2023年秋に完成する新施設・広場「おにクル」
「茨木市文化・子育て複合施設 おにクル」は2024グッドデザイン・ベスト100に選ばれました。
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「演劇見てから、子どもの検診受けてくるわ」「広場行くんやったらついでに図書館に本を返しといてや」。そんなやりとりが聞こえてきそうな、新しい複合施設「茨木市文化・子育て複合施設 おにクル」(以降、おにクル)が、茨木市に令和5年秋に誕生する。図書館、こども支援センター、ホール、プラネタリウムや市民活動センターなどが集まった7階建ての施設の目の前には、芝生広場が広がる。人とまちとのつながりが緩やかに広がる、“立体的な公園”のような空間が設計のコンセプトだ。
「おにクル」が位置するのは、茨木市の中心市街地。JR茨木駅と阪急茨木市駅を東西につなぐ道路(約1,200m)のちょうど真ん中辺りで、市役所をはじめとする行政施設が集まっているだけでなく、中央公園や南北に伸びる元茨木川緑地など、豊かな自然が醸成されている場所だ。
「茨木市では『2コア1パーク(※)』という都市構造をグランドデザインに掲げています。中心市街地の活性化を目指すなかで、シンボル的な拠点となるのが『おにクル』。両駅から徒歩で10分程の距離なので、いつでも気軽に立ち寄れる市民の暮らしの一部になればと考えています」と茨木市 企画財政部 市民会館跡地活用推進課 課長・向田明弘氏は話す。
(※)「2コア」とはJR茨木駅周辺と阪急茨木市駅周辺をつなぐ、駅前整備による魅力向上のこと。「1パーク」とは、公共空間の積極的な利活用を推進する公園のことを指す
公共施設を多く生み出してきた、伊東豊雄氏による建築設計
「おにクル」の設計施工に携わるのは、建築家・伊東豊雄氏(伊東豊雄建築設計事務所 代表)だ。伊東氏は、「せんだいメディアテーク」「みんなの森ぎふメディアコスモス」などの公共建築を手がけるだけでなく、「こども建築塾」の塾長として、子どもを対象とした建築の基礎教育にも力を入れている人物だ。
建物の大きな特徴は、そのランドスケープにある。各階の北側にテラスが設けられ、北側に広がる芝生広場と一体となり、広場が建物まで続いていくような空間設計となっている。室内の壁をなるべく減らすことで、室内でも屋外を歩いているような開放的な空間が広がる。そして動線設計には、7階建ての各フロアをつなぎ合わせる“縦の道”がある。図書館のメインは5階・6階だが、それ以外の階に図書館を配架するなどで、フロアごとに機能を明確に区分せず、また大きな吹き抜けで空間を共有することで立体的に横断することができる。
7階建て施設の全貌
ここで建物の構成を詳しく紹介したい。建物は7階建て。1階の北側のメインエントランスには、オープンギャラリー、その奥に多目的ホールがある。多目的ホールは災害時に物資集積拠点としての利用も想定されている。1階にはインフォメーションセンター機能として「まちなかコンシェルジュ」が駐在する。目的に合う場所をアナウンスしてくれる、重要な役割だ。
2階は子育て世代包括支援センター。3階は多目的スタジオスペース。会議室やレンタルスタジオとしても活用でき、4階には約1,200席の大ホールとホワイエがある。
5階と6階は図書館ゾーン。吹き抜け空間にライブラリーが縦に続き、吹き抜けに面した席やテラス席で読書を楽しめる。これはおにクルの特徴的な風景のひとつだろう。7階は市民の交流スペースとして、オープンスペースや屋上広場が広がるほか、市民活動センターやプラネタリウムもこの階にある。会議室や和室なども用意されている。
切れ目のない支援を提供する「子育て支援施設」
2階の子育て世代包括支援センターは、茨木市が力を入れている部分でもある。その背景にあるのは、近年、フィンランドにおいて制度化されている「ネウボラ」が、日本において広く導入する動きが見られていることにある。「ネウボラ」はアドバイスを受ける場所という意味を持つ。茨木市でも、子育て家族が気軽に相談できる人・場所があること、問題の早期発見や支援を可能にすることなどが目標に据えられている。
妊娠から出産・子育てまでの支援や各相談窓口をワンストップで提供する。各種検診を行う診察室があるほか、一時保育室も用意される(中2階)。2階で特徴的なのは、子ども向けの「えほんひろば」と「おはなしのいえ」だ。おにクルの図書館は、約10,000冊の絵本を揃え、子どもたちがさまざまな物語に出会える場所となっている。
「これまで茨木市では、検診や相談窓口などの子育て支援の機能の場所が分散されていました。おにクルの完成を機に、ワンストップで集約されます」と向田氏。
また、子育てにまつわる相談は、相談するまでにハードルがあるもの。この問題を解消するために、おにクルでは、“ついで”の子育て支援を目指している。「相談するなら、市役所に訪れるより、図書館に訪れる方が来やすくないか?と。子どもと遊びにきたついでに立ち寄って、相談できる気軽さで、子育て相談のハードルを下げていきたい。地域の相談拠点とも連携し、親同士で情報交換できるような場も検討しています」と末松氏は話す。
市民、民間、行政が関わり合い、みんなで使い方を考える
もともと、おにクルの企画の発端は市民会館の閉館にある。現在おにクルの建設現場を挟んだ向かい側にある「IBALAB(イバラボ)@広場」には、耐震性などを理由に2015年12月に閉館した元市民会館があった。茨木市では、この「IBALAB@広場」やおにクル建設現場など、元市民会館周辺のエリア一体を「市民会館跡地エリア」として、2019年から整備を行ってきた。
市民会館跡地エリアの構想については、市民との対話が重ねられてきた。2016年に実施した「市民会館100人会議」は、無作為に抽出した年代別の市民と市長が直接意見交換を行った。その後も社会実験「IBALAB企画」として、広場を使ったワークショップ、フリーマーケットや夜市などが続けられ、2020年には暫定広場として「IBALAB@広場」がオープンした。現在でも社会実験が重ねられており、市民と行政が対話する場が生まれている。
「最初から全部完成させてしまわないことと、『つくる⇔つかう』をぐるぐる繰り返すことが大事。100%作りあげる前に、需要があるかどうかを少し試してみる。そうすると次のステップで、そのときの反省が反映されていきます。最初から行政だけで考えて作ってしまうより、みんなで考える。この周期を茨木市では大切にしています」と向井氏は話す。
市民の意見は幅広く、行政単独で考えるだけでは越えられなかった壁も、越えられることもあるそうだ。例えば、おにクルの手前に広がる広場のイメージは、市民からの意見として出てきたものだという。
「これこそ行政側だけでは生み出せないアイデア。実際に使う人の意見が一番大切です。施設を使用する市民に、構想段階から入ってもらい、多く活用される施設にしていきたい」と向田氏は話す。
図書館、プラネタリウムや約1,200席の大ホールや多目的ホールと、子育て支援施設が一体化する事例は、他県にもあまりない。そして今後も、「IBALAB@広場」を活用して、芝生広場の使い方やアイデアなども、市民の中からどんどん生まれていくだろう。
親子で訪れて、子どもが絵本を読んで遊び、図書館で子育て相談ができる、広場やテラスでは市民が集まれるイベントが行われている……、機能のつまった便利な施設としてだけではなく、市民の居場所として活用される新しい風景が見られそうだ。















