管理評価の大きなウエイトを占める大規模修繕
国土交通省の2018(平成30)年度マンション総合調査によると、分譲マンションのストック戸数は約665万戸。これに国勢調査による1世帯当たり平均人員をかけると約1,551万人が居住している推計となり、国民の1割強となる。
そのマンションで今注目されているのが、管理。2022年4月には、改正された「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」が施行されるなど、マンションを維持していくために、管理水準を高める取組みが進められている。
一言で管理と言っても、日常の清掃業務からゴミ出しなど行政サービスと住民の橋渡し業務など、さまざまな仕事がある。その中でも重要かつ管理組合の財政面でも大きなウエイトを占めるのが、「大規模修繕」と呼ばれている修繕工事だ。マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値を維持するために行う修繕工事や、必要に応じて建物及び設備の性能向上を図るために行う改修工事のうち、工事内容が大規模、工事費が高額、工事期間が長期間にわたるもの等をいう。
長期修繕計画は、この大規模修繕に備えて、区分所有者から毎月徴収した費用を積み立て、計画的に用意しておくためのもの。前述の法改正によって2022年からスタートした「管理計画認定制度」や「管理適正評価制度」においても、長期修繕計画はマンション管理を評価するうえで重要な役割を担っている。
大規模修繕は、マンション管理における最大の関心事になっているばかりか、マンションの質と資産価値を長期にわたって維持していくために、その成果こそが肝だと言ってもいい。
では大規模修繕とは、何をどう修繕するものなのか。マンションの大規模修繕、長期修繕計画に詳しい株式会社さくら事務所のマンション管理コンサルタントの山本直彌(やまもと なおや)さんに聞いた。
大規模修繕とは、何をどう修繕するもの?
そもそも大規模修繕とは、マンションのどこをどう修繕するものなのか、山本さんに聞いてみた。
「大規模修繕で通常行われている修繕工事は、大きく4つ。外壁や鉄部の塗装、タイル補修、コーキングの打ち換え、共用廊下屋上などの防水関係の補修工事です。ポイントはこれらの工事が足場の設置を必要としていることで、足場の設置には一般的に通常工事費用全体の20~25%もの費用がかかります」(山本さん:以下同)
つまり、費用のかかる足場を設置して行う工事をまとめて行うことで、費用対効果を上げようというのが大規模修繕なのだ。
「しかし、屋上の防水シートの張替えなど、大規模修繕の中にも足場不要の工事があります。これをどう考えるかが、大規模修繕の周期を考える上でのポイントでもあります」(同)
大規模修繕の周期延長は可能か?
国土交通省は、大規模修繕工事に関する「長期修繕計画作成ガイドライン」の中で、大規模修繕の周期を12~15年程度としている。一般的には大規模修繕は12年で1回行うものとして、長期修繕計画が作成されている場合が多い。しかし、12年という数字は目安にすぎず、建築構造物はその環境によって劣化の度合いが異なるのが普通だ。例えば、海に近い立地で塩害が考えられる地域と、雨や日照の標準的な地域では建物の劣化の進行には差が出る。
「使用されている材料の性能による影響も大きいです。シーリング材などは高耐久タイプを使用することにより、修繕周期を延ばすことが可能です」(同)
山本さんによると、マンションで大規模修繕が必要となる周期は、環境や使用されている材料によって異なるため、一律で修繕期間を決めるものではないというのだ。
「もちろん、管理組合の財政の問題も関係してきます。12年周期での大規模修繕では無理が生じるのであれば、延ばす手立てを考えるべきです。例えば、使用する材料の高耐久化を図ることで、従来の12年周期を、16年~18年に長周期化することは可能と考えます。建築後36年の場合、12年周期では大規模修繕を3回実施することになりますが、18年周期に延ばせれば2回になります。平均的には、1住戸当たり100万円から130万円といわれる工事ですから、100戸のマンションではこれで1億円以上の予算が生まれるという話になります」(同)
「10年アフターサービスを前に劣化診断を」
建築工事が完成し、デベロッパーから引き渡しを受けたマンションは、通常、2年目、10年目と無料の検査を受けることができ、そこで見つかった不具合は、売主の責任で修繕される。
大規模修繕の周期を延長するには、この10年目のアフターサービスが重要だと山本さんは言う。
「売主は『住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)』によって10年の契約不適合責任を負います。法律で決められた住宅の構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分、ここは10年のアフターサービスの機会に無償で修繕されます。つまり10年に届かないところでこれを見つけることができれば、無償で直すことができるのです。具体的には、8年、9年の段階で、劣化診断を行い、10年のアフターサービスで直せる部分は直します。またこの結果を踏まえて、一般的な12年周期で実施すべきなのか16年や18年周期まで延長可能なのか、大規模修繕時に共用部の高耐久化は可能なのかの判断ができます」(同)
周期の延長や高耐久化ができれば、長期修繕計画の財政的見通しも大きく変わってくるという。
「この時大事なのは、10年目のアフターサービスの期日をしっかり把握しておくことです。分譲会社によるアフターサービスは、このほかにも2年目などにも実施されます。この時に、直すべきところを管理組合でしっかり把握しうまく利用することです。これで劣化の進行を抑えられれば、修繕予算を効率的に使えるばかりか、大規模修繕の長周期化にもつなげられます」(同)
決めるのは区分所有者自身。適切な判断のために
一般的に12年と推奨されている大規模修繕の周期を見直せれば、管理組合の財政にもメリットが生まれる。
「例えば、足場の要らない中規模修繕を組み合わせ、材料の高耐久化を図れば、周期の延長が可能になることもあります」(同)
しかし、修繕の必要性の判断には多くの専門的知識も必要なのは言うまでもない。管理会社や施工会社が管理組合に深く入り込んでいる場合、大規模修繕の周期に関して、その意向が働くことも多いと聞く。
「利益相反にならないために、区分所有者である住民のチェックがますます重要になってきます」(同)
劣化診断などでは、専門家による目が確かに重要だ。しかし、大規模修繕を12年周期とすべきか16年周期とすべきかなど、財政に大きな影響を及ぼす判断はあくまで、修繕積立金を負担する組合員の判断だ。一概に周期を延長すればよいというわけでなく、快適な居住環境の確保、資産価値の維持、必要な設備の性能向上を考慮したうえで、適切な判断をしたい。
「引き渡しを受けてから10年、アフターサービスをしっかり利用しながら、大規模修繕の適切な周期などを組合員が判断できる体制をこの期間に作り上げたいですね」(同)
こういった面からも、マンション管理は「最初の10年」が重要になると山本さん。この10年の成果があとあとまでの管理の質を決めるといってもいい。
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