、どういう場所になったらいいのかということは、ずっと考え続けてきた」こともあり手を挙げ、選定された。その際の取組みが好評価を得たこと、さらに岡崎を舞台にしたドラマの影響もあって例年以上の来街者が見込まれる2023年もまた事業者として実施することになった。

2023年は、前年より長く、約2ヶ月間。桜まつり開催期間と重なる3月25日~4月4日と、GW期間の4月29日~5月7日はコア期間として毎日営業、それ以外は金・土・日曜日のみ、朝10時から夜8時まで営業する。

「River Port Villageは、”川とまち、まちと森、人と人がつながる拠点”を大コンセプトに掲げています。桜まつりに来られた方が東岡崎駅から岡崎城へと向かうとき、桜並木の入り口にもなるこの場所は、飲食など商売をするには一等地です。ただ、僕らは物を売って消費をしていくだけの場所にはしたくありませんでした。ここが川の案内所のように、まちを訪れる方たちを迎え入れて、乙川という川そのものや、そこでの活動を知っていただきたい。さらにはその後に、その活動に参加したりするなど、いろいろな川やまちへの”関わりしろ”を提示できるようになりたいと思っています。僕らはこの場所をONE RIVERの“リバーベース”(川の駅)とも言っています」と岩ヶ谷さん。

テラスの中央にONE RIVERの拠点を構え、団体の取組みの紹介や河川敷でのアウトドアヨガ体験をはじめとしたアクティビティ、まちを巡るのに活用できるレンタサイクルの受付などをするほか、エコバッグやステッカーなどのONE RIVERオフィシャルグッズを販売。そして事業収入の一環として、西側に日替わりでキッチンカーを招き、東側の橋詰に近いところには社会実験時代からの“仲間”であるハンバーガーなどのテイクアウトができる「Parlor Newport Beach」に出店してもらっている。

River Port Villageの建物は、ONE RIVERのメンバーで自ら作り上げた(写真提供:ONE RIVER)River Port Villageの建物は、ONE RIVERのメンバーで自ら作り上げた(写真提供:ONE RIVER)
River Port Villageの建物は、ONE RIVERのメンバーで自ら作り上げた(写真提供:ONE RIVER)完成へと工事が進むRiver Port Village。期間終了後は解体する(写真提供:ONE RIVER)

川の使い方の新たな可能性を見いだす

取材に伺ったのは、第1弾のコア期間の最終日。周辺の桜は満開の時期を過ぎ、葉桜へと移行していたが、桜まつり開催中もあって花見に訪れた人々が行き交っていた。

そんな人が集まりやすい期間を終え、アクティビティなど引き続き開催する一方で、岩ヶ谷さんたちは思いをもう一段深める。

「桜まつりの期間は、それを目当てにした人が多くいらっしゃいます。River Port Villageでは、そういう方々に乙川のよさを知っていただくことを主にやりましたけれども、これからの期間は、ここが目的になるような場所にしなければいけないと思っています。もう少し川の魅力を深めていくようなコンテンツを用意して、次のコア期間(GW期間)では提案していく予定です」

その提案の一つが、河川敷に設置したテント。アウトドアメーカーの子会社であり、市内に本社を構え組織や地域活性化のための事業を行う株式会社スノーピークビジネスソリューションズと連携し、桜まつり期間中はお花見の休憩スペースとして貸し出していた。

「平日、平時の川の使い方の可能性を開く」ことを念頭に置き、GWのコア期間を除く金曜日に、働く場としてテントを開放する予定だという。「打ち合わせなど、ちょっとした仕事ができるような環境をアウトドアで」とは岩ヶ谷さんの言葉だが、実際に取材にテントを活用させていただき、昨今の多様なワークスタイルを叶える場所の一つとして需要があるのではと思った。川のすぐそばで、心地よい音、風に包まれた空間は、リラックスと集中力をもたらしてくれる雰囲気だった。

「働いている風景がこの川の一つの景色となって、それが岡崎というまちの魅力になるようにしていきたいです」

ほか、GW期間中は、家族連れ、子どもたちに向け、“川の学校”の企画も。「有識者を迎え、勉強を交えたシンポジウムのようなものを開催していきながら、ここの魅力、殿橋テラスの可能性みたいなものをみんなで深め合っていくことを考えています」とのこと。詳細は、ONE RIVERのホームページやSNSでぜひ確認を。

河川敷に設置されたテント。桜まつり開催中は、休憩スポットとして貸し出していたが、新たな活用方法を探ることに河川敷に設置されたテント。桜まつり開催中は、休憩スポットとして貸し出していたが、新たな活用方法を探ることに
河川敷に設置されたテント。桜まつり開催中は、休憩スポットとして貸し出していたが、新たな活用方法を探ることに「殿橋テラス-River Port Village-」が開かれている殿橋は、1927(昭和2)年竣工。御影石造りで、歴史ある佇まいとともに建造物としての美も感じられる

川のある暮らしの魅力をさまざまな方法で伝える

春のイベント「川びらき」の様子(写真提供:ONE RIVER)春のイベント「川びらき」の様子(写真提供:ONE RIVER)

ONE RIVERの他の主な活動もお伝えしたい。ONE RIVERは、「乙川の豊かさ、川のある暮らしを、一人でも多くの市民の方に実感してもらうことをミッションとしています」と岩ヶ谷さん。

まず啓発的なイベントとして、春に「川びらき」、夏に「川あそび」、秋に「川ぐらし」と銘打って開催している。2023年の「川びらき」は、「殿橋テラス-River Port Village-」の開催と重なる5月3日に行い、体を使って楽しむ体験やアクティビティ、ワークショップなどを用意。「殿橋テラス-River Port Village-」と河川敷という、川の上下をつなぐ。「川あそび」では、SUPやカヌーなどのアクティビティに加え、花火の実演も。

春のイベント「川びらき」の様子(写真提供:ONE RIVER)夏のイベント「川あそび」の様子。暑さのなかで川の自然を堪能できる(写真提供:ONE RIVER)
秋のイベント「川ぐらし」では、乙川の上流部へと範囲を広げ、川のある暮らしについて考えるきっかけに(写真提供:ONE RIVER)秋のイベント「川ぐらし」では、乙川の上流部へと範囲を広げ、川のある暮らしについて考えるきっかけに(写真提供:ONE RIVER)

「川ぐらし」では、乙川の上流地域となる額田エリアと連携し、乙川流域を知る企画を行う。

毎月第2土曜日には、「おとがわリバークリーン」と題して、市民に呼びかけながら川辺の清掃を行い、そこから乙川について知り、魅力を発見する場となることを願う。

そして、通年企画として、河川敷での週末キャンプ「Let it Camp」を実施。アクセス便利な“まちなかキャンプ”として、岡崎の自然やまちの魅力を発信できる機会となりつつ、ONE RIVERという団体としての財源確保も担う。

春のイベント「川びらき」の様子(写真提供:ONE RIVER)清掃活動「おとがわリバークリーン」では、環境保全意識を高め、川の豊かさを実感(写真提供:ONE RIVER)

100年先の未来へ

岡崎市の市民団体ONE RIVERの岩ヶ谷充さん。静岡県出身。大学生のときから約10年、岡崎で暮らし、いったん仕事の関係で離れていたが、かわまちづくりのプロジェクトに参加したいと2017年に移住した岡崎市の市民団体ONE RIVERの岩ヶ谷充さん。静岡県出身。大学生のときから約10年、岡崎で暮らし、いったん仕事の関係で離れていたが、かわまちづくりのプロジェクトに参加したいと2017年に移住した

岩ヶ谷さんたちONE RIVERの活動は、「100年先の未来の日常を描く」ということを見据えている。

「100年先というのは、今の僕たちは絶対に立ち会えない未来なので、必然的に世代を継いでいかなければなりません。僕たちの子ども、さらにその子どもの世代まで、この川を大切に思うこと、川がある豊かな暮らしを実感できる社会をちゃんと作っていくことが大事だと思っています。それを最大化していくことで、岡崎というまちの魅力の一つを作っていけるんじゃないかと。この場所だからできること、このまちだからできることを意識して、世代を継いで愛される川を実現していきたい。今もそんな思いの方が増えてきているなと実感しますが、これからもそうなるように活動していきたいです」

川のある風景、そして活用が、まちを潤していく。川がもたらしてくれる“水”は、私たちの暮らしに必要不可欠なものだからこそ、大切にもしなければならない。ONE RIVERの取組みが、100年先の未来を輝くものにしてくれることを切に願う。

取材協力:ONE RIVER https://one-river.jp/
     「川びらき」特設サイト https://kawabiraki2023.studio.site/

岡崎市の市民団体ONE RIVERの岩ヶ谷充さん。静岡県出身。大学生のときから約10年、岡崎で暮らし、いったん仕事の関係で離れていたが、かわまちづくりのプロジェクトに参加したいと2017年に移住した「殿橋テラス-River Port Village-」
ホームズ君

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