物流の2024年問題とは

物流の2024年問題とは? 経済活動や市民の暮らしに欠かせない社会インフラである物流だが、今後の持続可能性が懸念されている物流の2024年問題とは? 経済活動や市民の暮らしに欠かせない社会インフラである物流だが、今後の持続可能性が懸念されている

近年は毎年のように「○○年問題」というものが発生しているが、物流業界では「2024年問題」が懸念されている。

物流の2024年問題とは、働き方改革関連法が2024年4月から運送業にも適用されることで、物流業界に人手不足やコスト増が生じるのではないかという問題である。2024年4月から行われる規制は、トラックドライバーの時間外労働に休日を除く年960時間の上限が設けられるという点だ。

時間外労働の上限規制が大きな影響を与える理由は、物流業界の厳しい就労実態が背景にある。物流業界では、ドライバーの年間労働時間が全産業平均に比べて2割程度高くなっており、長時間労働が常態化している。労災請求件数と支給決定件数がともに最も多い業種となっており、労働環境を改善する必要性が高い業界といえるのだ。

また、物流業界は労働時間が長いわりにドライバーの年収が全産業平均に比して5~10%低い状況となっており、トラックドライバーが不足している傾向にある。トラックドライバーの人材確保は容易ではなく、全産業平均よりも若年層や高齢層の割合が低いのも特徴だ。

さらに、トラック運送業の中小企業率は99.9%とされており、トラックドライバーを雇用している企業は規模の小さい会社が多くなっている。一般的に中小企業は大企業と比べると人材確保がしにくい傾向があり、残業時間の上限によってトラックドライバーの収入が抑えられるようなことになると、さらに人材を確保しにくくなることが懸念される。運送費の約4割は人件費とされており、2024年問題によってドライバー不足が生じれば人件費が高騰し、運送費も上昇していくことも予想されている。

物流の2024年問題とは? 経済活動や市民の暮らしに欠かせない社会インフラである物流だが、今後の持続可能性が懸念されている出典:我が国の物流を取り巻く現状と取組状況 2022年9月2日 経済産業省・国土交通省・農林水産省
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001514680.pdf
・1.(2) 「物流の2024年問題」:企業の認知度について

一方で、2024年問題はそれほど広く認識はされていないことも問題となっている。2022年9月2日に経済産業省・国土交通省・農林水産省が公表している「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」によると、2024年問題の認知度は産業全体で5割程度となっている。意外にも、当事者である「運送業、郵便業」においても認知度が6割程度しかない。

https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001514680.pdf

物流業界を取り巻く現状

インターネット通販市場が拡大していることにより、近年は物流業界にも大きな変化が生じている。20年前と比べると、1件当たりの貨物量は半減しているが、物流件数は倍増している状況にある。これは、個人のインターネット通販の利用率が高まったことで、物流の小口多頻度化が急激に進行していることを意味している。

物流の小口多頻度化により、近年のドライバー需要は高まっており、2028年度には約117.5万人のドライバーが必要とされている。一方で、日本全体では人口減少によって就労人口が減っており、将来人口から予測すると2028年度に供給できるドライバーは約89.6万人と試算されている。

そのため、人口の需給バランスだけを見ても、2028年度には約27.9万人のドライバーが不足すると試算されているのだ。2024年問題であるか否かに関わらず、近い将来にはドライバー不足が生じることが懸念されているのが現状ということにある。

出典:我が国の物流を取り巻く現状と取組状況 2022年9月2日 経済産業省・国土交通省・農林水産省<br>
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001514680.pdf<br>
・1.(1) 物流の現状:トラック輸送の担い手数の推移出典:我が国の物流を取り巻く現状と取組状況 2022年9月2日 経済産業省・国土交通省・農林水産省
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001514680.pdf
・1.(1) 物流の現状:トラック輸送の担い手数の推移

持続可能な物流の実現に向けた検討会の発足

物流業界はそう遠くない将来にドライバーの需給バランスは崩れると予測されており、このまま行けば持続不可能な状態となってしまう。

そこで、国土交通省では2022年9月2日より「持続可能な物流の実現に向けた検討会」(以下、検討会)という組織を立ち上げ、物流を持続可能なものとしていくための方策を検討し始めた。検討会では、2024年問題だけでなく、カーボンニュートラルへの対応やロシアによるウクライナへの侵攻を受けた物価高の影響等の諸課題に対する対応策も検討している。

検討会のメンバーは、運送会社やコンサルティング会社、大学の教授等から組織されている。検討会は2022年9月から毎月開始され、第4回(2022年12月)と第5回(2023年1月)で中間案が取りまとめられる。2023年1月以降は、中間案の取りまとめを踏まえて引き続き議論がなされ、2023年中には最終取りまとめ案が提出される予定となっている。

国土交通省、農林水産省、経済産業省の3省は連携し、物流を持続可能なものとするべく、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を設置している国土交通省、農林水産省、経済産業省の3省は連携し、物流を持続可能なものとするべく、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を設置している

検討会で進められている内容

検討会では、主に以下の様な内容が議論されている。

・労働時間規制による物流への影響(2024年問題)
・物流の危機的状況に対する消費者や荷主企業の理解が不十分
・物流プロセスの課題(非効率な商習慣、構造是正、取引の適正化、着荷主の協力の重要性)
・物流標準化・効率化(省力化・省エネ化)の推進に向けた環境整備

2024年問題に関しては、国土交通省の資料によると新型コロナウイルス感染拡大前の2019年比で最大14.2%の輸送能力不足が生じると試算されている。営業用トラックの輸送トン数に換算すると4.0億トンが不足するという計算である。

消費者や荷主企業の理解が不十分な点に関しては、物流危機に問題意識を持っている人の割合は全体の32.4%であり、低い状況に留まっている。消費者の問題意識を高めるには、単純な文章提示ではなく伝え方の工夫が必要であることも議論されている。

物流プロセスの課題に関しては、下請け構造による非効率な業務の発生や契約関係にない着荷主(受取人)の協力の必要性も議論されている。着荷主の協力とは、具体的には再配達を減らすための協力が挙げられる。配達会社は着荷主とは契約関係にないにもかかわらず、着荷主からの指示によって再配達等の付帯業務を行うことを余儀なくされている。

物流標準化に関しては、標準化が進んでいないことによりさまざまな規格のパレットが存在し、効率を落としていること等が議論されている。その他、脱炭素化への社会的要請にもどう対応していくべきかについても検討がなされている状況だ。

2024年問題、カーボンニュートラルへの対応なども踏まえ、検討会では議論が進められている2024年問題、カーボンニュートラルへの対応なども踏まえ、検討会では議論が進められている

期待される消費者の再配達削減への協力

物流の危機的状況を回避するには、物流業界だけでなく一般消費者の意識改革も求められている。検討会の中でも繰り返し議論されているのが、「着荷主の協力の重要性」だ。具体的には着荷主が確実に荷物を受け取り、再配達を削減できれば物流の効率性は上がることになる。

国土交通省の資料によると再配達の発生率は、新型コロナウイルス感染拡大前は全体の15~16%程度あったとされている。新型コロナウイルス以降は在宅勤務が増えたことで、再配達率は11~12%程度まで縮小している。着荷主が家にいる時間が増えるだけでも再配達率は約5%程度も削減できるということである。

着荷主には契約や法律の縛りがなくても、「再配達を減らす」という意識改革と協力姿勢が重要になってくる。

出典:国土交通省令和4年10月の宅配便の再配達率は約11.8%
<br>https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000645.html出典:国土交通省令和4年10月の宅配便の再配達率は約11.8%
https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000645.html

再配達削減に向けた取組み

国土交通省では、再配達の削減に向け「多様なライフスタイルをささえる持続可能な宅配の実現に向けた手引き」を示している。
https://www.mlit.go.jp/common/001476596.pdf

手引書によれば、再配達の削減に向け以下の様な受け取り方法が示されている。

・宅配ボックスの設置
・宅配バッグの設置
・コンビニ等の自宅以外での受け取り
・指定場所への置き配

一戸建ての場合、玄関前に固定型の宅配ボックスを置くことで、再配達の削減効果はかなりある。マンションのような共同住宅も、宅配ボックスは有効であるが、宅配ボックスの設置率は築20年以上の物件は設置率が低くなっている。

仮にマンションの宅配ボックスがあっても、荷物の長時間放置や、小型荷物が大型ロッカーに入れられることで他の大型荷物が届けられなくなる等の非効率な点が指摘されている。そこで、IoTを駆使し宅配ロッカーの利用状況をリアルタイムで把握し、空いている宅配ロッカーに荷物を入れるシステムも提示されている。着荷主にはどの宅配ロッカーに荷物が配送されたか通知が届く仕組みになっており、再配達を依頼することなく荷物を確実に受け取ることができる。

また、宅配ボックス以外の手段としては、玄関前に宅配バッグを置くケースや、コンビニ等の自宅以外での受け取る方法、指定場所に荷物を据え置く置き配等が提示されている。

手引書の内容はまだ試験的に導入されているレベルのものも多いが、自分の家でも利用できそうなものがあれば、検討してみるのもいいだろう。

宅配ボックスの活用や、宅配バッグの設置、指定場所への置き配など可能な方法がある場合は検討したい宅配ボックスの活用や、宅配バッグの設置、指定場所への置き配など可能な方法がある場合は検討したい

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