ペ・ヨンジュンとチェ・ジウが巻き起こした「冬ソナ現象」

本連載ではこれまで、“韓流3大建築家ラブストーリー”と勝手に名付けて、映画「建築学概論」「私の頭の中の消しゴム」を取り上げた。残る1本は、その中でも“King of Kings”というべきドラマ「冬のソナタ」だ。

建築や住宅、それを設計する建築家は、映画やテレビドラマの中でどう描かれているのか。元・建築雑誌編集長で画文家の宮沢洋(BUNGA NET編集長)が、「名セリフ」のイラストとともに、共感や現実とのギャップをつづる。

「冬のソナタ」は、2002年に韓国のKBS第2テレビジョンで放送された全20話の連続テレビドラマだ。1話は正味約60分と日本のテレビドラマよりも長い。しかも韓国では、2002年1月14日~3月19日の約2ケ月間に、週に2回放送していたという。韓流ドラマ、恐るべし。

日本ではNHKが2003年にBSで放送して反響を呼び、翌年には総合テレビでも放送した。主演はペ・ヨンジュンとチェ・ジウ。「冬ソナ現象」と呼ばれる大ブームを巻き起こし、世界的な「韓流ブーム」のきっかけとなった作品として知られる。

筆者も「冬ソナ現象」が吹き荒れる2004年ごろに、全20話を見た。建築雑誌の記者をしていたので、ペ・ヨンジュンのカッコよすぎる建築家像が強く印象に残った。今回、この原稿を書くために約20年ぶりに見返してみた。すると、印象に残っていた建築家像は記憶の塗り替えで、実際とかなり違うことが分かった。それでも、“King of Kings”の座は揺るがない。それはどういうことか。

死んだはずの初恋の人が発注者兼建築家

この連載では、本編をこれから見る人のために、できるだけオチを書かずに話を展開するようにしてきた。しかし、今回はオチを書かないと、建築家像を分析できないので、ネタバレ原稿となることをご容赦いただきたい。

こんな始まりだ。韓国の春川(チュンチョン)に住む高校生のチョン・ユジン(チェ・ジウ)は、キム・サンヒョク(パク・ヨンハ)と幼なじみで、同じ高校に通っている。ある日、謎めいた雰囲気のチュンサン(ペ・ヨンジュン)が転校してくる。ユジンはチュンサンに恋心を抱く。

初雪の日、チュンサンとユジンは湖畔でキスを交わし、大晦日に会う約束をする。しかし、約束の日に、ユジンは雪が降りしきるなかでチュンサンを待ち続けるが、チュンサンは来ない。翌日、「チュンサンは事故で死んだ」と知らされる。

10年後、ユジンはインテリア設計事務所で働き、ラジオ局のプロデューサーとなったサンヒョクと婚約していた。婚約式の日、会場に向かうユジンは街でチュンサンに似た男性を見かけて追いかけ、婚約式は中止になる。チュンサンに似たミニョン(ペ・ヨンジュン)は、ユジンが引き受けたスキー場の改装を依頼した不動産開発会社の理事で、元・建築家だ。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

ミニョン(事故で記憶を失ったチュンサン)と仕事をする中で、ユジンは最初は心の壁をつくりながらも、次第に惹かれていく……という話だ。

ドラマをご覧になった人は、記憶が蘇ってきただろうか。

最終回でようやく「建築家だった」と思い出す

20年ぶりに見返して意外だったことの1つは、チュンサンが「建築家」としてのすごさを発揮するのは、最終回だけだということだ。

社会人なった2人が再会するのは、第3話。チュンサンが実業家(不動産開発会社の理事)であり、元・建築家であるということは、ユジンが勤めるインテリア設計事務所「ポラリス」での同僚たちのやりとりの中で説明される。「理事は美術館も設計したらしい」「建築の賞も受賞している」と。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

この連載の「大豆田とわ子と三人の元夫」の回で書いた大豆田とわ子は、建設会社に設計スタッフとして入社し、経営手腕を認められて社長になったという設定だった。チュンサンは、不動産開発会社でもともと設計スタッフとして活躍していたが、経営に専念するようになったということなのだろう。

しかし、その後、「建築家」としての実力を発揮するシーンはなかなか現れない。前半の舞台となるスキー場の改装でも、デザインの仕事はユジンに任せきりだ。そのうち「元・建築家」というフレーズも忘れそうになる。

突然、そうか建築家だった、と思い出させるのは最終回の序盤だ。

医師から失明の可能性があると言われたチュンサンは、ユジンからもらった“不可能な家”の模型を基に、徹夜で設計図を描く。この模型は、ユジンがインテリアデザイナーとして駆け出しのころに、“建設不可能”と言われた思い出のプロジェクトだった。

ユジンは、自分がかつてデザインした「不可能な家」が実際に建てられていることを雑誌で知る。その案を知っているのは、事務所の仲間とチュンサンだけだった。「不可能な家」の場所を調べて訪れたユジンは、チュンサンと再会。2人は海を照らす夕日の中で抱きしめ合う……。これがエンディングだ。

完全にネタバレで本当に申し訳ない。だが、最終シーンを書かないと、建築家としてのチュンサンを語ることができないのだ。

「不可能な家」に至る伏線がもっと強ければ…

このドラマ、いろいろな点で伏線が弱い。伏線が全くないわけではないのだが、「あれはそういう意味だったのか」という回収感が薄い。

まず、最初からこういうエンディングにするつもりならば、第1話~3話の高校生時代編に、2人がそろって「建築の道」に進みそうなエピソードを入れるべきではないか。見返してみると、ユジンの方は、妹をモデルにしてデッサンを描くシーンがあって、インテリアの道に進んだことが何となく納得できる。しかし、チュンサンの方は、数学の天才であることは語られるが、建築に進む予感が全くない。

「愛する人の家を建てる」というラストシーンにつながる伏線もそう。再会直後、雪の中のこんなシーンだ。

チュンサン(ミニョン):「結婚したらどんな家に住みたい?」
ユジン:「考えたことないです。好きな人ができると、自分の理想の家を描くものでしょう。外観はどうでもいいんです。お互いの心が一番の家だろうから」。

有名なシーンだが、ユジンの答えが、分かったようで分からない要望だ。結果として、ラストシーンの舞台となる「不可能な家」が、どうすごいのか(チュンサンがどこに建築家としての腕を発揮したのか)がよく分からない。冬ソナ大ファンの方には大変申し訳ないが、私には、海辺によくありそうな高級別荘にしか見えない。

「不可能な家」の模型と実際のロケ地が違い過ぎ?

これは一部ファンの間で放送当時から指摘されていたことらしいが、最終話を何度か見返してみると、ユジンがつくった「不可能な家」の模型と、実際の舞台となった海辺の家のデザインがかなり違うことに気づく。コアなファンはこれを「コストオーバーのために建設不可能だったユジンの案をチュンサンが建設可能にした」と肯定的に解釈しているようだ。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

そう言えなくもないが、普通に考えれば、模型のシーンと現実のロケ地が違ったということだろう。夢を現実にするための修正にしては、あまりに形が違い過ぎる。ユジンが「私が過去に設計した家だ」と気づいたのが奇跡とも思えるほどの変化だ。

もし私がこのドラマの監督か脚本家だったら、ラストシーンは絶対に「雪の中に立つ家」にする。それまでのポイントとなるシーンはほぼすべて雪の中だ。何しろ「冬のソナタ」なのだから、それが一貫性というものだろう。

しかし、前述のように韓国では週に2回、1時間のハードな放送。しかも、チュンサンは最終話で死んでしまう予定だったものが、ファンのリクエストでラストが変わったともいわれる。1月14日~3月19日という放送期間を考えると、最終話の撮影では、雪のロケ地が見つからなかったのではないか。それで、やむなく海辺の家に変更した……。どうしてもそんなことを考えてしまう。

しかし、この海辺のラストシーンは、ビジュアルとしては映えた。雪が続くドラマの中で、ある種の開放感があったのかもしれない。日本では、NHK地上波放送の最終話は、夜11時台の放送にもかかわらず関東で20.6%、関西では23.8%の高視聴率を記録した。

「伏線が」とか「一貫性が」とかを超えて、ピュアな2人の愛と美しい映像が視聴者の心をとらえたのである。そして、「愛する人のための家を実現できる建築家ってかっこいい」という強烈な記憶を視聴者に刷り込んだ。男の私ですらそう記憶しているわけだから、いわんや女性ファンをや、だろう。

冬ソナの不完全さが後続たちを刺激した?

ただ、つくり手というものは、「伏線が」とか「一貫性が」とかをどうしても気にするものである。後に制作された映画「建築学概論」(韓国公開は2012年)と「私の頭の中の消しゴム」(韓国公開は2004年)の制作者たちが、「冬のソナタ」を見ていないはずがない。「自分ならもっといいものがつくれる」と思ったのではないか。

「建築学概論」は、「愛する人のための家を実現できる建築家」となるための伏線を全編にびっしりちりばめ、その1つ1つに答えを出していく。「あれはそういうことだったのか」という回収感が心地いい映画だ。

「私の頭の中の消しゴム」は、そういう細やかさよりも、“強い建築家”というキャラクター性を際立たせて物語に躍動感を出した。建築家は、やはり「愛する人のための家」を建てる役割だが、ナイーブで優柔不断なチュンサンとは真逆な人間性だ。

どれも面白い作品で、3本の中で優劣はつけづらい。だが、後のつくり手たちに創作の刺激を与えたという点で、「冬のソナタ」が“King of Kings”であることは揺るがないと私は思うのである。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

■■冬のソナタ
日本ではNHKBSで2003年4月から放送(韓国ではKBS2で2002年1月から放送)全20話、平均約60分
監督:ユン・ソクホ
脚本:キム・ウニ、ユン・ウンギョン
キャスト:ペ・ヨンジュン、チェ・ジウ、パク・ヨンハ、パク・ソルミ
2002年、韓国

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